第三話 魔力チェック
元ホルゴス領・現ディン領。
掘り尽くした金山の跡地に立てられた魔法研究所。
そこへと続く登山道を、俺と金髪少女は歩いていた。
ちなみに、シャディベルガは屋敷で執務を再開している。
ウォーキンスは俺が出発する時になっても帰って来なかった。
長い散歩らしいな。
かなりの急勾配なので汗が噴き出る。
しかもアレクが目の前を小さい歩幅で歩くのだ。
少しイライラする。
早く進んでくれよ。
「お前が大陸の四賢って言うのは本当か」
「しつこいのぉ。
我輩の身体より溢れる膨大な魔力を見れば一目瞭然じゃろ。
紛うことなく、我輩は大陸最強の魔法師じゃ」
……この喋り方、年寄りって言うより方言だよな。
しかもかなり身近で聞いた記憶があるぞ。
大都会の影響でも受けたのだろうか。
しかし、邪神がこの大陸に押し寄せたのは500年前。
ということは、最低でもアレクは500歳を越えている計算になる。
歳と見た目が比例しないのがエルフの特徴。
それくらいは知っているが。
ここまで顕著な存在がいていいのか。
「じゃあ聞くけど。俺とお前が戦ったらどうなる」
「死ぬの。お前が」
「大した自信だな」
「汝が我輩の全魔法を修得した後ならともかく。
エルフは素質的な面でも、人間を大きく上回るのじゃぞ」
「反則級の強さじゃねえか」
だけど、そのかわり人間から奇異な視点で見られてるんだよな。
趣味の悪い貴族の玩具にされる程だ。
秘められた才能が多くても、いいことばかりじゃないってことだろう。
しかし、アレクが俺より強いことには納得行かない。
魔力を大量に蓄えている奴は、必ずと言っていいほど見た目に現れるのに。
内部で渦巻く魔力が外に溢れ出し、独特の威圧感を与えてくる。
しかしアレクにはそれがない。
まるで魔法の適性がない一般人であるかのよう。
彼女の身体からは、魔力の気が感じられないのだ。
「お前、魔力を隠せるのか」
「隠しておるわけではない。我輩の内部にある器が大きいだけじゃ。
そこに潜在魔力を全部納めておるからの。
周囲から見ても実力の如何は判断できんのじゃ」
「大陸の四賢であることを、普段は隠してるのか?」
「チヤホヤされるのも鬱陶しいからの。
我輩は大陸のことに干渉せん。
静かに研究が出来ればそれでいいのじゃ」
「難儀なもんだな」
放り捨てた著書を読んだ時。
あの時は、陶酔感溢れる文体に、ただただノックアウトされた。
そして本人はもっと強烈な人物だった。
こんなアクの強い奴が大陸の四賢だなんて、未だに信じられない。
そう言えば、こいつは昔のシャディベルガを知ってるんだよな。
あまり彼は自分のことを話したがらない。
よし、この機会だ。
シャディベルガの知己から話でも聞いておくか。
「アレクと親父はどうやって出会ったんだ」
「学院じゃよ。セフィの姉と学院に滞在しておった時に一件あっての。
それからズルズルと、長い縁ということになる」
「学院? 親父は入学してなかったんだろ」
「シャディはディン家の三男坊じゃった。
本来なら当主には程遠い位置じゃったから、学院の下働きに出とったのじゃ。
限りなく庶民に近い連中に混じってな」
それは初耳だな。
シャディベルガに兄弟なんていたのか。
でも、今のディン家は彼が継いでるんだよな。
兄や弟がいたなんてこと、一度も聞いたことがない。
家督相続時に、争いが起きなかったんだろうか。
シャディベルガの雰囲気を見る限り、あまり悲壮な過去は無い気がするんだけど。
「まあ当時のシャディは卑屈で弱気でな。
蹴飛ばしたり実験の餌食にしても文句を言わんかったから。
あの時は、ここぞとばかりに虐待して研究を進めたものじゃ」
「……鬼畜な奴め」
さてはマッドサイエンティストか。
