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ディンの紋章 ~魔法師レジスの転生譚~  作者: 赤巻たると
第四章 エルフの峡谷編
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第四話 峡谷入り

 

 

 どうやら、本当に最短ルートを突き進んでいたみたいだ。

 なんと、峡谷付近まで半日もかからず来てしまった。

 早いこと早いこと。やはり水先案内人は偉大だった。


 その代わり、かなり滅茶苦茶な道だったけどな。

 何回絶壁から落ちかける恐怖を味わったことか。


「ふぅ、着いたね」

「はぁー、50年前と全く変わっておらんのじゃな。

 こんな場所に何百年も……引きこもっておる連中の気が知れんな」


 二人とも山越えには慣れているのか、汗一つかいていない。

 俺は深呼吸をしつつ、前を見る。

 そして、眼前に広がる光景に目を奪われた。


 自然と同化して作られているように見える小屋。

 その周囲には食料倉庫と思われる屋敷が乱立していた。

 そして、厳かな雰囲気の大屋敷が奥に一つ。

 恐らく、あれが族長の家なのだろう。


 集落の最奥には、木造の大神殿があった。

 あれか、アレクが柱をへし折った神殿っていうのは。


 聖地にして、エルフの総本山。

 ようやくたどり着いた。

 エルフの妙薬を貰うために、遂にやってきたのだ。


 早く手に入れるに越したことはない。

 そう思って中へ入ろうとした――その瞬間。

 突如として目の前に影ができた。


 いきなり頭上から3人のエルフが飛び降りてくる。

 なんだ、見張りがいたのか。

 エルフたちは俺の前方に降り立つと、凄まじい勢いで睨みつけてきた。


「貴様、人間だな?」

「何をしにきた。同族の紹介であっても、族長の許可無くして立ち入りは許さん」


 それぞれのエルフは、右手で詠唱のポーズをとっている。

 更に、短刀と弓を各々がもう片手で構えていた。

 下手に動けば瞬殺する、そう言いたいのだろう。


 剣呑な雰囲気だな。

 まあ、聖地に敵対する人間が来ても歓迎されるわけないか。

 俺の危機を見て、イザベルが前に出てきた。


「久し振りだね。彼は私の紹介で連れてきたんだ。武器を下ろしてくれるかな」

「……イザベル殿か。しかし、駄目だ。

 例え族長の傍系となる血筋の方であっても、許しがなければ人間の立ち入りは認められない」

「あれ、伝えておいてくれって言ったのに。

 まあいいや、じゃあ族長に訊いてきてくれるかな。

 『イザベルが来ている。同行者も含めて、立ち入りを許可してくれ』ってね」

「……任された」


 そう言うと、エルフの一人が屋敷の方へ走っていった。

 おい、エルフさん達よ。

 俺も確かに警戒すべき存在だろうけど。

 俺の背後にもっとすごいのがいるぞ。


 エルフの誇りである大神殿の柱を、一蹴のもとに粉砕した下手人がのさばってるぞ。

 俺とエルフの緊張を知らずに、アレクは「暇じゃのー」と言って俺に体重を預けてくる。

 しばらくすると、先ほどのエルフが戻ってきた。


「許可が出た。いいだろう、入るがいい」

「うん、良かった良かった。それじゃあ遠慮なく」

「ただし、そこの人間。下手な真似をすれば、イザベル殿に確認せず始末するからな」

「分かった。しないから安心しろ」


 そう言って、俺は中へと歩を進めた。

 なかなかの厳重警備だったな。

 イザベルの後を追って入ろうとすると、後ろで大声が聞こえた。


「き、貴様はもしや、アレクサンディア!」

「うるさいのぉ。大声を出さずとも聞こえるのじゃ」

「どの面を下げて戻ってきた!

