第五話 痛い出会い
王都の雰囲気。
それは8年前と全く変わっていなかった。
南の貴族街は平和なもので、北の貴族街は殺伐としている。
ただ、勢力的にはある程度の変化があるようで。
ホルゴスの尻に引っ付いていた北の貴族街出身者。
その辺りの連中が何人か没落しているみたいだ。
王都の中央街付近あたりで馬車を止める。
そこから南の貴族街方面に歩いて行こうとする。
その時、少し地面が揺れた。
唐突に、何の前触れもなく。
「……な、なんだ?」
地面が少し震えるが、地震というほどではない。
ただ、嫌な魔力が地の底から漂ってきている。
数秒ほど縦揺れが続いた。
しばらくすると収まり、変な魔力も消えた。
何だったんだ。
まじまじと足元を見つめる。
「何をしておる。早く行くのじゃ」
「ああ、悪い。今の揺れが気になって」
「ただの地殻変動じゃろう。王都付近は立地的に、元から揺れが多い」
「そう、なのか?」
なら、あのひりつくような気配は何だったのだろう。
感じたのは俺だけか?
まあ、アレクが心配してないんだし。
俺がどうこう言っても無駄だろう。
息を吐いて歩を進めていく。
目指すは南の貴族街。
王都は久しぶりなので、ちょっと土地勘がないな。
「待てい」
「どうした?」
「どうした、じゃなかろう。別荘も持っておらん汝が貴族街に行ってどうする」
「……あ、そうだったな」
前に南の貴族街に泊まれたのは、国から借り受けることが出来たからだっけか。
あの場所ではシャディベルガが刺されたイメージしか無いし。
愛着はないんだけどな。つい前回の癖が出てしまう。
「じゃあ、どうやって泊まるんだよ」
「王都入りしたのが遅かったからの。我輩は天空で寝るとするのじゃ」
「ちょっと真似できないスケールのバカだなそれは」
大魔法師様は空中浮遊すら出来るというのか。
そう言えば、よく失念するけど、こいつは大陸屈指の魔法師なんだよな。
かつて邪神と戦い、この大陸を守護した四人の英雄の一人。
俺だって少しは憧れがあった。
まさか、こんなエルフ魔法師が出てくるとは思わなかったけどな。
「じゃあ、俺は知人に泊めてもらうかな」
「汝に友人がおったのかッ!」
「本気で驚かれた!?」
酷い、あんまりだ。
俺が生まれながらにしての孤独野郎ってのは認めるけどさ。
さすがにこの歳で友達が一人もいないってのは悲しいだろ。
前世の俺にこんなことを言ったら、投身自殺するかもしれないけど。
「知り合いに商人がいるんだよ。元傭兵のな」
「ほほぉ……。同じ商人としては気になる所じゃの」
「やめとけ。ただの飲んだくれだ」
あまり詮索されても困るので、そこで話を打ち切る。
まず宿を確保する所からスタートか。
なかなかシビアな王都生活になりそうだな。
入学した後は寮があるらしいから、心配しなくていいんだけど。
「じゃあ気をつけろよ。エルフってだけで奇異な視線を向けられるんだから。
見た目も相まって、犯罪者からしてみれば垂涎モノだぞ」
「周りの人間に、我輩がエルフであることは分からぬ。
それに、我輩に人が集ることは、灯火に蛾が集まるのと同じ。
全て焼き殺せば済む話じゃ」
「穏便に頼むぞ。さんざん無茶してきた俺が言えることじゃないけどな」
刃傷沙汰を起こした後に、
『あの人私の知り合いです』
とか言われたら、俺も死にかねん。
巻き込まれ系冤罪はいつだって俺のトラウマだ。
アレクと別れ、北の貴族街方面へ歩いて行く。
