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~到着~

サブタイトルの付け方に迷うこの日。

とにかく書けるとこまで一気に書きたい。

しかし急ピッチで書き上げたのでどこかおかしなとこもあるかもなので、ご指摘などいただければ嬉しいです。


ではどうぞ。

 森を抜けた先は、ただひたすらに広大な平野が広がる世界。

 葦の短い草花が生え、街道の傍には細長い木がいくつか植えられているだけの平原はとても見通しがよく、これから目指そうとしている街が遠目からでも見えていた。

 太陽が高く昇り、さんさんと輝いて辺り一面を眩く照らす。木の葉で遮られ、少しばかり寒いと感じていた森から出たばかりの私たちにとって陽の光は、冷えた身体に温かさを与えてくれる恵みだった。


「うーん……ナギお姉ちゃん、やっぱり遠くない?」


 遠方に見える、城壁を構えた街を眺めてシャオは申し訳なさそうに呟く。

 目測で、およそ一~二里ほどだろうか。先ほどおぶさって街まで連れて行くと言ったものの、ここからその街までの距離は、子供とはいえ人を背負いながら歩くには難しいだろう。

 やむを得ぬ事情があったとはいえ、怪我をして負担をかけているという事実に少なからず負い目を感じているらしい。


「大丈夫だよ。重い荷を持って旅をすることなんてザラだったんだから。シャオはとっても軽いし、これくらい平気。それにもしシャオが歩けたって、こんなところを歩くのはツラいよ?」

「そう言われても、やっぱりこの道を見ると遠慮しちゃうよ……」


 大人にまだまだ甘えたいであろう年頃なのに、随分と他人に配慮するものだと苦笑する。

 自分が子供の頃にいた悪ガキ共と、どうしてこんなにも違うというのか。みんながみんな、彼女のようであったなら自分の苦労はどれだけ減ったことか。

 そんなことを考えながら、シャオの気遣いに感謝しながらも再び歩き出そうとしたその時。

 カッカッカッ……と私たちの後ろから、馬の足音が聞こえてきた。それに混じって、車輪が石畳を踏む音も耳に入ってくる。

 振り向いてみると街道を通って、私たちの方へとやってくる荷馬車が一台。おそらく護衛だろうが、その傍に着いて歩く騎馬が二つ。

目的地は私たちと同じだろう。ちょうどよい時にここを通り抜けてくれたものだと思いながら、私はその荷馬車がこちらへやってくるのを待った。

やがて荷馬車は私とシャオの前まで来ると馬の足を止める。


「すまない。あの街まで行きたいんだが、この娘が足を怪我してしまって往生していたんだ。もしよければ乗せていってはくれないだろうか?」

「おお、そりゃ大変だな。ちょいと積荷や先客もいるんで、狭くて乗り心地はよくねぇかもしれねぇが、それでもいいって言うなら乗りなよ」

「恩に着る」


 頭を下げ感謝の意を告げると、シャオを背負ったまま私は中へと入れさせてもらった。

 後ろの空間を積荷が大きく独占しており、そこに運転手が言っていた先客が二人いた。しかし、大人一人と子供一人が入る分にはまだまだ余裕がある。

 空いているところにシャオと並んで座り込むと、ちょうど馬車は進み始めた。


「悪いな。邪魔をする」

「いいわよ。私だって道中で拾ってもらったんだし、お話相手が欲しかったから」


 ひとまず謝罪を述べる私に対し、乗っていた一人は笑いながらそう答えた。

 返答した先客は、女性。私と同じく黒い髪を腰あたりにまで伸ばし、前髪の耳辺りを可愛らしいシュシュで二つ束ねている。細く柔らかなラインを描く眉の下には深い青色の瞳が輝き、見ていると吸い込まれそうになる錯覚を覚える。着ているドレスは淡い水色に染まり、優しい雰囲気を纏う彼女の清純さをより引き立てたものとなっていた。が、豊満な彼女の胸部はこれでもかというように自己主張しているため、艶めかしさもそこに共存している。

