躾け係
捕縛した盗賊をジェーンとイージスが見張り、ホロが馬車でキリクの村に知らせに戻った。
ボーンは知らせを受けてすぐに自警団を引き連れてやってきた。
彼らは自分たちの生活を脅かした奴らに殺気立っていたが、事は領主の息子が絡んでいる。
村長のボーンが何とか宥めて、キリクの村の端にある自警団の詰め所に連れていくことになった。
「うっうっうっ。誤解なのだ~。我らは悪い商人を捕縛するために~。」
「本気で言ってんのかい?こいつらは盗賊だよ?アジトには盗まれた金品が山のようにあったよ。」
「そんなことないのだっ。アルタイトっ。我らは民を影から守る正義の味方であろう?」
移動中も、詰め所に着いてからも、一緒に捕縛された領主の息子は目の前で見たジェーンの魔法の恐ろしさに怯えながらも言い訳をしていた。
貴族の子弟らしい金髪と青い瞳の美しい顔はいまや涙と泥でぐしゃぐしゃだ。
騙されたことにまだ気づいていないらしい。
こんなところも父親そっくりだとジェーンはため息をついた。
その父親は知らせを受けて今頃こちらに向かっているはずだった。
ややこしいことになったとジェーンはため息を吐いた。
「もごごっ。もごっ。」
「あんたが親玉みたいだね。魔法使いアルタイト…聞いたことあるよ。将来を嘱望されつつ自滅した奴だね。」
「もごおっ。」
ジェーンの一言にアルタイトと呼ばれた魔法使いが抗議の声をあげる。
もっとも、魔法使いなので猿ぐつわを噛まされて縄でぐるぐる巻きにされていたため、芋虫がもぞもぞ動いているようにしか見えなかった。
「学院の卒業試験、違反したんだって?バカだねえ。普通に受けときゃよかったのにさ。」
「何?違反!?アルタイトっ。どういうことなのだっ。」
「そのままさ。こいつは学院で禁止されてる高等魔法を使って卒業試験を突破しようとした。それを制御できずに暴走させ、退学になったんだよ。学院では今でも有名だよ?知らなかったかい?」
「学院には今年入ったばかりで…。」
「聞いてなかったんだね。まあ、そのうち聞くと思うよ。その頃にはトンずらする気だったろうけどね。それより、問題はあんただよっ。何、森をめちゃくちゃにしてんだいっ。使いもんにならないだろうっ。」
ゴンッと重い音とともにうめく領主の息子。
ジェーンは自分の杖を領主の息子に振り下ろしたのだった。
「ちょっ。ジェーンさん。」
「おいおい。まずいだろ。そりゃ。」
犯罪に加担していたとはいえ、貴族の子息である。
イージスとホロがぎょっとしてジェーンを止めようとするが、ジェーンはそれを鼻で笑って、懐から古い羊皮紙を取り出した。
「これがある限り、ビルケム侯爵家から文句はこないよ。」
「え。…ちょっ。ジェーンさんこれって。」
「おいおいおいおい。何でこんなもん持ってんだ?」
ジェーンが取り出したのは「ビルケム侯爵家躾け係」と書かれた任命書だった。
金箔の飾りで豪華に飾られ、当時の皇太子、つまり現国王と前侯爵の直筆のサインが入っている。
『冒険者ジェーンにビルケム侯爵家の血筋に連なる者の教育を一任する。ただし、身体的欠損・重症なケガは避けること。』
「以前、受けた依頼でね。無期限なんだよ。これ。」
「「………。」」
「つまり、見付けちまった以上、やらないといけないんだよねえ。まったく、年寄りをこき使ってくれるよ。」
ジェーンが杖を突いて近づくと、領主の息子は「ひっ。」と怯えた。
「さあて、覚悟はいいかね?バカ坊ちゃん。」