アルタイトの処遇
「アルタイト、この手紙の件はよくやった。あやつらを追い落とす一手になる。」
「中々、尻尾をつかませませんでしたからね。」
王は上機嫌にアルタイトを褒めるが、宰相の眉間には苦悩を示すシワが刻まれている。
今まで逃げられた事を思い出しているのかもしれない。
「ん〜。じゃあ、アルタイト君のこと、王様に任せて良い?予想以上に貴重な証拠持ってたし、彼の証言は相手にも脅威だし。しばらくは、寝泊まりはギルドでしてもらって大丈夫だけど、長期間となると匿うのが難しいから。彼に新しい名前と身分も用意してあげてね?ちゃんとした仕事も。」
「当然だ。任せておけ。」
これ以上はギルドの手に余ると判断したオーレンが、アルタイトの身柄を王に押し付ける。
使い潰されないように、あざとい仕草で王に身柄の保証を念押しするのも忘れない。
「陛下。勝手に返事しないで下さい。私も同じ答えですけどね。…アルタイト、わかっていると思いますが、この件は時間がかかります。危険ですから、あなたをそのままでいさせるわけにはいきません。学院の成績は優秀でしたし、その気があるなら、新しい戸籍で城で勤務してみませんか?多少、魔法で身なりを変えてもらいますが、裏方の仕事ではありません。」
「え。あ。」
サクサク進む話に、アルタイトが固まっている。
先程まで、自分も刑に処されると思っていたはずが、いつの間にか新しい仕官の話になっているのだから、無理もない。
「お二人とも。話が急すぎます。アルタイトが驚いていますよ。アルタイト、頭がついていかないだろうが、よくお聞き。オーレンの言う通り、これは長期の案件になるから、あんたの身の安全のためにも、新しい戸籍はもらっておいた方が良いよ。あんたが持ってた手紙と、あんた自身には、その価値があるってことさ。」
見かねたジェーンが、合いの手を入れ、アルタイトにわかるようにゆっくりと説明する。
王族に対して無礼極まりない態度だが、王も宰相も、ビルケム侯爵程ではないにしろ、悪ガキだった時分にジェーンにまとめて躾けられた事があるため、気に留めていない。
これも、お互いをよく知る者たちだけだから出来ることだが、第三者がこの場にいれば、オーレンとジェーンが何者なのかと訝しむだろう。
冒険者の現役期間があまりにも長いため、オーレンとジェーンは経験値もそれに伴う人脈の広さも、ギルドの中でもかなり特殊だといえる良い例であった。
しかし、我が身のことで精一杯のアルタイトはそんなことに気づいてもいない。
アルタイトは、ジェーンに言われたことをゆっくり反芻すると、自分に生き残れる可能性があることを理解したようだった。
「…仕官が叶うのですか?」
「ええ。仕官されるなら、私の直轄の部署になりますから、室内で書類仕事ばかりになりますが、場所が場所ですので、学院の同期と顔を合わせることはほとんどないでしょう。」
独り言に近い呟きに宰相が丁寧に答える。
宰相の最後の言葉に、アルタイトの肩が震えていたのをジェーンは静かに見ていた。




