王都到着
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「止まれっ。許可証を。」
「ギルドの納品です。今回は薬草と薬を主に積んでます。」
「ああ。またあなたですか。ご苦労様です。」
門番が馬車を止めると御者台の老婆が美しい装丁の紙を取り出す。
何度か見たことのある顔だったため、門番も納得したようだった。
御者は見たことのない若者だが、ギルドは人の出入りが激しい所だから、また新しい職員だろうと古株の門番は気にしない。
生真面目な新人なら長い前髪で目を覆っている青年に疑問を持つところだが、ジェーンと門番が顔見知りなのもあってやり取りはジェーンひとりが行っていた。
「一応、荷を改めさせてもらいますよ。」
「どうぞどうぞ。」
門番が中を除くと、独特の薬に匂いのする袋やビンの入った箱が積まれ、その奥に灰色の髪の老人が座っていた。
顔の半分を覆うひげにねじくれた杖と真っ黒のローブはいかにも魔法使いといった風情だ。
「今日の護衛は魔法使い殿が2人ですか。さすがギルド。」
「薬は貴重ですから。」
馬車から降りた門番が感心したように言うのに老婆は笑って答える。
言われてみれば当たり前の話に門番も思わず笑い、先へ進む許可を出したのだった。
「まったくですね。どうぞ。ようこそ王都へ。」
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馬車はそのまま王都の大通りを進み、ギルド本部の馬車止めまで来る。
馬車止めには金の髪をしたエルフが待ち構えていた。
「ご苦労様~。さあ、中に入って。さくさく運んじゃうから。」
「あんたが手伝うのかい?」
「もっちろ~ん。ほらこの格好。あ、2階の会議室ね。」
金髪のエルフが着ているのはいかにも荷の運搬用といった作業着だが、それを美しいエルフが来ていると違和感がはなはだしい。
それを見た老婆、ジェーンは諦めたようにため息をついて、同じく年老いた魔法使いと共に奥に引っ込んだ。
その後に箱を持った茶髪の青年が続くが、長い前髪に隠されたその目は笑っている。
後ろから金髪のエルフも付いてくるが、その手に荷物はない。
一行は中に入ると防音の魔法をかけ、金の髪のエルフに向き直る。
すると、金髪のエルフは部屋の隅に何処から取り出したのか、大きな袋や箱を机の上に出していく。
「ふう。ご苦労様。薬が足りなくなりそうだったから、助かったよ。うん。薬もいい質だ。さすがジェーン。さて、ふふっ。皆、もう変装解いても大丈夫だよ。」
金髪のエルフが笑って言うと、茶髪の男は前髪をかき上げ、老人はローブを脱いで灰色の鬘とひげを取り払った。
すると、茶髪の青年の真っ青な瞳があらわになり、老人は黒髪の青年に変わっていた。
「ようこそ王都へ。ビルケム侯爵、アルタイト君?」




