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桜咲く季節

作者: 結夏

 今日は学園の卒業式。

私は、大親友の美音と一緒に演劇部の部室に来ていた。美音が『卒業式が、始まるまでの空き時間を利用して、思い出巡りをしよう』と言ってきたから。

「「先輩方、ご卒業おめでとうございます」」

「「ありがとう」」

「あれ? 葉月ちゃんは?」

「庭園の桜の下に居ると思いますよ、あかねさん」

「ありがとうね」

「あかね、葉月ちゃんの所に行くの?」

「うん。先に行っていて」

「遅れないでよー!」

「うん、わかったよ」

 私は、部室の出入り口に向かいながら美音に声をかけた。

 卒業式が始まるまで一時間を切っていた。

 庭園は、校舎の反対側の位置にあるから私は急ぐことにした。


 私が庭園に着いたら案の定、葉月は桜の木の下で泣いていた。

「葉月」

「あかね……先輩……?」

「うん。どうしたの?」

「来ないでください……」

「葉月、どうして?」

「あかね先輩みたいに……できないからです……」

「葉月……どうして……?」

 葉月のもとに行こうとしたら、葉月が私を拒絶してきたから私は驚いた。

 葉月が、私を拒絶する理由がわからないから困ってしまった。

「どうしてなの?」

「あかね先輩には、わからないですよ!」

「葉月、落ち着いてよ」

「あかね先輩……ごめんなさい……」

「葉月! 待ってよ!」

 私が葉月に理由を聞こうとしたら、庭園を飛び出して行ってしまった。私は、葉月を追いかけようとして手元の懐中時計を見たら、卒業式が始まるまで三十分を切っていた。だから、私は追いかけるのをやめて講堂に向かうために庭園を後にした。


 それから、私が講堂に着いたのは卒業式が始まるほんの十数分前だった。

 少し遅れかけただけなのに、美音が怒っていたので謝っていると卒業式の始まりを告げる鐘が講堂に鳴り響いた。

(葉月、どうしてなの? 私にはわからないってどういうことなの?)

「あかね、呼ばれているよ」

「……ありがとう」

私は、卒業式の間ずっと葉月のことを考えていたので、理事長の言葉や送辞、答辞の一切が頭の中に入ってこなかった。さらには、先生に呼ばれていることにも気づかない状態だった。

 そのせいで、みんなから何があったのと心配してくれていたけど私は、大丈夫って答えていたからみんなはそれ以上聞いてこなかった。ただ一人を除いては。


 今は、卒業式が終わって教室に戻ったばかり。

「あかね……!」

「美音? どうしたの……?」

「何があったの?」

「何もないよ。大丈夫だから」

「あかねが、大丈夫って言う時程、大丈夫じゃないってわたしは、知っているんだからね」

「美音……」

「私達、幼馴染みでしょ?」

「美音、ごめん。ありがとう」

「お礼を言われるほどじゃないよ」

 美音とは、昔からの付き合いなので隠し事が出来ない。美音は、私のことを私以上に知っているから。だから、私は素直になるしかない。

「えっと……葉月に拒絶されちゃった……」

「葉月ちゃんに……どうして?」

 卒業式前に葉月と話した内容を教えたら、美音はなぜか納得した表情でうなずいていたから、私は首を傾げた。

「そう言うことだったの。葉月ちゃんが悪いわけじゃないし、ましてやあかねが悪いわけじゃないんだよな……」

「どうしたの、美音?」

「あかね、伝えたいこと全部伝えた?」

「えっ、まだ伝えてないかな……。今日、伝えようと思っていたから」

「そんなことだと思ったよ……はぁ……」

 「あかね、行っておいでよ」

「えっ? いいの?」

「うん。葉月ちゃんに伝えたいこと全部伝えてきなさいよね!」

「うん。最後まで迷惑かけて、ごめんね」

「良いよ。駅前の喫茶店のパフェを奢ってくれるならねっ」

「……うん、わかったよ。美音、行ってきます」

 なぜか、美音は溜息を吐きながら首を傾げて考えていた。そして、思いついたように美音は、私に葉月の所に行くように勧めてくれた。だけど、美音が私にパフェを奢るように言ってきたのは、予想外だった。

