ショコラ・マスタード
ニタリ、と形容するに相応しい。
手渡された袋を見ながら僕は十年来の幼馴染の笑顔を思い出す。母は隣で呑気に「良かったなあ」などとほざいているが、冗談じゃない。この中味はいわば、爆弾と同じだ。殺傷能力は絶大。小学生の手作りなんて女子の自己満足、男子にとっちゃただの拷問なのだ。意を決して袋を開けると、甘ったるい匂いとともにコロッと二つ。アルミに包まれたチョコレートと思しきものが出てきた。手作りらしい。板チョコを溶かしてアルミに流し込んで再び冷やし固めたものを「手作り」と呼んで良いならば、だけど。
ガリリ、と一口噛み砕いてみる。舌に甘みが触れたと思った瞬間、僕は台所へとんでいき、コップになみなみ注いだ水を飲み干した。可能ならその瞬間スピードを測って欲しい。世界新とか出てるかもしれない。
およそチョコと名のつくものにあってはならない味がした。……カラシだ、間違いない。
「反応が楽しみやなあ」という聞き慣れた声の幻聴に歯噛みしながら、それでも全てを飲み込んだ。来月の14日、報復のパウンドケーキに何を練りこんでやろうかと思案しながら。