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第十四話 拳

 


 ――レジス視点――

 

 

「よお、エリック」

 

 俺はなるべく爽やかに声を掛けた。

 エリックは鳩が豆鉄砲を食らったような顔になっている。

 彼のローブは、あちこち血が飛び散っていた。


 外にいた魔法師を、派手に片付けたのだろう。

 やっぱりこいつは、本気でここに来てるんだ。


「……レジスか。お前、どうやってここに来た。鍵は閉まっていたはずだ」

「風魔法で壁をひとっ飛びだよ」

「嘘つくんじゃねえ。お前は風魔法の適性が全くなかったはずだ」


 覚えているのか。

 そうだな、確かに俺は風魔法が得意ではない。

 上げているのも熟練だけなので、ロクな魔法は使えない。

 だけど、別に俺一人で乗り込んできたわけじゃないんだ。


「エルフは風と水への相性がいいんだよ。そうだろ? イザベル」

「そうだね。私は風魔法だけなら、大陸の四賢にも肉薄できると思ってるよ」


 イザベルが建屋の影から出てくる。

 俺を中に入れてくれるだけでよかったのだが。

 勝手にここまで付いて来てしまった。

 事前に魔法師を眠らせるのには骨が折れたな。

 そこも連携プレーで何とか乗り越えたけど。


「……エルフの力を借りたのか」


 エリックは眉をひそめる。

 そして、イザベルの方を睨みつけた。


「エルフが人間に力を貸すなんて聞いたことないが」

「そうかな? 少なくとも、自分が信頼できる人には優しいつもりだよ」

「……てめぇ」


 怨嗟のこもった目だ。

 イザベルが思わず一歩引いてしまう。

 だが、そこで俺が中間に立った。


 イザベルに敵意を向けられても困る。

 彼女は俺の頼みで付いて来ただけなんだ。

 まあ、入ってきたのはイザベルの勝手だけど。

 でもな、俺が言いたいのはそんなことじゃない。

 正面からエリックと向き合う。


「もうやめよう。エリック」

「……やめる? やめるって、何をだ」

「魔素供給所で魔法を放つのをやめろって言ってるんだよ」

「チッ。何で漏れた……」

「単なる予想だよ。知り合いに、こういうのを得意にしてる奴がいるんだ」


 そう、あの飲んだくれ傭兵もどきのことだ。

 普段は頼りになるか微妙な奴だが、こういう時は無類の才能を発揮する。

 あいつがいなかったら、ここの襲撃だって予測できなかった。


 そして、嫌な連絡も入っている。

 ジークはエリックが何をしようとしているか、知っていたはずなんだ。

 なのに、この魔素供給所に追加で誰も配置しない。

 おかしいと思った。

 だけど、あの破滅的な性格を考えたら、すぐ答えが出てきた。


「襲撃することはジークに筒抜けだ」

「知ってたとしても、ここで学院中に魔法をばらまけば終わりだろうが」

「――炎鋼車が起動してる。奴らはその中で寝泊まりしてるよ」

「……ッ!」


 俺の情報に、エリックが歯軋りをした。


 ――炎鋼車。


 ウォーキンスが前に解説してくれたことがある。

 ラジアス家が王国黎明期に開発した、地上戦最強の兵器。


 炎鋼車には数十人の魔法師が乗車できる。

 機動性は眼を見張るものがあり、並の馬車であれば簡単に追い抜く。

 さらに、凶悪なのはその装甲だ。

 炎鋼車は内部に特殊な魔法障壁を張り巡らしている。

 それによって、内側からの魔法は通し、外側からの魔法を大幅に遮断するらしい。


「エリック。お前の魔法がどれほど強力かは知らない。

 だけど、それは装甲を壊せるものなのか?」

「…………」

「正攻法じゃ無理だろうな。あの装甲は特殊なものなんだから」


 そう。炎鋼車の装甲は、貴族の趣味が最悪な方向で働いてできたものだ。

 装甲の素材には『ドラグーンの鱗』と『ドワーフの頭蓋』。

 その二つを合成させた特殊合金が使われている。


 亜人を殺してその亡骸までをも弄ぶ。

 反吐が出る話だ。

 だが、その硬度だけは他の金属と一線を画する。

 強力な物理攻撃すら弾いてしまうことだろう。


 装甲の頭頂部には、火魔法の魔素を結晶化した『燃料結晶』を積んでおり、

