二章−1
寒い冬空の中、白いコートを羽織った女性が駅から降り立つ。
ゆるいウェーブのかかった黒のロングヘアーが特徴の、おっとりとした雰囲気を持つ女性が改札口から降り立つ。
ヒヤリとした空気が防寒具をまとっていない頰に触れる。電車の蒸し暑さから比べると心地よいと女性、神楽坂優奈は感じながら幼なじみにプレゼントでもらったかわいいリボンのついた愛用のカバンについたホコリをはらう。
そして幼なじみの現在住んでいる町、荒谷町に目を向ける。自分が現在住んでいるところに比べると少し寂しげな印象を受けるが、彼女の住んでいる場所はまだ都心であるだけであり決して寂しいわけではない。
本当は一緒の大学にしてほしかったなぁ、と幼なじみである鳳怜奈のことを思い浮かべる。
少しだけ切ない気持ちを思いつつスマホを出して、慣れた手つきで現在流行りのアプリから怜奈の連絡先を引き出し通話のためにボタンを押す。
数コールなったところで待望の声が聞こえた。
『もっしもーし!』
元気のこもった声。普段通りの怜奈だと安堵して返事をした。
「もしもしれーちゃん。元気?」
『もちろん元気だよ。そっちこそ元気にしてる優姉?』
「うん、元気だよ。れーちゃん」
自然と顔がゆるむのを感じながら、嬉しそうに優奈は声を弾ませながら本題をすぐに切り出した。
「今日、れーちゃんのお家に行くね。いつもの抜き打ち検査だよ」
『……へ?』
ほうけた怜奈の声が聞こえ、少し優奈はいぶかしむ。
抜き打ち検査、というのは文字通り彼女の家まで行き生活態度を見に行くもので、怜奈の両親から頼まれていることである。
とは言っても散らかっていたら一緒に他愛なのない雑談をしながら片付けをしたり、優奈が腕をふるって晩御飯を食べた後に一緒に遊んだり寝たりする程度の軽いものなのだが。怜奈の両親の本心を言えば「怜奈が寂しくないようにたまに遊びに行ってくれ」というものであり、そこは優奈も、怜奈自身にもわかっていることである。
普段の彼女であれば嬉々として二つ返事で優奈を家に招待する返答をしてくれるものだが、どういうことだろうか。今までになかったことなので焦りが生まれる。
体調でも悪いのか、と一瞬考えるが背後から先ほどの返事の勢いだとそれは考えにくい。
となるともしかすれば……なにかやましいことをしているのか?
「……れーちゃん、もしかしてなにか悪いことしてるの?」
『いや、悪いことは別に何もしてないけど……』
やはりどこか様子がおかしい。怜奈はとてもいい子であるというのは優奈自身がよくわかっているのだが、不安にかられる。
『優姉、悪いんだけど今日は……』
どこか焦っているかのような怜奈。ますますもって怪しい。
━━お姉ちゃんに隠し事するな、とは言いたくないが……
わがままを承知で、行くしかない。
そう決めた優奈は自然と「今からお家に行くね」と怜奈の返事を聞かずに通話を切る。
もしかして大変なことにでも巻き込まれているのか、それならば助けてあげなければいけないと自分の考えに従って進む。今まで助けられてきたのだから、今度は自分の番だと言い聞かせて。




