怪しい手紙
「その様子では、ビルケム侯爵にも隠していたようですね。何故、今差し出そうと思ったのです?」
ジェーン達の様子から察した宰相がアルタイトに詰問する。
隠すこと自体は悪くない。手の内が多い程、相手との交渉もしやすいからだ。
だが、何故、今。それも王の前で、とはジェーンも思った。
王は誰に命令されたか聞いただけだ。別に手紙まで見せる必要はなかった。
かえって疑われてしまう。こんな状態で差し出した手紙が怪しくないわけがない。
手紙に細工をすれば、意識を失わせたりすることも出来るのだ。
魔力を目にまとわせて手紙を検分したみたが、特に魔法がかかってる様子はない。
こっそり宰相に首を振って、大丈夫だと伝えておく。
「これは、もし切り捨てられることになった時に、使おうと思っていました。父を、いえ、ハンサム伯爵を追い落とせる相手に託そうと思っていたんです。」
「それで、ビルケム侯爵ではなく、私、か?」
「…侯爵様には、話そうか、迷いましたが、その、あまりに陛下との面会が決まるが早くて。それならば、陛下に差し出そうと。…すみません。」
自分のやったことの意味に気づいたのか、さらに顔色を白くさせて、震えながらアルタイトが事情を話す。
父親が自分を切り捨てた時は、道ずれにしてやろうと思っていたようだ。
ビルケム侯爵家は財力と王の信頼では国でもかなりのものだが、ハンサム伯爵家程の歴史と家格はない。
貴族というものは伝統と血筋を重んじるから、成り上がりのビルケム侯爵がハンサム伯爵を追い落とせるかと言われると微妙なところだ。
だから、王と宰相に会えると聞いて、王に差し出す決心をしたのだろう。
何より相談する時間もなかったしねえ。とジェーンはアルタイトを気の毒に思った。
事情を聞いた王と宰相の視線はオーレンにチラリと向けられる。同じようなことを考えているだろう。
たしかに、オーレンのつなぎの速さは尋常ではなかった。
いくらオーレンが先に着いていたとはいえ、誰が王都に到着した日に王や宰相と繋ぎを取れると思うだろうか。
王都に着くまでは、いつ追っ手がかかるかと緊張し通しで、着いたら王と面会だ。頭がついていかないだろう。
せめて1日でもあれば、アルタイトの心の整理もついただろうに、次の日には面会とは。
オーレン合いたさに無茶を押し通した王を、ジェーンはぎろりと睨み返した。
「成る程。まあ、オリーの技は見事なものだからな。我らの手の空くのも今日しかなかった。落ち着く暇もなかったであろう。手紙のことは致し方あるまい。ビルケム侯爵も、良いな?」
「はい。」
「では、手紙を改めさせて頂きます。」
誤魔化すように視線を外してつぶやく王に、ビルケム侯爵が返事をし、宰相が手紙を受け取る。
そして、中を見た宰相は、冷静な彼には似つかわしくない顔でにやりと笑った。
「これは…。陛下。こちらをご覧ください。」
「ん。おお、なんと!阿呆どもの名前がずらずらと。それに…くっくっくっ。」
「ふふふふふ。ようやく尻尾をつかめましたね。」
黒い笑みを浮かべながら、王と宰相は喜々として手紙を読んでいる。
どうやら、アルタイトの持っていた手紙は王のお気に召したようだった。




