エピローグ:喪失者と女の子
事件の解決から三日後、一日ゆっくりと休んでから優奈は無事に家に帰宅するまで見届けて、優奈の家で一泊し再度家に戻ってきた朗人と怜奈。
「あそこが怜奈ちゃんの育った街なんだな。いいところだったね」
「でしょ? 親父と母さんがいるんだったらあっちの大学行ってたかもしれないんだけど……せっかくだったからこっちの方にきたんだ。やっぱりいろんなもの、見れるうちに見た方がいいとも思ったし」
「いいんじゃないかな。見聞を広めるのはいいことだと思うよ。それだけ選択肢に幅ができるわけだし」
ニコリと笑う朗人に、少し照れくさそうに頬を赤らめる怜奈。
「でも優奈さんの親父さん、めっちゃ強面だったな」
「おじさんは昔からああだよ。でも優しかったでしょ? なんせ朗人さんはオレたちの恩人なんだし」
オレも昔から世話になってるし、と呟く。
ほとんど実の娘も同然なんだろうな、と朗人も察することができた。おかげさまで向こうでもいい扱いをしてもらった。布団でも寝かせてもらったし、怜奈と優奈の小さい頃のアルバムなどを見せてもらって楽しむこともできた。
強いてなにかきつかったとしたら財布の中身が交通費で減ったくらいか。二人が折半して出してくれるとは言ってくれたのだが、朗人のなけなしのプライドがそれを許さなかった。
「……ねぇ、朗人さん。戻ってきたばっかりで悪いんだけどさ、冷蔵庫の中身も減ってるから少し休んだら買い物行こうと思うんだけど……いいかな」
「もちろん。荷物持ちは任せてくれ」
「だったらよかった。それじゃあ一時間後に行こうか」
「オッケ。じゃあ少し寝るよ。あんな事件あった後だから気を張ってたのかな……」
「大活躍だったもんね、朗人さん。ニュースでも取り上げられてたしね……店長の事件」
どこか寂しげにしているが、その表情はすぐに消えていつも通りの強い彼女に戻る。
事件の後に一回家に戻った時は朗人と優奈から離れようとせずにぐずっていたものだが、もう戻ったようで何よりだ、と朗人は安堵する。
そして朗人は横になって、すぐに意識を落とした。
「あ、朗人さん。起きて」
まどろむ意識の中、怜奈の声が聞こえ重い瞼をうっすらと開く。
身体は少し力が入らないがすぐに戻るだろう、と考えて身体を起こして怜奈の方を見た。
だが、一瞬だけ目の前にいる人間が怜奈と判断できなかった。
普段の彼女からは考えられない、女性らしい女性の服を着用していたからだ。いつものようにメンズではなく、女性ものとわかるボーイッシュなコーディネート。
「あ、朗人さん? はは、やっぱ……似合わないよな、オレがこんな服……前に優姉に選んでもらった服なんだけど……」
少し落ち込んでいた様子だが、すぐに朗人は訂正をいれた。
「あ、いや。ごめん。すごくきれいだったからつい」
「ふぇ!?」
「う、嘘じゃないぞ。起きたら普段とは違う方面でかわいい怜奈ちゃんが見れたから驚いただけだよ」
「……そ、そうか。へへ。それじゃ、買い物いこっか朗人さん」
「ああ。お姫様の仰せの通りに」
怜奈の手を取り、二人は外へ出る。
いつまでこの生活が続くのかはわからないが、朗人は怜奈のことを大切にしようと心に固く誓った。少なくとも、自分の命が続く限り。
終