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憑いていきます  作者: 麻本
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第六話

「えっ?馬加まくわり電車区へ助勤?」

航平は突然、他の事業所行きを命ぜられた。

航平がその理由を聞くと、馬加事業所は、作業員募集しても人が集まらないまま、繁忙期を迎えてしまうため、

各事業所から応援という形で、補助勤務を命ぜられている。

その順番が、航平に回って来た形なのだ。

「ちょっと、所長―?この妻沼田電車区だって、人数ギリギリの筈なのに、助勤なんていいんでしょうか?」

「確かにきついけどな。上からの命令だし、仕方無いんだよ。この助勤も三日間だけだし、お願いするよ。出張手当もつくし、いいだろう?」

「はい。分かりました」

航平は承諾した。

この業界、整備と言えば聞こえはいいのだが、実際はビルメンテナンス同じ様な事をやる「清掃」であり、それを知ってか知らずか、若い人は入ってこない。

そのため、慢性的な人手不足に陥っているのだ。

人手不足なのは、航平の働いている妻沼田電車区も例外ではない。

それにも関わらず助勤が入るのだ。

また、出張手当も出るには出るが、その金額は一日あたり、ペットボトル二本分程度だ。

航平は、馴染みの無い職場に行くのが、好きではなかったのだ。

実際、どんな人が居るのか、分かったものではない。

「明日から馬加かー」

・・・。

そして翌日。

朝、少し早めに出勤して、所長に挨拶をして、借りるロッカーの場所を聞く。

そうしたら、作業着に着替えて、そして朝礼に出る。

軽く自己紹介をした後、今日の作業の説明、割り振りの書かれた紙を自分で取る。

馬加電車区の事務所は妻沼田電車区に比べて大きく、人数は多いほう。

しかし、人は年代別に言えば、航平より年上の人が圧倒的に多かった。

改めて、割り振りの書かれた作業日報をみる。

すると航平は、ある程度、自分のペースで仕事の出来る「全般清掃」では無く、とにかく早く、確実に作業を熟さなくてはならない「日常清掃」だった。

そして、朝礼の後、航平は使う道具の場所とその道具を聞いてそろえて準備をする。

準備する道具は、ヘルメット、濡れモップの柄と、モップを複数。自在ほうきと土間ほうき、ダンモップ。

缶やペットボトルのごみを仕分ける為の袋が複数。その中でもダンモップが、妻沼田電車区のよりも小さかった。

航平は、何でなんだろうと思った。

でも、その理由は直ぐに分かった。

航平の働いている、妻沼田電車区の緩行線のロングシートの車両とは違い、ここはボックスシートのあるタイプの車両になり、しかも特急車両も扱っているからだ。

特に特急車両は、通勤車両に比べれば通路が狭く、小さくしないと、座席シート下の小さな隅の埃を取り除く事が出来ない為なのだ。

洗浄線に入り、作業を開始し、こなしていく。時間制限が厳しい分、結構ハードだ。

その洗浄線は、ホームと同じ様に高所にある。また、レールの周りに砂利は無く、なかば「むき出し」の状態だ。

その段差が激しく、落ちると危険なのだ。

そして、何本もの編成をこなし、あっと言う間の昼休みの時間に差し掛かる。

航平は、作業を終えて車両からでた時に立ちくらみを起こした。

「やべぇ・・・」

航平は、足がふらつき、頭から線路へと転落した。

その時、頭がレールにぶつかり、ヘルメット越しに頭を強く打って気絶した。

やがて、航平の目が覚める。

頭の痛みは無く、スッキリとしている。

ただ、周りを見ると、白い天井であるとか、蛍光灯が視界に入る訳でもない。

航平の目前に広がるのは、ただただ真っ青な空間だった。

「え?あれ?ここは?」

「ふふふ。やっと、倒れてくれたわ」

航平の目が覚めると、こう呟く茉莉奈がいた。

「え・・・?今、何て言った?」

「聞こえない?キミが倒れてくれたと言ったのよ?」

「何だよそれっ?まるで、俺が倒れるのを待っていたみたいじゃねーか?」

「そう。その通りよ」

「茉莉奈さんは、単なる浮游霊の筈だ。なのに何で」

「分からない?じゃあ、これを見せてあげるわ」

そう言って茉莉奈が背中から、巨大な鎌を取り出す。

そして、それを見た航平は、驚いて後ずさりした。

「なっ?もしかして?その、巨大な鎌は、死鎌?てェ事は、茉莉奈さんは死神なのかよっ!」

「正解。私は死神よ。キミ・・・航平があたしをみた時は、展望台の霊を成仏させる最中でね?キミは元々死亡リストには無かったけど、数を稼ぎたいから、展望台の霊を使ってそれに成りすまし、キミが死ぬかも知れないというチャンスをこうして伺っていたと言うわけ」

「何で、そんな事をっ!」

「急に思いついたのよ。あたしの除霊の最中に、キミがスマフォをみた事で、割って入った形になってね?キミと、霊のやり取りを見ていたあたしは、最近の除霊の数が少ないもんだから、少し焦っていたのよ?そこへ、キミが霊に対して食ってかかるものだから、これは使えるって思ったのよ。その瞬間に、展望台の女の霊のその性格を知ったら、さっさと除霊して、後はあたしがその霊に成りすましたって訳」

「じゃあ何だ?今までのは全て演技だったってのかぁ?」

「そうよ?」

「うう・・・」

航平は、肩を落した。

「まだ、これからの事もあるってえのに」

「ふーん?じゃあ、キミにはいいもの見せてあげるよ。ついてきな」

航平は、空中とも何とも言えない奇妙な空間を、茉莉奈を追っかけるようにして必死について行った。

そして、その先にあったものは、航平自身が病床に横たわる姿だった。

「これが、今の俺なのかっ!」

「見て分かったでしょ?キミは、まだ心臓も動いて生きているんだけど、意識は体から離れている生霊って訳なのよ。お分かり?」

「・・・」

「ねえ。これで、あたしが除霊をするときは、これを手伝うあなたは県内を問わずひとっ跳びできるのよ?移動するのが面倒では無くなるよ?良かったじゃない?」

「そーいう問題じゃネェ!まだ、手伝う何て言ってねえよ!」

「あーら?そういう態度に出る訳?航平。キミの体が昏睡状態の今、生かすも殺すもあたしの指先三寸。どうにでも出来るのよ?その状況を分かってる?」

茉莉奈の言い方は、冷静にであったが、それと同時に奥に脅迫とも取れるような凄みがあった。

まだ、この世に生きていたい気持ちが強かった航平は、

「まだ、生きて居たいです。茉莉奈さんの除霊を手伝わせていただきます」

こう言って茉莉奈に従うことにした。

「そう。そうこなくちゃね。良かったわ。じゃあ、早速除霊に行きましょうか」

「え?何処へ?」

「馬加保胤ってやつの墓。取り敢えずここから近いわよ。良かったわね?」

「それはどうも・・・」

航平は、茉莉奈と共に、馬加保胤の墓へと向かうのだった。



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