しかし、シャディベルガにも大層な過去があるみたいだな。
謎の兄弟の存在。
そして大陸の四賢との密接な関わり。
いつかその一件を、俺が知る日が来るのだろうか。
シャディベルガは、苦労人な人生を送ってきたと見える。
あの忍耐強さの根幹は、そこにあるのかもしれない。
なんでいつもあんなに温厚なんだと思ってたけど。
耐えることが日課だったのかもな。
「まあ我輩も当時、敵が多かったしの。
己の失態で失脚しそうになったのじゃ。
その時シャディは、あろうことか仕事を放り出して違うことに奔走し始めた」
「それは?」
「我輩の無実を証明する証拠集め、じゃよ」
「……へえ」
「あの時は驚いたのじゃ。
普段から散々ダシにして苛め倒しとったからのぉ。
間違いなく、我輩の失脚を狙う連中の味方をすると思っておったのに。
終いにはでっち上げだと息巻いて、
我輩の処分検討会議にまで押しかけたのじゃ」
シャディベルガらしいな。
あの人は一つ守ろうと決めたら、意地でも最後までやり通すだろうから。
セフィーナが侮辱された時に、激昂した姿が瞼に浮かぶ。
シャディベルガの領民からの慕われ方も、その気質があってのことだろう。
「結局、その場でボコボコにされておったがの」
「……ああ、親父らしいな」
「その後色々あって、我輩はシャディを連れて学院を出て行ったのじゃ。
仕事を蹴ってな。頼まれていたのはセフィの姉の推薦までじゃったし。
十分仕事は果たしたから、そこで立ち去ったのじゃ」
「ちなみにそれはいつくらいの話だ」
「シャディが汝くらいの歳じゃったから……三十年くらい前か。
つまり、つい昨日くらいの話じゃ」
「お前の時間感覚は超絶におかしい」
シャディベルガが少年時代の話とか、想像も尽かんわ。
どれだけ長い時を生きたら、数十年が一日単位に思えるんだか。
歩くこと数時間。
ようやく研究所が見えてきた。
建てられているのが山の中腹辺りでよかった。
もし『山頂にありますよゲヘヘ』とか言われたら、
無言で建設責任者を腹パンする所存だったからな。
アレクは研究所の姿を認めると、
少し張り詰めたような顔になった。
何かを警戒している。
「……レジス、じゃったか」
「ん、なんだ」
「この地に邪神の噂は流れておらんかったよな」
「多分な。どうしたいきなり」
この世界には、人と一線を画する異形の生物がいる。
一言で言えば、魔物だ。
それらは時として群れを作り、軍団として人に牙を剥く。
そのため貴族が抱える私兵の装備は、
対魔物を想定して作られていることが多い。
他の貴族とぶつかるよりも、魔物と衝突する頻度の方が高いからだ。
ウォーキンスは対人だと剣やナイフを使うが、
いざ魔物が現れると大型武器で立ち向かう。
今日は剣の類が全て手入れ中だったから、クレイモアを使ってたな。
あの武器がエドガーの言っていた大剣なんだろうか。
俺が数年修行したとしても、あの両手剣は使いこなせそうにない。
人間が使う武器じゃないだろあの重さ。
そして、はるか昔に大陸を強襲した魔物が存在する。
圧倒的な魔力・武力を持った『邪神』だ。
止めどなく溢れるどす黒い魔力でその身は隠れ、
封印される最後まで姿は明らかにされなかったという。
アレクは今、その邪神の事を言っているのだ。
「邪神の波動が年々強くなっておる。
じゃから少し禍々しい魔力を感じ取っても、不思議ではないのじゃ。
しかし、こんな辺境に、なぜこんなにもおぞましい魔力が立ち込めておる」
「おいおい、つまり俺の魔力が怪しさが最高潮ってことか」
「違う。汝の魔力は捻くれてはおるが、禍々しさは感じぬ。
しかし、この土地には邪神級の魔力が流れておるのじゃ」
おかしなことを言うな。
平穏の二文字で表せるこの領地に、邪神だと?
