更けた夜に扉がしょっぱい音を立てる。
扉を叩く音がした。
「飲もうぜ」
高校時代からの友人が既にやや出来上がってタッパーやビール缶を抱えていた。
「お前ん家近いけど」携帯を見ればもう日付が変わろうという頃だ。「どうしたんだ、こんな時間に」
終電はない。ドアを開け放して部屋を温くするのもバカらしく、一歩下がって中に促せば、1LDKなので、ふらふらと上がって直ぐにどかりと座り込む。
「隣の美人なお姉さんがさ、こないだ余ったからっておかず分けてくれたんだ」
「なにそれうらやま!」
「だからお返しと思って」
取り皿と箸を棚から出しつつ思わず振り返れば、嬉しそうにしながら、どこか遠い目をしている。
落ちた肩が成否を物語っている。タッパーに視線を落とせば、シシトウ味噌にシシトウの煮浸し、シシトウ梅おかかにシシトウのベーコン巻き、シシトウの肉詰め……。
「お前シシトウ好き過ぎるだろ。幾ら何でもシシトウと肉に偏り過ぎてる!」
「実家からシシトウが段ボール一個送られて来た」
「シシトウだけ?」
「シシトウだけ」
「何そのテロこっわ!」
ゾッとした。鳥肌の立つ腕をさすってしまう。段ボール一個分のシシトウと戦え? 無理だ。
「後は期限間近の挽き肉があったから」
成る程。
シシトウ味噌はご飯のおともになり、パスタに掛けるもよし、パンに付けてもよしと万能だが、それだけでは戦えまい。味を変え品数を増やすのは良い。飽きたらそれまでだからな。というか、よくこれだけ作れたなと思う。
取り皿に取り分ければ、ビール缶を差し出される。
「サンキュ。……それにしてももうちょっとやりようってもんがあるだろ……これじゃ断られても当然だろーよ」
「断られてない!」
「だってソレ」
「コレは自分用」
「うん? じゃあ何で落ち込んでんだよ」「彼女、彼氏と腕組んで帰って来たんだ……」
遠い目でそう答えが返り、沈黙が落ちた。
ビール缶を開け、よし、飲もう、と言えば、潤んだ目が頷いた。
「泣くなよ、世界の半分は女だ」
「だけど、男が選り好みするように、女だって選り好みするんだぜ」
虚ろに笑うな、ちょっとこわいから。
「大丈夫だって。料理が出来る男はモテる!」
レパートリーは豊富だし美味いけど、もうちょっと栄養偏らない様に気を付けろよ。
ツマミをパクつきながら言えば、お前遠慮しろよと言いながら、ようやくあいつは笑顔になる。
「だな」
「おう。大丈夫だ」