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記憶喪失者の偽善(仮)  作者: 法相
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三章−4

 翌日の朝、三人は朝八時頃に目を覚ましあくびをかく。

 それぞれ三者三様、伸びをして怜奈と優奈が抱きつくのを朗人は見守りながらもう一度あくびをする。

「うみゅ……」

「はみゅ……」

「二人とも、しっかり目を開けて」

 はぁい、と力ない声が二人から発せられる。あまりにもぴったりのタイミングでどこまで仲がいいのかと微笑ましい気持ちになる。

 二人を置いておき、朗人はキッチンの方へ向かい適当に朝食を作る。メニューは目玉焼きとウインナーを軽く焼いてレタスを添えたものだ。

 三人分作り終えた後、二人に先に提供し昨日のうちに炊いておいたご飯を注いで自分の分を最後に取る。家政婦みたいだな、と内心思いながらそのまま三人で手を合わせて「いただきます」と一礼して食事を開始した。

「そういえば優姉、今日帰るんだっけ?」

「そうだよ〜」

「駅まで送っていこうか? 昨日の今日だし……護衛が二人くらいいてもいいだろ」

「大丈夫だよ。今日はタクシーで駅まで行くから」

「タクシー……ああ、だから俺たちにあんな早く追いつけたのか」

 納得、と朗人は手を叩く。冷静に考えればその答えに行き着くのはしごく常識なのだが、当時は焦っていたのでそこまで考えが至らなかったし、また掘り返すところもなかった。すぐに思いつかなかった自分になんとも気恥ずかしくなりながらも、そのままご飯を胃袋にかきいれる。

「タクシーか……ならそれでいいけど、ほんとについてかなくていい?」

「大丈夫だよ。さすがに駅では誰も襲わないでしょ。いっぱい人がいるんだから」

「まぁ、駅という立地上人がいなかったら問題になるだろうしな」

 廃線になるほどの駅でもないだろうし、とまだ見たことない駅に想像をはせながらも二人にお茶を入れていく朗人。だいぶ家政婦感を晒していた。

「どうぞ」

「ありがとうございます。それにね、ここに連れてきてくれたタクシーの人が面白い人でね。その人のタクシーまた使いたいのもあって」

「へぇそうなんだ。どんな風に面白い人?」

「えっとね、関西人っぽい人なんだけどけっこう親身になってくれて話を聞いてくれるからまた使おうって思わせてくれるていどに面白い人だよ。ただちょっと雰囲気が柔らかいから少し話し過ぎちゃいそうかな」

「優姉にそこまで言わしめる人か。面白いな」

「れーちゃん私のことどう見てるのかな? ま、そういうわけだからいつもよりちょっとだけ遅くまでいられるよ」

「よっし、じゃあ仮面ナイト鑑賞会二回目だ」

 俺三回目だけど、という言葉を飲み込む朗人。確かに下手に外に出るよりも中で鑑賞会でもする方が危険は減るだろう。そこまで怜奈が考えているかはわからないが、きっと考えているだろう。なにせ互いに心配をし合うということではこの二人はしっかりとつながっている。


 この絆は、きっとどちらかが誰かに差し出すということはないほどに。


 それから仮面ナイト劇場版鑑賞会が始まった。




「劇場版はやっぱり仮面ナイトダークランサーが原点回帰してるぶん、子供向けの要素は薄くなってるけど作品としての出来はいいね」

「でも劇場版リベレイターも子供向けとしてはよくできてると思うよ? 特に親友のオーバーロードが精神を乗っ取られてスターベイダーの手先になったけど、友情パワーが光るところだったよね」

「優奈さんも思いの外がっつりはまり込んでるんだね」

 苦笑が朗人から漏れる。

 昨晩の時点でわかっていたことだが、怜奈と幼い頃からの付き合いがある時点で彼女もあるていど以上に仮面ナイトに染まっているのは目に見えた結果ではあった。それも怜奈ほどではないがディープな方だ。

 正直二人の間でなされる会話についていけなかった。

 けれどもおかげで暗い雰囲気にならず、楽しく時間を過ごせた。これは本当にいいことだ。

 時間を見れば七時半。日もすっかりくれていい時間帯である。

「もうこんな時間かぁ。やっぱり名残惜しいなぁ……もう一泊したいけどお父さんうるさいだろうし……」

「おじさん、優姉大好きだもんねぇ。溺愛がすぎるっていうか」

「でも、いいことじゃないかな。それだけ心配もしてくれるし、愛してくれてるんなら」

 朗人はしみじみと言う。優奈もそれに「そうですね」と笑顔で返した。

「少なくとも私にとってはいいお父さんですし、家族として好きですよ」

「それを互いに思えるのが一番いいんだよ。どうしてかはよくわからないけど、一般論かな?」

「でも虐待やしつけが厳しすぎて犯罪をした人間っているもんな。どんな事件だったかは忘れたけど、確か犯人の親の教育はなにか失敗したら天井裏に閉じ込めてたんだっけな。それで積もったものが爆発して人殺しに発展したって」

