コードネームは日當です4
「じゃぁ…スタッフは何人居るんですか?」
「博多営業所には72人所属してるんですよ、あとは九州には長崎、熊本、宮崎、鹿児島にあって、あとは関西エリアと関東エリアにそれぞれ…だからスタッフは詳しく把握してないんです」
とヨーコさんが食後のコーヒーを飲みながらに言う。僕は…口をあんぐりと開けたままにヨーコさんの話を聞いていた…。
はぁ?72人?うそーん…!!
今まで見たスタッフは今居る4人とドミさん…あとは名前を聞いただけの3人。
スタッフは10人居れば良い方だと。
お前の常識が全ての常識だと思うな…とキム兄さんが言ったのを思い出した、…僕の常識を遥かに越えている。
「日當、アホ丸出しに見えるけえ、口は閉じんしゃい」
キム兄の声で我に返った。
「あの、あの…他のスタッフはどこに?僕…ドミさんと皆さんにしか会ってないんですけど…挨拶とか…しなくて…」
いいんですか?と続けたかったけれど、何か…あまり踏み込みたくないと言うか…別にもう…どうでもよくなってきたのが本音。
「日當君と年齢が近い子は後で紹介してあげましょう」
「はぁ…」
ヨーコさんの言葉に僕は何故か力なく答えた。
なんか…やっぱり逃げたい。今更ながらまた…考える。
ドンッー
僕が座る椅子に何かがぶつかり、その衝撃で僕は前のめりになり、水が入ったグラスを倒しそうになったが目の前に居たキム兄が寸前でキャッチしてくれた。
やばい…殺される…僕のせいではないけれど、危うく水をキム兄にかけそうになった。
きっと僕は今日までの命なんだ…と瞬間に青ざめ。
「す、すみません」
と僕は慌てて謝った。
「きさん、何しよっとか!」
マミさんの罵倒する声がして僕は更に青ざめながらに、すみません…と謝ろうとマミさんに視線を向ける。…が、彼女が罵倒した相手はさっき騒いでいた子供だった。
懲りずにまた騒いでいたみたいで、走り回り僕にぶつかったみたいだ。
「すみません、大丈夫ですか?」
申し訳なさそうに謝りに来たのは子供達の母親ではなく店の店員さん。
店員は子供達に優しく注意を何度もしていたが、子供らは完全に無視。
痺れを切らした店員が母親達に子供を見ていて欲しいと頼んでいたが母親らは露骨に嫌そうな顔をしている。
信じられない。
店員はさっき僕に子供の一人がぶつかった事も説明していたが、母親らは鼻で笑う感じで受け流していた。
謝る気ゼロ…。
うわっ、かなりムカつく…。子供らは注意も聞かず走り回って騒いでいる。僕が注意しなきゃいけないかな?
回りのお客さんは迷惑そうだけど、誰も何も言わない。
そのせいもあるのだろうか?
「別に誰も文句言ってないけん、良かっちゃない?」
と母親の一人がそう言ったのが聞こえた。
もう…ダメだ…あんな母親に育てられた子供の未来は暗い。
そう思った瞬間。
「アンタらの子供は頭が悪いのか、躾が出来てないのかどっちだ!」
と怒鳴るマミさんの声が店内に響いた。
母親らは何が起こったのか分からないのかキョトン…としている。
マミさんは走り回る子供の一人を捕まえ、母親の元に、「誰も文句言わんなら良かっちゃない?と言ったバカは誰や?」と迫力で迫る。
言ったと思われる母親が目を伏せた。
「ねぇ、この子アンタの子やろ?」
捕まえた子供は僕にぶつかった子供だ。子供はマミさんが怖いのか、今の雰囲気が怖いのか目を伏せた母親にしがみついた。
「本当…親を見て子供が育つってそのまんま…呆れる、他人に迷惑かけるガキに育てないのが親やろうが、人にぶつかったら謝る!一般常識やろうもん!騒ぎたきゃ自分ちで騒げ、旦那の働いた金で優雅にランチ食ってないで、手づくりを子供に食わせろ、こんなタバコまみれの店に小さい子供を連れ込むな、体に悪かろうが!」
マミさんはテーブルを力いっぱい叩いた。
母親らは迫力にのまれたのか…それとも店内の視線全ての的になっている事に耐えられないのか子供達を連れ、逃げるように店を出ようとする。
「ちょっと待ちいよ、ぶつかった事謝っとらんろうが!」
とマミさんはぶつかった子供の母親に声をかける。母親は慌てて振り返り、僕に頭を下げ…文字通り、逃げて行った。店員さんがマミさんにお礼を言っている。
あれ?あれ?
もしかして…これって…仕事?
僕は頭にそう過ぎった。
「仕事やない、いつもの事じゃけえ」
とキム兄も食後のコーラを飲んでいる。
あ…そうですか。
「全く頭にくる!」




