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おばあちゃんは冒険者  作者: ファタル
13/31

ビルケム侯爵

「お待ちをおおおっっ。」



ジェーンがすごんだ瞬間、飛び込んできた人物がいた。

ビルケム侯爵本人である。



侯爵は華麗にそのまま土下座をした。

スライディング土下座である。



長身金髪の美丈夫がすると別の意味で迫力がある。

さすがのジェーンも目を丸くした。



「侯爵様っ。一体何事で…げっ。」



遅れてやってきた騎士はジェーンの顔を見ると顔を引きつらせた。

ビルケム領の騎士エルミン。彼もジェーンが教育した一人である。



当時はビルケム侯爵と一緒に暴れていた悪ガキだ。

この異様な雰囲気に誰もが口を挟めない。



「ふう。侯爵閣下。顔を上げて頂けますか?」



ジェーンのため息にビルケム侯爵はびくりと肩を震わせ、おそるおそる顔を上げた。



「先生。」

「私はもうあなたの先生ではありません。侯爵閣下。御子息がなさったことはご存知ですね?」

「行き道で聞きました。申し訳ありません。」



侯爵は悲しそうな顔で息子を見る。

その様子でジェーンは侯爵が本当に知らなかったのだと理解した。



大人になったとはいえ、人の本質はそうそう変わらない。とっさにウソをつけないのがブライアン=ビルケムという男である。

侯爵が知らないとすれば、今まではアルタイトがもみ消していたのだろう。



知ってて放置するようでは、ビルケム領はもっと荒れ果てている。

国でも有数の交易港を持つビルケム領は資源も多く魔物も出るため、常に他の領地から狙われている。

交易と産出物に胡坐をかいている暇などないのだ。



「父上っ。私はっ。」

「だまりなさいっ。お前は取り返しのつかないことをしたっ。…ここにいるひと達だけじゃない。たくさんの人にだ。」



息子の言い訳を封じた侯爵はジェーンに向き直った。

口調は丁寧だが、ジェーンが許す気がさらさらないのに気づいていたから、土下座の姿勢のままだ。



「立って下さい。閣下。お話はあちらで。」

「いいえ。お許しいただくまでは。」

「きちんと事情をご説明しますので。」

「いえ。お許しを…。」



侯爵が言い終わる前にジェーンがぽかりと叩く。

周囲はもう悲鳴も出ない。顔を青くして成り行きを見ている。



「いい加減におしっ。すでに、謝ってそれで済む問題じゃなくなってるだろうっ?口で許しを得るんじゃないよっ。ここはお貴族様たちのパーティーじゃないんだっ。口先だけのことなんて何の役にも立たないんだよっ。今っ。現にっ。薬が不足して、もうこの辺じゃあ出回ってないんだよっ。」



ジェーンの激昂にビルケム侯爵は硬直し、息子は涙も引っ込んだらしい。

ジェーンは小柄な体からは信じられない程の声量がでる。



しかも、魔法使いなので、声に魔力を乗せて迫力を出すのもお手のものだ。

侯爵と子息は雷にでも打たれたように感じているだろう。



「まったく。ちっとも変ってないね。ブライアン。いいかい?私はここの住人じゃない。私の許しは意味が無い。住人は後ろの村人たちだ。あんたたちは許されるどころか恨まれてるんだ。嫌でも頭に入れなっ。エルっ。あんた、端折って報告したねっ?」



ジェーンは侯爵に釘を刺した後、ついてきた騎士をじろりと睨みつける。

その迫力に自警団の村人たちはたじたじだったが、エルと呼ばれた騎士は肩をすくめただけだった。



「言いましたよ?ご子息が盗賊と一緒につかまったって。」

「それだけかい。」

「確実じゃないことは報告出来ませんので。」



侯爵をちらりと見ながら騎士は言う。

どうやら、侯爵の思い込み癖は健在らしい。変な先入観を与えるよりはと事実のみ報告したのだろう。



だが、それが今回は悪手となった。

侯爵はジェーンに指摘されて、息子の犯罪とその被害を知って顔を真っ青にしている。



「先生…。薬が無いって、盗賊だけじゃないんですか?」

「薬草はもうこの森には無い。あと数十年は使い物にならないね。そこの坊ちゃんが転移で土ごとどっかに飛ばしちまったよ。」



侯爵の顔色は今や真っ白だ。

息子はわかっていないながらも、周囲の様子で顔を青くしている。



それもそのはずで、薬の交易もビルケム領の大事な収益であり、魔物も多く出る領内では必須であったからだ。

それがないと言うことは、今後数十年は外から買わなくてはいけないことになる。



薬草は鮮度が命だ。買うにも限度があるし、作れる種類も限られる。

つまり、薬は必然的に足りなくなって、死者が出るようになる。



死者が多くなれば、魔物の多いビルケム領には人は住まなくなる。

薬の多さと安価な供給はビルケム領を支える一柱であった。



親の代から苦労して築き上げたものが息子の愚行でパアになったのである。

侯爵はもう倒れる寸前だろう。



ジェーンはふうとため息をついて、侯爵子息に向き合った。

子息はびくりと怯えたが、自分のしでかしたことを理解したのかまっすぐ顔を向けてくる。



昔、同じ顔を隣にいるブライアンがしたことを思い出しながら、ジェーンは最初に聞きたかったことをようやく聞いた。



「それで、御子息?あなたはどこへ転移させてたのですか?森の大半の薬草を。」

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