 貴様の立ち入りは、エルフの規律により禁じられている。立ち去れ!」

「ふざけるでないぞ若造。我輩に指図をできる立場か」


 何かややこしいことになってるんだけど。

 一触即発の状態なんですけど。

 真面目系な人とアレクを引きあわせてはダメだ。

 間違いなくどっちかが爆発してしまう。

 俺は前を歩くイザベルに耳打ちした。


「おい、イザベル。アレクが暴れたらまずいだろう」

「放っておけばいいよ。

 彼女は、エルフの峡谷に入る度に同じ事をしてるんだ。

 年配者の間では、もはや恒例行事になってるみたいだね」

「そんなものか……」


 まあ、アレクが負けるとは思えないし。

 俺達は先に進んでおくとするか。

 そう思いながらも、エルフとアレクの争いから目が離せない。


「立ち去るがいい。さもなければ力に訴えることになる」

「やってみよ。これ以上の会話は必要あるまい。――押し通る」


 アレクがきっぱりと言い放った。

 すると、諦めたようにエルフは首を横に振る。

 そして、集落全体に響き渡るように大声を発した。


「皆、アレクサンディアが来た! 戦える者は集まれ! 侵入を許すな!」


 増援を呼んだか。

 やっぱり、流石にアレク相手に3人じゃ無理だよな。

 どれくらいの人数が集まってくるのだろう。

 そう思っていると、あちこちの小屋からエルフが飛び出してきた。

 引き戸を開け、完全武装の状態で出てくる。


「なんだと、祖母の積年の恨みを今!」

「曽祖父の敗北の恥辱を晴らしてやる!」

「先祖様の誇りは私が守る!」


 ぞろぞろと、30人近いエルフが出てきた。

 その時気づいたのだが、女性の方が圧倒的に多いな。

 基本的に、エルフは男女比率が人間とは大きく異なる。


 人間は基本、男女比が5:5だが、エルフは1:9くらいだと聞く。

 男を確保できなかったエルフは、種の保存欲求に負けて他種族と交わることもあるのだという。

 それが俗に言う、ハーフエルフだ。


 人口的には、エルフ種族の中で一番多かったりする。

 純系のエルフからはよく思われていない辺り、なんとも悲しいが。

 勢揃いしたエルフを見て、アレクは肩をすくめる。


「やれやれ、『大陸の四賢』という称号を知らぬのか。

 石が束になった所で、宝石には勝てぬぞ」

「貴様こそ自惚れるな。ここは我らエルフの領域。

 そして、大陸の四賢の何が偉い。

 水魔法を奪われ、この大陸に縛り付けられた魔法師めが。

 魔法師として欠陥した貴様らを封殺するなど、造作もないことだ」


 その言葉を聞いて、アレクの目が細まる。

 いや、据りかけてる。

 完全にキレてるな。

 同族だから命までは奪わないと信じたいが……。


 ちょっと待て。

 今、このエルフはなんと言った?

 『水魔法を奪われ――大陸に縛り付けられた――』


 どういう意味だ。

 後者の大陸云々は知らんが、前者に関しては疑問が残る。

 アレクはやはり、水魔法を使えないのか……?

