話の五 憑依 (後編)
「この子はノインちゃん。生後半年くらいの女の子。人間に当てはめると、ちょうど瑞奈ちゃんと同じくらいの年頃だそうよ」
一通り騒ぎが治まり、健吾が震える手で瑞奈を元に戻してやってから、改めて珠希は両腕に抱えている白い子猫を紹介した。
「ね……ねこねこ。私もノインちゃん触りたい触りたい――」
「いいわよー。でもその前に、『合体』の話を私にも聞かせてくれない?」
珠希は、鼻息を荒くしている瑞奈の手がぎりぎり届かない距離にわざとらしく座り、見せつけるようにゆっくりとノインの頭を撫でた。
「ううぅ。珠希さん、いじわるですねっ」
唇を思い切りへの字に曲げながらも、瑞奈は猫のエピソードを語った。先ほど健吾が聞いた話をもう一度繰り返したようなものなので、とりたてて新しい情報はなかった。
――それにしても、このノインという子猫。
「その猫、珠希ちゃんが飼ってるの?」
さっきから珠希に抱えられっぱなし、撫でられっぱなしで、微動だにしない。寝ているのか起きているのか、その常に瞼半開きのぶすっとした不機嫌そうな顔つきは、子猫らしからぬふてぶてしさだ。珠希が飼っているとすれば、これほどぴったりの相棒は他にいないだろう。
きっと飼い主に似てるんだな――そんな考えが浮かんだ自分に満悦しながらも、うっかり本音が出ないように気をつけながら健吾は尋ねた。
「飼ってないわよ。私だってペット禁止の集合住宅住まいだから」
「ありゃ、違うの?」
「なんで?」
自信たっぷりの推理だったのに、あっさりと外れてしまった。いささか拍子抜けしてしまい、
「いや、ペットは飼い主に似るっていうし――はっ!」
つい本音が、出てしまった。
「あらあらー、それはどういう意味かしら?」
鋭利な眼光とともに、珠希の背後からゴゴゴ、と不気味なオーラが迫り上ってくる様を、健吾は確かに見た気がした。
「い、いや、それはその……」
それが墓穴と分かっていても、つい言い淀んでしまう。
そんな健吾の苦悩など我関せずとばかりに、ノインが行動を起こした。
珠希に抱えられているのに飽きたのか、ぐあっと大きな欠伸をして――このとき健吾はノインが動くのを始めて見た――太い胴体に申し訳程度にくっついている手足をぶんぶんふり回し、その勢いで床に転がり落ちてから、のっそりと立ち上がった。
そこでまたもう一度大きく欠伸をして、口の中が不快なのか、しばらくクチャクチャ音をたて、最後に「げふっ」とげっぷをひとつ。
――健吾を更なる窮地へと追い込むのには、充分だった。
「ほう――」
穏やかさを装った珠希の声。
「つまり、ノインが私に似ていると言いたいわけね。で、どの辺りが?」
「あー、うー」
言葉に詰まれば詰まるほど、珠希の威圧感が増し、追い詰められていく。健吾はこのとき、蛇に睨まれたカエルの気持ちを悟った――ような気がした。
「怒らないから正直に言いってみなさいよ!」
「ひえぇぇっ」
もう怒ってるじゃないか!
