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第十三話 生命の輝き

 

 心臓マッサージを続けた。



 人工呼吸は……やり方を知らない。

 なにかしらの秒数が決まっていたはずだ。

 だが、思い出せない。


 今はもう、胸骨圧迫くらいしかできそうにない。

 これが俺の、精一杯なんだ。 


 壊れた機械のように、アレクを蘇生させようとした。

 何度も、何度も、何度も――できる限りの救命措置を行った。

 しかし、全く効果がない。


「目、開けてくれよ……」


 無意識に涙が滲んだ。

 もしかして、さっきのイザベルの反応は。

 こうなることが分かっていたのか?


「……冗談、キツイって」


 乾いた哄笑しか漏れない。

 脳が全力で事態の把握を拒絶している。

 胃液がこみ上げてきて、口中の血と混ざり合った。 


 アレクの身体から、どんどん熱が逃げていく。

 鉄骨の下敷きになった俺の状態に、限りなく近づいていく。


 ……ふざけるなよ。

 ここまで来て、こんなことがあっていいわけないだろ。

 いくらなんでも、こんな仕打ちはないだろ。


 俺はアレクの額の辺りに手を当て、震えた声で語りかけた。 


「……ほら。いつもみたいに、説教してくれよ。

 『だから汝は馬鹿者なのじゃー』ってさ」


 胸の動悸が止まらない。

 口から涎が溢れ出し、頬から顎を伝う液体に同化した。


 アレクの頬に、水滴が落ちる。

 それは彼女の涙ではない。

 往生際の悪い、諦めの悪い、俺の涙だった。


「……なぁ。本当は、起きてるんだろ?

 俺を、からかおうとしてるんだろ?

 そうだと、言ってくれよ……頼むから――」


 涙が止まらない。

 こんなの、一滴たりともこぼしたくないのに。

 だって、涙なんて流したら――

 