 それを動力にして縦横無尽の疾走を見せる。

 装甲に敵が張り付いた時には、結晶から火魔法を放ち、全体を燃え上がらせることも可能。

 ただ、燃料結晶を起動させておくのには、人の魔力が必要である。


 業火をまとわせながら突撃する勇姿。

 その姿から『炎鋼車』と名付けられた。

 エドガーの報告によると、ジークは炎鋼車に乗って一晩を過ごそうとしているらしい。


 炎鋼車の装甲は尋常でなく硬い。

 たとえ学院中に高位魔法が吹き荒れても、ビクともしないだろう。

 最初から、無茶な目論見だったんだ。


「無駄に被害が出るだけなんだよ。

 復讐を否定するつもりはない。だが、他にやり方があるはずだ」

「……黙れ。たとえ一撃で殺せなくても、指揮系統は混乱する。

 ここで魔法を爆散させた後、ジークの屋敷に直接行ってトドメを刺せば良い」


 己の命を消し飛ばしてでも、ジークを道連れにする気か。

 だけど、お前をあんな奴と心中させるわけにはいかない。


「無理だって言ってるだろ。

 炎鋼車に生身で挑んで勝てると思ってるのか?」

「思わねえ。だがな、ここで逃げるのだけは、絶対に嫌なんだよ」


 固い決意。

 エリックの心には、もう言葉も届かないのか。

 玉砕覚悟で、ラジアスに突っ込むつもりだ。


 だからこそ俺は、ここでエリックを止めなければならない。

 これ以上、あんな貴族のために命を落とす奴が出てきていけない。


「分かったら、止めようとするんじゃねえ」

「頭が硬いな、お前」

「決心が固いといってくれ。そしてどけ」

「嫌だと言ったら、殴り倒すか?」

「いいや、殺す」


 屹然とした口調で、エリックは断言した。

 しかし、俺は即座に切り返す。


「やってみろよ。

 人間にもまともな奴がいるってことを証明してやる」


 俺の言葉に、エリックが目を見開いた。

 どうやら、俺が正体に気づいていないと思っていたらしい。

 恐らくエリックは、ドラグーンの血を引いている。


 ドラグーンは見た目が人間に近く、一見判別することは難しい。

 しかし、若干肌が特殊な色合いをしており、少し硬質化している。

 でも、エリックにはそれが見られない。


 そこから考えるに、多分エリックは混血だ。

 人間と、ドラグーン。

 その配分が丁度半分ってところか。

 しばらく驚いていたエリックは、ふと口から犬歯を突き出して笑った。


「分かってるんなら逆に疑問だ。

 俺は半分とはいえ、ドラグーンの血が入ってる。

 その身体能力に、勝てると思ってんのか?」

「さあ。勝てるかは知らんが、止めることくらいは出来るだろ」

「……いいぜ。やってやるよ! ――開け、万魔の門ッ」


 来たな。

 エリックの父親が開拓した魔法。

 思想、技術、体術などをリンクさせることで、過去の人物の能力使うことが出来る。

 修行方法すら確立されず、歴史の闇に葬られた禁術。


 しかし、途絶えていなかった。

 エリックは今こうして、引用魔法で反逆しようとしている。

 たとえその結末に死が見えていようとも。


 止めないといけないだろう。

 俺もこの8年間、遊んできたわけじゃない。

 魔力強化はもちろん、戦闘術だって学んできた。

 付けてきた力を発揮すべき時は――今。


「行くぞオラァああああああ!」

 

 その言葉を合図に、エリックが走りこんでくる。

 魔法の書をベルトに挟み、大きく右拳を振り抜いた。

 俺は回りこんで避け、背後からナイフを振り下ろす。


 だが、エリックは突如として宙に駆け上がった。

 地面を大きく蹴り、背面宙返りの状態で俺の頭上に到達する。

 月面に輝く綺麗なムーンサルト。


 次の瞬間、エリックが魔法書を広げた。


「――天に浮遊す極星の輝き。

 落ちる星は我が御脚なり――『シャクリ・ディクレスト』」


 その名は古代の天文学者。

 種族の寿命の長さを活かし、極星を追い続けた男。

 確か星魔法を得意としていたはずだ。

 とは言え、エリックは星魔法を覚えていないはず。

 だが、空に集まっていく魔力は間違いなく――


 まさか、使えるのか……?

 引用魔法は、自分が使えない魔法まで引っ張ってこれるのか?