 奪われた、という言い方が妙に引っかかる。


 ダメだ、答えが出ない。情報が少なすぎるな。 

 俺が考察を終える頃、双方の緊張が頂点に達そうとしていた。

 アレクは矜持が傷つけられたとでも言うように、拳をバキバキと鳴らした。


「我輩は確かにこの身に制約を負っておる。

 魔法師としては、全盛期の半分の力も出せんじゃろう。

 それは認めるのじゃ。しかし――」


 そこで言葉を切って、アレクは拳を引き絞った。

 すると、彼女の身体から凄まじい魔力が解き放たれた。

 目を焼くような魔力がアレクの足へと集まっていく。


 そして、足をすっと上げる。

 同時に、アレクはエルフ達へ鋭い警告を発した。


「――『拳神』の体術を忘れたか?」


 そう言って、地面を思い切り踏み鳴らす。

 ビリビリと大気が震える。

 すると、アレクを中心に盛大な地割れが発生した。


 縦横無尽に走る亀裂。

 しかし、エルフたちは怯まない。

 大木の上に退避し、敵意を持ってアレクを睨みつける。


「くっ、相変わらず化け物だな」

「慌てるな。いくら力が強かろうと、地の利はこちらにある」


 エルフたちは短刀を抜く。

 敵がいくら強大でも、不屈の闘志で噛み付いていく。

 そんな意志を感じたのか、アレクは好戦的な笑みを浮かべる。


「拳神の体術を修めた我輩に、よくそんなことを言えるものじゃの。

 いいじゃろう、特別じゃ。魔法を一切使わずに叩きのめしてくれる。

 ――場所を変えるぞ」


 そう言って、アレクは集落の外に走っていった。

 すぐさまエルフが追撃する。


「馬鹿め、向こうは死地だ!」

「罠を発動させろ! 捕縛して族長の前に突き出してくれる!」


 打ち上げ花火のような勢いで、エルフたちはアレクを追いかける。

 頼むから、そのままお空のお星様になるなよ。

 死兆星はこの歳で見たくない。

 怒涛の勢いで追撃していくエルフ達を見て、俺は心底思ったのだった。

 

 

 

  ◆◆◆

 

 

 

 アレクとエルフが場所を移したため、途端に静寂で満ち溢れてしまう。

 ずいぶんエルフたちは士気が高かったな。

 勝算があるのだろうか。


 まあ、地の利は確かに重要要素だからな。

 アレクも神ではない。油断することだってある。

 それでもあいつが負けるとは思わないけど。

 だいたい、人型種であいつに勝てる存在がいるのか。


「レジス。許可が出たから進むよ。族長の屋敷はあっち」


 イザベルが指さした方向に向かって進む。

 どうやら、戦闘員はさっきのが全員じゃないみたいだな。

 食料調達に出かけてたり、集落内の守備を任されているエルフもいるようだ。


 しかし一様に、エルフたちは俺に嫌そうな視線を向けてくる。

 まあ、仕方ないと割り切ろう。エルフと人間は仲悪いんだし。

 溜息を吐きつつ、気分を紛らわすためにイザベルに声をかける。


「さっきアレクが『拳神』って言ってたけど、あれって黎明の五神の一柱か?」

「そうらしいね。彼女が大陸の四賢と呼ばれる前の話だけど。

 この大陸に来訪した拳神に、体術の稽古をつけてもらったらしいよ。

 元々魔法の才能は大陸有数だったから、そこに体術が加わって比類なき強者に化けたみたいだ」


 なるほど。

 アレクの体術は、どこか他の達人と一線を画しているとは思っていたが。

 本当に神業ならぬ神の技だったのか。


 拳神というのは、神話に名が出てくる神のことだ。

 天下創世の時から君臨しているとされる『黎明の五神』の一柱。

 宗教じみた側面を持っているので、あまりこの大陸では一般的ではない。


 基本的に、この大陸は無宗教の人々で満ちているのだ。

 例外が大陸東にある連合国だけど。

 あそこはガチガチに他大陸の宗教にかぶれてる。

 もう一つ例外を上げると北西の神聖国か。

 あそこも信仰があるな。


 でも、この大陸の人間はほとんど神様に祈らない。

 ゆえに、他の大陸とは文化的にも隔絶されている。

 南にある巨大な大陸では、拳神の話なんて赤子でも知っている話だろうけど。

 この大陸においては、知識人くらいしか知らないだろう。

 拳神とアレクの関係を聞いて、俺は一つ頷く。


「言うなれば、アレクの師匠ってわけだな、相当な力を持ってるに違いない」

「絶対無比である『神』の一柱だからね。実力も知名度も、世界で指折りだよ」


 そう言えば、実家の書物で読んだことがある気がする。

 黎明の五神というのは、極論で言えば『本当の神様』だ。

 この世界に今なお存在する、圧倒的実力者。


 アレクもよく神様扱いされたりするが、黎明の五神と比べると霞んでしまう。

 連中は基本的に人間と接触することは少ない。

 しかし、連中に向けられる信仰は底なしだ。

 この世界はいくつか大陸があるが、たいていどの大陸でも、五神のどれかを祀っている。


 南の大陸を故郷と認識しているらしく、ほとんど他の大陸には出向かない。

 ただし、いざ気まぐれで外に出ることがあれば、間違いなく歴史に残る事件を起こす。

 その繰り返しで、各大陸で多くの信仰者を獲得してきたのだ。


 しかし、そう考えると、南の大陸は神の集う場所か。

 どこの神在月だって話だ。

 出雲大社にも似たものを感じるな。

 黎明の五神は、純粋な強さ順に、

 