 ――アレクが『そうなる』ことを、認めてしまうことになる。


 寒い。

 ガチガチと、震えが止まらない。

 まるで、氷を全身に当てているかのようだ。

 俺はアレクを、息が苦しくなるほどに抱擁した。


「いやだ……認めねぇ。

 俺は認めねぇぞ、アレク……!」


 こんなにも強く抱きしめてるのに。

 どうして体温が元に戻らないんだ。

 なんで、どんどん熱が失われて行ってるんだ。


 おかしいだろ。

 嫌だよ、やるせねえよ。

 こんなの、救われねえよ……。


 認めない。

 絶対に認めない。


 どんな絶望に落とされようが、俺は諦めない。

 お前が『そうなる』ことだけは、何が何でも回避してやる。


「――――ッ」


 こわばった舌を、思い切り噛み締めた。

 余計に涙があふれる。

 しかしこのショックで、痺れた舌が機能を取り戻した。


 溢れ出る血を飲み干す。

 声が通りやすいよう、口の中に空間を作った。

 その上で、途切れることなく話しかける。


「俺の声、届いてないかもしれないけど……聞いてくれ」


 自分でも、何を言っているのかわからない。

 だけど、それはきっと、彼女の無事を願う想いが、

 無意識として現れたものだったのだろう。


「まだ俺たち……出会って数ヶ月だけどさ。

 色んなことを、経験してきたよな」


 俺はとりつかれたように、声を掛け続ける。

 そうしないと、ダメな気がした。

 この腕の中にいる少女の命の灯火が、消えてしまう気がした。


「本当、楽しいことばっかだったよ。

 お前の我儘に困らされたり、

 逆に俺が無茶をして、心配かけちゃったりしてさ。

 振り返ってみたら……すげぇお互い様だったよな」


 粘つく血を無理やり嚥下し、必死で舌を回す。

 喉からの出血があるらしく、息をする度に血の飛沫が飛ぶ。

 しかしそれすらもねじ伏せ、俺は言葉をかけ続ける。


「本当、お前……強かったよな。

 どれだけ相手が凶悪でも、問答無用で倒しちゃってさ」


 アレクの力を最初に実感したのは――エリックとの決闘だった。

 あの後、変なドワーフが横槍を入れてきた時、

 彼女の魔力によって事なきを得たのだ。


 その次は確か――炎鋼車の一斉撃破だったか。

 遠く離れた俺にまで、波動が届いてきたんだ。

 王国の守護神を簡単に打ち破る彼女の力量に、感服したものだ。


 そして峡谷に来て――エルフたちの迎撃。

 さらには竜を2体同時に相手取っての討伐。


 本当に――



「お前は無敵で……最強の魔法師だよ」



 峡谷に来てからは、お前のちょっと弱いところも知った。

 その姿を見てると、たまらなく胸が苦しくなって――


 身の程知らずかもしれないけど、

 何とか慰めてやりたいって思ったんだ。


 あの時、墓場で誓ったように――


「なあ……覚えてるか?

 お前、絶対生きるって……言ってたよな。

 あの墓でさ、一緒に邪神を倒そうって、約束しただろ?」


 口の中に涙が入る。

 不味い。胃液と血液と涙の混合液だ。


 しかし、こんなものに構っていられない。

 何とか彼女をつなぎとめようと、必死だった。


「俺さ、邪神を倒す作戦、一応考えてるんだぜ?」


 まだ、まとまりきってないけど。

 それでも、俺なりに試行錯誤してるんだ。

 いつかアレクと一緒に、邪神とやらを倒すために。


「俺が……小細工で邪神を食い止めてさ。

 お前が、持ち前の魔法でぶっ飛ばすんだ。

 無茶苦茶で、具体性もないけど……」


 中身も何もない策。

 もはや作戦といえるかどうかも怪しい。

 しかし、アレクと共に邪神に立ち向かう覚悟だけは、

 決めているつもりだ。


「俺とお前が組めば……大丈夫。

 相手が神様だろうがなんだろうが、きっと倒せるって……」


 俺の落涙とアレクの血が混じり、感傷的な色を作り出す。

 ただひたすらに、彼女が『そうなる』未来を否定しようとしていた。


 話しかける言葉が、見つからない。

 アレクの温もりが消えていく。


 それを無我夢中で拒もうとしたのだろう。

 俺は話題にもならない請願を告げていた。


「だからさ、ほら……起きろって」


 目を開けて欲しかった。

 鼓動の音を聞きたかった。

 彼女との約束を果たしたかった。


 そして、人づてに聞いたアレクの想いを――遂げてやりたかった。


「そういや、お前。聞いたぞ。

 大陸を、誰かと……一緒に回りたいんだってな」


 まだ、話せることはある。

 彼女に伝えるべきことがある。

 俺は彼女を力いっぱい抱きしめ、耳元で言ってやった。


「俺が……付き合ってやるよ。

 色んな所に行って、いっぱい迷惑かけてやる。

 ……覚悟しろよ?

 倒れる暇なんてないくらい、あちこち連れ回してやる」


 叶うかどうかも分からない未来。

 そのことを声に出すだけで、胸が苦しくなった。

 それでも、彼女に精一杯話しかける。


「いっぱい想い出を作ってさ……帰りに王都に寄って、

 またあのクソ甘い菓子を……食べようぜ。

 だから――」



 俺は絞りだすようにして言った。




「――死ぬな、死なないでくれ!」


 

 もはや話ですらない、ただの願い。

 神にもすがる思いだったんだと思う。


 俺は全ての感情と魔力を解き放ち、必死で叫んだ。


「また、俺と一緒に旅をしよう!

 だから、生きてくれ――アレクッ!」






 その時――




 俺の腰から、強い魔力を感じた。

 見れば、目の眩むような光が、ナイフの柄から漏れている。

 



