まじめな仕事9
グリさんも側に居る。なんか…ちょっと安心した。
皆、居るから心強さはある。
「だ、大丈夫」
余裕そうに笑うつもりだった…でも、頭と心と体は反乱でも起こしたのかバラバラで…大丈夫!大丈夫と言い聞かせる度、余計に震えが来るのが分かる。
「アンタ、吐きそうっちゃない?」
マミさんの言葉通り、僕は恐怖で吐きそうだった。
「ここで吐かんでよね、吐くならトイレ」
マミさんはトイレマークを指差す。
「吐きませんよ!」
僕はつい、いつも突っ込みを受けた時のように声を荒げてしまい、慌てて口を塞ぐが…遅かったみたい。
「元気がいいねえ、僕ちゃんは。銃怖くないのかな?」
カウンターに居たはずの男が直ぐ側に来ていて、僕に銃を突き付けていた。
ああ…僕、死んじゃう?
神様…僕何かしたんですか?
何の罰ですか?
親がなんとなく離婚しそうな雰囲気があったのに…お金がかかる進学をしたから?
弟は高校出たらすぐに就職するからと、学校でいろんな資格取っている。
進学したからって良い会社に入れる保証なんて、今の世の中には存在しないのに…。
だから?
それとも、勉強をあまりせずにバイトばかり探してた罰?
僕…死んじゃうのかな?
誰か泣いてくれるかな?
ミクちゃん…そうだ、僕が死んだらミクちゃんは悲しむかな?
ごめん、ミクちゃん…君の為にバイト頑張って借金返してあげようと思ったんだ…でも、ダメみたい。
こんな所来なきゃ…キム兄にこんな場所で置いて行かれなかったら…
ああ~!
そう、キム兄…キム兄にさえ出会わなかったら。
こんなバイトさえしなかったから、僕はまだ平々凡々と生きてたはず…そうだよ、銃なんか突き付けられなかったのに!
キム兄のバカあ!
僕は目を閉じた。
「こいつ、吐きそうなんちゃが」
マミさんが普通に銃を向ける男性にそう言った。
えっ?アナタ、怖くないんですか?
「吐きそう?怖くてか?」
男は馬鹿にしたように笑う。
ちょっとカチンと来た。誰のせいで吐き気もようしてると思ってるんだよ!
「インフルエンザ」
マミさんはそう口にした。
インフルエンザ?何かの暗号?
「コイツ、インフルエンザなんよ」
誰が?マミさんの言葉に危うく突っ込みを入れそうになった。
「インフルエンザ?マジかよ…」
男は僕をマジマジと見た。
「確かに、顔赤いな…まぁ、ここで吐かれても困るな」
えっ?俺って顔赤い?確かに興奮して頬っぺたが熱いけどさ。
「トイレ、行かせた方が良かっちゃない?」
マミさんは強盗に普通に接している。
あぁ…アナタには怖いモノはないんですか?
なんでそう普通なんですか?
「吐かれたら困るからなぁ」
と強盗は言う。
「…って、言うわけないだろ?我慢しろ!トイレに行く振りして逃げられても困る、それに外部に連絡されても困るな…客、全員の携帯をとりあげろ」
と男性は仲間にそう言うと僕を含む全員の携帯を集め出した。
「ねぇ、ちゃんと返してくれるちゃろうね?」
マミさんが僕に銃を突き付けた男に言う。
ギャー、アナタ…アナタ、度胸有りすぎですよ!
「はっ?」
男はマミさんを見ると
「稲葉さんの画像やら、動画とかあるっちゃが…結構、金かかっとうとよね、返して貰わんと困る」
稲葉さん…ビーズですか?
アナタ…自分の命より動画と画像を取るんですか?
「お前、さっきから面白いな。全然、怖がらないし…銃突き付けても画像が大事だと言うし…」
強盗さん、面白いだけじゃないんですよ、この人。
度胸も迫力も日本一だと僕は思うんです。
だって、巻き添えを喰らった客は怯えてたり、泣いてたり…堂々としている彼女を見ていたら、テンパる僕がアホみたいに思えるんですよ。
「吐きそうなんだろ、来いよ」
フィに僕の真後ろから声がした。
僕がぶつかった地上げ屋…ううん、極道みたいな男性がそう言って僕の腕を引っ張った。
「動くな!」
男は極道に銃を向けた。
「吐かれたら汚かろ?、お前ら掃除すっと?そいに…トイレって逃げる場所なか、窓もなかし…携帯はお前らが持っとうとばい」
…って、言うか…なんで、この人も強盗を目の前に平気なんですか?
何なんですか博多人は?
どうしてこうも度胸ある方々ばかりなんでしょうか?
「吐かれたら迷惑っちゃが、貰いゲロが起こると思うよ」




