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記憶喪失者の偽善(仮)  作者: 法相
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四章−4=終結=

「八神……さん、あんた、悪魔憑きだよ」

 影山から発せられた言葉は、怜奈の意識を現実に引き戻すのには十分な力を持っていた。

 朗人が悪魔憑き。影山と同じ存在。

 それと同時に抱きしめてくれている優奈の手に力が込められ、引き寄せられる。

 しかし、怜奈は怖いということは感じなかった。

「まぁ、だからと言って俺とお前は違うぞ。店長」

「……ぇ?」

 直後の影山の声はあっけにとられたものだった。

「当たり前だろ。クローンでも育ったら性格が違うのと一緒だ。他だと同じ人間がいないっていうのと同じ理屈だな。うん、こっちの方が真理に近いかな」

「あきと、さん……」

「俺が悪魔憑きっていうのは、しょうがない。もうここまできたら認めるしかない。けどな、俺とあんたは違う。店長には店長の正義があって、俺には俺の正義があって真正面からぶつかった。結果あんたが負けた。これが現実だ」

 堂々たるその言葉は、自分の記憶がないはずなのにしっかりとしていた。

「けどな、他にも敗因があるとしたんならそりゃきっと……怒っていたからだと思う」

「そんな素振り、見えなかったけどねぇ……」

「いやぁ腸煮え繰り返るって思うくらいにはな。正直、今殺してないのが不思議なくらい」

 ぞっとしない一言だった。

 優男な見た目からは想像もできないほどの殺気を持つ声だった。

 そこまで怒ってくれていたのか、と怜奈は嬉しく思う自分がいることに気がついた。

「全然怒っているように見えない……心配そうにはしてたけど」

「優姉、静かに」

「怒るのは当たり前だろうが。お前は俺の恩人である怜奈ちゃんとその姉貴分も巻き込んでるんだ。どういう理由があってもお前を許す道理はない。ましてや怜奈ちゃんを傷つけてる事実は変わらん。ゆえに許すわけがないだろうが、このスカタン」

 文句は聞かない、とでも言わんばかりの圧力。

 けれども、嬉しいと思ったのは事実だった。怜奈は今まで守って、戦う側だった。

 そんな彼女を家族と優奈以外で初めて女性らしく扱ってくれたのは、間違いなく朗人だった。影山はどのように見ていたかは、正直言えばもうどうとっていいかわからない。

「俺も悪魔憑きだが、根底は違う。お前はお前なりに苦労した過去や挫折、痛みがあるんだろう。けれどそんなのは俺には関係ない。俺は怜奈ちゃんが大切だったからお前とやりあっただけだ。他の人間なら俺は知らんふりだってできたしな」

 だからだろうか、朗人の言葉が素直に受け入れられたのは。

「……はー……バカらしい。こんな男に負けたのか、俺は」

 影山の方も気が抜けたのか、悔しがるような口調ではあったが……諦めがついたような声だった。

「怜奈ちゃん、急いで警察に電話して。俺たちは……」

「……家に、帰りたい」

「……そっか。なら俺はそれを優先するようにする。でも警察に電話はしよう。こいつは、のさばらせちゃいけない」

 こくん、と小さく頷いて怜奈は自分のスマホを取り出して、警察へと連絡をいれた。

 十数分後、警察が介入してくるまで待ち、被害者女性を証人として置いて見守った。

 影から見ていたが、影山も暴れる様子がなく捕まり女性も保護された。あの廃ビルの中で他に何人の被害者がいたのかはもうわからないが、一つの悪事は確実に消えた。

 こうして長いようで短かった一夜は幕を閉じ、三人は家に戻った。




「……でもやっぱり私たち警察に行かなくてよかったのかな?」

「悪の総本山倒したんだから文句は言われないでしょ。怜奈ちゃん、しっかりつかまってなよ」

「うん……」






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