「……堕ちろ、炎星」


 エリックの言葉を受けて、頭上に眩しい光が迸った。

 赤い光が、核を持って近づいてくる。

 発火した星だ。


 避けないとマズい。

 横っ飛びで範囲から逃れようとする。

 しかし、いきなり肩に強烈な衝撃を感じた。


「……がッ!?」


 ミシミシと、右肩が悲鳴を上げる。

 エリックの蹴りが、空中から落ちて来たのだ。

 俺が地面に倒れると、エリックは即座に離れていった。


 即座に上を見る。

 空から強烈な光を伴った石が落ちて来ている。

 そして隕石はそのまま、俺のすぐ横に落下した。


「ぐ、がああああああああ!」


 熱い。

 そして痛い。


 飛び散る土の欠片が皮膚を割く。

 砕ける破片が肉を蝕む。

 衝撃波が身体を容赦なく蹂躙していく。


 直撃は避けたはずなのに。

 何つう威力だ。

 ジークが使っていたメテオストライクとは、まるで比較にならない。


「もう死んだか。あっけねえな」

「……勝手に殺すなよ」


 俺は即座に立ち上がる。

 エリックは今、詠唱後ですぐには魔法を使えない。

 ならば、お返しと行こうか。

 魔素を雷に変換し、一気に打ち出す。


「――疾駆す雷撃、地を穿つ。

 魔にて迸る天の審判――『ボルトジャッジメント』ッ!」


 雷の一閃で、動きを完全に停止させる。

 そう思って詠唱した瞬間、エリックが呪文を呟いた。


「――堅固なる大地は御身を守り、

 悪しき加護を駆逐する――『アースブロッキング』」

「な、なんだと!?」


 ちょっと待て。

 何でこいつ、もう魔法が使えるんだ。


 まだ引用魔法を使って、二十秒も経っていないのに。

 エリックに襲い掛かろうとした雷が、隆起した土に阻まれる。

 激しい粉塵があたりに立ち込めた。

 防がれたか。


「……ケホッ、ゴホッ――ぎッ!?」


 突如、俺の脚に激痛が走った。

 足払いだ。

 土煙に紛れて動きが見えない。

 態勢を崩してしまい、身体が宙に浮く。


 そこへ追撃の回し蹴りが入った。

 とっさに腕でガードする。

 だが、力が強すぎる。

 俺は思い切り吹き飛ばされた。


「……ぐ、くッ」


 これ以上の追撃は避けないと。

 すぐに立ち上がり、周囲を警戒した。

 肋骨付近に鈍い痛みを感じる。

 ああ、これは俺がよく知っている痛覚だ。


 骨を折ったのは久しぶりだな。

 ただ、俺の前世において骨折はそう珍しい方ではなかった。

 動きにあまり支障はない。

 土煙が晴れると、エリックが無傷の状態で立っていた。


「お前……魔法の使用間隔が短すぎないか?」

「引用魔法と通常の魔法は少し特性が違う。

 英霊の影響力から力を引き出してんだよ。

 魔力さえあれば、間を置くことなく両方撃てる」

「……反則じゃねえか」


 思わず変な笑いが出てしまう。

 引用魔法が恐ろしすぎる。

 その上で、体術に通常魔法を兼ね備えているという。


 少しエリックの力を見誤っていた。

 こいつは尋常でなく、強い。


「そろそろ終わりか――」


 エリックが突っ込んでくる。

 また蹴りか。それとも拳か。

 次に直撃を食らったらいよいよ死ぬ。


 エリックが後一歩の所まで詰め寄ってくる。

 頃合いか。

 俺はさっきから心中で詠唱していた魔法を発動させる。


「――燃え上がれ、『クロスブラスト』」


 俺とエリックを含める辺りの足場が、盛大に爆発した。

 激しい火の粉を吹いて燃え上がる。

 エリックは飛び退こうとするが、四方八方どこを見ても逃げる場所がない。


 本当なら、使いたくなかったんだが。

 あまり騒いでいると、人が駆けつけて来そうだからな。

 早くカタをつけて撤退しないと。

 ナイフを握り、エリックの後ろに回り込む。


 すると、後ろ回し蹴りが飛んできた。

 脊髄反射に近い。

 だが、それが来ると思っていた。


 タイミングよく腕を広げ、エリックの足をがっちり掴む。

 そこから当て身をぶちかまし、上半身を引き倒した。

 渾身の力を込めて押さえつけ、動きを封じる。

 だが、すぐにエリックの拳が飛んでくる。

 強烈な一撃が俺の頬を捉えた。


 が、痛いだけだ。

 エリックの腕を固め、首元にナイフを押し当てた。

 反撃がくるかと思って身構えたのだが、完全に杞憂だった。

 エリックは暗い表情をしながら、俺の目を見てくる。


「抵抗、しないのか……?」

「…………」


 返事はない。

 この魔素研究所に、一瞬の静寂が流れる。

 多くは語らず、俺はただ一言告げた。 


「――もうやめろ、エリック」


 説得を試みる。

 容易ではないのはわかっていたが、これ以上こいつと戦いたくなかった。

 傷だらけで死地へ向かおうとする人を見るのは、好きじゃない。

 俺の声を受けて、エリックは力なく呟いた。


「知ったふうな口を、利くじゃねえか。

 オレの過去を調べでもしたのか?」

「一応な。お前がラジアスを憎むのも当然だ。

 だけど、あんな奴のために自爆する必要はないだろう」

「…………」


 俺の言葉を受けて、エリックの身体から力が抜けた。

 説得に応じてくれたのだろうか。

 エリックの瞳から急速に戦意が喪失していく。

 同時に彼は、唇を噛み締めながら、ボソリとつぶやいた。


「……ってか」

「え?」

「つまりテメエは、オレの過去を知ってて尚、止めようとしてるんだな?」

「待てエリック。俺はそういうことが言いたいんじゃなくて――」

「うるせえ!」


 つんざくような怒声。

 エリックの瞳に、ふたたび凄まじい炎が宿った。

 先ほどの比ではない。

 しかも、徐々にエリックの身体に力が入り始めた。


「……身内を殺されて。何もかも奪われて。

 それでも貴族に逆らわず、ヘラヘラ生きて行けってのか?