 チラとシャオの方を見てみると、ぼうっとした表情でまじまじと女性の顔を見つめている。それも仕方がないだろう、こうして会話している女性は、異性はもちろん同性すら魅了する可憐さを持っていたのだから。


「あら、どうしたのお嬢ちゃん。あたしに見惚れちゃったりして?」

「あっ! いやその、ええと……」


 唐突に話しかけられたものだから、シャオは困ったように返答に戸惑う。

 赤面し、焦るシャオを見て手を口元にやりクスクスと笑う女性だったが、シャオの足に目をやると途端に笑みを引っ込める。


「……あなた、その足……」

「あ……」


 何度も地面との摩擦ですり切れ、打撲した痕が見えるそれは、応急手当こそしたものの見ていてやはり痛々しい。


「手持ちの薬がそれほどなくてな。こんな簡単な処置しかできなかったんだ……」

「そう……ちょっと見せて」


 そう言うと、女性はシャオの傍まで近寄って傷だらけの足に右手をかざす。

 いったい何をする気だろうか。そう思っていると、突然女性の身体が淡い水色に輝きだした。

 それと同じくして、シャオの足の傷も女性の発する水色の光を放つ。何事かと目を見開く私とシャオだったが、直後に次の変化が現れた。

 ゆっくり、ゆっくりと。穏やかな早さで、円が小さくなっていくように足の傷が徐々に塞がっていく。裂傷と流れた血で染まっていた細い子供の足は、数秒後にはまるで傷痕も見えない健康なものへと変わっていた。


「はい、これで良くなったよ」


 ニッコリと微笑んで語り掛けてくる女性。一方で私とシャオは目の前で起こった現象に開いた口が塞がらなかった。

 今の現象。普通ならば自然に発生することなどまずないであろうそれは、どう見ても――


「お、お姉ちゃん魔法が使えるの!?」


 ――シャオの言う通り、魔法以外の何物でもなかった。

 彼女の全身を改めて一瞥するが、魔導を補助する道具らしきものは一切見当たらない。

 純粋に体内の魔力(マナ)を使って起こした、精霊の奇跡を模した現象に違いなかった。


「ちょっと齧ってる程度だけどね。具合はどう?」


 気恥ずかしそうに苦笑し、違和感がないか問う女性。

 シャオは訊ねかけられてハッとし、試しに自分の足を動かしてみる。先ほどまで痛がっていたのが嘘のように小さな女の子の両足は動き回り、それを確認すると嬉しそうにシャオは満面の笑みを浮かべる。


「全然痛くない! すごいお姉ちゃん、ありがとう!」

「どういたしまして」

「シャオ、気持ちはわかるけどあまり走り回るなよ」


 全快したことではしゃぎ回るシャオだったが、ここが馬車の中であることや、治癒したばかりであることもあって制止させる。

 とはいえ、女性の魔法に驚きこそしたものの正直ホッとした。騎士としていくつか魔法を習得こそしているものの、治療方面での私の才能は皆無に近かったのだ。

 傷こそ時間を置けば治るのかもしれないが、それでも化膿したり感染症にかかる可能性もあったから不安だった。街に着くまではとりあえず応急処置で済ますしかないと思っていたのだが……それよりもずっと早く傷を治せてよかった。