封印された過去の話とは、何の関係もない場所だぞ。
「誤差とか気のせいってことはないのか?」
「いや、それもありうる。吾輩が気にしすぎだだけじゃろうかの。
なにせディン領など久しぶりに来たものじゃから。
ガラリと変わった空気に戸惑っておるだけやも知れん」
顎に手を当て、考えこむアレク。
何を心配しているのかは知らないけど。
少なくともここは、大陸でも有数の安心コミュニティだ。
シャディベルガと俺と使用人が、優雅に騙し合い憎み合いが出来るほどに平和である。
恐らく杞憂だろう。
しかし、邪神について聞きたいことがあるな。
「なあ、邪神は確か今の帝国領に封印されてるんだよな」
「そうじゃ。神山の最奥に『終焉の祠』という洞窟がある。
そこの終着地点の泉に、邪神の魂を封じ込めておるのじゃ」
「お前……っていうか、大陸の四賢が封印したのか」
「いや、とどめを刺したのは誰か分かっておらん。
ただ、我輩らが到着した時には既に、封印可能なまでに弱っておった」
「連戦が効いてたんじゃないかな」
「その可能性もある」
まあ今の所、邪神について心配することはないだろう。
封印してた魔王が復活なんて、どこぞのRPGツクール臭満載な事になるはずもない。
封印がどれほど強力なものかは知らないが、
少なくとも俺が人生を謳歌するくらいの暇くらいはあるだろう。
とは言うものの、ふと頭を掠めた疑問がある。
「アレク。もし邪神が復活したら、この大陸はどうなる」
「滅亡するじゃろうな。確実に。太刀打ちも出来ず」
「まだ大陸の四賢がいるのにか。
それに、また大陸中の兵を集めれば対抗できるんじゃないか?」
「汝は何を言っておるのじゃ。
大陸の四賢の一人は老衰死。
我輩を除く二人の行方は知れず。
しかも我輩を含むその三人の種族は、異端として貴族の慰み者になっておる。
この時点で、人間の統治を助けるために動く理由など存在せんじゃろう」
全くその通りで、反論ができない。
イザベルがディンの領内に来た時も、山賊が群れをなして到来していた。
アレは売れる保証があるから、危険を冒してやってきたのだ。
そして、この大陸は数百年前と違い、他の種族を下に見る風潮がある。
貴族がよってたかって、欲望のままに他の種族で遊んでいるのだ。
帝国でも、王国でも。
特にエルフなんて、人間に憎悪の炎を燃やしているだろう。
「しかもじゃ。今は500年前とは違う。
あの時は少国や大国が入り乱れて共闘し、結果として勝った。
今の帝国や王国の長はこう思うことじゃろう。
『500年前は勝てた。王国と帝国が結束すれば勢力の規模は同じ』とな。
しかしここで疑問が湧いてくるのじゃが。
たとえどのような理由があったとしても、王国と帝国が手を組むことはありえるのか?」
「……ねえな。多分」
帝国と王国の仲は冷えきっている。
かたや800年以上前から君臨していた大国と、邪神封印後に台頭してきた新興勢力だ。
しかも長い時間の中で何度もぶつかり合ってきた。
まず間違いなく、両国が手を組むことはあり得ないだろう。
矜持が大切な貴族が、憤怒の炎を燃やして拒否するはずだ。
「王国の内部事情も酷いからの。
腐敗した貴族が上層を占め、国内の統治すら危ぶまれておる。
こんな状態で、邪神に肉薄できるはずもない」
「……じゃあ、今できるのは邪神が復活しないことを祈るだけか」