 耐えられるわけねえだろうがッ!」


 エリックの右腕が固めから外れた。

 拳を握りしめ、エリックは思い切り殴ろうとしてくる。

 仕方がない、無効化させてもらおう。

 エリックの腕をナイフで一閃する。

 しかしその瞬間、鋭い音がしてナイフが弾かれた。


「な、なんで……ぐぁッ!」


 正拳突きの直撃を受ける。

 しかも衝撃が先ほどの数倍。

 上半身が思い切り逸れてしまう。


 両手が自由になったエリックは、下半身を跳ねあげた。

 すると、俺の身体が空中に浮き上がる。

 なんつう膂力だ。


 しかし、反撃はそこで終わらない。

 恐ろしい量の魔力が、エリックの拳に集中している。

 その時気づいたが、彼の皮膚は全体的に変色していた。

 灰色に近い、硬質な物へと。


 そこで気づいた。

 ドラグーンの『種族能力』。

 激昂するとスイッチが入り、全身体能力及び魔法能力が上昇する。

 たとえ窮地に陥っても、一撃で戦況をひっくり返す。

 ゆえに大陸では、最も警戒されている異種族だ。


 エリックが落下する俺を目で捉える。

 そして、絶望的なまでに強力な魔法を唱えた。


「我が拳は天覇の神器。

 唸れ五指よ、猛れ拳よ。

 其が一撃で邪を打ち払わん――『ディープインパクト』」


 こいつ……!

 身体強化で最高峰の魔法を覚えてやがったのか。


 その魔法はまさに一撃必殺の代名詞。

 俺のメテオブレイカー級の破壊力を持っている。

 なんてものを習得してやがるんだ。


 今まで使わなかったってことは、

 恐らく『種族能力』発動時でしか発動できないんだろう。

 俺は体を捻って直撃を避け、同時にクロスアームブロックを作った。

 更に、詠唱短縮で守護魔法を唱える。


「――『ハード・プロテクター』!」


 ある局所に来るであろう衝撃。

 そこに予め魔力を集中させてダメージを防ぐ、守りの魔法。

 出来る事をすべてやった上で落下する。

 エリックが獰猛な動きで、俺の腹部に一閃を放った。

 激しい衝撃が俺の全身を貫く。


「……ぎ、ぐぁぅッ!」


 俺の総魔力は常人の比ではない。

 エリックが一点特化の攻撃を放つならば、俺だって一点特化の防御を取る。

 結果、エリックのディープインパクトの攻撃力を完全に無効化した。


 大陸有数の潜在魔力のお墨付きをもらってるんだ。

 競り負けるはずはがない。

 しかし、拳そのものは防げなかった。

 ドラグーンとしての強烈な一撃を、腹部に喰らってしまった。


 胃の内容物が全てひっくり返る感覚。

 内臓に針を刺すような痛みが走り、直撃した付近に鈍重な衝撃が走る。

 折れているであろう肋骨が、内臓をひっかく感触がした。


 俺は盛大に吹き飛び、そのまま建屋の壁に叩きつけられた。

 全身が粉々になる錯覚で、一瞬呼吸が完全に止まる。

 しかし、エリックも反動で苦しんでいるようだ。

 膝が震えて、胸のあたりを苦しげに抑えている。


 そんな中俺はすぐに直立した。

 すぐに平衡感覚を取り戻し、エリックの方へ歩いて行く。

 痛覚は大丈夫だが、痛みを感じすぎて身体が麻痺したようだ。

 まっすぐに歩行ができない。


 だが、それでも歩く。ひたすら歩く。

 ここで負ける訳にはいかない。

 エリックは俺の動きを見て、目を見開いていた。


「なんで、まだ動けるんだよ……テメェは!」

「痛みには強い方だからな」

「……チッ。舐めたことをッ!」


 激高したエリックが、再び拳を高く掲げる。

 ディープインパクトの構えだ。

 だが、全く魔力が集まっていない。

 エリックの顔に焦りが浮かぶ。


「……畜生、なんでだ」

「魔力切れだ。引用魔法に通常魔法。

 体術一つにも身体強化魔法を使う。

 魔力をそこまで酷使してたら、底を尽くのは当然のことだろ」

 

 エリックの戦闘術は、一見穴がない。

 ドラグーンとしての身体能力を駆使した体術。

 加えて、底知れぬ可能性を持った引用魔法。

 そして、並の魔法師を蹴散らす程の総魔力による通常魔法。


 もはや無敵に近い。

 だが、そんな戦法を取っていれば、エネルギー切れが目に見えている。

 さっきのディープインパクトで、魔法は打ち止めってわけだ。

 俺も少し、ガードに魔力を割き過ぎたな。

 相殺はできたが、かなりの魔力を持っていかれてしまった。


 とはいえ、エリックの魔力はもう尽きかけ。

 ここからひっくり返されるようなことはないだろう。

 そう思った瞬間、エリックの瞳孔が全開になった。


「魔力切れがどうしたッ!