エドガーの店は繁盛してるかな。
あれだけ苦労して再建したのに、潰れてたら承知せんぞ。
商店街へ行く途中に、かなり直角に近い曲がり角がある。
そこを通る時、誰かにぶつかった。
「ぐおりゅ……!」
「きゃあ!」
若い女の子の声が聞こえる。
だが、同時に俺の首へ大ダメージが迸った。
少女は手を遊ばせながら歩いていたようで、
ぶつかった拍子にラリアットを食らってしまった。
腕が細いので力は弱かった。
でも、ちょっと勢いが強かったな。
首がビキッと素晴らしい音を立てたくらいだ。
ちょっと今日はダメかもしれない。
首の厄日かもしれない。
ネックちゃんが断末魔の悲鳴を上げている。
予想以上のぶつかり方をしてしまったことを、少女も理解したようだ。
慌てて俺の手を取ろうとする。
しかし、その寸前で従者が割り込んだ。
ガタイのいい二人の従者。
冷たい視線が俺に降り注いでくる。
「貴様、平民か?」
「違うよ。一応貴族だ」
従者の言葉をはねのける。
ズボンを叩いて立ち上がると、従者が剣を収めるのが目に入った。
なるほど、もし平民だったら斬り捨て御免だったらしい。
ずいぶん剣呑なボディーガードを連れてるんだな。
てか従者か。
ドゥルフが連れていた奴より、仕事ができそうな雰囲気だ。
貴族であると告げても、連中の警戒は全く解けない。
ここで俺が『アイエエエエ! ジュウシャ!? ジュウシャナンデ!?』、
と発狂したらどうなるんだろうか。
と思ったりもしたが、殺されるのは嫌なのでお蔵入り。
俺は従者を無視して少女の姿を観察した。
年齢は俺と大して変わらない。
空色の瞳に、ウェーブのかかった黄金色のセミロング。
全体的に細身な身体で、腰にはレイピアを差していた。
なるほど、こんな美少女と角でぶつかるという運命的な出会いをしたわけか。
これは間違いなく何らかの縁があるな。
出来れば食パンを咥えていて欲しかったが。
「俺はレジス・ディン。王都魔法学院の入学試験を受けに来た」
「……レジス。それに、ディン?」
俺が名乗りを上げた瞬間、少女の目がすぅっと細くなった。
周りの従者が、俺を取り囲むようにしてそびえ立つ。
そして少女は、あろうことかいきなりレイピアを抜き放った。
その鋭利な切っ先を俺に向けてくる。
「私の名はミレィ・ハルバレス・シャルクイン。
当主として、あなたに決闘を申し込むわ!」
「ああ、チェンジで」
「チェンジ!?」
「それ以前に、俺は当主じゃないよ。
ディン家の当主はシャディベルガだ。
ただの実子には決闘を受ける権利すら無い。そのレイピアをしまって早くお帰り」
「……え、えぇ? だって、八年前に当主を交代していたじゃない!」
「あれは一日限定だ」
「……そ、そんな」
本気で肩を落としている少女。
ミレィ、という名前らしい。
そして、シャルクインという家名。
その名字は、そうありふれたものじゃないだろう。
と言うことは、この少女は間違いなく王都三名家の人間か。
しかも、当主。
確か、年齢は俺より一つ上だった気がする。
つまり16か。
ずいぶん若輩で家を継いでるんだな。
7歳の時に当主を一日体験した俺が言うのも何だけど。
ミレィはしばらく落ち込んでいたが、何かを思い出したかのように俺を睨んできた。
「……諦めない。母上が受けた雪辱、必す私が果たしてみせるんだから!」
「俺の伯母さんが、シャルクイン当主を打ち負かした件か?