 第一奉神にして、『審判』と『断罪』を司る――闘神

 第二奉神にして、『平穏』と『守護』を司る――槍神

 第三奉神にして、『統率』と『略奪』を司る――軍神

 第四奉神にして、『戒律』と『討滅』を司る――拳神

 第五奉神にして、『探訪』と『乖離』を司る――刃神


 といった風に構成されているそうな。

 どれも頭のイった強さで、四賢が束になって一柱がやっとだと聞いたことがある。

 本当のところは、四賢じゃないとわからないだろうけど。

 今度アレクに、拳神がどんな奴だったのか聞いてみるか。


 究極的な力を有する五柱の神。

 下には下がいるように、上にも上がいるということだろう。

 もっとも、基本的にその影響力が俺たちに与える影響は意外と少ない。

 所在不明で生きているかも不明な連中だし、この大陸では四賢の方が有名だ。

 無神教が多い所だからね、仕方ないね。


「拳神か。黎明の五神ってあんまり書物に出てこないよな」

「うーん、あんまりこの大陸には来ないからね。

 恐らく拳神が数百年前に来たっきりじゃないかな」

「そして、その拳神がアレクに体術を教えたと……」


 俺の記憶が正しければ、拳神は厳格な女神だったはずだ。

 奔放なアレクに体術を教えるのは、さぞ苦労したことだろう。


 にしても、女神の直弟子って、字面からして無茶苦茶だな。

 アレクの強さの理由の一端を知れた感じだ。

 ……いったい、どんな修行風景だったんだろう。


 正拳突きを飛ばす女神。

 肘鉄でカウンターを入れるアレク。

 熾烈な殴り合いをしつつ、両者の変態性があらわに……。

 そして傲慢さは更なるステージへ……!


 うむ、こんなことを言ったら、アレクに蹴りを入れられるな。

 俺の胸の中だけにそっと閉まっておこう。

 失礼なことを脳裏に描きつつ、俺は感慨深く頷いたのだった。

 

 

 

      ◆◆◆

 

 


