まじめな仕事8
乱入して来た彼らの一人が警備員を殴り倒した。
殴られ倒れた警備員がスローモーションみたいに見えた。
彼らの足音と中に居た客のざわめきがごちゃごちゃとした音となり、僕の耳に聞こえている。
それでも僕はその場から動けないで居た。
何?
頭に自分が出した質問を問い掛け、答を出すのに時間が掛かった。理解出来てない…僕は彼らを視線で追っていた。
「おい、お前らこっち集まれ」
男は叫ぶと銃を手にしてこちら側に向ける。集まれと言っているみたいで……バラバラにいるお客、すなわち僕達を男は半分降りているシャッターの向こう側、受付の方へ行くように指示をする。
えっ?えっ?何で?あれって玩具?
だって、日本は銃国家じゃないし…。男が銃を出した事で残っていた客の一人が悲鳴を上げた。
その一人の悲鳴が周りに飛び火し、一斉にざわめきと悲鳴が耳を塞ぎたくなるほどに建物中に響いた。
「うるせえ、黙れ!」
威嚇射撃のように男は真上に発砲した。
体育祭の位置について~よーい、スタート!パンッ…!!みたいな可愛いものじゃなく、映画やドラマで見たのと同じ発砲音がした。
発砲されたと同時に真上にあった蛍光灯が運悪く弾に当たり派手な音を立て割れ飛び散った。
破片が辺り一面に降り注ぐ…雪みたいに…いや、雪より危険だし!
僕は派手な発砲音と降り注ぐ破片にようやく反応したようにヤバイと頭を庇うようにしゃがまなきゃって思った瞬間、僕がしゃがむより先に誰かが僕を庇うように、僕に覆い被さり…しゃがませてくれた。
「大丈夫?」
その声はグリさんだった。
僕が蛍光灯のすぐ近くに居たから、割れた瞬間に僕を庇ってくれたんだ。凄い瞬発力!確かATMの近くに居たのに…
「はい」
僕は顔を上げて返事をした。
「今動いたら危ないから」
グリさんの危ないと言う言葉で僕の周りに割れた蛍光灯の破片が落ちているのが分かった。
派手な発砲音、銃、マスクの男達。これを頭で掛け合わせして、僕は要約…銀行強盗だと理解した。
ホンマ、とろいな日當は…。キム兄を思い出した。
本当に僕ってとろい…情けない。
僕はグリさんに庇われながら椅子が沢山置かれている場所まで来た。
「日當、大丈夫?」
マミさんが側に来た。
「マミさん…」
なんでだろう?
マミさんの顔見た途端に安心して、涙がじわっと涙腺からにじみ出て来た。
ほら、あれだよ、あれ!
学校で予防接種とかあったじゃない?
痛みを勝手に想像して怖くなり不安になる、…で、友達一人一人にどうだったか確認をして、不安を和らげる。
あれに似てる感情が出てきて、マミさん見てなんか不安が和らいだ気がした。あくまでも、そんな気がしただけだから…。
「アンタ、何涙目になってんの?」
マミさんは普通だ。至って普通…えっ?銀行強盗だよ?
あの銃は本物だよ?何…そんなに普通に落ち着いてんの?
あれ?ドッキリ?もしかして、ドッキリなん?
マミさんが余りにも普通にしているから、一人テンパる自分にテンパる…みたいな?ああ、ややこしい!
「お前らさっさとこっちに来い」
怒鳴り声がまた店内に響き、僕達と他の人達はシャッターの中に入らされて、シャッターは完全に閉まった。
「金を詰めろ」
男の1人がカウンターのスタッフに鞄を投げつけるけどカウンターの向こうに居るスタッフは全員がバンザイを…いや、違う…両手を上げてるんだ。
皆、顔面蒼白で女性スタッフは今にも倒れそうに見える。
年配の男性が札束を鞄に言われた通りに詰め始めていて、でも、体全体が恐怖で震えているせいで、上手く札束をバッグに入れる事が出来ないでいる。
それに強盗はイライラして怒鳴っているようだった。
「お前ら、全員一カ所に集まれ」
仲間の1人が僕達を脅す。その仲間はライフルを男は持っていて、え…なんでそんなの持ってるんですか?アナタ、猟師ですか…もしくは兵隊さん。
僕は米軍基地がある街育ちだから、軍服を身に纏いライフル片手に基地前でスタンバる米軍の方々を見た事がある。
しかも僕は幼稚園の時、基地見学でライフル持っている軍人さんが怖くて泣いた記憶がある。
だって、軍人さんって皆デカイ…目なんて青いしさ!ビックリしたもん!そんな光景とは…違うんだよね。
明らかに…ヤバイ…命に関わる。
僕らは一カ所に集められた。ああ…なんで?なんで僕ってこんなについてないんだ?
「日當君、大丈夫?顔色悪いよ」
トミーさんが声をかけてくれた。
一カ所に集められているんだから、僕の側にはマミさんはもちろんの事、トミーさんにツッチーさん…。