それ完全にディン家関係ないだろ」
「うるさい! ジルギヌスの血を引く貴方が、
私の敵であることに変わりはないでしょ!」
ダメだ、俺の話を聞いてくれない。
なんで会ったこともない肉親の所業で、俺が責められなきゃならんのだ。
大体、シャルクインなんて名前、つい数日前に聞いたばかりなんだぞ。
いきなり目の敵にされても困るんだが。
思わずため息をつく。
俺の態度が気に入らなかったのか、
ミレィは猛火のような勢いで迫ってきた。
「分かったわ。ディン家が入学資格を取れるようにしてあげる。
その代わり、入学に成功した暁には、私と正々堂々、決闘をしなさい!」
「お心遣い感謝したいんだが、
シャルクイン家だけが賛同してくれても無駄なんだなこれが」
「ど、どういう意味?」
「ディン家はラジアス家からも嫌われてるんだ。
多分ラジアスもディン家の入学資格を拒否するだろうな。
その仲裁が出来るのか?」
「……む、無理かもしれないけど」
だろうな。
王都三名家って言っても、勢力的にはラジアス家一強なのだから。
王国建国時には、王都で同等の勢力を誇っていた三家。
だが、時の流れの中で力の差が出てきた。
勢力均衡的には、ラジアス家が60%でシャルクイン家が20%ってところか。
ちょっと意見を通すのは難しいだろうな。
俺が自信満々に語っても虚しいことだけど。
「じゃ、じゃあ。貴方はどうやって入学試験を受けるつもりなの?」
「国家重要人物からの推薦だよ。
人脈にぶら下がるヒモ野郎が、満を持して入学試験に殴りこみだ。
末永くよろしくな」
挑発を込め握手を求めてみた。
その瞬間、両脇の従者が剣を抜く。
過剰な自衛行為に、俺の腕が動きを止めた。
あと数センチ手を前に出したら、確実に叩き切られていたな。
腕の制止はもはや反射だ。
前世で虐められた経験があるから、相手がどの辺りで暴力に頼ってくるかは目星がつく。
機嫌をとって土下座する毎日。
本当に、あの時は心が死んでたな。
「……身の程を弁えろ、ロクに爵位も持たぬ野良貴族が」
「冗談だよ。気分を害したなら悪かった」
俺は一歩後ろへ引いた。
あまり騒ぎを起こしても何だからな。
理性を失った状態で、俺を睨んでいたミレィ。
彼女は咳払いをすると、指を突きつけてきた。
「まあいいわ、見ていなさい! 私は絶対に負けないんだから!」
そう吐き捨てて、俺の横を通り過ぎていく。
方面からして、北の貴族街方面だ。
やっぱり、そこに屋敷を持ってるのか。
ミレィの後ろ姿を眺めていると、
従者が警告するように暴言を投げかけてきた。
「田舎でのさばっていた豚を片した程度で、あまり増長するなよ。
穢れた一族は辺境に引きこもって一生を終えていろ」
言うことが辛辣だな。
だけど、言い返しても詮なきことか。
俺は肩をすくめて返事をした。
従者は虫を見るような目を向けてくる。
そして愛想もなく振り向き、主人の後ろを追いかけていった。
最初から最後まで、一片の隙もなかったな。
構えが明らかに人を殺すために仕立てられている。
ボディーガードが二人で大丈夫なのかと思ったのだけれど。
二人で十分すぎるの間違いだったか。
あれじゃあゴロツキが徒党を組んでも返り討ちだろう。
「……って、日が暮れるな」
空を見上げると、日が傾いていた。
エドガーに送った手紙に、昼の内に着くと書いたのに。
待たせたら悪いな。
靴を地面で弾いて、駆け足に。
日が暮れる前にたどり着かねば。
頭の中で念じて、俺は商店街を駆け抜けたのだった。
◆◆◆
エドガー魔法商店。
ここは仕入れをかなり丁寧にしていて、固定客も多かったという。
俺が何の気なしに立ち寄った時も、
魔法書の達人編をいくつも取り揃えていたしな。
しっかりルートを固めていた辺り、
商人としては優秀だったのかもしれない。
店主がこれまた強烈な人物で。
傭兵を経験した姉貴系な女性だ。
剣技もずば抜けていて、まさに頼れるお姉さん、と言った感じだ。
そう。
この酒癖さえなければな。
「あ、レジスだぁ! 久しぶりぃ!」
「よし待て止まれ。それ以上近づくなよ」
千鳥足で駆け寄ってきたエドガーを、手で押しのけた。
