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おばあちゃんは冒険者  作者: ファタル
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貴族の手紙

「ほら、そなた達も見てみると良い。」



 王がビルケム侯爵に手紙を差し出すと、侯爵は驚いたものの恭しく手紙を受け取った。

 そして手紙を広げたのに、オーレンとジェーンも身を乗りだして覗く。



「これは…。また不用心な。」



 手紙を見たビルケム侯爵の第一声がこれだった。

 無理もないことで、その手紙にはお互いを鷹を追い落とす同士と書き、さらには3名の名がはっきりと書かれていた。



 3名の名は、ドラゴニカ伯爵、ケラン男爵、ブルタニカ侯爵。

 どれも、かつて建国に力を貸した古い名家で、尚且つ、今は勢力も財産も落ちていた。



「いくら貴族の郵便が秘密に出来るからって~。これは無いよね~。」



 オーレンも呆れた様子で突っ込み、ジェーンもまったく同感だった。

 本当の郵便事情は、平民には知られていないものだが、戦時下を知るオーレンとジェーンは良く知っていた。



 元々、この国の郵便は、数十年前の大国との戦の際、戦時下の情報伝達のために作られた制度だった。

 魔道具を使用するため値段は高いが、直接魔道具を持つ者の所へ手紙を届けられる上に、もしも、中身を開封したらその後が残るように細工されているので、機密文書のやり取りにも重宝した。



 戦後の今では、そこまでの機密性は求めなくなったため、手紙以外の大きなものも送れる安価な魔道具が開発され、一般の民も手紙や物を送る事が出来るようになった。

 しかし、大きな街にしか郵便を取り扱う役所はなく、小さな町や村では郵便は直接は届かない。



 近隣の村々は街経由で目的地と連絡を取るか、目的地を通る行商人などに金を払って持って行ってもらうしか方法がなかった。

 また、値段が下がったとはいえ、ギグルシュカから王都までで銀貨一枚はするため、銀貨数枚で街の平民がひと月食べていけることを考えると、郵便でのやりとりは富裕層のもので珍しいものだという認識が強かった。



 そのため、郵便をやり取りしていると目立ってしまうものなのだが、貴族はその心配がなかった。

 戦時中は、貴族は必ず一つは持つことを義務付けられていたため、各貴族家には必ず魔道具がある状態だからだ。



 平和になった今でも、直接相手と手紙をやり取り出来て便利とあって、大きな貴族の家では家族1人につき1つは持っていたりもする。

 途中で使いの者が賊や魔物に襲われるリスクもないため、今では、正式な招待状なども郵便を使って送るくらいだ。



 しかし、直接相手に送ることが出来るが故に、悪巧みにも利用される。

 これにどう対処していくかが、今の王に課せられた問題でもあった。



「おじい様の作った郵便は便利だが困ったものだと思っていたが、おかげでこれ程あからさまな証拠が出て来た。いや、相手にあの阿呆がいて助かったな。」



 開封した後は誰でも見られるため、秘密の手紙の場合、お互いにしかわからない暗号などを使ったり、すぐに焼却処分するものだが、この手紙にはそれがない上に処分前にアルタイトに盗まれていた。

 ここまで来ると偽の手紙かと疑いたくなるが、王も宰相もそれはないと思っているようだ。



「全くです。昔から詰めが甘いと思ってましたが、変わりませんねえ。ドラゴニカ伯爵も。家紋もこんなにくっきりと。欲だけは人一倍なくせに、能力は凡人以下なんて、救いようがありません。」



 どうやら、差出人はドラゴニカ伯爵で、この有り得ない手紙を書くことが予想できる人物らしい。

 ため息をつく宰相と苦笑する王は、この手紙を有効だと判断したようだった。


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