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欠けた世界のその先に  作者: 安久呂 流可
第1章 好きの無い世界への旅立ち
13/18

3-5

「ありがとうございます。……あの、もし良かったら、少しお茶でもしていきませんか?近くに美味しい珈琲を出してくれるお店があるんです」


神は僕に味方しているようだ。


「時間、大丈夫なの?」


「はい」


「じゃあ行こうか。案内お願いして良い?」



二人並んで歩きだす。

まさか、アリーナからお茶に誘ってくれるとは思わなかった。

僕もどうやって誘うか、そもそも誘っても良いのか悩んでいたのだ。


女性と親しく話すことが無かったので、誘い文句も分からない。

こんなことなら、ダヴィードに聞いておけばよかった。



「マルクスと姉さんが結婚したら、私達、義兄妹になるのね。全然実感が湧かないわ」


「僕もだよ」


「二人は一緒に住むの?」


「いや、多分、シルヴィアが嫌がるだろうから、別々かな。今まで通りの生活をすると思う」


「そう。マルクスが我が家に来てくれたら、一緒に絵を描いたり出来るかなって思ったのに」


それは良いな、と思ったことは伏せておく。



噴水から東に向かって続くサイクリングコースの途中で、左手に細い道があった。

周りは林になっているので、すぐ近くまで来ないと見つからないような道だ。

そこを進む。

太陽が当たらないせいか薄暗かった。



「もう少しで着きますよ。あの、煙突のついている建物です」


そう言って指差した先には、小さな建物が見える。

童話にでも出てきそうな、煙突のついたレンガ風の小屋だ。

近くに行っても、さほど大きくはなかった。



ドアを開けると、カランカランと乾いた鈴の音が店内に響く。

珍しい。

鈴もそうだが、濃い色のフローリング、クリーム色の壁、丸い窓、木製のテーブルとイス。

全てが珍しかった。

写真では見たことがある。

本物は、初めてだ。



アリーナは常連なのか、店主が何かを言う前に席に座る。丸い窓の席だ。


「珍しいでしょう?ここに来ると、何故かは分からないけど、わくわくするの」


僕も座る。

二人が向かい合う形になった。

緊張する。


「おすすめの珈琲とかってある?」


メニューには五種類ほどの珈琲の名前があった。

家ではインスタントコーヒーばかり飲んでいるので、名前を見ても、どれが美味しいのかよく分からない。

珈琲の他には、紅茶、ジュース、焼き菓子、ケーキ、パン、ランチ用の軽食など、種類は豊富だ。


「そうねえ。私はいつも、このお店独自のブレンド珈琲を飲んでるけど」


「じゃあ、僕もそれで」


「他には何か頼む?」


「そうだな……焼き菓子のセットもいいな」


「ねえ、二人で分け合いっこしない?」


アリーナの言葉に乗った。

普段なら、外で菓子類を食べることは無い。

「甘いものが好きなんだ。意外だね」と、ダヴィードと仲の良い女の子達に言われてから、甘いものを口にするのが気恥ずかしくなってしまったのだ。


悪口ではない。

ダヴィードも「気にするな」と言ってくれたけど、彼だって、甘いものを口にしたところを見たことが無かった。

気にしない方が無理だ。


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