婚活エルフの相談
「ジェ~ン~。聞いてよぉ。」
「また振られたのかい。」
「わ~んっ。僕の何がダメなのお?」
ギルド長の部屋に入って早々、ジェーンは見目麗しい金髪のエルフに抱きしめられていた。
毎度のことであるので、ジェーンは驚きもしない。
小柄なジェーンを抱え込むように抱きしめて、ワンワン泣いている。
この情けない姿の男が辺境の街、ギグルシュカのギルド長のオーレン・スフィンスフェルカだった。
とにかく、ドアを開けっ放しでは外に泣き声がダダ漏れである。
ジェーンはドアを閉めて、オーレンを応接用のソファに座らせて自分も隣に座った。
一応、結界を張って声がもれないように細工もする。
オーレンの泣き言などギルドのメンバーは慣れているが、遠くから依頼に来る人に聞かれるとマズい。ギルド長の威厳というものがあるのだ。
「今度は何て言われたんだい?」
「『私たちお友達でしょ?』ってえ。お見合いパーティーで出会っておいて、お友達ってひどくない?ねえ?」
「そりゃ、確かに酷いね。」
「でしょうっ。連絡先交換して、デートもして、手も繋いだんだよ?そこまでいったらオッケーかなって思うじゃないっ。なのに、プロポーズしたら「お友達」ってえっ。」
「…オーレン。デートってのは、どこに行ったんだい?」
「え。手芸屋さんに~、最近できたカフェでパフェ食べてえ~、ドレス屋さんで着せ替えっこ?」
それはデートではなく、女の子同士で遊びに行くときのコースだ。
普通なら相手のノリで気付きそうなものだが、オーレンは気付かない。
彼は甘い物や可愛いものが大好きで、趣味は手芸と来ている。
ジェーンは泣き続けるオーレンの背をさすりながら、彼のツインテールに結った金髪を眺めてため息をついた。
おそらく、最初から「友達」だと思われていたのだろう。
これはオーレンの見た目にも原因がある。
エルフは長命で魔力が多く、魔力の多さに比例して美形度が上がる種族として有名である。
そしてこれが最大の問題なのだが、オーレンは誰もが認める「天才魔法使い」であり、誰もが認める「美女顔」であった。
エルフの美形度は中性的な方に比重が傾いているせいで、美形ほど性別がわかりにくい。
そのため、美し過ぎるエルフはまず男か女かがわからないので、声をかけるのに躊躇されるのだ。
おそらく、その女性はその事実を知らなかったのだろう。
そして、オーレンを「女性」と思いこんだのだ。
若い頃は冒険に没頭しすぎたせいで、一般の異性との付き合いが無かったオーレンにはわからなかったのだ。
冒険者にとってエルフの外見と性別はあてにならないものだが、一般人にとっては違うということが。
それでも、少し話したらわかりそうなものだが、この様子だと考えもしなかったらしい。
他人の色恋には無駄に聡いのに、どうして自分のためには発揮できないのか。
まったくもって残念なエルフである。
「まあ、お前さんの趣味は一般では女性の趣味だとされてるからね。そういうこともあるさね。」
「そんなっ。差別だよっ。男だって甘くて美味しいものや綺麗なものは好きだよっ。」
「それはそうだろね。でも、一緒に行ったお店には女性のお客が多かっただろ?」
「それは…そうだね。」
「なら女性に好きな人が多いのさ。それなら、逆に甘いものや綺麗なものが好きな人は女性だって思いこむこともあるだろう?」
「…。」
「気にすることはないよ。お前さんの趣味をわかってくれる人がきっといるさ。…それより、オーレン。その姿はなんだい?」
「え?これ?王都で最新のドレスだってっ。彼女と一緒に行ったお店で買ったんだっ。似合うでしょ?」
「…それ着てプロポーズしたのかい?」
「うん?そうだよ?よく似合うって、褒めてくれたし。」
「…はあ。それだね。」
「え?何が?ジェーンっ。僕が振られた理由がわかったのっ?」
「すごーいっ。」と検討違いな驚きをするドレス姿のオーレンは、どう見ても「美しいドレスをまとった絶世の美女」だった。
どこでしつけを間違えたんだろうとジェーンは昔を振り返り、出会った時にはすでにこうだったと思い出して、またため息をついたのだった。