 ところで。

 どうやらイザベルは、峡谷内でかなりの人気者なのだそうな。

 戦いに出ない女性や幼いエルフとすれ違うのだが、イザベルを見て歓声を上げる者もいた。


 彼女は族長の傍系に連なる家系で、能力もエルフきっての凄腕らしい。

 なるほど、峡谷内で有名になるのも無理はない。

 めったに峡谷へ帰らないことも、人気の要因になっているのかもしれないな。


 偉人は会えないから偉人なのだ、という言葉を思い出した。

 どれだけ徳のある人でも、いつも隣にいたら有り難みが薄れちゃうからな。

 そう考えると、イザベルやアレクが評判になるのも頷ける。


 もっとも、アレクは違う意味で名声が高いんだろうけど。

 悪名高い、とも言うな。

 まあ、浮きっぷりという点で評価するなら、俺の右に出るものはいないだろう。


 エルフの聖地に、見知らぬ人間の男が一人。

 仲介役がいるとしても、エルフとしては心穏やかでないはず。

 その証拠に、遠くからヒソヒソと声が聞こえてくる。


「……おや、イザベル様がお帰りに」

「……話をして来ないの?」

「……無理よ。隣に変なのがいるじゃない」


 変なのとはご挨拶だな。

 否定出来ないけど。

 視線を向けるとトラブルが発生しそうなので、目を伏せて通り過ぎる。


 ここは俺のホームグラウンドではないのだ。

 あくまで謙虚に慎重に。

 そう思っていても、通り過ぎる度に憎悪の目で見られるのは辛いな。


「……人間の子めが」

「……イザベル様は何を考えている」

「……油断するなよ。何をしでかすか分からん」


 あちこちで俺に対する非難が飛び交っている。

 大声で言わないのが、ギリギリ救いってところか。

 人間と敵対してるエルフの本拠だしな。

 こうなるのは仕方ない。


 目立たないようにイザベルの後ろを付いて行く。

 歩いていると、前方に女性のエルフが立っているのを発見。


 かなり大人びていて、外見は25歳くらいか。

 落ち着いた雰囲気で、あまり冗談の通じなさそうな印象である。

 ここは礼儀正しく、岩のような厳しさで挨拶すべきだな。


 そう思ったのだが、女性はイザベルを見て明るい笑顔を浮かべた。

 相好を崩して無邪気に声をかけてくる。


「イザベル殿! 久しぶりだな!」

「やあ、元気にしてた?」


 イザベルも愛想よく応対する。

 あんまり厳しい人じゃなかったみたいだな。

 二人が雑談している間、俺は木のように突っ立っていた。

 あんまり割り込んでもなんだし。

 根を張って大地の養分を吸い取る妄想でもしておこう。


「で、イザベル殿。そちらの方は? 前に言っていた少年なのだろう?」

「ああ、うん。レジスって言ってね。私の親友だよ」


 イザベルが紹介してくれる。

 すると、初めてその女性と目が合った。


「……人間、か?」

「そうだ。俺は王国貴族・ディン家の子息。レジス・ディンという」


 出来る限り爽やかなスマイルを心がける。

 しかし、女性の不興を買ってしまったようだ。

 彼女は苦々しげな顔をして、イザベルを叱咤する。


「……イザベル殿。友人は選ばれよ」

「え?」

「族長の傍系に連なる血筋の貴方が、人間と接点を持つなど言語道断。

 族長に知れたら大目玉を食らうぞ」


 女性は真剣にイザベルを心配している。

 まあ、身内が敵対勢力の人間と仲良くしてたら、不安になるのも仕方ないか。

 しかし、今の言動にはイザベルもムッとしたようだ。


「確かに人間にはどうしようもないのがいるけどね。レジスは例外だよ、例外」

「……貴方の慧眼を疑うつもりはない。

 私の目から見ても、確かにその少年は無害なのだろう。

 だが、この峡谷に人間を連れ込むのはいかがなものか」

「ちょっと事情があってね」

「例外、ですか」

「うん、そういうことにしておいて」


 のらりくらりとイザベルが非難をかわしていく。

 その反応に毒気を抜かれたのか、女性も肩をすくめた。


「分かった、別に私も水を差すつもりはない。

 形だけでも、イザベル殿の友人を信じるとしよう」


 おお、やはり話の分かる人じゃないか。

 形だけでも、の言葉が余計だけどな。

 エルフと人間の友好度は、種族間の不和もあって低い状態である。

 しかし個人的な関係であれば、修復するのも不可能ではなさそうだ。


「では、失礼する」

「また後でね。ところで、どこに行くのかな?」

「懸念がいくつか……。

 ――近々、戦闘の触れが出るかもしれない。

 それに備えて訓練でもしておこうとな」


 よく見れば、女性はひときわ大きな短刀を腰にぶら下げている。

 外敵と闘う戦闘員の中でも、かなり強い方なのだろう。

 あれ、でも――


「アレクが外で戦ってるけど。それは知ってるのか?」

「アレク……ああ、アレクサンディアか。

 そういえばさっき、彼女が来ていると聞いたな」


 ポリポリと頬をかく女性。

 まったく、のんきなことを。

 他のエルフは烈火のごとくアレクを攻撃していたぞ。

 一番アレクの横暴に厳しそうな彼女が、なぜ放置しているのか。


「参戦してこないのか?」


 集落の入り口、さらにその奥を指さす。

 向こうの方から、絶えず攻撃音と怒声が響いてくる。

 すると、女性はさも当然であるかのように、さらりと言った。


「負けるとわかってる戦いには、参加したくない。怪我するのは嫌だし」

「……あ、そう?」



 意外としたたかだった。



 

 

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