 ――ディンの紋章が、強い輝きを放っていた。




 俺の魔力に共鳴したのだろう。

 シュターリンと戦った時にも、この発光は眼にしたことがある。

 紋章は光を増幅し、ある一点へ集中させた。

 俺の懐が、まばゆい光を灯す。


「……なんだ、これ」


 紋章から注がれた光が、

 何かに魔力の火を付けたのだろう。

 懐の中に手を入れ、それが何か確認する。



「竜神の……匙?」


 そう。

 それはかつて、大陸の四賢が共に戦った証。

 竜神の匙が――生命の輝きを示すかのように、魔力を灯していた。






     ◆◆◆





 魔力は光となる。

 光は収束し、一つの束になる。


 そして、光の束が一本一本分かれていく。

 その内の一つ――何よりも強い光が、俺の右胸を指した。

 内側に縫い付けられたポケットだ。

 手を入れてみる。


「これは――」


 手に触れたのは、奇妙な形をしたキノコ。

 ――アルギゴスダケだった。


 この峡谷に来る途中、森で採集したものだ。

 強烈な利尿作用を有している。

 しかし、これは確か、何か特別な力を持っていたはず。


 一回説明されただろ。

 思いだせ……沸騰しかけた頭でも、思い出せるはずだ。

 頭の血が逆流しそうなほど、俺は一心不乱に記憶を手繰った。




『本来アルギゴスダケは、強力な治癒効果を持っておる。

 傷を一発で塞ぎ、失った血液を回復させるという』




 そうだ。

 傷の治癒。血液の回復。

 このアルギゴスダケならば、あるいは――



 試してみるしかない。



 ここで、一つ気づいた。

 アルギゴスダケを指しているのと同じ光が、他にも照射されている。

 数本の光が、アレクのローブを指していた。

 まさか……俺はローブの中に手を突っ込んだ。


 ビンゴだった。

 光が指していたのは、アレクの持っていた薬剤や薬草。

 竜神の匙が、特効薬の作り方を示してくれているのか。

 これを全て調合したら、アレクは――




 数種類の薬と、アルギゴスダケ。

 それらを思い切り圧縮して、全て匙の上に乗せた。


 そして、強く念じる。

 残っていた魔力を、最後の一滴まで注ぎ込もうとした。

 他に一切の考えはなかった。


 魔力が枯れてもいい。

 どんな反動を受けてもいい。

 これっきりで、魔法が使えなくなってもいい。



 だから、だから――



「アレクを助ける薬を、作ってくれ……!」




 竜神の匙が、まばゆい光を放った。

 妙に安心感を感じさせる、暖かい色だ。

 俺とアレクを包み込むような、圧倒的発光。


 光が収束すると、匙の上には流動状の薬が乗っていた。

 俺はアレクの耳元でささやきかける。



「口、開けれるか……?」



 当然、反応はない。

 心肺が停止してるんだ。

 さすがに無理か。


 仕方がない。

 アレクの顎を少し持ち上げ、中に流し込む。

 誤嚥を恐れたが、何とか胃に流れ込んでくれた。


 飲ませた後、どっと全身に疲れを感じた。

 どうやら、相当に魔力消費の激しい薬だったようだ。

 しかし、休んでいられない。


 服用させた後、俺は更に心臓マッサージを続けた。


 何度も、何度も。

 無我夢中で、彼女が戻ってこれるようにと。



「……アレク」


 俺は彼女の名前を読んだ。

 その上で、もう一回心音を聞こうとする。

 しかしその寸前で、一瞬ためらってしまった。




 ――もしこれで、何の効果もなかったら?




 急に確かめるのが怖くなった。



 しかし、俺は信じた。

 竜神の匙と、アレク自身の生命力を。

 そしてそれ以上に、彼女が持つ生きる意志、生命の輝きを――









 ――トクン、トクン









 聞こえた。

 暖かい鼓動が、はっきりと聞き取れた。

 呼吸が回復し、顔色も急速に良くなっていく。

 痛々しい裂傷が塞がり、血の流出が止まった。



「…………ッ」



 また、涙が溢れてきた。

 今度は悲しみの証ではない。

 安堵と喜びの結晶だ。


 助かった。

 もう、ダメかと思っていたから。

 また俺は、同じことを繰り返してしまうのかと思っていたから。




「本当に……良かった」







     ◆◆◆






 だが、まだだ。

 アレクの傷は未だ完治していない。

 段階で言えば、致命傷から回避しただけ。


 早くちゃんとした処置をしないと、まずいことになる。

 そのためには――



「ぐぁあああああああああああああああ!」

「くそッ、こいつ……死にかけのくせして!」

「怯むな! 奴はもう、ほとんど動きが止まっている!」


 立て続けに鳴り響く轟音。

 俺がアレクの治療をしている間に、戦況は逼迫していた。

 満身創痍にもかかわらず、シャンリーズはエルフ達を迎撃していたのだ。


「はッ、軟弱軟弱ッ!