*
ふてぶてしい子猫、ノインの正体は、珠希の父親である康則叔父の奥さん――つまり健吾にとっては叔母――が飼っている猫だそうだ。元々それほど懇意ではないため健吾は知らなかったが、叔母は大層な猫好きで、家には猫がたくさんいるらしい。
「確か、今現在十二匹くらい飼っているらしいわ。ノインは九番目。とにかく落ち着いていて、動きものろくて、何をされても動じないような、鈍そうな子を選んできたの」
「九番目だからノイン、か。結構安直だな」
「ちなみに、九番目がオスだったら、『九助』と名付ける予定だったそうよ」
「ははは、それはそれは――猫の名前にはみんな数字が絡んでるのかな」
「みたいね。何せ、一匹目はメスで名前が『一姫』、二匹目はオスで『二太郎』だそうだから」
「へえー……え?」
相槌を打ちながらも、今のマメ知識の披露に、健吾は微かな違和感を覚えた。
たぶん顔に出てしまったのだろう。珠希はなんとなくばつが悪そうに、視線を逸らした。
「……なによ。言いたいことがあったら、言えば?」
「いや――」
佐藤家は嫌いだ、と言い放った珠希が佐藤家の、しかも実の父親の奥さんにまつわるエピソードを面白そうに話すのは確かに意外だった。だが、そんなことを告げても、珠希の機嫌を損ねるだけだと分かっている。
「パパがね、訊きもしないのに、勝手に愚痴るのよ」
健吾が何も言わないのにしびれを切らしたのか、珠希は勝手に話し始めた。
「最初の二~三匹くらいまでは、パパも一緒にかわいがっていたみたいだけどね。今は多すぎて辟易しているみたい」
「そうなのか……それにしても、十二匹っていうのは凄いな。叔母さんは本当に猫好きなんだなあ」
「今や家では何でも猫が最優先、次に息子が大事で、パパはついで、あるいはおまけ。居場所がなくなりつつあるみたいね」
珠希は笑みをこぼした。和やかさとは程遠い、「ざまーみろ」という感情が浮き出ている。
健吾は苦笑するしかない。
「へえー……え?」
ここでも再び違和感。
「なによ、まだなにかあるの?」
また顔に出たのだろう。今度は真っ直ぐ睨むような視線を珠希は向けてきた。
「あのお、どうやって、と言うか、何て言ってノインを借りたの?」
ちょっとだけ妙だと思った。珠希は「借りてきた」ってサラッと言ったが、それほどに溺愛している飼い猫を、しかも生後半年の子猫を、叔母はそう簡単に貸してくれるのだろうか?
「細かいことを気にするわね。いいでしょ別に――その、ちょっと借りてきただけなんだから」
今の台詞で、だいたいの察しはついてしまった。要するに、珠希は勝手に侵入し、無断でノインを連れてきたということだ。
――でもそれって窃盗、あるいは誘拐になるのでは?
「あのお、せめてひと言、断りを入れておいた方が――」
健吾の台詞は途中で遮断された。
「仕方ないでしょ、猫が必要だったんだから。わざわざお願いして断られたらどうするのよ? それに、なんで私があの人に頭を下げなきゃいけないの。夕方には返すし、それまで一匹くらいいなくても、気づかれないわよ」
これは、相当に叔母の事を嫌っているんだな――その気持ちを察することはできる。しかし、だからこそ、事態を下手に悪化させないためにも、極力トラブルの種は摘んでおくべきだろう。
自身が珠希から嫌われる側の集団に属していることに、少なからず胸の痛みを感じながらも、健吾は言うべきと思ったことを言った。
「気づかれないということはないと思うな……後々厄介なことになったら、もっと嫌な思いをすることになるよ」
珠希のほっぺが朱に染まり、ぷーっと膨らんだ。しかしながら健吾に反発の意を示すその態度には、先ほどまでの威圧感も迫力も皆無だった。
「じゃあ、せめて叔父さんには知らせておいてくれないかな。それも嫌なら、僕から事情を説明するよ」
「……わかったわよ」
珠希は渋々承知し、ノインが逃げないように注意を促しながら、瑞奈に渡した。
「きゃ――――! ノインちゃ――ん」
喜色に満ちた瑞奈が、悲鳴を上げながら触りまくる。ノインはされるがままで、相変わらず半分寝たような顔でじっとしている。
――ノインには、幽霊である瑞奈の事が見えているのだろうか?