「私からも感謝する、ありがとう」

「いいのよ、見たところ可愛くて将来が楽しみな娘なのに、傷がついてちゃ勿体ないわ。あたしはティア、あなた達は?」

「私はナギ。この娘はシャオ」

「ティアお姉ちゃん! ティアお姉ちゃんは、魔法使いなの!? 旅人!? どこの国から来たの!?」


 自己紹介を互いに済ませると、シャオはティアに飛びかかるような勢いで迫り、口早に質問を何個も投げかけた。

 目をキラキラと輝かせて回答をせがむ女の子に若干気圧されながらも、ティアはそんなシャオを見て可笑しげに微笑んで口を開く。


「伊の国から、ちょっとね。こうしていろんなところを観光とかしながら回ってるところよ。シャオは?」

「この国だよ、独の国! ちょっとここから離れたところから、一人でここまで旅してきたところで、森の中でナギお姉ちゃんに出会ったの!」


 シャオの回答にティアは面喰うこととなった。

 それもそうだ。ちょっと離れたところからとはいえ、こんなにも幼い子供がたった一人で旅をしているなどというのは、とても正気の沙汰とは思えない。森の中で最初に私が聞いたときも、思わず足を止めてしまったくらいだ。

 ましてや、森の中へと自ら入っていったというのもおかしなものだ。中には彼女を襲ったエールケニッヒの他にも、狼などの肉食動物、ひょっとすると凶悪な魔物なんかもいる可能性だってあった。

 そういう意味では、エールケニッヒに目をつけられていたのはある種幸運だったのかもしれない。他の魔物などであったなら、出会い頭に喰われてしまったっておかしくない。その点、旅人にとって遭遇するのはかなり最悪なものに分類されるあの精霊も、魔物と違って出会ってすぐさま殺すというわけではなかったのだから。

 そんなことを考えていると、未だシャオの言葉を飲み込めないでいるティアは慌てた様子で少女に問いかける。


「ご、ご両親が一緒とかじゃないの? そんなまだ小さいのに一人で旅なんて……もしかして、家出……」

「……家族はいないよ。おばあちゃんがいたけど血は繋がってないし、おばあちゃんも死んじゃったから」


 少し逡巡する様子を見せながらも告げた少女の言葉に、ティアは思わず息を呑んだ。

 ――それが普通の反応だろうな。こんなことを急に話されれば。


「……ごめんなさい」

「ううん、いいの。それで私、村を飛び出したんだ。あっちも厄介払いになっていいんじゃないかな。私だって、あんなところで一生を終えたくなんてなかったし! 世界中旅して、お父さんとお母さんを見つけるんだ!」

「……そう。見つかるといいね、お父さんとお母さん」

「うん!」


 えへへっ、と悪戯っ子のように笑うシャオ。

 その笑みは偽りではないのかもしれないが……たった一人の家族とも言える人を亡くして、孤独になって、いったいどれほどの覚悟をしてこの娘は故郷を飛び出したのだろうか。

 きっと私と同じようなことを考えたのか、その表情を見てティアは困ったように苦笑した。


「ねえナギお姉ちゃん! ナギお姉ちゃんは、どこの国から来たの?」

「出身は違うけど、仏の国から」

「あれ? 出身は違うの?」

「まぁ、肌の色とか瞳の色で欧の州とは違うとは思ってたけど……どこ? 亜の州とか?」


 欧の州。亜の州。

 これらはこの世界に存在する州の名前だ。

 魔導に関する学問に特化した州、欧。

 武術に秀でた技術を持つ州、亜。

 神殿や遺跡などが多く発見される神秘に満ちた州、加。

 大洋の向こう側で新しく発見された未知の州、米。

 これらをまとめて、四大州と呼ぶ。

 また、噂ではこの世界のどこかにあると言われる精霊の楽園、〝豪の州〟なんてものを含めて五大州と呼ぶ者もいる。が、まず豪の州自体は存在そのものがあやふやで、信じていない者もいるから基本は四大州だ。

 ちなみに私たちがいるこの場所は欧の州、独の国だ。


「当たり。倭の国が故郷だよ」

「「倭の国!?」」


 ガタッ!! と大きな音がして車体が揺れるほど勢いよく、シャオとティアは私に迫る。それこそ頭突きでも喰らわせようというばかりに。

 目を煌めかせた子供と大人の顔が急接近して、思わず私はたじろいだ。


「それって、サムライの国で有名なところよね!?」

「ブシドーだよね!? 世界で最も至高と称される、騎士たちのことだよね!?」

 

