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欠けた世界のその先に  作者: 安久呂 流可
第1章 好きの無い世界への旅立ち
15/18

4‐1

アリーナの様子が、最近、ちょっと変。


いつもと同じく絵は描いているけれど、いつもと違って私に見せてはくれない。

おかしい。

最近というか、もしかしたら、マルクスと私があった日からかもしれない。


確か「中庭で会って、雑誌を貸した」って言っていた気がする。

ついこの間も「雑誌を返してもらいたいから」と言って、マルクスの連絡先を聞いてきたし、間違いない。


マルクスとアリーナの間に何かあったのかもしれない。



自分の部屋なのに落ち着かない。

これでは執筆もままならないので、締め切りに影響が出てしまう。


パソコンの電源を切った。

メモリーチップを外してケースに仕舞う。

ノートパソコンとケースをバッグに入れて、ベッドの上に置いておく。



気分転換に外で仕事しよう。



クローゼットを開き、お気に入りの服を取り出した。

マルクスに会った時に着た、ワインレッドのワンピースだ。

流石にバラの髪飾りは派手なので、ハーフアップにだけする。


気分はマルクスに会った時と同じく、キラキラと心躍るようだった。



「マルクス。会いたい」


呟いて、少しブルーな気持ちになる。


マルクスは、私の理想の王子様だった。

少し癖のあるブロンドの髪。

二重で切れ長な、薄いブラウンの目。

スラっと長い手足は、少し筋肉が付きつつ色白で……意外と低い声とかも最高。


でも、一番好きなのは、控えめで上品な、あの仕草。

普通の男性にはないそういうところが、私の心にヒットしていた。



会いたい。マルクス会いたいよ……。



あの日から毎晩のように心の中で叫んでいた。

考えているだけで、幸せになったり、切なくなったりするこの気持ちは一体何なのだろうか。



「何で、あの日、あんな態度とっちゃったんだろう」


緊張していたとはいえ、第一印象は最悪だっただろう。


マルクスが家に到着しているというのに、最後の最後までこのワンピースを着るか、水色のドレスを着るか迷っていた。

父に急かされ、喧嘩して、ついムスッとした態度をとってしまった。


「結婚は決まっているわけだし、大丈夫、まだ挽回できる」と何度も自分に言い聞かせたが、あれ以来、マルクスからの連絡はない。

それが一番つらかった。



アリーナは雑誌を返してもらう、という名目で会っている。


羨ましい。

返してもらうだけなら、私が代わりに行けばよかった。

というか、アリーナについて行けばよかった。



鏡の前で一回転する。

裾がふわりと広がった。


大丈夫、今日も可愛い。



バッグを掴む。

人工皮革で出来た白いバッグは、今日履いていく予定の靴と同じ色合いだ。

この組み合わせが私に一番似合うのだ。


「よし。これならもし、万が一、マルクスと外で会っても大丈夫」


玄関の鏡の前でも一回転する。

変なところは無い。


元気よく家を出た。


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