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おばあちゃんは冒険者  作者: ファタル
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侯爵子息の話

「…ここから西の、ルッケン山の(ふもと)に移しました。」



 強張った表情でビルケム侯爵子息が言ったのは、ビルケム領の西の端、領境の山の名前だった。

 それを聞いていた侯爵は顔をしかめた。何か心当たりでもあるのかもしれない。



 その様子を見ながらもジェーンはさらに質問を重ねていく。



「麓のどの辺りですか?」



「北の端…そこなら誰も住んでないから、土や岩を移しても、迷惑にならないって。…そうすれば、森を開拓できると、そう言われました。」



 声が震えている。

 薬草が自領でどれ程重要なのかは知っていたようだ。



 森と薬草の話が出たことで、それを自身の手で失ってしまったことを理解したのだろう。

 顔色は青白くなり、身体も震えているが目は真っ直ぐジェーンを見ている。



「…あのアルタイトに言われましたか?」



「はい…。彼は僕の家庭教師で、いろいろなことを教えてもらいました。森も、最初は、少し大きな魔法の練習に行ってただけで…。そのうち、最近の、我が領の様子を聞いたら、畑が足りず、食べ物が不足していると。見に行った街中では、小麦も野菜も、値上がりしてましたし。本当のことだと、思いました。」



 緊張のため途切れ途切れだが、しっかりと自分が何を聞き、何を考えたのか話していく。

 街中の様子を知っているようなのには驚いたが、父親のブライアンも昔は領都にお忍びで出ていたことを思い出してすぐに納得した。



 先代のビルケム侯爵もそのような所があったから、領民の生活を直に見る機会を与えるのが侯爵家の教育の一環なのだろう。

 ブライアンがそこでたちの悪い冒険者に引っかかったから息子には家庭教師兼お目付け役としてあのアルタイトをつけたようだが、今度はそのお目付け役が悪かったというわけだ。



 まあ、吹き込まれた内容はともかく、ジェーンは子息を見直していた。

 この少年は頭は悪くない。考えは足りないようだが。



 息子は息子であって、領主ではない。

 勝手に土地に手をつける権利などないのだ。



 少なくとも父親かその側近のエルミンには話しておくべきだった。

 おおかた「こっそり試してみましょう。上手くいきそうなら、御領主さまに報告して、本格的に開発すればよいのです。」とでも言いくるめられて、内緒でやって驚かそうとでも思ったのだろう。



 目の前の少年は、自分のしたことから逃げないだけの強さと賢さと真っ直ぐさを持っているが、侯爵ゆずりの思い込みの強さと素直過ぎる性格がそれを悪い方へ発揮させている。

 これは躾けのし直しに時間がかかるとジェーンは内心でため息をついた。



「悪い商人を捕まえるとおっしゃっていたのは?」



 ジェーンは子息が捕まったときにわめいていたことで気になったことを聞いた。

 森の開拓だけなら、盗賊の手伝いなどにはならない。



 子息が吹き込まれていることを知っておく必要があった。

 侯爵もそう思っているのか、顔色を悪くしながらも話に耳を傾けている。



「食べ物が、手に入らないのは、西隣の領地から、荷物が届かないからだと。悪い商人が出し惜しみして、値を釣り上げているのだと。最初に倒した…いえ、襲った馬車には、たくさんの荷物と、多すぎる金貨が積まれていました。…売られた娘も乗っていて。何度もそういうことがあって。それで、本当のことだと。」



「捕まえた者たちは?」



「アルタイトが連れていきました。」



 恐らく生きてはいないだろう。

 これはいらぬ恨みを買っていそうだ。



 ビルケム領では奴隷の売買は禁止されている。

 それでも港を介して奴隷を売りさばく奴らは後をたたない。



 そしてそんな奴らは後ろ暗いため被害届も出さない。

 殺していれば、真相が連中に伝わることもない。だから今までバレもせず、無事に過ごしてこれたのだろう。



 しかし、そんなことが頻繁にあったら連中はルートを変えてしまう。

 だから今度は普通の商人にも被害が出始め、ギルドに依頼が来たというわけだ。



 おそらく、もう何度かやったら逃げる気だったに違いない。



「仲間に『透視』の能力者がいますね。荷を調べてから襲ってたんでしょう。あなたがすっかり信じたあたりで、普通の商人も襲い始めた…といったところでしょうか。」



「殺しては、いません。転移で飛ばしただけです。」



「…そうですか。その人たちの安否も調べてみましょう。侯爵閣下、今日はもうお休み下さい。ギルドと連絡を取りますので、詳しいお話はそれからにしましょう。」



 聞けることは聞いた。後は盗賊どもを締め上げて言質を取るだけだ。

 もう日も傾いているし、ギルドにはとっくに連絡してあるが、今の侯爵は倒れそうだ。



 自分のしたことを自覚した子息共々、休ませた方がいいだろうと判断した。

 息子の方は自覚がないようなら牢に放り込む気だったが、自分のしたことを理解しているようだし、この様子なら逃げたりもしないだろうから、侯爵と一緒でかまわない。



「…そう、させて頂きます。息子と話をさせて下さい。エルミンは残ってくれ。侯爵家の者も調書に立ち会った方がいい。」



「かしこまりました。」



 エルミンは頷くと領主が立ち上がるのを手伝い、ドアに誘導し始める。

 それを見てジェーンはボーンを振り返った。



「ボーン。お願い出来るかい?」



「ええ。侯爵様、キリク村の村長ボーンです。こちらへどうぞ。」



 領主をその辺の小屋に泊めるわけにもいかない。

 この村の村長であるボーンに後を託し、次のターゲットの所に移動する。



「ずいぶんバカなことしてくれたねえ。アルタイト?あんた消されるよ。」



 ぐるぐる巻きにされた哀れな魔法使いに、ジェーンはこれから起こるであろう事実を告げた。

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