遭遇
いつまでも暗くなってはいられないため、領主の息子は「出たら対処する」と言う害虫駆除のような対処を取ることにし、さっさと出発することにした。
ジェーン達の目的は盗賊退治であって、領主のバカ息子をどうにかすることではないからだ。
盗賊に関しては特に情報は得られなかった。
目撃例がほとんどなかったのだ。
どうやら、地元の人間が移動する際には現れないらしい。
外から来るといっても、行商レベルの小さな荷車も同じ扱いだった。
つまり、相手は荷を厳選しているのだ。
地元の流通に詳しい仲間がいるか、もしかすると「透視」の能力者がいるのかもしれない。
透視とは、遠くの物や隠した物の中身を見れる能力のことである。
生まれつきの能力で、使う時に目に魔力が集まるので、目が光って見えるのが特徴だった。
ただ、犯罪に巻き込まれやすいため、大概の透視の能力者は自身の能力を公にはしない。
そのため、透視の能力自体を知らない人も多かった。
「へえ。そんな能力があるのか。そら、黙ってるよなあ。何かあったら疑われちまうだろうし。」
「僕もあったのは1人だけです。同じ冒険者でしたけど、1人でダンジョンにでも潜らない限り使うことは無いって言ってました。」
「ああ。ダンジョンなら便利そうだよな。罠とかわかるし。」
「目が光っちまうからモンスターに狙われちまうけどね。」
「ああ~。一長一短ってやつだな。」
「まあ、まず使うことは無いですよね。」
そんなことを言いながら馬車は順調に進んだ。
キリクの村から西に大きく横にしたU字型に細い道が伸びていて、U字の一番曲がったところにベッカの村があり、そこからまた道なりに進むとオーレンカの街に出る。
間に小さな村や集落があるが、馬車で丸1日あればオーレンカまでつける距離だった。
ちなみに、キリクの村とオーレンカの街は街道でつながっていて、馬車で半日程の距離だ。
そんなもうすぐベッカの村という地点で魔力がぶつけられた。
3人ともすぐさま戦闘態勢になり、いつでも迎撃できる備えをする。
だが、魔力の塊が2度3度とぶつけられるだけで相手は出てこない。
移動の魔法が効かないことに気付いてないのだろうか?
「しかたありません。行きますよ。」
「やめんかっ。年寄りと子供が乗っている。きっと関係ないのだっ。」
「若様は我々にお任せくださればよろしいのですよ。」
おかしな会話が聞こえたと思ったら、わらわらと柄の悪そうな連中が出てきた。
妙に装備の良い盗賊だ。それと共に身なりの良い人間も2人出てくる。
黒髪を肩で切りそろえた青年と淡い金髪の少年だった。
淡い金髪の方は間違いなくビルケム侯爵家のバカ息子だろう。若い頃の父親そっくりだ。
「あ奴らは悪の手先ではないっ。」
「やっぱりかい。」
「何です?悪の手先の悪い魔女よ。」
騙され方も父親そっくりなのかと、ジェーンはため息をついた。
領主の息子もいる以上手荒な真似は出来ない。つまり、一気に戦闘不能にする必要があった。
「ちょっと私に任せておくれ。」
「おお。そりゃいいけどよ。あれって。」
「バカの方だったよ。」
「嬉しくないですねえ。…お任せします。」
ホロとイージスの許可を取ると、ゴウンッと炎が馬車を包んだ。
どうやらファイアーの魔法を放ったようだ。
「そんなバカなっ。」
「お返しするよ。」
ジェーンは結界を解くと、素早く次の魔法を展開した。
「ぐっ。」
「ぎゃあ。」
「ごげっ。」
ジェーンの仕掛けた魔法は「スリップ」。
単に相手をこかす魔法だが、これにちょっと細工して延々とこけ続けるようにしてある。
ジェーンがギルドで絡まれた時によく使う手だった。
地味に痛い上に情けない姿をさらすことになるため、大抵の奴は再び挑んではこない。
「痛えんだよなあ。」
「これ集中も出来ないから魔法も使えませんしねえ。」
「バカにはこれが一番だよ。」
昔かけられたことのある2人はしみじみとつぶやき、ジェーンはフンっと鼻息も荒く盗賊たちを眺めていた。
そんなこんなで5分後。
「ご、ごめ。」
「ごめんなさいぃぃ。」
「ゆる、許してええぇぇ。」
あちこちから許しを請う声が上がった。
その後は速かった。イージスとホロが身ぐるみ剥いで縛り上げ、吐かせたアジトをさっくり破壊して依頼は完了したのだった。