そうかも知れんの、と頷くアレク。
圧倒的な異形と戦ったことがある彼女が言うのだ。
間違ってはいないだろう。
でも、俺としてはリスクへの予防策は張っておきたい。
まずは人脈を広げるところからか。
シャディベルガが開拓していない人種や勢力。
その辺りと親交を深めるのがいいかもしれないな。
打算的な考えをしつつ、俺とアレクは山道を登っていくのだった。
◆◆◆
「ここが研究所か」
「かなり気合を入れて作っておるようじゃの。
同職連盟の水晶までは揃えられんかったみたいじゃが」
中に入ると、大味な設備がいくつか設置されていた。
鉱石で作った無骨な訓練具。
手をかざすところが付属された巨大探魔石などなど。
研究に使うらしい物品が、綺麗に整列されていた。
「ここで検査とかをするのか」
「魔法を使わぬようにな。
ここは微弱な魔力でも反応する検知具が置いてある」
「分かったよ」
素直に頷いて見せる。
アレクはここに来るのは初めてのはずなのに。
勝手知ったる我が家とでも言わんばかりに、必要物品を集めていく。
「手伝おうか?」
「ふん、汝に手伝ってもらうことなどない」
断られた。
どうやら出来る事は、自分で全て行う主義なようだ。
それでも俺が手伝おうとすると『フシャーッ!』と猫のように威嚇してきた。
やっぱり任せておくか。
ぐるりと研究所内を見渡す。
数人の研究者が黙々と机に向かっている。
それぞれが独り言を呟いている。
少し興味があったので、それとなく耳を傾けてみた。
「……魔法の因果逆転性における必然的矛盾発生確率が予定率を遥かに上回り真に異界へ達する時魔法遠隔切除現象を誘引した魔力の内在圧力が限りなく無へと近づき……」
「……クヒヒ、氷魔法。クヒヒ、肉をも凍らす氷。クヒヒ」
「こ、混魔鉱石を打ち付けた時の、は、は、発生魔力、が、ががが、鉱石物の含有率に、す、す、すす少なからず影響を、あ、ああ、与え……」
俺はゆっくり聴覚を遮断した。
あまり俺が近づいちゃいけない世界みたいだな。
シャディベルガさんよ、ちゃんと全員面接したんだよな?
あんな強烈な研究員たちがいるなんて聞いてないぞ。
俺が戦慄していると、目の前のアレクが冷や汗を流した。
彼女の視線は棚の上に注がれている。
そこには色違いの探魔石がいくつか置いてあった。
アレクはそれをジャンプして取ろうとするものの、全然届いていない。
何をしてるんだお前は。
「取ろうか?」
「手を出すなぁ! 我輩は全て一人で出来る!」
思い切り叫ばれてしまった。
いや、でも全然届きそうにないんだけど。
俺が背伸びしてようやく手が達するくらいの高さだ。
十二、三歳の身体のアレクに取れるわけがない。
「大賢者様なんだろ。魔法で取ったらどうだ」
「研究所内で魔法はご法度と言ったじゃろうが。使うなら奥の隔離実験室でじゃ」
「じゃあお前、どうやって取るんだよ」
「……ぐ、ぐむむ」
心底悔しそうに唇を噛んでいる。
親の敵を見るような目で、棚の上を睨みつけていた。
そして、彼女がその結果出した結論。
アレクは天啓を得たとばかりに振り向いてきた。
「よし、レジス。我輩の足場になれ」
「足場ぁ? そこまでするんなら、普通に俺が手を伸ばせばいいだろ」
「良くない!」
「は?」
「良くない良くない良くないっ!
