4‐1
アリーナの様子が、最近、ちょっと変。
いつもと同じく絵は描いているけれど、いつもと違って私に見せてはくれない。
おかしい。
最近というか、もしかしたら、マルクスと私があった日からかもしれない。
確か「中庭で会って、雑誌を貸した」って言っていた気がする。
ついこの間も「雑誌を返してもらいたいから」と言って、マルクスの連絡先を聞いてきたし、間違いない。
マルクスとアリーナの間に何かあったのかもしれない。
自分の部屋なのに落ち着かない。
これでは執筆もままならないので、締め切りに影響が出てしまう。
パソコンの電源を切った。
メモリーチップを外してケースに仕舞う。
ノートパソコンとケースをバッグに入れて、ベッドの上に置いておく。
気分転換に外で仕事しよう。
クローゼットを開き、お気に入りの服を取り出した。
マルクスに会った時に着た、ワインレッドのワンピースだ。
流石にバラの髪飾りは派手なので、ハーフアップにだけする。
気分はマルクスに会った時と同じく、キラキラと心躍るようだった。
「マルクス。会いたい」
呟いて、少しブルーな気持ちになる。
マルクスは、私の理想の王子様だった。
少し癖のあるブロンドの髪。
二重で切れ長な、薄いブラウンの目。
スラっと長い手足は、少し筋肉が付きつつ色白で……意外と低い声とかも最高。
でも、一番好きなのは、控えめで上品な、あの仕草。
普通の男性にはないそういうところが、私の心にヒットしていた。
会いたい。マルクス会いたいよ……。
あの日から毎晩のように心の中で叫んでいた。
考えているだけで、幸せになったり、切なくなったりするこの気持ちは一体何なのだろうか。
「何で、あの日、あんな態度とっちゃったんだろう」
緊張していたとはいえ、第一印象は最悪だっただろう。
マルクスが家に到着しているというのに、最後の最後までこのワンピースを着るか、水色のドレスを着るか迷っていた。
父に急かされ、喧嘩して、ついムスッとした態度をとってしまった。
「結婚は決まっているわけだし、大丈夫、まだ挽回できる」と何度も自分に言い聞かせたが、あれ以来、マルクスからの連絡はない。
それが一番つらかった。
アリーナは雑誌を返してもらう、という名目で会っている。
羨ましい。
返してもらうだけなら、私が代わりに行けばよかった。
というか、アリーナについて行けばよかった。
鏡の前で一回転する。
裾がふわりと広がった。
大丈夫、今日も可愛い。
バッグを掴む。
人工皮革で出来た白いバッグは、今日履いていく予定の靴と同じ色合いだ。
この組み合わせが私に一番似合うのだ。
「よし。これならもし、万が一、マルクスと外で会っても大丈夫」
玄関の鏡の前でも一回転する。
変なところは無い。
元気よく家を出た。