 終わらねえ! こんな所で、オレの復讐は終わらせねえッ!」


 そう言って、エリックは大きく息を吸い込んだ。

 全ての憎しみの力を、かき集めているかのように。

 最大まで呼吸をした後、彼は息を音として爆散させた。

 

「がッ、ぁぁああああああああああああああああ!」


 凄まじい咆哮。

 とてつもない裂帛の気合。

 その大声と共に、彼の全身に再び魔力が満ちた。


 ――魔力は精神に依存する。

 魔法学では基本中の基本だ。

 でも、ここまで効果が顕著な奴も珍しい。

 それ程までに、負けたくないのだろう。

 自分が今まで積み重ねてきたものを、否定したくないんだろう。


「行くぞオラぁッ!」


 エリックが踏み込んで来る。

 凄まじい足運びだ。

 まったく軌道が読めない。

 魔法で対処しようにも、これでは目標が定まらん。


「……くそッ」


 仕方がない。少し火を弱めて距離を取るか。

 しかし、クロスブラストの延焼範囲が広すぎて制御できない。

 ちょっと火力を抑えておくんだったか。


 エリックの拳が唸りを上げる。

 しゃがんで回避すると、頭上から尋常でない風圧が襲いかかってきた。


 これは、骨が折れるだけじゃ済まない破壊力だ。

 クロスカウンター気味に、エリックの額に一撃を見舞う。

 だが、堅くて拳が痛いだけだった。


 皮膚が岩のように硬い。

 対するエリックも、俺の動きを捉えられないでいた。

 数回撃ち合うも、全くダメージが与えられない。

 業を煮やしたエリックが、再び魔法書を開いた。


「……消えろ。

 復讐鬼の怒りで、全て消えちまえッ!」


 もう、魔力はほとんど残っていないはずなのに。

 エリックは全身から魔力を絞り出し、最後の詠唱を行った。

 そのイントネーションは、いつか聞いたことのある魔法の型だった。


「砕キ壊セ殺セ穿テ叩ケ斬レ下セ突ケ討テ落トセ。

 我ガ貶メ汝ラガ享受ス。

 我ガ墓標コソ狂王ナリ――『バルバロス・アポロナイザー』ッ!」


 その瞬間、エリックの身体の周りで激しく魔力が吹き荒れた。

 もはや通常の潜在魔力を超えている。

 英霊の魔力を借りて、異常なまでに魔法が膨張しているのか。


 てか、ちょっと待て。

 今のはまさか、古代魔法か。

 使えるわけがないだろ、普通は。

 だけど、相性さえ合えばなんだって使えてしまうのか?


 何ていう無茶苦茶な魔法だ。

 しかも、その英霊はバルバロス・アポロナイザー。

 十六国時代の書物を漁ったら、第一項に出てくるような人物だ。


 通称――狂王。

 同盟を組んだ七国の連合軍を、自国単独で叩き潰した武人。

 その性格も荒々しく、捕虜の首を全員はねるなど、容赦がなかったという。


 エリックの拳に、ディープインパクトを越える魔力が宿る。

 一歩歩くごとに魔力の風が吹き荒れ、辺りの木が葉を撒き散らす。

 これが、エリックの奥の手か。


 炎鋼車に対して、どうやって対抗するつもりだったのか。

 ずっと気になっていた。

 でも、なるほどな。

 これなら、これほどの圧倒的な力ならば。

 一台くらい、粉砕できるかもしれない。


「……行、ク、ゾ」


 エリックが走りこんでくる。

 まずい。

 あんなもの、衝撃の余波だけで致死量に達する。

 逃げるのが妥当だ。

 その内エネルギー切れを起こすだろう。


 だが、一つ疑念が胸にこみ上げてきた。


 ――ここで逃げてどうなる?

