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第二話 大陸の四賢

 

 

 ディン家の屋敷。

 ここは他の貴族の物と比べると、かなり手狭な造りをしている。

 まず二階までしか階層がなく、部屋も小間使いを詰め込んだらいっぱいになってしまう。


 増築を試みたこともあったが、全て焼け石に水だった。

 もっと広かったら、シャディベルガも本の隠し場所に困らないのにな。

 人生はままならないものだ。


 二階の執務室へと足を運ぶ。

 そこではシャディベルガがまったりと茶を飲んでいた。

 ここ数年働き詰めだったみたいだが、見た目はまだまだ若々しい。


 ゆっくり腰を据えて何年も過ごしたからか、

 シャディベルガのそそっかしさも和らいできた。

 心なしか威厳も備わってきたように感じるな。

 俺は執務室内へ踏み込み、彼に声をかける。


「親父」

「……ひっ、うわぁああああああ!?」


 シャディベルガ、絶叫。

 ごめん、訂正だ。

 全く威厳なんてなかった。

 しかし、彼もただの驚き役では終わらない。

 そこからの行動が凄まじかった。


 シャディベルガは床の一部を靴で蹴飛ばす。

 すると、床の隙間に微弱な空間が生まれた。

 それを力ずくでこじ開け、中へ読んでいた本を詰め込んだ。

 そこから回し蹴りを放ち、一気に隠し床を閉鎖した。


 この間わずか3秒。

 シャディベルガもこの8年間でかなりの成長を見せたようだな。

 いや、むしろ退化か。


「何やってんだよ親父」

「あ、ああレジスか。頼むからノックをしてくれよ」

「悪い、てか執務中にそんなの読むなよ」

「単なる息抜きだよ」

「命を落とす危険がある息抜きか。斬新だな」

「……確かに」


 認めるくらいなら、控えたらどうなのか。

 今更言っても止まらないだろうけどな。

 その欲は人として自然なものだから。

 責めても仕方ないだろう。

 責められたら俺も困るしな。


 しかし二重扉がぶち壊された今、隠せる所は少ないはず。

 いつかその床も見つかりそうだな。

 頼むから早朝に折檻を受けて大絶叫を上げるのはやめてくれ。

 門前の鳥が一斉に飛び立ったものだから、天変地異が起きたのかと毎回錯覚するんだぞ。


「それで、何の用だったんだ?」

「探してた奴が、ようやくここに来てくれるんだ」

「ああ、親父の言ってた人か」

「その通り。

 これで王都三名家に認められなくても、入学は可能なはずだ」


 それは嬉しい。

 ホルゴス家を倒したことで、一層入学が厳しくなったからな。

 入学事項が書いてある本を読んで、一時は目の前が真っ暗になった。


 しかし、それでも入学可能なシステムがあるのだろうか。

 俺は視線で説明を求めてみた。

 シャディベルガは茶を啜りながら訊いてくる。


「王都三名家っていう古くからの貴族に認められないと、

 入学できないっていうのは知ってるかい?」

「知ってる。王都三名家ってのは、

 王国黎明期に王都魔法学院を設立した大貴族だろ」

「そう。それぞれの家に強烈な癖があって、

 その内のどれかに嫌われるとまず入学が不可能になるんだ」


 シャディベルガの言っている通り、学院への入学資格は少し特殊である。

 入学試験の前に、まず王都三名家という貴族からの審査を受ける必要があるのだ。

 その際、求められるのは『嫌われていないこと』。

 もちろん、莫大な試験費用を納めているので、三名家側も普通は断ったりしない。


 しかし、蛇蝎の如く嫌われていたりすると、どれかの家が拒否したりする。

 三家が一致して許可を出さなければ、入学試験を受ける資格すらもらえない。

 それ故に、このディン家の人間が入学を果たすのは難しいと思えた。

 