まだ夜も更けていないのに。まさか昼間っから酒を飲んでいたのか。
そんなもんで経営が成り立つのかこの大バカ店長。
呂律が回っていなくては話にならない。
水を汲んで飲ませてやった。
すると、徐々に頬の赤らみが消えていく。
しばらくして、理性が働いてきたのだろうか。
彼女はいそいそと裾を直し始めた。
「久しぶりだなエドガー」
「8年ぶりだったか。お前も大きくなったな!」
「そりゃどうも。そういうお前は――」
歳をとったな。
と皮肉でも言ってやろうかと思ったのに。
全然老けてやがらねえ。
もちろん、ウォーキンスとは違って見た目に変化はあるのだけれど。
長く伸びた炎のような赤髪。
意志の強そうな瞳。
長身で起伏の激しい身体。
なんというか、色気が増したというか……。
傍に近寄られると色々と困るような外見になっていた。
雰囲気から幼さが消えたからだろうか。
見ていると胸が早鐘を打ってしまう。
「そういうお前は……? なんだレジス」
「――いや、高い酒を呑むようになったんだなと」
「おお、見て分かるのかっ?」
分かりません。
苦し紛れに言葉を濁しただけだ。
しかし趣味が同じだと勘違いされたようで、
いきなりグラスを一個追加し始めた。
そして白い歯をキラリと見せて、最高の笑顔をプレゼントしてくれる。
「お酒で話さないか」
「お断りだ」
「そう言わず」
「俺は酒を嗜まない」
「本当に?」
「本当に」
「じゃあもう呑むしか無いな」
「耳の開通工事をしないと分からんのかお前は」
俺はきっぱりと拒絶する。
するとエドガーは、グラスの縁を指でなぞって不満そうにいじけていた。
俺だって、酒の味は別に嫌いじゃない。
でも、あまり度数が強いのを飲むとすぐに意識が飛んでしまう。
ワケあって控えてるだけだ。
その上、俺は酔ったらどうなるか分からん爆弾を抱えてるんだぞ。
二度と警察関連の世話になりたくない。
それに、エドガーも酒癖がいいとはとても言えないしな。
二人が酔いつぶれでもしたら、どんな間違いが起きるか分かったものじゃない。
自衛策は講じておくに限る。
それよりも。
俺は商店の中を見渡す。そして、あることに気づいた、
「なんか、商品が一個もないみたいだが」
「だろうな。だってここは、あと数日で引き払うんだから」
「……はい?」
おかしいな。
首をヤラれすぎて、ついに聴覚に異常を来したか。
今こいつの口から、店を引き払うなんて言葉が聞こえた気がしたな。
冗談だろ。大切な店を売り飛ばす店主がどこにいる。
「数日は泊めてあげられるけど。それ以降は寮を利用してくれよ」
「……これはまさか、本気なのか?」
「本気も何も。八年前にお前と別れる時から、こうしようとは思っていたぞ」
「なんでだよ。お前、魔法商店の経営が大事だったんだろ?」
「大事だよ。だからこれからも続けるつもりだけど」
「は……?」
何だ。
何なんだ。
俺とこいつの会話に、何らかの齟齬が発生している。
こいつ、店を畳もうとしてるんじゃないのか?
俺が思い悩んでいると、エドガーが分かりやすく説明してくれた。
「出店場所を変えるだけだよ。王都魔法学院内に」
ああ、何だ。
ただの引越しか。店を売り払って、
傭兵にでも復帰でもするんじゃないかと心配したぞ。
剣を振るうお前も格好いいけど、
やっぱりカウンターに立ってるエドガーが一番だって。
間違いない。俺が保証する。
「……って、ちょっと待て。どこに出店するって言った?」
「王都魔法学院」
「それって、俺が受ける所?」
「そうだ。王都にいるレジスを、身近で見たいからな。
教員と販売員の二重職業で、お前をサポートするつもりだ」
「……おいおい、教員になるってお前」
そりゃあ、エドガーが近くにいてくれたら安心するけど。
王都魔法学院に勤めてる教員は、全ておかしいスペックを誇ってるんだぞ。
有事の際には、国王親衛隊に選ばれるようなエリートばかりだ。
そんな奴らの中で働くって。
明らかにお前の気風に合ってないだろ。
「ちなみに採用試験はもう通った。
四回落ちたけど、今年の試験で遂に突破したんだ」
「マジかお前……」
何という努力家だ。
一年に一回しかない試験を、何度堕ちても諦めず、合格しただと?
