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欠けた世界のその先に  作者: 安久呂 流可
第1章 好きの無い世界への旅立ち
16/18

4-2

足が自然公園の方へと進む。

平日のこの時間帯であれば、ガゼボが空いているはずだ。


今日は暖かいから、外にずっといては日焼けしてしまうだろう。

ガゼボは屋根があるので、その点は気にしなくても良い。

マルクスの妻になるのだから、常に美しくなくては。

 


締め切りが重なり、数日間、家に缶詰めになっていたので、坂道が地味にきつい。


自然公園までの道のりは、どこを通っても上り坂がある。

帰りは下り坂になるから良いのだが、緩やかに一〇分ほど登り続けなければならなかった。


首筋がほんのりと汗ばむ。

時折吹く風が心地良い。

 


公園の敷地内に入ると、木陰になっているので、涼しく感じた。

豊かな自然を再現するために作られた土の道を歩く。

ぼこぼことしていて歩きにくかった。


狙い通り、周囲に人影はない。

きっとガゼボも空いているだろう。


林を抜けると、噴水のあるメイン広場が見えてきた。

 


足を止める。


「どうして……アリーナが?」


 

噴水近くにあるベンチで、アリーナは誰かを待っていた。

私は、あちらから見えないであろう位置に、身を隠す。


「図書館に行ってくる」と言ってアリーナは少し前に家を出た。

図書館はこの公園とは反対の方角に建っている。

ここで友達と待ち合わせて、図書館へ行くとは考えられない。

 


別に、身を隠す必要はなかった。

姉妹なのだから「あら、アリーナ。誰かと待ち合わせ?」などと軽く声をかけて、さっさとガゼボへ行ってしまえばいい。


分かっている。


それでも身を隠して、アリーナの待つ相手を知りたいと思うのは、あの噂がどうしても気になるからだろう。

 


マルクスが、アリーナのことを家まで送ったらしい。

 


その話を聞いたのは、学生時代からの友人である、カタリーナからだ。


カタリーナは、私がマルクスに失礼な態度をとってしまったことを知らないので「良かったじゃない、シルヴィア!理想だって言ってた未来の旦那様と、家族ぐるみで仲良しなんて」などと喜んで悲報を伝えてくれた。


彼女自身が見たわけではないそうだし、噂はあくまでも噂。

背びれ尾ひれがついて当たり前だ。


それに、アリーナは私がマルクスのことを理想だと言っているのを知っている。

二人が会うはずがない。

 


自然にアリーナに声をかけようと、木の陰から出た時に、マルクスが駆け寄ってきた。

もちろん私にではない。


アリーナに、だ。


「ごめんね、待たせちゃって」

 

マルクスはそう言って、額に滲む汗をハンカチで拭う。

格好良い。

普通の男性であれば服の袖で拭うところを、わざわざバッグから出したハンカチで拭う。


その、育ちの良さが出ている仕草が、私は「理想だ」と感じている。

 


でも、彼が汗をかくくらい急いで来た相手は、私ではなくアリーナなのだ。



「大丈夫ですよ。元々、少し遅れるって聞いていたし」


「君ならそう言ってくれると思った。でも、ごめんね。今日もいつものところ?」


「ええ。それとも、別の場所が良いですか?」


「いや、あそこにしよう。今日から、季節限定のケーキが出るらしいから」


「マルクスは本当に、甘いものをよく食べるわね」

 

二人は見つめ合って笑う。

サイクリングコースの方へ歩いていった。

 


どうして?

私が、彼と結婚するのに。

私の方が、彼に相応しいのに。

私の方が、アリーナより彼を……。

 


カタリーナから聞いた噂が現実味を帯びてくる。


二人は、あの日以降、頻繁に会っていたのだろう。

時間がもったいないからと、外出をほとんどしなかったアリーナは、最近になって少し外へ出るようになった。


服装は相変わらず、ジーンズ、ブラウス、パンプスの三点セット。

それでも珍しく、可愛らしいピアスを付けていた。



アリーナもマルクスのこと、良いなと思っているのだろうか?


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