まじめな仕事
「あの、すみません…」
僕を引っ張り早や歩きで進む彼に話かけた。僕の声で彼は歩くのを止め、振り返ると僕の手を離す。
「あの…助けて…くれたんですよね?」
真っ直ぐに僕の前に立つ彼は…助けてくれたのかも疑問視してしまうほど、ホスト先輩と余り変わらないくらいに見た目…チャラ男だし、ブランド物に身を包んでいる。
「とりあえずね」
彼は僕を見て微笑んだ。
えっ?えっ?まさか…助けたんだから金払え…とか?僕は身がまえる。
「なんか怯えてない?」
そう言いながら彼が近寄って来る…僕は思わず後ず
さる。
「ツッチー、日當くん」
聞き覚えがある声が後ろから聞こえ、思わず振り返った。
「ドミさん…」
ドミさんがニコニコ微笑み、走って来る。
「大丈夫だった?」
「当たり前」
ドミさんの問い掛けに彼は得意げな顔で返事を返す。
知り合い?僕は彼とドミさんを交互に見る。
「あ、日當君、ツッチーと会うの初めてだよね?一緒のバイトなんだよ」
あ…そうか。ツッチーって名前はさっき聞いた。
そうか…時給が良いから。ブランド品沢山買えるんだ…。
「あの、ありがとうございます」
僕は頭を下げたと同時にお金を出せとか言われなくて良かったとホッとした。
「お前…あの、使い過ぎ」
ツッチーさんは笑っている。
あの?…うっ、そう言えば使い過ぎだって言われた事あるな…。
「えっ?あの…そうですか?」
プッ、とツッチーさんに吹き出され、赤面してしまったのか、顔が熱く感じる。
「あれ?ドミにツッチー」
と男性…男の子かな?が近付いて来て、目の前に立つ。
「あ、トミー」
ドミさんがそう名前を呼んだ男性は女の子みたいに可愛い顔をしていて、小柄で服装は派手とは言わないけど、今風な服装を彼に似合うアレンジで着こなしている。まぁ…お洒落って事。
トミーと呼ばれた彼も人質人材で働いているとドミさんに説明された。
僕らは場所を変えて自己紹介をする事に。
ドミさんにツッチーさんトミーさんは僕より一つ年上で、あのバイトは1年前から続けてるそうだ、彼らの話によるとそれぞれの仕事内容は違うんだとか。
ドミさんは主にスカウト係り、ツッチーさんとトミーさんは潜入要員で、潜入要員とは、悪い噂がある会社にバイトとして入り込み内容を調査するんだとか…素人が危ないんじゃ?僕はそう思ったけれど、意外と危険はなく、バレる前に辞めて逃げるんだって。
謎の会社だと思ったあの会社の全貌が段々と見えて来た感じがしてきた。じゃぁ僕も潜入捜査要員なのかな?そう勝手に思った。
それとさっきのホストの先輩はツッチーさんの話では、
「マジでお前断って正解、あの先輩さ裏でヤクザと繋がってんだよね、多分…薬を運ぶ仕事じゃないかな?ほら、アチコチの大学で薬がバレて捕まってんじゃん?裏で全部繋がってんだよね」
で、本当に断って良かったと胸をなでおろす。
「ツッチーさん詳しいですね、潜入捜査したんですか?」
僕はまるでアメリカドラマの中の登場人物になったみたいに、ドキドキしながら身を乗り出して聞いている。
「ちょっとね…グリさんと一緒にさ」
ツッチーさんは何故か得意顔。
「グリさん?」
なんか…聞いた事がある名前…どこで聞いたんだっけ?
「グリさんはウチの会社と警察の掛橋してる人でね、本職は警察官」
はっ?警察官…警察官が関与してる?
はぁ?どこの国の話ですか?
あれ?日本の警察ってそんな事していいんだっけ?
「いいんじゃない?してるんだから…自分が知ってる範囲の知識が全てではないし」
そう答えてくれたのはトミーさんでドミさんと名前が似ているからどちらがどちらか分からない時がある…紛らわしい…。
自分の常識が全ての常識ではない…キム兄さんの言葉だ。
あっ、そうか今朝…グリさんが捕まえたって宇実さんが言ってた…そうか、グリさんて警察の人。キム兄を思い出すと共にグリさんの名前をどこで聞いたかを思い出した。
なんか…バイト1日目でたった1時間だけの体験なのに丸で数カ月経っている気持ちだな…そして、ドミさんからまだ近い年代のバイトが居ると聞かされ会うのが楽しみになった。
「でもさ、東区にだけは負けたくないよね」
トミーさんが柔らかい口調で言う。
トミーさんは美少年の方…あ、ドミさんに失礼かな?
でもトミーさんはジャニーズに居てもおかしくないくらいに顔立ちが整っている。ツッチーさんもチャラ男だけどかっこよくはある。
「顔に何かついてる?」
トミーさんの声で我に返り、慌てた。