簡単に言えることじゃないだろう、それは
王都魔法学院は、通ってる奴も教えてる奴も一流が多い。
そんな連中の中に、エドガーは自分から飛び込んで行ったのだ。
伊達や酔狂で志してるわけじゃないってことか。
「一体何がお前をそこまで……」
「レジスの傍でお前の無茶っぷりを見ていたからだ。
そして、ウォーキンスさんも通ったという学院を、くまなく見て回りたい」
「え、ウォーキンスも通ったのか? 王都魔法学院に」
「そう聞いたぞ。八年前、別れる前の立ち話の時に」
そう言うのだったら、間違いはないのだろう。
あの時エドガーは酔っていなかったしな。
妄想が爆発してるわけじゃなさそうだ。
だけど、俺はあいつが学院に通っていたなんて話、聞いたことがないぞ。
さてはあいつ、また伏せてやがったな。
意地悪メイドめ。
「とりあえず、八年ぶりの再会を祝おうじゃないか」
「酒は抜きでな。お前を寝所に運ぶのは骨が折れそうだ」
「あたしが重いということか?」
「違う。お前が酔って俺を襲う可能性があるということだ」
そんなことはしないのに……、と複雑な表情をするエドガー。
だけど、今日だけは酒を排除させてもらおう。
明日が試験日なんだぞ。
もし二日酔いで本気が出せなかったらどうしてくれる。
「そうか……じゃあ酒抜きで行くとするかな」
「そうかじゃねえよ。いけしゃあしゃあと何言ってるんだ」
お前こんなにグイグイ来る感じだったっけ。
あの時は七歳児だから遠慮してたってのは違うよな。
いや、違っていてくれ頼むから。
「じゃあ、レジスの合格を祈願して、乾杯だ!」
果実ジュースが入ったグラスを掲げ、エドガーは高らかに叫んだ。
予め用意してくれていたのだろうか。
部屋の奥から温かい料理が運ばれてきた。
肉と野菜を炒めた豪快な一品だ。
一つ摘んで食べてみると、唾液が溢れだして来て、食が進んだ。
エドガーの顔を見てみる。
彼女はそわそわしながらジュースを飲んでいた。
俺が怪訝に思っていると、エドガーが意を決したように訊いてきた。
「く、口に合うか?」
「ん? ああ、上手いよ。お前が作ったのか。意外と料理できるんだな」
意外だった。
エドガーと料理が線で結びつくなんて。
味付けは少し余分に香辛料が効いているものの、
焼き加減などは文句なしに最高だった。
意外とこいつ、料亭あたりでも成功しそうだな。
「よかったぁ……朝から頑張って作ってたんだ」
「わ、悪いな。気を使わせたみたいで」
「いやいや。レジスのためならこの程度、苦でも何でもないぞ!」
嬉しいことを言ってくれる。
俺が味を褒めると、エドガーは心底嬉しそうに頬を手で抑えた。
そして、彼女も料理を無心に頬張っていく。
八年間会っていなかったことが、嘘であるかのように会話が弾んだ。
就寝時に、
『一人で寝るのが怖いから……』
と見え見えの嘘をついて一緒に寝ようとしてきたので、それは全力で阻止したのだが。
お前に怖いものがあるかと全力で否定してやった。
エドガーのメンタルの強さは尋常じゃない。
俺が断ると、彼女は『ならば明日……』と、不穏なことを呟きながら小部屋に戻った。
警戒しないとマズいか。
王都魔法学院。入学試験前日。
その夜は、とても和やかな雰囲気の中で流れて行った。
そして、翌日。
運命の試験が始まる――