アルタイトの光明
「…つ、謹んで拝命いたします。」
迷ったのは数瞬で、アルタイトはすぐに答えを出す。
宰相の案は、この件が終わった後の口止めと監視を兼ねた提案だったが、アルタイトには光明に見えたようだ。
「ええ。よろしくお願いしますね。」
話が上手くまとまって、宰相は上機嫌だ。
王と侯爵は、気の毒そうにアルタイトを見ていた。
仕事漬けの奴隷が出来上がった瞬間だった。
宰相の直轄といえば、あまり公に姿を出すことはないものの、国一番と言って良い優秀な人材を出自を問わずに集めた実力主義の集団である。
しかし、10人に満たない少数精鋭で執務はいつもギリギリ。家に帰れないこともしばしばある。
宰相が国を裏切らない優秀な手駒を集めたら、結果としてそうなってしまったらしい。
噂では、宰相の執務室の隣は、直属の部下の執務室と、部下が数ヶ月寝泊り出来る設備が用意万端整っているとか。
現在、そこに貴族出身者はほとんどいない。
この国の貴族は、家に重きを置くため、何かあれば国ではなく家を優先するからだ。
先の戦が長引いた際に出来上がった風潮で、現国王が苦労している一因でもある。
しかし、そのおかげで学院出身の貴族とはほとんど顔を合わせることはないのだから、アルタイトにとっては都合が良いだろう。
王と侯爵は気の毒がったが、オーレン経由で宰相の執務室のことまで知っているジェーンには、良い話に思えた。
アルタイトのように切り離された庶子では、身分も保証されず、これからの生活は底辺になる。
追手から逃げながらでは、まともに職に就くことも出来ず、魔法使いは目立つため、冒険者にもなれない。
このままでは、荒んだ生活で早死にするか、追手に見つかって処分されるかだ。
仕事は過酷だが、命と生活が保証されるなら、文句はないだろう。
宰相の直轄なら、警護も十分つけられる。
アルタイトにはしばらく監視と護衛が必要だったし、宰相がそれを引き受けてくれるなら、ギルドとしても文句はない。
現にオーレンは先程からニコニコして頷くだけだ。
王と宰相の気が変わらないように、普段の数倍愛想を振りまいている。明らかにやりすぎだ。
王の顔が捕食者のそれに変わっていることにも気づいていないようだ。
ジェーンはため息をつき、宰相に視線で許可を得て、王にスリープの魔法をかけた。
話がまとまったのだから、長居は無用だった。




