借金1千万できちゃいました!!2
「ムカつくけぇ、殴らせろ」
はっ?
僕は更にキョトンとなった。
「えっ?またですか?」
ドミと呼ばれた青年は困ったような顔をしている。
「途中で逃げるような奴にティッシュ配った罰じゃけぇ…」
声が凄んでいる。
はっ?
待って…
待って下さい…
僕のせいなんですか?なんて理不尽な!
やばい…確実にあの人は善良なドミさんを殴る。
しかも理不尽な理由で…それは止めさせなければ!
止めさせなければいけない…、
のに…。
僕は動けない。
なんで、いつもこうなんだろう?
大事な時に…
「え~、だって貰ってくれたの彼だけだし」
ドミさんは一生懸命に言い訳をしている。
でもキム兄には通じなさそう。
「そりゃ、配り方が悪いんじゃろ」
やっぱり。
悪い配り方と良い配り方があるんなら教えてあげれば良いのに…
でも、ドミさんは、
「すみません」
と謝り、キム兄の側へ。
えぇっ!マジで殴られる気ですか?
僕は急いで彼の元へ、止めて下さいとかっこよく立ちはだかるハズが…
ガッシャーン!
僕が通り過ぎた後すぐに陶器が派手に割れる音がした。
足元には粉々になった破片が散乱している。
「あっ」
キム兄、ドミさんが同時に声を上げて僕の足元を見る。
僕は破片の柄を見て。
そう言えば…壁近くに丸い小さいテーブルがあり、花瓶が飾られていたのを思い出した。
僕の体がテーブルに触れたらしく、花瓶が落ちたのだ。
やばい…死を覚悟した瞬間だった。
「ちょっと、何の音?」
マミさんが奥から出て来て、すぐに粉々になった花瓶に気付く。
「ドミ!アンタ、いい加減にしいよ!」
マミさんは割ったのを彼だと思ったのか彼を睨んでいる。
「俺じゃないッスよ」
ドミさんは両手と首を高速のごとく振っている。
「あ?じゃぁ、キム兄?」
極道キム兄を睨む…。
さすがです…さすが、さっきお茶を断っただけはある。と僕は妙に関心してしまった。
キム兄は無言で僕を指さす。
僕?
一瞬、えっ?となったが…そう…僕だった。
マミさんはキッと僕を睨み、
「きさん…いい度胸しとったい…」
あぁ…こんな時の博多弁って、
広島弁よりも怖い。
いや…怖いのは博多弁じゃなく彼女だ。
さっき会った時に座り込んでた彼女を細身だと思ったけど、僕の前で怒りパワー全快の彼女は見た目小さい。
きっと彼女は150センチはない…。
でも、怒っている彼女はキム兄の二倍の大きさに見える。
「いや…あの、わざとじゃ」
僕はビクビクと言い訳をする。
「はぁ?当たり前やろ、ワザとやられたんじゃたまったもんじゃなか」
あぁ…彼女は元、レディースか何かなのかな?
「ボッコボコじゃな」
キム兄がニヤリと笑った。
えっ?まさか…彼女が片手で拳を握っている。
やばい…ヤラレル…本能がそう察知した。
僕はたまらなく、
「あの!花瓶、花瓶は弁償しますから殴らないで下さい」
と叫んだ。
我ながらなさけない、母親が見たら泣くかな?
でも…、彼女は本気でやりそうで怖かった。
「本気で殴るか!」
マミさんは拳を下ろし、
僕はホッとした。
「弁償…、弁償言うたな」
キム兄がニヤリと笑う。
「聞きました」
ドミさんも頷く。
「アンタ、花瓶いくらか知っとう?」
マミさんに聞かれ首を振った。
「一千万」
あ、一千万ね……一千万?
はっ?一千万?
僕は指を一本づつ折りながらゼロを数えた。
10000000?
あれ?ゼロ合ってる?
僕…テンパってる?
あ…フゥ~意識を失いたかった。
「一千万ですか?」
確認の為に聞き直した。
3人は頷く。
「一千万…」
「シツコイよ」
マミさんに突っ込まれ、口を閉じる。
一千万…嘘…弁償するって言っちゃったよう。家にそんな金なんかあるわけない。
離婚して…まだ下に高校生の弟がいて…犬が2匹いて…熱帯魚とハムスターがいて、
そんなお金…あるわけない。
僕は途方にくれそうだった。
「じゃぁ、働くしかないのう」
またキム兄がニヤリと笑う。
笑ったのを見て…何か感じた。
今思えば…あの3人に騙されたんだ。
「いや…でも、その…」
逃げると決め込んだ僕はやはり戸惑った。
だって…正直、怖い。
ドミさんみたいに普通のバイトも居るみたいだけど。