「懐かしいねその事件。他人事だったけどひどい話だよね……まだ犯人は捕まってないんだっけ?」

「そうそう。交友関係も不明な点が多いらしいし、親族もその後行方不明だとか」

「そんな事件があったのか。ひどい親がいるもんだ」

「そうですよね。と、電話しなきゃ……」

 スマホを取り出し、カバンから名刺を取り出して通話をする。

「……でも、ほんとうにそういう人は何考えてるんだろね。自分の子供に、そんなひどいこと」

 ポツリ、と呟く怜奈の表情はひどく悲しそうだった。そんな怜奈を見た朗人は肩を叩いて表情を変えることなく「俺の推測だけど」とくわえてから続ける。

「自分の人生のやり直しをさせたい、と思ってるのかな。自分がこういかなかったから、子供にはうまくいかせたいからこうしよう、でも言うことは聞かせたい。そんな馬鹿馬鹿しい考えを持っているから、そんな事件が起きたんだろ」

「自分とは違う人間ってわかってるだろうに、なんでそんな考えになるのかな」

「そういう常識的な頭を最初から持っていない、あるいは自分でコントロールしたがるからだろうね。怜奈ちゃんみたいに考えられるのは案外希少なのかもしれない。俺も記憶はないから、もしかしたらそういう人間だったかもしれないけど」

「朗人さんは絶対に違うよ。オレ、バカだけどその辺は自信もって言えるよ」

 純粋な瞳に見つめられ、思わず後ろに下がる。

 整った顔立ちに、汚れを知らない綺麗なその瞳は朗人にとっては眩しくて、圧倒されてしまう。

「はい、じゃあ十分後くらいに。ありがとうございます、と……ん? えっと、二人とも……なに、してるの?」

「朗人さんはきっといい人だと思うって話してたんだけど、どうかした?」

「パッと見てるとね、仲のいいカップルみたいだよ」

 ヒクヒクとつり上がった笑顔を見て。怜奈の方は首をかしげていたが。




 電話を終えてからほぼ十分後、時間通りに村岡のタクシーがやってきていた。

「お待たせしましたぁ。よっす」

「村岡さん、どうもです。今日はありがとうございます」

「ええんよ。こっちも歩合制やから指名してもらうの助かるわ! っと、おお?」

 優奈を見送りに来ていた朗人と怜奈を見て「ほほぅ」と頷く。

「おお……レベル高い女子がこれで三人もおる」

「俺は男ですけどね」

 なんやて!? とタクシー運転手、村岡の声がアパート周辺に響いた。

「うせやろ! どう見ても女子ですやん!」

「はっはっは。男ですよ」

「これで男に初見から女って見破られたの二人目だなぁ」

 のんきに笑いながらの二者二様の反応を見せ、村岡はそんな二人を見てから優奈に視線を移して「マジです?」と聞き、優奈は「そうですよ」と頷いた。

「……レベル、高いなぁ。類は友を呼ぶってやつか……」

「お世辞ならいいですよ?」

「本心本心! あ、俺は村岡言います。お二人もよかったら贔屓してな。これ名刺」

 営業熱心だこと、と朗人は思いながら怜奈と一緒に受け取る。

「ご丁寧にどうも。オレは鳳怜奈って言います。優姉をどうぞ今日はよろしくお願いします」

「もちのろんや! そういやお嬢さんの名前聞いてへんかったな。苗字は電話で聞いたけど」

「そうでしたね。改めまして神楽坂優奈です。今日は駅までよろしくお願いします」

 丁寧に挨拶する二人。育ちも良いのだな、と朗人は側から見てて思った。

 村岡の方はもうすでにうはうはな気分になっている様だが、まぁタクシー業界も大変なのだから美少女二人に丁寧に扱われるという一時のささやかな夢に浸ってもいいだろう。

「……俺は八神朗人って言います。どうもこの辺は最近危ないらしいですから優奈さんをお願いします」

「任せときや。大事なお客さんやし、このお嬢さん優しいからなぁ。きっちりばっちり駅まで送って行きますよ」

 ぐっと力強く親指をあげる村岡。どことなくだが、この人なら安心してよさそうだ、という気配がある。

「それじゃあれーちゃん、またね。帰ったら一回連絡入れるね」

「うん。優姉もしっかり気をつけてね」

 ぎゅうっ、と怜奈と優奈は互いを思い切り抱きしめあう。今生の別れでもあるまいし、と一瞬思うがそれでも仲のいい二人だ。これも儀式的要素があるのだろう。

 仲良きことは素晴らしきかな、そう考えながら朗人も無言で村岡に頭を下げておく。

 こうして優奈を見送り、タクシーが見えなくなったところで二人はアパートの中へと戻った。

「にしてもなんども言うようだけど、ほんと仲良いね」

「そりゃあもう大親友だからね。優姉以上の友人は後にも先にもきっといないって断言できるよ!」

 怜奈は少し照れくさそうに笑っていた。




「ほんなら、またよろしくな」

 駅に着き、料金を受け取った村岡は窓ごしから笑顔で語る。それに笑顔で優奈も返した。

「ほんとは中までついていったがええんやろけど、ごめんな。こっからすぐにまた行かなあかんねん」

「お気になさらないでください。お仕事があるのはいいことですよ。それじゃ村岡さん、お元気で。またこちらに来たら連絡しますね」

「元気と運転技術だけが取り柄やからな。ほな、また会おうな!」

 手を振りながら陽気に去っていく村岡に、同じく手を振り返す。

 ああいう人が世の中にもっとたくさんいたらいいのになぁ、と優奈は思いつつスマホを開いてチャットインというアプリを開いて怜奈へ『駅に着いたよ』と一言入れておく。

 さて、帰るとしようかと思考したところでバチン、と視界が一瞬白くなり、意識が急速に薄れていった。



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