まじめな仕事10
もらいゲロ…その言葉で強盗はトイレへ行く許可をだした。
でも、他に何か外部と連絡する物を持ってないかと体を服の上からチェックされた。
結果、極道っぽい人とトイレに行くはめに…。
2人だけでは、何するか分からないと強盗も思ってるみたいで、一人着いて来た。
トイレは集められた場所の後ろの方向にあり、進んで行くと僕の視界に、小さな女の子が母親に抱き着き怯えているのが目に入った。
かわいそうに…怖いだろうな。
集められた人達はざっと20人くらい。
お年寄りや、若い女性や…小さい子供。
僕の前を極道の人が歩き、急にしゃがむと何かを拾った。
僕の後ろに居た強盗の仲間が素早く反応して持っているライフルを極道さんに向けた。…が、極道さんは「婆ちゃん、補聴器落としとるよ」と補聴器を床に座るオダンゴ頭の小さいお婆さん?に渡した。
お婆さんと言うほどに年寄りに見えないけど、耳は聞こえにくいんだろうな…オダンゴをした人は何だかムーミンに出て来るミーを思い起こさせる。
「あら、ありがとうね」
オダンゴさんはニコッと笑った。
そして、僕と極道さんはトイレに入った。
個室に僕は押されるように入ると、極道さんに耳元で「悪いな、さきに謝っておく。ごめん」と言われた。
はっ?
僕はキョトンとなったが、次の瞬間…意味を理解した。
腹を力いっぱい殴られんだ~そりゃあ、痛いし…涙目になるし痛みと吐き気で僕はもの凄く咳込んだ。
「なあ、人が吐いてるの見てるの嫌やろ?もらいゲロしたく無かったら外出てな」
極道さんは僕らを見張る強盗の仲間にそう言った。
強盗の仲間はよほど嫌なのかその場を離れた。
僕は情けないけど、お腹を押さえてその場に座り込んで噎せている。本当に吐きそうだ。
今なら吐ける。
極道さんはトイレの個室を閉め、小声で「本当、悪いな…こうでもしなきゃ見張りは出ないだろ?」と言う。
何なんですか?
僕に何の恨みがあるんですか?
そう言いたくても…言葉に出来ない。
「もうちょっとしたら助け来るけん、待ってろよ日當くん」
名前を呼ばれ顔を上げた。
なんで名前?
あ、そうか…マミさんが僕の名前呼んだもんなぁ。
「俺はじょんじ。よろしく」
極道さんはじょんじと言うらしい。外国人なのかな?
「はぁ、」
僕はとりあえず頭を下げた。
じょんじさんは、トイレのタンクを開けるとフタの裏側から携帯を取り出した。
はぁ?何故に携帯?
携帯は全て没収されたはず…。
「内緒な。さっき、置きに来たとさ」
じょんじさんはそう言うと携帯でメールをうっているようだった。
どこかに連絡してるのかな?あ、そうか…メールで助けを呼ぶんだ。
じゃぁ、僕らは助かるんだ!
そう考えたら、何だか勇気が出て来たよ!
じょんじさんはメールをうち終わると、携帯を元のように戻した。
ちゃんとビニールに入れて、テープでフタの裏側に置いておいた…そのおかげで助かるんだ!
バンザイ三唱したくなった。
「いつまでも居たら怪しまれるけん、行くぞ」
じょんじさんに促され、僕はトイレから出た。
「スッキリしたみたいやん」
マミさんが話かけて来た。
もうすぐ助けが来ますよ!
そう伝えたくてウズウズした。
「何?何かニヤニヤしてキモいっちゃが。」
顔に出ているのかな?真顔でドン引きされた。
「そこ!うるさいったい!」
強盗の一人が僕らの方を睨んだ。
この人はライフルも銃も何も持ってないようで、声からして僕とあまり変わらない年齢に見える。
顔はマスクかぶっているから分からないけど、声とか…体型とか…雰囲気とかで分かる。他の3人はそれなりに成人してる感じがする。
「アンタの方がうるさいし」
マミさんが言い返した。
うそ~ん、この状況でそんな事言う?
アナタ…怖いモノないんですかあぁぁ!
僕は心の中でシャウト!
「何だと!」
男がマミさんに怒りを表わに近づいて来た。
嘘!マジやばいじゃん!
いくらマミさんでも強盗には負ける!
助けなきゃいけない!
そう思うけど…情けない事に体が動かないんだよぉぉ!自分のバカ~ッ!
「か弱い女性相手に意気がるなよなぁ」
とマミさんの前に立ちはだかったのは…もちろん僕じゃなく、ツッチーさんとトミーさんだ。




