表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

一人の少年が足早にチームミーティングのため、教室に急いでいた。

今日は大事な卒業検定のミーティングの日。

卒業検定とは、ひとつの事件を担当し、解決に至るまでどういった対処を取ったかというものだ。

対処によっては判定が左右され、卒業にも関わってくる。

彼は、なるべく楽な事件であれば早期解決し、残った時間を寮の自室でのんびりとしていようという算段をつけているのだ。

 

しかし、街では首を切断された状態で遺体が発見されるという事案が今月までで五件も上がっている。

警察は関係があると見て調べているが、首を切断する際に使ったとされる凶器は見つかっていないし、さらに信じられないことに遺体には血液が一滴も残されていないのだ。

これは明らか、この学院の生徒に回ってきそうな案件だと少年は思っていた。

 

何故なら、警察は秘術による捜査を軍から認められていないのである。

この国の法律にも警察が秘術を用いた捜査を行うことを認めていない。

そう考えるとこの学院の卒業検定の仕組みは不思議だと誰もが感じることだろう。

警察でさえ出来ない捜査を、わずか十八歳程度の少年少女が卒業検定という名目で行い、あまつさえ解決してしまうのだから。


今回の斬首事件も、おそらく秘術が何らかの形で使われていると推測できる。

そうなってしまったら、秘術捜査が出来ない警察はお手上げ状態だ。

秘術が使われたという痕跡は、秘術でしか見つけ出せない。

隠れて秘術捜査を行おうものなら、よくて終身刑、最悪の場合は死刑相当の裁判判決が下されるのだ。

 

誰もみな自分の命は惜しかろう。

故に、秘術を使って捜査できるほどの技量がある者が現場にいたとしても、誰も何もしないのである。

 

そうこうしている内に少年は教室へと辿り着いた。

木製の引き戸を開けると、そこには見慣れたチームメンバーが揃っていた。

 

「遅かったじゃないか、アラン?」

 

灰色の髪をした少年が、その美しい紫の瞳で少年に問いかける。

少年……アランは答える。


「悪い、実技教官の話が長くって」

 

アランは少々申し訳なさげな態度を示した。

少年は「やれやれ……」と零し、アランに席に座るように促した。

 

このチームメンバーは四名。

みんなこの学院の成績上位者で、生まれ持った秘術の力も強い。

そもそもチームは学院入学と同時に構成され、卒業検定の時のみ再編成される予定なのだが、メンバーは全員入学当初のまま。

再編成された様子もまるでない。

 

アランは、少年に尋ねた。

 

「なぁ、レオ。チームって、再編されるはずだよな…?」

 

問われた少年、レオはその紫の瞳を少し伏せる。

 

「あぁ。そのはずなんだ。でも、僕たちのところだけ、再編成されずにいるみたいでな」

 

「再編成されなかったってことは、恐らく私たちのレベルじゃないと解決できない事案があるってことでしょ。…………あの、斬首事件みたいな」

 

アランの真向かいに座る少女、アリアが誰もが一瞬は脳裏によぎったことを口にした。

彼女の薄緑色の瞳は、わずかに潤んでいた。

それもそのはずだろう。

斬首事件は、新聞の情報が正しければ、恐らく高位の秘術使いが関与していることは間違いない。

普通に考えて遺体に血液が一滴も残されていないなど、あり得ない。

 

警察は、秘術が関係していると思われる事件には全く手が出せない。

つまり、斬首事件は必然的にこの学院の卒業検定対象事案として、持ち込まれる可能性が極めて高い。

 

「確かに私たち四人がまとまれば、解決できないってことはないと思うけど……」

 

アリアの隣に座る、背の低いツインテールの少女が細々とした声で言った。

彼女の薄い青色の瞳は困惑の表情を隠せていなかった。

アリアは隣の彼女の自慢の栗色の長い髪をくるくるともてあそんでいた。

彼女はそうして心を落ち着けるより他の手段がなかったのだ。

 

「恐らく、セレナが言ったとおり、僕らが卒検で担当するのは斬首事件だろう。しかも僕ら四人が全力を以ってしてやっと解決できるレベルの問題なんだろうね」

 

レオがそう考察したと同時にこの教室にいる、全員の表情が暗く落ち込んだ。

四人の嫌な予感は恐らく的中している。

いずれこの教室にやってくるであろう教官から卒業検定で担当する事案について説明があるが、そんなものを聞く必要も、意味も最早皆無だ。

何故なら、今回の斬首事件とアランたち四人の対応関係が彼らにははっきり理解されているからだ。

 

アランは剣と火の扱いに長け、彼に剣術を使わせたらこの学院で右に並ぶものはいないと称されるほどの腕前。

レオは符術と水の扱いに長け、特殊な呪文を書いた符を用いて攻撃や防御を行える。

符術はそもそも秘術の中で一番難解とされている術式で、その術式を難なく使えている辺り、レオには死角がない噂されている。

 

セレナは回復秘術と風の扱いに長け、彼女にかかれば瀕死の重症の場合でもある程度までなら瞬時に回復してくれるほどの技量だ。

そして、アリアは補助秘術と水の扱いに長け、失せ物探し等の探索秘術を得意とする。

ごく稀にセレナが消耗した際に彼女の代わりに回復秘術を仲間に施すことも出来る。

 

つまり、斬首事件における彼らの役割は、アリアが探索秘術を使って武器と犯人の特定を行い、アランが犯人と戦闘する。

戦闘の際、残りの三人はアランの補助を行う、といったところだろう。

 

「まぁ、もうすぐ教官が来るだろ。そん時に事案について情報開示がある。そこまでのんびり構えてようぜ。苛々してたところで何の解決にもなりはしないんだからな」

 

アランがそう告げると、おもむろに机に突っ伏して眠りの体制を整えた。

周りの三人は何も言わず教官が来るのを待った。


教官が教室に来て、彼らの予想を裏切ることのない情報開示をしたのはこれから十数分後である。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