我輩が己の手によって掴んでこそ、この行為は真の意味を持つのじゃ!」
「賢者様めんどくせえ……」
なんだその無駄なプライド。
偏屈って言っても程があるぞ。
とは言え、立場上俺が一方的に頼んでる側なんだし。
ここは素直に聞いておくか。
俺はしゃがみこむと、肩車の体勢に入った。
アレクは俺の首をまたいで腰を下ろしてくる。
未成熟な肉付きの中に柔らかな感触を感じた。
悪くないです。
「いいか? 立つぞ」
「来るのじゃ」
これで高所恐怖症だったら面白いんだけどな。
流石にそんなことはないだろ。
俺は勢いよく立ち上がる。
すると、俺の頭上から凄まじい音が聞こえてきた。
ズゴンッ、と石に拳を打ち込んだかのような鈍い音。
はて、何かあったのだろうか。
俺が首を傾げていると、涙声が降り注いできた。
「い、痛い! 何をするんじゃ!」
「いや、立ち上がっただけだろ。何かしたか?」
「我輩の頭が天井にぶつかったではないか! 程度を考えるのじゃ大バカ者!」
「わ、悪い」
この研究所、少し天井が低いんだよな。
俺が立ち上がったのと同時にアレクが上体を起こしたから、
天井に頭がクリティカルヒットしたようだ。
仕返しのつもりだろうか。
アレクは俺の鳩尾の辺りを、踵でグリグリ圧迫してくる。
その程度だと、痛みすら感じないんだけどな。
しばらく我慢していると、ようやくアレクが目当ての物をゲットした。
「取ったか」
「ふっ、吾輩の前では高低差すらも意味をなさぬ」
「俺の前では、の間違いだろ」
自信ありげに微笑むアレク。
どう見てもただの中学生くらいの少女です。
そりゃあ大陸の四賢であると明言されても疑わしくなるわ。
どうして俺の知り合いになる人は残念な奴が多いのだろう。
俺が残念な男だからか。
類は友を呼ぶという格言が当てはまるなんて嫌だな。
俺は地面に跪いてアレクを降ろす。
その時、少しアレクが辛そうに顔を歪めた。
一瞬不安になるが、すぐに普通の表情に戻る。
肩車までして手伝ったのだ。
何に使うかくらい訊いても罰は当たらないだろう。
「それ、調査票を書くのに必要なのか?」
「うむ。属性別に素質を調べる探魔石じゃ」
属性別。
火魔法とか雷魔法とかか。
昔ウォーキンスが俺に使ってたのは、総魔力を探知する物だったな。
属性を細かく分けて、資質を調べられるのか。
「よし。調査をするからこっちに来るのじゃ」
「了解」
隣の隔離室に行って、言われるがままに身体を動かす。
設備や物品を取っ替え引っ替えして、魔力の波動を確認していく。
簡単な総合魔力チェックから、魔法の属性適正など。
いろいろ詳しく調べられた。
アレクは一つ結果が出る度に、
『ふむ、ふむ』と頷きながら考察とデータを書き取っていた。
その姿はまさに研究者。
数時間くらいかけて、俺の魔力調査は終わったのだった。
ちなみにアレクは、肩車の最中に背筋を痛めたみたいで。
歩くと痛むと言って、自力で山を降りるのを拒否した。
仕方がないので、下山する時は俺が背負って運んでやった。
もはやパシリ扱いだ。
俺は立場に少しの疑問を覚えつつ、ディンの屋敷に戻ったのだった。
屋敷にて。
俺が休憩していると、アレクは未だにカリカリと調査票を書いていた。
む、むぅ。
何だかこのままサボっているのは心苦しいな。
そこで、俺は珍しく気を利かせてやろうと思った。
これから共に行動することになりそうだし。
少しは親交を深めておこうという計らいだ。
別に、相手が美少女だから浮かれているわけではない。
確かにその動機も少しは含まれているけど。
せいぜい九割九分程度だ。
どこにも邪念はない。
俺より年上みたいだし、あの口調だし。
そっと梅昆布茶を馳走してやろうかと目論んでみた。
だけど残念。
そんな飲み物は存在しなかった。
まず梅なんてものがないというね。
仕方がないので、普通に茶を出してやる。
しかしアレクは、紅茶を『苦いのは嫌じゃ』と突っぱねやがった。
取り付く島もない。
食い下がってみても拒否する始末だ。
でも、捨てるのはもったいない。
俺が紅茶を飲んで、新たに甘いホットミルクティーを淹れてやる。
するとアレクは顔を輝かせながら、それを幸せそうに飲むのだった。
この野郎。