 たとえ体力魔力が底をつこうとも、貴様ら雑魚にやられはせン!」


 接近するエルフを、土魔法で弾き返している。

 鉄壁と猛攻を同時に果たす盤石の戦法。

 連携で守りを崩そうとするエルフ達も、攻めあぐねていた。

 

「エルフを舐めるなぁッ!」

「囲めッ、波状攻撃で魔法の合間を突け!」


 しかし、エルフ達にも意地がある。

 離れた位置から、百人近い魔法要員が風魔法を唱えた。

 強力な風の刃がシャンリーズに襲いかかる。

 補助魔法を掛け直したらしく、風の威力をかなり軽減していた。

 だが、殺しきれない風が奴の肌に傷を与える。 


「チッ、面倒ダ……一匹づつ片すカ」


 エルフたちは接近戦を重視せず、深追いしてこない。

 土の範囲魔法では、確殺に至らないのだ。

 そこでシャンリーズは、一人一人に狙いを定めた。


「まずは貴様から――」


 土で錬成した槍を握り、手近にいたエルフに襲いかかる。

 しかし、そんな隙を彼女が見逃すはずがなかった。


「――『ヘルブロー』ッ!」


 イザベルががら空きの背後に風魔法をぶち当てる。

 彼女の風魔法は、対策してないと確実に効くぞ。

 ぐらついたシャンリーズに、イザベルが挑発をしかける。


「強いエルフから倒した方がいいよ。死にたくないならね」

「ハッ、笑わせてくれル。

 アレクサンディアにも劣る貧弱種どもガ。

 貴様の魔法など、痛くも痒くもなイ」


 シャンリーズはすぐにイザベルへ目標を変える。

 すると、これを待っていたとばかりに魔法を詠唱した。


「天地疾駆す風神よ。

 我が健脚に加護を与え給え――『アクセル・バースト』ッ」


 次の瞬間。

 イザベルの姿が消えた。

 尋常でない速度で広場を駆けまわり、シャンリーズを翻弄する。


「ちッ、この速さは――」


 イザベルはスピード面において、アレクを上回る。

 あんな速さに対応できるはずもない。

 フェイントを織り交ぜた上で、イザベルが剣を振り下ろした。


「はぁッ!」

「ぐぁッ――ッ!」


 シャンリーズの肩口を切りつける。

 アレクとの戦いで、既に鎧は剥げていた。

 イザベルの一撃も、確実に通るのだ。


「私は速度専門だからね。攻撃は軽くて当たり前。

 でも、軽微な攻撃も積み重なると致命傷に化けるよ?」


 言いながら、さらなる連撃を繰り出していく。

 それを見て、シャンリーズが大きくため息を吐いた。


「はぁ……もういイ。

 あんな輩の魔力を借りるのは癪だが、仕方なイ」


 シャンリーズが両手を広げ、空を見上げる。

 ……大規模な土魔法を唱える気か?

 そんな余力が残っているはずは――


「まとめて消え失せロ――」


 すると、シャンリーズの身体に異変が起きた。

 おぞましい魔力が全身から吹き出してくる。

 どす黒い、怨念の魔素だ。

 まさかあれは、邪神から付与された魔力か――ッ!