 俺はこいつを止めに来たんじゃないのか。

 死地へ行こうとしているエリックを死なせないために、

 こうやって無茶を押したんじゃないのか。

 

 そうだ。

 正面から、正々堂々と迎え撃ってやる。

 絶対に、止めてみせる――


「来い、エリック!」

「せぇあああああああああああああ!」

「――放つ一撃天地を砕く。

 墜ちる極星、核まで喰らう――『メテオブレイカー』ッ!」


 俺も残った全ての魔力を解き放つ。

 全身に力が漲った。


 視線を前に向けると、突っ込んでくるエリックが見えた。

 これで、終わりにしよう。

 彼の足捌きに警戒しつつ、俺も全力で走りこんだ。


 一撃必殺同士だ。

 確実にここでどちらかが倒れる。

 武者震いを吹き飛ばすため、俺は咆哮した。


「はぁあああああああああああああああああああッ!」


 俺が右拳を振り上げる。

 すると、エリックも腰だめに拳を引き、思い切り打ち出してきた。

 空気の振動を全身で感じる。



「メテオ――」

「バルバロス――」



 すべてを込めて、俺も拳を振り下ろす。

 魔力の波動がぶつかり合い、異常な衝撃波を発する。

 そして、拳の本体。

 その両方が、最大の勢いを保ったまま激突した。



「――ブレイカァアアアアアアアアアアアアアアアッ!」

「――アポロナイザァァアアアアアアアアアアアアアアッ!」



 べキャリ、と嫌な音がした。

 発生源は俺の拳。

 骨が内部で粉砕する感覚。


 ダメだ、このままだと競り負ける。

 向こうは拳に全ての魔力を集中しているんだ。

 それに対して、俺は魔力を全身に分散させている。

 互角以上の力を出すには、身体の機能すべてを使うしかない。


 腰をバネにして、更に一歩踏み込んだ。

 魔力の余波で頬が斬り裂かれる。

 ドロリと、血が流れ出てきた。


 構うものか。

 更に、更にもう一歩、足を前に出す。

 躊躇なく踏み込んで、拳を突き出した。


「がぁあああああああああああああああああああ!」 


 ベギギギィッ、と重厚な音が連鎖して響く。

 痛い――痛みで網膜が真っ白に焼きつく。

 ここまでの盛大な骨折は初めてだ。


 五指がイッたかもしれない。

 だが、勢いだけは完璧に伝わった。

 俺の拳が、全ての力を総結集して振り抜かれた。


 エリックの拳が、ついに弾かれる。

 最大限に魔力のこもった一撃が、奴の胸元に入った。

 そこから、爆発的な推進力で、もう一歩踏み込んで行く。


「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおッ!」


 一撃はどこまでも加速する。

 まさに執念の一閃。

 最高速度で直撃した拳は、容赦なくエリックの身体を吹き飛ばした。


 空中を舞い、彼は滑空するよう飛んでいく。

 そして、遥か向こうまで吹っ飛び、壁にぶち当たった。

 壁に放射状のヒビが刻まれる。


 エリックはそのまま、力なく地面に崩れ落ちた。

 勝負あり、か。

 

 俺はゆっくりと手を開く。

 骨が砕けているようで、違和感と痛覚が酷い。

 ふと視線に意識を向けても、焦点が合わない。


 まずい、血が相当出ているみたいだ。

 危機感を抱きつつ、俺はエリックの元に歩いて行った。


「……エリック」


 声をかける。

 すると、昏倒していたエリックの目が開いた。

 彼は即座に立ち上がる。


 もうほとんど力は残っていないはずなのに。

 ただ怒りと執念で、地面に踏みとどまっている。

 エリックは徒手空拳の構えを取った。

 最後まで、諦めようとしない。


「……まだだッ! まだ俺は負けてねえ!」


 勇敢に吼えるが、その膝は震えていた。

 もう体力と魔力が残っていないのだろう。

 隕石を落とし、大地を砕き、拳を叩きつけた。

 その上で、俺が渾身の一発を叩き込んだ。


 これで魔力が余っていたら、それこそバケモノだ。

 エリックは血を吐きながら、睨みつけてくる。

 その目に宿る光は、少しも曇っていなかった。


「負けるわけには――諦めるわけには行かねえんだよッ!」

「もう、いいだろ。エリック」

「いいわけあるかッ! 仇を討つまで、親父達の無念を晴らすまで、

 オレは絶対に倒れるわけには行かねえ!」


 凄まじい執念。

 復讐鬼と化した精神が、倒れることを許さないのだろう。

 だが、力を支えるその感情は何よりも脆く、そして的外れだ。

 俺は息を落ち着けて、エリックに冷たく尋ねた。


「お前、わかってるのか?」

「……何がだよ」

「まるでさっきから、亡き家族のために戦ってるような口ぶりだが。

 自分が肉親の死を穢してるのを、理解してるのか」

「……なんだと?」


 エリックは荒い息を吐きながら、聞き返してくる。

 あまり、こんなことは言いたくなかったのだが。

 少し語調を強くして、俺はエリックを糾弾した。


「お前は単に、自分の人生を壊した連中が憎いだけだ。

 虚構の家族愛を、そこにねじ込もうとするな」


 そう言うと、彼の眉が一気につり上がった。


「ふざけんじゃねえ!