それから私は、葉月の所に行くために鞄を持って教室を飛び出した。周りに気を配る余裕さえ無い状態で、私は葉月のもとへと無我夢中で急いでいた。


 葉月は、卒業式が始まる前と同じ場所に座っていた。

「はぁ……はぁ……葉月……」

「えっ……あかね先輩?」

「うん……そうだよ……」

「何で来たのですか?」

「葉月に伝えたいことがあるからだよ」

「まだ、言い足りないのですか?」

「違うよ。それから、近くに行ったらダメかな?」

「好きにしてください……」

「じゃあ、好きにさせてもらおうかな」

 私は、鞄を置いてから葉月とは背中合わせになる位置に座り込んだ。

 背中を触れ合わせたら葉月から動揺しているのが背中越しに伝わってきた。

「あかね先輩、伝えたいことってなんですか?」

「葉月、勝手に部長にしてごめんね。怒っているよね?」

「はい……」

「私みたいに出来ないから悩んでいたのでしょ? 違う?」

「はい……。私があかね先輩みたいに出来るわけ、ないですよ……」

「悩む必要なんて無いのに」

「えっ?」

 私は、伝えたいことがまったく伝わってなかったので軽くショックを受けていた。それもそのはずだ、私が葉月に全部を話したわけじゃないのだから。

「どういうことですか?」

「葉月は葉月、私は私」

「他人には、なれないって意味ですか?」

「そうだよ。だから、葉月がやりたいようにやればいいんだよ」

「それでも上手くできない時はどうしたらいいんですか?」

「部のみんなを頼ったらいいのよ」

 伝えたいことがわからないという気持ちが、背中越しに伝わってきた。私はそれが可笑しくて、ついつい笑ってしまった。

「あかね先輩もそうなのですか?」

「そうだよ。私なんか、いつもみんなに助けてもらっていたから」

「なんか……意外です……」

「そうかな? 私には、何も取り柄がないから」

「そんなことは無いです……」

 いつの間にか葉月は、私の左隣に来ていて真剣な表情で私のことを肯定してくれていた。そんな葉月を見て、私は一安心した。

「だからね、葉月は葉月のままで居てねっ?」

「あかね先輩……頑張ってみます……」

「頑張らなくてもいいの……」

「……どうしてですか?」

「優しい葉月のままで居てくれれば良いのよ。それが、私からの最後のお願いだから」

「あかね先輩、ごめんなさい」

「謝らないでよ、葉月」

私は、葉月の肩を抱いて落ち着かせていた。葉月が緊張したりするときはいつも近くに居て、そうしてきていたから私にとっての習慣にもなっていた。これからは、できないと思うとなんだか寂しく思えてきた。

「そろそろ行かなきゃ」

「もう、そんな時間なんですか?」

「うん。部活のことは頼んだよ、新部長」

「はい……! 先輩達に誇れるような部活にしてみせます!」

 私は、美音との約束の時間が迫っているのを思い出したから、伝えたいことは伝えたので切り上げることにした。

 私が話し終えたら、葉月は泣きながらも嬉しそうに微笑んでいた。そして、そのまま私を見送ってくれた。

私は、鞄を持って校門に待たせている美音のもとに急ぐことにした。


私が校門に着いたら美音は不貞腐れていて少しだけ可愛いと思ってしまった。

校門を出て振り返ると、庭園から去っていく葉月の姿が見えた気がして一瞬立ち尽くしてしまった。

「あかね……どうしたの? 早く行くよ」

「ごめん! 今、行くよ」

「早くしてよね」

「うん。頑張れ……私の大切な後輩……」

 美音をまた心配させそうになったから私は鞄を持ち直しながら慌てて前を向いた。

 美音に追いつく途中で私は小声で葉月にエールを送った。そしたら、葉月が返事をした気がして振り返りそうになった。だが、堪えることにした。何故なら、未練がましいと思ったから。

その代わりに、青空を見上げることにした。そこには、明るい青空が広がっていた。葉月の笑顔と同じぐらい明るく綺麗な青空が広がっていた。


桜咲く季節。それは、別れと出逢いの季節。そして、始まりの物語と終わりの物語の交差点。


「さぁ、あなたも新しい世界に飛び立とう。きっと、新しい自分にそして新しい毎日に出逢えるから、ねっ!」


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