コードネームは日當です2
「じゃぁ、一緒に食べに行かない?奢ってあげるから」
と宇実さんは優しく微笑む。優しい…なんて優しいんだこの人は。
キム兄さんも見習えばいいのに…。
「いいんですか?」
僕は二つ返事で答えた。
「あ、いいとこ知っとおよ」
とマミさんが話に加わる。
「じゃぁ、ヨーコさんも一緒に行きましょうよ」
宇実さんがヨーコさんも誘い、早速にマミさんが言うイイトコに行く事になった。
でも…
「なんで…キム兄も居るんですか?」
広い店内に入り、店員に案内されたテーブルに着くと僕の目の前にはキム兄さんが居る。
「飯食っちゃ悪いんか?」
喧嘩ごしな言い方をしながらキム兄はメニューを見ている。
「いや…事務所…いいんですか?」
今日居たスタッフ全員が食事に来たら誰も居なくなるし…電話番とか…金庫番とか要らないのかな?…と僕はいらぬ心配をしてしまった。
「大丈夫、ちょうどドミかツッチーかトミーが来てるはずだから」
とヨーコさんが灰皿を手にしながら答える。
ドミさんの他にスタッフ居たんだ…どんな人達かな?
仲良くなれたらいいけどなぁ…。
「そう言えば皆さんニックネームなんですよね?本名はお互い知ってるんですか?」
「しらん」
僕の質問にキム兄が即答。
知らない…知らない?はぁ?
「知らないはずないでしょ?皆さん履歴書出すんだし、僕だってキム兄さんに名前聞かれたから答えましたよ」
僕はどうせキム兄の冗談だと受け取っていた。
「お前くらいじゃ、本名をバカ正直に名乗ったのは」
キム兄さんは僕を見ずにまだメニューを真剣に見ている。
優柔不断なのかな?
「バカ正直…って…普通、聞かれたら答えるじゃないですか」
「お前の普通が一般で普通だとは思わんように」
そう言ってキム兄はようやくメニューを決めたのか僕の顔を見た。
「確かにそうよねぇ。私も…初め見た時に時給一万だし、名前も胡散臭いでしょ?面接の時に思わず偽名使っちゃったわ、それが今のコードネームよ、ニックネームじゃないからね」
と宇実さんはニッコリと微笑む。
おっとりとして人を騙せそうもない彼女でさえ偽名…都会って…正直怖い所なんかな?僕には理解出来ない。
「そがん事より、ちゃっちゃとメニュー決めりぃよ日當、こっちは腹減って死にそうなんちゃが」
マミさんが僕の顔にメニューを押し付ける。
「止めてくださいよ、すぐ決めますから」
僕はすぐ目についたメニューに決めた。僕がメニュー決めたのが最後だったみたいで、ヨーコさんが全員の分をまとめて店員に注文をする。
話を元に戻すけど全員が本名を知らない会社ってあるん?僕は益々、バイトを辞めたくなった。
「しばらくは辞めれんからのぅ」
また、キム兄は僕の考えを読んだかのような言葉を発した。僕はそんなに顔に出やすいのかな?
今すぐ、自分の表情を鏡で確かめたい気分だ。
「だって、明らかに怪しいじゃないですか…全員が本名を知らないんですよ、しかも危なさそうな仕事だし…それに大体…人質人材派遣って法には触れないんですか?具体的には僕は何の仕事すればいいんですか?」
怪しいと思えば思う程に僕は少しでも情報が欲しい。これは人としての当たり前の感情で、興味本意ではない。
「未成年はおらんし、法にはギリギリ触れとらんし、バレなきゃ大丈夫じゃ」
「はぁ?」
また…信じられない事を口にするんだよ…この人は…。
「バレなきゃ…ってそんな問題なんですか?皆さんは変に思わないんですか?」
僕の持つ常識は一般常識だよね?間違ってないよね?可笑しいのはキム兄だけだよね?他の3人に同意して欲しくて僕は彼女らを見つめた。
「変だと思ったら仕事はやってないわよ」
宇実さんはまたニッコリと僕に微笑む。
「日當、世の中、金。金がないと何も出来んやろ?ウチらは金さえ貰えれば文句言わず働く、それがウチらの常識」
とマミさんはポケットから煙草を出すとライターで火をつける。
「金…って、そんな…何でもするって僕は人殺しとかは嫌ですからね」
僕は頭の中で変な想像をしていた…とてもブラックな…
「アンタは飛躍し過ぎ、ウチらは人は傷つけん、助ける方…日當だって時給に釣られて来たっちゃろ?」
確かにマミさんの言う通り…時給に釣られて来た。でも、金が全てとかは思わない。
「世の中…お金とかだけじゃないですよ、お金で買えないモノとかだってあるし」
「へ~例えば?」
マミさんの質問に僕はちょっと迷って、「愛…」と答えた。