まじめな仕事7
「ほんじゃ、今から役割説明するけぇ」
「ハイ!」
キム兄の言葉で全員ペンを取り、メモをとりはじめた。
あぁぁ…なんか理解できない。なんでスマホとか携帯あるのにメモ取るんだろう?まぁ、書いた方が頭に入るんだろうけどさぁ…。
皆、真剣に聞いては一句一字間違えないようにメモを取っているから、車内はペンを走らせる音が響く。
「ちょっと、日當!アンタ、メモとりよる?アンタが1番危なっかしいとよ?」
マミさんの声で僕は慌ててメモをとりはじめた。
内容は…うーん、ちゃんと聞いて無かったからよく分からないんだけど、トミーさんとツッチーさん、マミさん、グリさんは車が停車した場所で降ろされた。
キム兄は車で待機。
しかも、なんかスパイ映画みたいにインカムをつけている。なんか見た目カッコイイからムカつく!なんか自分ばかりカッコイイ格好してズルイ!その心の声が聞こえたのかキム兄は僕を見て鼻で笑った。
な、なんかムカつく!
「もう、日當!置いていくよ!」
マミさんに怒鳴られ、僕は慌て皆の後を追う。
キム兄の側を離れる時に微かにヨーコさんの声がインカムから聞こえた気がした。
僕らが立つ建物は銀行だった。
周りをキョロキョロと見た…中央区?
硝子張りのビル。かなり大きなビルで高いビルを見慣れていない僕はつい、見上げてしまう癖がある。
東京に修学旅行に行った時も高いビルを見上げて歩いたもんなぁ。
「日當!」
マミさんにまた怒鳴られ僕は慌てて後を追う。
この銀行には初めて来た。
時間は3時前。
あれ?お金の出し入れや支払いとかの受付って3時くらいまでだよね?何しに来たのかな?
考えても分からない……あれ?僕…そんなにキム兄の話聞いて無かったっけ?
とりあえず、優しく教えてくれそうなトミーさんに聞こうとトミーさんを探すとちょっと先のソファーにツッチーさんと並んで座って居る。
僕は近くに行こうと歩き出した途端、ドンッと誰かにぶつかってしまった。
「す、すみません」
顔を上げて…僕は血の気が一気に引いた。
白いスーツ上下にガラシャツにサングラス…
あぁ…もう、体全体で素行が悪いですとアピールしている40手前の男性に僕はぶつかってしまったのだ…あぁ…殴られるかも!
「気をつけんかい」
迫力のある声で凄まれ、僕はひたすら謝るしかない。男性は謝る僕に言葉も返さず、…いや、返されたら困るけど。何も言わずにATMの方へと歩いて行った。
ホッ…何もされずに良かった~と、僕は胸を撫で下ろす。
銀行のシャッターがゆっくりと降りる音がして、僕はその音にちょっとびっくりした。
シャッターがゆっくりと降りている。初めてだった、シャッターが閉まるまで銀行に居たのは。
まぁ、銀行にめったに来ないけどね。だって、お金降ろすだけならコンビニだって出来るし、福岡は都会だから、あちこちにATMがある。
僕の住む田舎は限られた場所にしかないし数が少ない、もちろんコンビニだって少ない。あれ?そもそも何でこんなギリギリに銀行に僕らは来てるんだろう?
銀行の受付とATMの間にあるシャッターが降りていて、ATM側の小さい出入口のシャッターはまだ降りないでいる。
銀行が3時ピッタリに全てを停止しないとは分かってはいるけど、シャッターが閉まるのを見てたら焦ってしまう。
ほら、店に入ったらホタルのヒカリが流れるでしょ?閉店の合図として。僕は曲が流れ出すとテンパる方なんだよ~あぁ、急がなきゃって!
ふと、グリさんやマミさん達を見た。
グリさんは相変わらずATMの方に居る、…って、さっきの怖い人がグリさんの後ろに列んでるよ~あんまり見ないようにしよう。
さっきの男性はグリさんの後ろに立ち、もうちょっとで僕と目が合いそうになり、慌てて目を逸らした。
マミさんは椅子に座り週刊誌を真剣に見ている。トミーさんとツッチーさんは雑談。
ん?お金振り込むとかじゃないよね?
あれ?やっぱり仕事内容をトミーさんに聞こうと歩き出したのと…シャッターが半分まで閉まりかけたと、それは同時だった。
男性4人が中へと入って来た。
入り口近くには警備員が居たので、入って来た彼らの異常さに素早く反応し、阻止しようとした。
警備員が阻止しようとしたのは時間ギリギリに入ろうとしたからじゃない…男性4人とも黒い服をし、顔まで覆うマスクをかぶっていたから。
目出しぼうとか言うアレ?名前合ってる?
あれ?そんな物かぶるくらい…外寒かったっけ?
僕には無縁な光景だったから、すぐに理解出来なかったんだ…銀行強盗だって。