ふとそんな疑問が浮かんだ。
ちょっと訊いてみようかと珠希を見みたら、猛烈に不機嫌そうな顔をしながら携帯でメールを打っているので、やめておいた。
*
「ほら、これでいいでしょ?」
数分後、ぶっきらぼうな態度で珠希は、送信済みのメールを表示させた携帯を健吾に見せた。内容は、ノインを半日ほど借りる、ちゃんと無事に帰すから心配しないように。
あっさりし過ぎな気もしたが、そこは父と娘だし、敢えて口を挟むことでもないだろう。
健吾は黙って頷いた。
ちなみに、康則叔父は夏季休暇による海外旅行も終わり、三日ほど前から通常勤務に戻っているとのことだった。
文句の一つも言ってやりたかったが、
「今は我慢して。あなたにはこの部屋にいてほしいの」
なんて珠希に言われてしまい、不覚にも鼓動が波打ってしまった。
それに叔父に文句を言う前にやるべきことがあることも、また確かだ。
「では、ここから本題ね。あまり時間がないわ」
珠希は瑞奈の正面に座り、二人の間に子猫のノインを座らせた。ほとんど動かず、まるでぬいぐるみのようにも見えるノインには「置く」と表現した方がしっくりくる。
「さあ瑞奈ちゃん、やってみせて」
「ふぇ? 何を、ですか?」
瑞奈はわけがわからず、首を傾けた。
「何をって――わかるでしょ? 別にあなたの遊び相手としてノインを連れてきたんじゃないわよ」
「え、ちがうんですか? うう、なんかちょっと残念ですぅ」
瑞奈は本気でしょんぼりしていた。その証拠に、部屋が少し涼しくなった。
肩と首をがっくりと落とす珠希。
「……瑞奈ちゃん、今までの話聞いてたでしょ?」
「はいっ。えっと――珠希さんがノインちゃんを盗んできたのを、健吾さんに叱られてました」
「はう!」珠希は床につっぷした。
思わず健吾も噴き出しそうになると、わざとらしくも強烈な咳払いで睨まれてしまった。
「相変わらずね、瑞奈ちゃん。さすがだわ」
珠希は不敵な笑みを浮かべながら起き上がった。
「でもこんなことでは怯まないわ! 話を続けるわね。ていうか、要するに合体よ合体! 昔やったように、このノインと合体してみせて」
「えええっ」
「そんなに驚くことはないでしょう。私が猫を持ってきたのは、つまりはそういうことだって、分かるでしょ」
「それは――でも急にやれって言われても、どうしたらいいのか」
「もしかして、その時のことをあまり覚えてない?」
「はい……すみません。一度きりでしたし、偶然だったし……」
「ふーむ。そりゃそうよね。やっぱり簡単にはいかないか――ま、とりあえずやってみましょう。当時の状況を再現しながら、ね」
珠希は立ちあがり、瑞奈の腕の長さや座高を丁寧に測り始めた。困惑し、グズグズしている瑞奈とは対照的に、体のあちこちを触る珠希はいかにも楽しそうだ。
「やっぱり瑞奈ちゃん、すごいわ。この感触、たまらないわあ」
「あ、あのー。たまきしゃん、ちょっとこわいです」
「我慢しなさい、これも合体のため、あなたーのためなのよー」
目をギラギラさせて、鼻歌交じりにそんなことを言っても、微塵ほどの説得力もない。
「はにう、そこは、くすぐったいでしゅ」
「ふははは、そうかそうか、ここがくすぐったいのか、ほれほれ!」
「ら、てゃまぎしゃん、やめれぇ――」
間違いなく本来の目的から大きく逸脱していると確信した健吾は、先ほどの珠希を真似るように、わざとらしくも強烈な咳払いを数回繰り返した。
「はっ」と我に返り、頬を赤らめた珠希は、少しだけ面白かった。
「よし。これでよしっ」
何ごともなかったように平静を装いながら、珠希はノインを抱え、瑞奈から少し距離を置いて座った。
「今ノインは瑞奈ちゃん、あなたが両腕を思いっきり伸ばして跳びついても、ギリギリ届かない位置にいるわ――」
珠希は右手の人差指を瑞奈に向け、くいくいっと二回ほど折り曲げた。
「――さあ、跳び込んでいらっしゃい。あの時みたいに!」
ものすごく安直に見えるが、これが当時の再現ということらしい。
だが、瑞奈は動かなかった。
珠希だけが空回りしているような、微妙な空気感が部屋の中に充満していく。
