王都武闘大会
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「さて、今回の優勝は誰だ?有力候補はこちら!」
「武器のメンテナンスは大丈夫かい?うちは、特急、格安で引き受けるよ!」
武闘大会の会場周辺は喧騒で包まれていた。
予選も終わり、今日から勝ち上がったメンバーのみの決勝トーナメントになるため、観客も周辺の店もかなり盛り上がっている。
ジェーンはその騒ぎを「にぎやかだねえ。」と窓から横目で眺めながら、はぐれないようオーレンの手をしっかりと握り直した。
ここは貴族や招待客用のホールだが、こちらも表に負けず人が多い。
「すごい人だね〜。ジェーンはぐれないでね。僕、迷子になっちゃう。」
「手を離さないどくれよ。ふう。まったく何処からこんなに集まるのかねえ。」
「今回は特別だから、仕方がないけどね。」
あまりの人出で、馬車も一台ずつしか近づけない。王の誕生祭でもここまで集まるかどうか、という賑わいだ。
それもそのはずで、今回の武闘大会は、王の即位15周年を記念して、優勝者のみならず、優秀な成績を収めたものも、超高額な褒賞、もしくは王城に高待遇で取り立てられることになっており、国中から注目が集まっていた。
これは、王と宰相がたくらんだことで、15周年という名目で大規模な武闘大会にし、優秀な人材がいれば引き抜いて中央の武力を強化するためだった。
それに乗じて、中央へ勢力を伸ばしたい貴族達はこぞって力のある騎士や冒険者を推薦し、自らも観戦に来ている。
さらに、今回は歴史に残る試合が見られると、国外からも観客が訪れていた。
ジェーンとオーレンが見に来たのは、周りのように試合目当てではなく、単に王に招待されたからだ。
秘密裏に会った日の帰り際、宰相から、アルタイトを預かるのは、準備の都合上、王都の武闘大会後だと言われ、それまではギルドで預かることになった。
武道大会が終わったら連絡が欲しいと、宰相がオーレンに頼み、それを聞いた王が自分もと言いかけて宰相に却下され、それならば是非とも武闘大会を一緒に見たいとわがままを言ったため、ジェーンが同行するのを条件にしぶしぶ招待を受けることになったのである。
アルタイトは表に出れないためギルドで留守番だが、優秀な魔法使いを遊ばせることはないと、魔石に魔力をこめる仕事をしている。
報酬の少ない地味依頼が片付くと、王都のギルドマスターは喜んでいた。
ちなみに、王都のギルドマスターは厳ついドワーフで、昔ジェーンとオーレンとパーティーを組んでいた元冒険者である。
ビルケム侯爵領での事件の報告を受け、即座にギルドマスター案件として、トップシークレットになるよう計らってくれた。
今回の招待の話をしたら大笑いし、それなら、自分がアルタイトの面倒を見るから、代わりに試合を見て、どんな強者が出たのか報告して欲しいと、王都のギルドマスターの仕事をこちらに振ってきた。
王の招待なら試合が良く見える特等席だと、わかって言う抜け目のなさが、ドワーフには珍しく王都のギルドマスターにまで出世した理由でもある。
ジェーンとオーレンは、招待客のエリアに向かう通路を招待状を見せて通過する。
招待客のエリアかと思いきや、案内されたのは王族のいる貴賓席だった。




