王都での動き
「ふふふ。楽しかったですよ。先生の所で修行してた頃に戻ったみたいです。」
「あんたみたいな面倒な弟子はもうごめんだよ。」
「いやあ、いい変装だったよ。ふたりとも。」
金髪エルフのオーレンはビルケム侯爵とアルタイトの変装をほめたたえた。
ビルケム侯爵は変装なれしてるが久々だろうし、アルタイトははじめてなはずだ。
他人になりすますのは精神的に疲れる。
そこからボロが出て正体がばれることになったりするが、ふたりは上手くやったようだ。
「意外にバレないんですね。」
「相手が納得しやすい状況なら怪しまれないもんさ。ギルドの馬車に乗っていかにもな恰好してたし、今日の門番は私の顔見知りだったから余計だね。」
「ああ。たしかにあの恰好でジェーンさんといれば、ギルドの魔法使いだと思いますよね。」
旅の途中からジェーンをさんづけで呼ぶようになったアルタイトに、オーレンは不思議そうな顔をする。
それもすぐに笑顔に変え、ビルケム侯爵と頷き合う。
ジェーンの面倒見がよく、文句を言いながらも相手を見放さない性格は、自分の命を守るのも厳しいこの世界では珍しい。
そのため、クセのある人間にとても懐かれるのだが、本人に自覚はない。
アルタイトも例にもれず、ジェーンに懐いたようだった。
これなら、証言をするときに拒否されることもないだろう。
「それじゃあ、現状の説明から始めるね。」
「盗賊は?」
「無事に引き渡したよ。何回か襲撃があったけど、蹴散らした。自分たちが消されるってわかったからか、皆大人しく牢屋に入ってくれたよ。何でもしゃべるって。監視の目もそっちとビルケム侯爵邸に向いてるよ。こっちには近づきもしない。魔法の探査もかけられてないし、囮に引っかかってくれたみたいだね。」
「なら、しばらくここを拠点に出来るね。」
「そうだね。部屋も用意してあるから、しばらくここに泊まってね。侯爵邸には、今秘かに知らせを送ってます。」
「助かります。」
「王城には知らせてるから、そろそろ返事が返ってくるはず。」
「誰に知らせたんだい?」
「王様と宰相さん。」
オーレンの答えにジェーン意外がむせる。
まさか、ここで王の名が出るとは誰も思わないだろう。
例外は付き合いの長いジェーンだけだ。
現王が皇太子時代からオーレンを口説き続けているのは、近しい者だけが知る事実だった。
「よく連絡取る気になったね。」
「だって、敵の位も高そうだったし、王城で知り合いですっごく偉い人っていったら、僕、王様か宰相さんくらいしかいないし。あ、ビルケム侯爵もだね。」
「デートしろって言われるよ。」
「だからジェーンも一緒に行ってよ~。僕、男とデートはやだ~。」
「年寄りをこき使ってくれるねえ。まあ、今回はしょうがないか。王様に会うとなるとそれなりの恰好をしないといけないね。ギルドから出るかい?」
「出す出す。急な話だしね。」
ポンポンと決まっていくジェーンとオーレンの会話に、口も挟めず呆然とするビルケム侯爵とアルタイト。
アルタイトは雲の上の位が出て来たことに、ビルケム侯爵は事がどんどん大きくなっていくことに。
「あ、それなら、うちで用意させますよ。針子を呼びましょう。」
それもジェーンとオーレンが絡んできた時点でしょうがないかと、ひとつ息をついてビルケム侯爵は会話にまざる。
ひとり残されたアルタイトはまだ信じられない思いで呆然としていた。