「ど、どうしたの? 早く!」
「無理です」数秒の沈黙の後、瑞奈は頭を掻きながら口を開いた。
「あの時は咄嗟のことだったからやっちゃいましたけど、こうして改めてやれって言われても……。それに、ギリギリ届かないって聞いちゃったし、さすがにこれでは……」
健吾は笑いを堪えるのに必死になっていた。確かに予め「届かない」と説明してしまっては元も子もないだろう。
珠希は耳まで真っ赤になった。
「て、手強いわね。でもまだよ、まだ終わらないわ! こうなったら、奥の手を使ってやる。この際仕方ないわ――そこの外野、集中できないから静かに!」
半ば八つ当たりのように健吾を怒鳴り散らしてから、珠希は改めて瑞奈と向き直った。
そして、抱えていたノインを床に降ろし、前足部分を持ち上げた。
ちょうど、後ろ足二本だけで立っているような姿勢にさせられたノイン。その格好は、招き猫を思わせる。
そのまま珠希はノインの前足を、瑞奈に差し伸べるように前後に動かした。
「みずなちゃーん。ノインちゃんですにゃー。いらっしゃーい」
ごぎゅっ、と瑞奈の喉の辺りが大きな音をたてた。
突然、部屋の中が寒くなった。
驚いて一瞬周囲を見回し、再び視線を戻した健吾の前には、絶叫と共にノインに向かってダイブしている瑞奈の姿があった。
珠希の計算通り、伸ばされた瑞奈の両手は僅かにノインに届かない。そのまま勢い余って倒れ込む上半身、そして音もなく首が外れ――。
その後は何がどうなったか、よく分からなかった。瑞奈の首が転がりノインにぶつかりそうになったとき、視界がぐにゃりと歪んだような気がした。
「やったわ、どうやら成功みたいね」
興奮気味な珠希の声。
彼女の目の前にいるノイン。その背中に、ちょこんと瑞奈の首がくっついていた。
丸くて太っているとはいえ、子猫サイズであるノインの背には大きすぎる瑞奈の首、床を引きずる長い髪――そのアンバランスさは、角度によっては首から獣の足が生えているようにも見える。
「こ、こ、これは――」
無意識に出てしまった声に誘われるように、乱れた髪の隙間から覗く瑞奈と、その下のノイン、四つの瞳が健吾に向けられた。
「ぬぅぎゃああああ――――――――!」
――やばい、やばすぎる。首がもげるのには多少は慣れてきたという思いもあったが、これは次元が違う!
「く、くっくっ、くびがくびが、ねこ、ねねねこのくびのあしぃぃぃ――――がふぉっ!」
「落ち着け、バカ! 瑞奈ちゃん傷ついちゃうでしょ!」
珠希に思い切り背中を叩かれて、強制的に黙らされた。
――以前にもこんなことがあったなあ。なんか懐かしいなあ。
息の詰まる中、健吾の思考は現実逃避気味だった。
*
「合体かあ、なるほどね。確かにこの形はそういう表現が合ってるわね」
珠希が好奇心丸出しで『瑞奈+ノイン』のあちこちを触っている。
瑞奈は少し居心地が悪いのか恥ずかしいのか、困ったような顔をしているが、ノインは相変わらずじっとしたまま動かない。どうやら合体したからといって、ノインを操ったりはできないらしい。
健吾の呼吸が整い、なんとか思考が冷静に戻るまでの間に、珠希によって瑞奈の髪はきれいに直された。それによって多少は不気味さが後退してくれたことは何よりもありがたかった。
「合体っていうのは、その、よくあることなの?」
とにかくこの状況に早く馴染むためには、何でもいいから説明が必要だと思った。珠希もその辺りは承知しているようで、健吾の質問を面倒くさがるそぶりは見せない。
「『合体』という表現は瑞奈ちゃんのオリジナルね。一般的には――と言っていいのかわからないけど――これは『憑依』だと思うわ」
「憑依って、いわゆる『取り憑く』ってこと?」
「そうそう」
自分から説明を求めておきながら、健吾は半分後悔し始めた。猫に幽霊、とくれば「化け猫」という言葉がどうしても浮かんできてしまう。
「そんなに青ざめなくてもいいわよ。ほら、見た目はともかく、ノインの様子におかしなところはないでしょ」
ちらっと確認してみると、ノインはちょうどのんびりと欠伸をしているところだった。