 サムライ。私が生まれた倭の国の……ここでいう騎士たちのことを、そう呼ぶ。

 彼らは武士道という自分たちの掟を遵守し、自らが仕える主のためならば己の命を賭して戦い、誇りのために命を擲つ。

 たとえそのために人よりも短い生涯を送ることになるとしても、それこそが自分たちの目指す生き方であるとする従者。

 〝武士道とは死ぬことと見つけたり〟……どこの誰が言ったかはわからないが、そんな格言すらサムライの中ではあるほどだ。

 風前の灯のように儚く、しかし桜のように艶やかな華を短い生涯に咲かせて散る武者……主のために全てを捧げるという点でも評価され、各国では絶大な人気を誇る者達なのだとか。


「あ、いや、うん、まぁ、その……多分、そう、だけど……でもその、」

「やっぱり!! あなたジャパニーズサムライだったのね!! 末裔なのね!?」

「サムライだー! ナギお姉ちゃんはサムライなんだー!」


 こちらが言葉を交える間もない。興奮しきった二人は意味不明なことを叫びながら互いにハイタッチ。倭の国は確かにそういった武人、もとい従者がいることで有名だけれど、別に私がサムライだなんて一言も言ってないのに……まぁ実際、似たようなものかもしれない。騎士ではあるし。

 しかしここまで高揚されると、そういう否定すら……いやもう、こっちの話すら聞いてもらえるか怪しい。こんなにも騒がれると、運転手に迷惑がかかってしまうし。

 どうしたものかと、私は嘆息した。

 すると、


「おい……わりぃが、もう少し静かにしてもらえねぇか」


 今まで沈黙を貫き通していた、もう一人の乗客――声からして、男性だろうか――が口を開いた。

 その一言に、騒ぎ立てていたティアとシャオ、私は視線を移す。

 髪は鮮やかな橙色のショート。瞳は私と同じ黒色で、眉を少し不機嫌気味に寄せている。アクセサリ類は一切付けておらず、黒地のシャツの上に髪と同じ色のジャンパーを羽織っている。ズボンは黒に近い灰色のカーゴパンツを着用し、その腰あたりにはホルスターらしきものが左右に一つずつぶら下げられていた。

 銃士(ガンマン)か……? と疑問が浮かんだところで、ティアは不満げに頬を膨らませる。


「なによー。あたしが何をしゃべりかけても返事もしなかったくせに、こっちが盛り上がったら口出ししてくるってわけ?」

「……やかましいのは好きじゃない」

「やかましいってアンタね~! それに仕方がないじゃない、サムライよサムライ! 倭の口からいらっしゃったのよこの人は!」

「別にンなことそいつは言ってねぇだろうが。勝手にそっちで騒ぎ立てちまったらそいつも困るだろ」

「もうっ、何よ! ロマンも何も理解しないわねアンタ!」

「落ち着いて、ティア……すまなかったな、ええと……」

「…………名前を教えたところですぐ別れるんだ。別にいいだろ、教えなくて」


 謝罪を口にして名を訊ねたものの、突っ返すように拒否して彼は再び沈黙する。

 それをまた腹立たしく思ったのか、「ぐぬぬ……っ!」と歯噛みしてティアは男を睨みつける。そこで何も発言しないのは、口にしたところでまた煩いと一蹴されるとわかっているからだろう。

 

 結局男の一言でティアとシャオの高揚は収まり、馬車の中は静まることとなった。

 それからそこそこの会話こそあったものの、男から再び苦情を口にされるのが嫌だったのか、目的の街に着くまで声量は小さな細細としたものであった。


11/10加筆修正いたしました。

11/14加筆修正いたしました。6~7里ってなんだよ、約24~28キロってなんだよ……

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