 俺は息子として、仇を取ろうとしてるだけだ!」


 すさまじい反駁。

 だが、それは虚しい言葉の盾にすぎない。

 俺はすぐに揺さぶりをかけた。


「言い方が違うだろう?

 『俺は貴族が憎いから、

 自分が悲劇の息子である事を理由にして、

 殺戮に手を染めようとしている』。

 今のお前は、まさにこれだ」

「…………ッ」


 エリックは言葉をつまらせた。

 図星、ってわけじゃなさそうだが、あながち間違ってもないようだ。

 後もうひと押しか。


「家族のために戦うことと、家族を復讐の免罪符にして戦うこと。

 この二つはぜんぜん違う。それに、お前は言うまでもなく後者だ」


 俺は言い放った。

 すると、エリックが顔を俯ける。

 そして、脱力したようにボソリとつぶやいた。 


「……ってんだよ」

「何て言った?」

「分かってんだよ! そんなことは、とっくの昔にッ!」


 エリックは思い切り叫び散らす。

 張り詰めていた心が、限界を迎えたのだろう。

 涙を流しながら、感情の塊を爆発させた。


「だけど、どうにもならねえだろうが!

 どれだけ望んでも親父達は帰ってこねえ!

 生きていくには誰かに寄生して、肩身狭く振る舞うしかねえ!

 復讐したくても、そいつは身分が高くて牙が届かねえ!

 こんな状態で、どうやって人を憎まずにいられるんだよッ!」


 それは間違いなく、本心からくるエリックの葛藤。

 彼は最初から、ちゃんと分かっていたんだ。


 このままじゃ、ダメだったってこと。

 復讐を果たそうにも、

 自分がやっていたのはただの憂さ晴らしだったこと。

 死ぬだけで、何の解決にもならなかったこと。


 だが、今まで積み上げてきた怒りと憎しみが、

 それを許さなかったのだろう。

 

「半端にドラグーンの血が混ざってるから、

 どこに行っても迫害されるんだ!

 お前訊いてきたよな!

 今までの経歴を含めて、友達が何人いるかって!」

「ああ」

「いるわけねえだろうが!

 どうやったらこんな半端野郎に友人が出来るんだよ!


 半ば自虐的な風に、溜め込んでいたものを吐露する。

 十年以上にも及ぶ苦痛な歩み。

 人間にもなれず、ドラグーンにもなりきれなかった。

 報復を望んだが、真っ当な方法では糾弾すらできない。

 その末に、彼は復讐鬼と化してしまったのだろう。


 ――だが、やり直せないわけじゃない


「オレには復讐しなかったんだ!

 それがダメになったら、オレの生きる意味なんざ――」

「――じゃあ、新しく作ればいいだろ」


 俺の言葉を受けて、エリックが声をつまらせた。

 意図が良く分からない、といった表情だ。 


「……何をだよ」

「生きる意味だ。

 何かがダメになったからって、全てがダメになったわけじゃない」

「…………」


 エリックは沈黙する。

 反論の糸口を見つけようとしているのか、口を半ば開けて考え込んでいる。

 少しずつ、頭が冷えてきたようだ。 

 感情的な振る舞いがおさまっていた。

 それを確認して、俺は協調的な姿勢を見せる。


「それに、復讐をしたいならむしろ手伝ってやる。

 ラジアス家を叩き潰したいのは俺もだからな」


 俺がそう言った刹那――

 エリックの動きが停止した。

 いきなりである。

 毒気を抜かれ、俺も語調を強めることを忘れてしまった。


 数秒の沈黙が流れる。

 そしてその後、エリックはポカンとした表情になった。

 ……なんだろう。

 俺がおかしいことを言っただろうか。


「何驚いてるんだよ」

「……お前、王都三名家と仲良くなるつもりじゃなかったのか?」

「はぁ?」


 ここにきて、何を言ってるんだお前は。

 王都三名家と仲良くなる?

 あんな曲者ぞろいの連中と、何で親交を深めないといけないんだ。

 

「オレはお前が、王都三名家に肩入れしてるんだと思ってた」


 エリックは付け加えるようにして言った。

 ……そうか。

 そうだったのか。


 ――こいつ、俺がラジアス家や他の貴族に接近すると思ってたんだ。


 ミレィのあしらい方を間違えたのも、恐らくは一因になっているのだろう。

 いや。むしろあれこそが引き金であり、全ての元凶か。

 エリックからすれば、王都三名家はどれも憎悪の対象。

 シャルクイン家を通して、ラジアス家に接近すると考えていたのかもしれない。

 そんな思い違いをされていたのでは、こっちが困惑するのも当然と言える。

 

 とはいえ。

 なぜ食堂でエリックが切れたのか、本当の意味で分かった気がする。

 俺は不快感を露わにして告げた。


「一緒にするなよ。

 あんな性根の腐った奴のいる組織とはつるまない。

 その内、ラジアス家を叩き潰す予定だ」


 そう言うと、エリックは微妙な表情を浮かべた。

 例えるなら、砂利を噛み締めたかのような苦々しさだ


「……なん、だよ。早く言えよ」

「よく考えろ、ラジアス家だぞ?