「うん、確かに普通だ――憑依ってもっと、何て言うか、憑いた相手に良くない影響を及ぼすイメージだったから」
「そういうことも珍しくないわよ」
「う、やっぱりそうなの?」
「憑依は、取り憑く相手に対して何らかの強い思いを抱いていないと難しいらしいのよ。それが恨みや妬みといった類のものであれば、相手に悪い影響が出るわね。そしてそういう強い思い――つまり執着――は、得てして負の感情からの方が生まれやすいってことね。だから憑依は生前に縁のあった人や動物、物に起きやすいの」
「ああ、それはなんとなく理解できそうな気がする」
「まあ、憑かれる側の素質とか、憑く側の力といった要素もあって、一概には言えないのだけれど、瑞奈ちゃんの場合は恨みとかは無関係な『猫大好き』感情だし、ノインとは初対面だし、まず問題はないはずよ。安心した?」
「とりあえずは。でも、単に猫が好きだからって、こうもあっけなく『合体』できちゃうとは――」
憑依って、実は簡単なんだね――そう健吾は続けようとした。
ところが、珠希は意外な言葉を被せてきた。
「瑞奈ちゃんの力は凄いわねえ」
「は? それってどういう?」
「こんなに強力なのは初めてよ。ほんと、やばい霊じゃなくてほっとした」
背筋に冷たいものが走った。
「そんなに強い……の?」
「もちろん! 四六時中姿を現すし、しかも触れるなんて凄すぎるわ。憑依なんてきっと朝飯前ね」
冷たいものが、背筋からはみ出して全身に広がっていった。
「あのー、そのう」
驚きのあまりうまく声がでない。池の鯉のように口をぱくぱくさせているうちに、
「ただね……」
と、急に伏し目がちになり、シビアなトーンで続きを話し始める珠希。
声にならない叫びで健吾は訴えた。
――そういう変化は暗い予感ばかり掻きたてるので心臓に悪すぎます。
「力が強いということは、それに見合うだけの強い『思い』を残しているということね。その肝心なところを忘れちゃっているわけだけど、思い出したとき瑞奈ちゃんがどうなるか……辛い記憶でなければいいのだけど、楽しい記憶だけでここまでの力は――」
珠希は急に口を噤んだ。
「……ノイン?」
その声につられ、健吾はゆっくりと視線を移した。
ノインが不可解な動きをしている。
険しい顔つきで、仰向けになって全身をよじりくねらせ、背中を床に擦りつけている。
これまでほとんど動かなかった分、それは大暴れと言ってもいいくらいのギャップを感じた。
「ううあう、ぐう」
瑞奈の唸り声が聞こえる。
「た、たま……き、しゃん……」
慌てて珠希がノインを持ち上げた。
背中にくっついていた瑞奈の顔は擦り傷だらけになっていた。
「瑞奈ちゃん、大丈夫?」
「め、目が回りますぅ。顔もヒリヒリしますぅ。」
「ごめんなさい。何も起きないと思っていたのは間違いだったようね」
珠希は爪を立てるようにして、ノインの背中、瑞奈の首回りの辺りを強く掻き始めた。
途端に、ノインはいつもの無表情に戻った。目を細め、喉を鳴らしている。
「瑞奈ちゃんとくっついたところが、かゆいみたい。あははっ」
若干複雑な成分が混じりながらも、珠希はにこっと微笑んだ。
これほどリアクションに困る場面を知らず、健吾は絶句したまま固まっていた。
「さて、時間を取り過ぎたわね。もうあまり余裕がないわ。急ぎましょう」
珠希は時計を確認すると、途端に急かすような口調になった。
「で、これからどうするの?」
立ちあがりながら、健吾が尋ねる。
今度こそ満面の笑みで、珠希は答えた。
「合体に成功したんだから、外に出なくちゃ」
「行き先は?」
「瑞奈ちゃんの手掛かりがありそうな場所を見つけたのよ。さあ、出発しましょう」
一ヶ月半ぶりの更新です><
その分長くなりました。少々詰め込み気味です。後で改稿するかもしれません。
次話のタイトルは、まだ未定です。
次の更新がいつかも未定ですが、はやめにやりたいと思っています。
どうかよろしくお願いいたします。
(追記)
タイトルはまだ仮ですが、現時点では「刻まれた証」の予定です^^