「天ヲ穿ツハ不浄ノ大地。

 震撼招ク暴圧ノ脈動。

 震イ渡レ、転変ノ凶土――『オルクスガイア』」




 広場一帯に巨大な魔法陣が現れる。

 俺がいる所まで、ドロドロとした魔力の気配を感じた。

 慌ててアレクを担ぎ、茂みの中に飛び込んだ。


「――砕ケロ」


 シャンリーズが右足を地面に叩きつけた。

 次の瞬間、エルフたちが集結した地点の真横で大爆発が起きた。

 地殻がめくれ返り、砕片となってエルフに襲いかかる。


「うわぁッ!」

「た、退避ぃいいいいいいいいいいい!」


 イザベルを含め、全員が魔法陣の外まで逃げた。

 距離を保っていたことが幸いし、逃げ遅れた者はほぼ皆無だった。


 だが、逃げそこねたエルフが一人――

 彼女は竜の討伐の際に、ジャックルを軟弱者扱いしていた女性だ。

 何とか意地を見せようと、シャンリーズに接近していたのだろう。


 尖った岩が、女性に向かって吹き飛んでいく。

 誰もが眼を背けたくなる光景――しかし、そこに割り込む拳があった。



「うりぃいいいいいいいあああああああああああああああああああ!」



 ジャックルだ。

 彼は大岩を拳で粉砕し、身体を盾にして女性をかばった。

 そこへ、全てを飲み込もうと土石流が迫っていく。

 外へ逃げたエルフたちが絶叫する。


「族長ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 広場全体を覆う土煙。

 袖をフィルター代わりにして呼吸をしないと、肺が土まみれになりそうだった。

 アレクを安静にさせ、俺は急いで広場内へ戻る。


 するとそこには――傷だらけのジャックルが倒れていた。

 彼の体の下から、女性が這い出してくる。

 彼女は昏倒する族長を見て、悲痛な声を出した。


「族長……!」


 身体を揺さぶりながら、女性は歯ぎしりをする。


「一体何を……私のような者のために無茶をするなど……」

「……言ったであろう」


 すぐにジャックルが返事をする。

 よかった、大事には至っていないようだ。

 彼はエルフの女性に目を合わせ、優しげに微笑んだ。


「お前も儂にとって……エルフ一族にとって大切な存在。失いたくはないのだ」

「族長……」


 感極まり、女性はボロボロと泣き出してしまった。

 ジャックルの身体にしがみつき、辛そうに嗚咽する。


「私は……あなたを見くびっていた。誤解していた」


 ごめんなさい、ごめんなさい、と。

 エルフの女性は、普段の凛々しさを感じさせない様子で謝っていた。

 そんな彼女の頭を、ジャックルはポンポンと叩く。


「なに……儂はしょせん、臆病者のジャックル。

 こういう時にしか、役に立てんのだ」


 あぁ……やっぱり。

 だから、族長はジャックルなのだと。

 思わず、内心で確信した。

 

 そこへ、不穏な影が迫る――


「チッ、殺し損ねたカ。

 どいつもこいつも、生命力だけは無駄にあるナ」


 シャンリーズは右手をジャックルたちに向ける。

 まだ邪神の魔力が尽きていないのか。

 あんな魔法を連発されたら、全員皆殺しにされてしまう。

 シャンリーズは離れた場所から睨むエルフを見て、舌打ちをした。


「だが、後は散った輩を一匹ずつ潰すのミ。まずは、貴様らダ――」


 ジャックルは、なおも立ち上がろうとする。

 エルフを守るために。

 族長として、立ち向かおうとしていた。

 だが、明らかに戦える状態ではない。


 俺は広場の中央へ歩いて行く。

 そして、荒い息を吐くジャックルの肩に手をかけた。


「……む、レジスか」

「後は、俺に任せてくれ」


 そう言うと、ジャックルは俺の身体を見てきた。

 そして、愕然とした表情になる。


「無茶だ……お前、その傷は……」

「――後は、任せろ」


 そう言って、俺はジャックルの前に立った。

 もう、三度目は言いたくない。

 察してくれたのか、ジャックルは『死ぬなよ』と言って、

 女性を連れて下がっていった。


「貴様……まだ生きていたのカ」


 シャンリーズは俺を鬱陶しげな目で見てくる。

 それを無視して、一歩前に進んだ。


 自然、俺とシャンリーズが向かい合う形になる。

 今度は、負けねえ。

 絶対に――負けられねぇ。 



「これが最後……今度はお前が泣く番だ――シャンリーズ」



 没落貴族と、大陸の四賢。

 すべてを決める、最終ラウンドの開幕だった。


 

 

次話→4/13

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