 あんなのと仲良くなるって考えを抱くお前のほうが怖いわ」


 何が悲しくてジークみたいな輩と友好を結ばねばならんのだ。

 考えただけで恐ろしい。

 俺の言葉を受けて、エリックは歯がゆそうに顔を背けた。

 自分がどれだけ無益なことをしていたか、気づいたようだ。


「エリック。ラジアスを倒すことに関して、協力してくれないか。

 ラジアスをこれ以上王都でのさばらせちゃいけない」

「……ああ。むしろ、オレからも、頼みたい」


 歯切れが悪いが、エリックは頷く。

 一つ誤解を取り除いてみれば、対立する理由なんて最初からなかった。

 むしろ、巨悪ラジアスを倒すために、力強い共闘者にさえなる。

 妙な関係のスライドに苦笑しつつ、俺はエリックに告げた。


「その代わり、一つ約束してくれ」

「約束?」

「これを守れば俺も幸せ。お前も幸せ。

 みんなが幸せになる素敵な約束だ」

「……言ってみろよ」


 エリックが怪訝な様子で続きを促してくる。

 我ながら、怪しい新興宗教の誘い文句みたいだ。

 もう少し言葉を選べなかったのかと後悔する。


 だが、構うものか。

 これだけは言っておかねばならない。

 多少の恥を覚悟して、俺はエリックに宣告した。



「――友達100人作るまで、復讐を達成しても悲観して死ぬのは禁止!」



 エリック、無言。

 俺のエコーが一瞬だけ響き、やがてすべての音が消える。


 世界の時が止まった瞬間だった。

 いや主に、俺とエリックとの間に流れる時間なんだけど。

 エリックは俺の言葉を、ゆっくりと咀嚼している。

 そして、素直に思ったことを、簡潔に告げてきた。


「馬鹿じゃねえの……お前」


 もっともな物言いだ。

 だが、考えなしに言ったわけではないので許して欲しい。

 この要求にも、ちゃんと理由はあるのだ。


 エリックは復讐を果たした瞬間、

 炭酸の抜けたジュースみたいになるかもしれない。

 すると行き場を失ったこいつは、どこかへ失踪する可能性がある。

 だから、一生かけても達成できなさそうな目標を付与しておくのだ。

 

 それに。

 もし仮に100人友達が作れたなら。

 それはきっと楽しいんだろうなって思う。

 

 ――それこそ、死のうだなんて思わないほどに。


 俺はエリックに手を差し伸べる。

 今度は握りこんでなんかいない。

 敵意のない、友人としての挨拶だった。

 すると、エリックは小言を言いつつも、手を出してきた。


「……興が冷めた。ここはお前を信じてやるよ」

「そうか、そりゃどうも」


 最後までツンデレだったな、こいつは。

 砕けた手で、固い握手を交わす。

 するとエリックが、罪悪感に満ちた顔になった。


「……色々と。すまなかったな」

「何が?」

「オレは、多分お前のことを色々と誤解してた」

「気にするなよ。生きてる以上、誤解は避けられないって」


 俺が前世において、思い違いや誤解をどれだけ経験してきたことか。

 避けられないもので落ち込んでいても始まらない。

 気にしていても、仕方ないのだ。


 人間はだれでも誤解をしてしまう。

 そのことを示すべく、俺はエリックに言った。


「俺もな、お前がずっと幼女偏愛者に見えて仕方がなかった」

「今ここで続きの死合をやってもいいぞ?」

「冗談だ。やめよう」


 俺はエリックをなだめつつ、周囲を見渡した。

 そして、建屋の陰に潜んでいたイザベルを発見する。

 彼女は俺と目が合うと、困ったように微笑んだ。


 終始一貫、「お前が言うな」って表情をしてたな。

 彼女の苦笑も、もっともだ。

 エリックの無謀さを責めたのに、俺自身が無茶な潜入をしてたんだから。

 ここまで壮大なブーメランを投擲するのも珍しい。

 しかし、今回はちょっと無理しちゃったな。


 でも、エリックを止めて目的は果たせた。

 友達が増えた。

 収穫は多く、言うことなしだ。

 俺は大きな達成感に包まれていた。


 思わず天に拳を突き上げる。

 すると、べキャリという音と共に、今更になって痛みがこみ上げてきた。


 さて、ここで一つ疑問が湧いてきた。

 この砕けた骨を、どうやって治せばいいんだろうか。

 涙目で手をブラブラ振りつつ、そんなことを真剣に考えていたのだった――


 

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