「ラジアス家がホルゴス家と密接につながっていたしね。

 商売仲間を潰されたって印象は大きいはずだよ」


 ラジアス家というのは、王国を創った時に莫大な金を援助した、王都出身の大貴族だ。


 魔法の研究を得意とする一族らしい。

 王国最大の守護兵器・『炎鋼車』を開発したことで有名。

 その兵器を用いて帝国と何度も戦ってきた。


 王国創始の立役者にして、優秀な大富豪。

 平民を毛嫌いする家風があって、王都内で一番恐れられている。

 しかし、全貴族の内では最も人気が高い。

 西の大貴族であるホルゴスとは、懇意であったという。


 となれば当然、類は友を呼ぶ。

 ラジアス家の裏の顔。

 奴らは尋常でなく、排他性が強く陰湿らしい。

 底辺貴族や庶民に容赦なく無理を強いたりする。

 恐らく、ホルゴスを弱体化させたことを怒っているだろうな。


「……それにシャルクイン家とも因縁があるし。

 そこも確実に入学要請を拒否してくるだろうね」


 シャディベルガがため息をつく。

 しかし、そのことは俺にとって初耳だ。

 シャルクイン家。

 確か女性が家督を継いでる女流貴族だったっけ。


 

 ラジアス、ホルトロスと並ぶ王都三名家の一つだ。

 王国を建設する時に、最前線で反対派を蹴散らした魔法の名家だったな。

 騎士出身の貴族なので、規則に厳しく堅苦しい。

 ただし、自分の領内では徴税も控えめで、民衆からの人気も高い。


 顔を見たら唾を吐かれる俺達とは雲泥の差だ。

 しかし、あんな上層貴族と何を揉めることがあったのだろうか。


「因縁? 親父が何かやらかしたのか」

「いや、違うよ。僕は学院に入学してなかったから。

 正確に言うと、因縁があるのはジルギヌス家かな」

「ああ、母さんの方か」

「セフィーナの姉が昔、学院の模擬決闘でシャルクイン家の令嬢を倒しちゃったんだ」

「それで恨んでるのか。たかが授業の一環だろ」

「彼女たちは矜持が高いんだよ。そこらの貴族より、よっぽどね」


 なるほど。

 セフィーナに姉がいたというのは知っている。

 だけど、確か流行病で夭折したんじゃなかったか。

 それでセフィーナが当主を継いで、まもなく滅亡まで追い込まれた。


 ジルギヌス家が嫌われている原因も、上層貴族に遠慮が無かったことにあるのかもしれない。

 あくまで一因だろうけど。


「あと一つの家は基本的に傍観が基本だから、

 許可を出してくれると思うけど。

 ラジアスとシャルクインは確実に拒否してくるはずだ」


 なるほど。

 学院の内部で激しい身分格差があるのは知ってたけど。

 あそこでは、自分より上の家に噛みつかないほうがいいんだよな。

 目をつけられたら敵わん。


 だけどそれに加えて、王都三名家に媚を売っておく必要もあるのか。

 試験費用と入学金は莫大だし。

 胴元の三名家はかなり儲けているんだろうな。


 ディン家が嫌悪されている以上、普通の入学法は諦めたほうがいいな。

 でも、他に何か方法があるのか。

 俺の不安を感じ取ったのだろう。

 シャディベルガは即座に言葉を続けた。


「ここからが本題だよ。

 貴族の機嫌一つで、王都魔法学院への入学資格が左右される。

 そんな制度に先々代国王が疑念を抱いたんだ。

 そして熟議の結果……数十年くらい前からかな。

 王都三名家の許可を受けなくても、優秀な人材であれば入学可能になったんだ」

「その代わり、色々と制約がありそうだな」

「その通り。変な人が入ってきたら困るからね。

 王国が認めた特定の人物の紹介を必要とするんだ」


 要するに。

 入学資格を得る方法は、二つあるということだろう。

 一つはさっき言った通り、学院を牛耳る王都三名家から許可を得ること。


 もう一つは、誰かの仲介を経て資格を得る方法。

 シャディベルガは後者について語っているのだ。


「仲介役として機能するのは、

 まず第一に学院で教鞭を執っていた人。

 そして学院で研究をしていた人。

 例外で、国王が直々に認めた国家重要人物。

 まあ没落貴族が持ってる人のつながりじゃ、普通無理だろうね」


 だろうな。

 王都魔法学院の教師は、ハイレベルな技能を習得している。

 さすが王国随一の学院だけあって、教員陣もずば抜けた地位の人物ばかりだ。


 こんな辺境没落貴族に、縁なんてあるはずもない

 研究者なんてまず接点がないし。最後の国家重要人物なんて、超上位貴族でも会うのは困難だろう。

 まず間違いなく狭き門だ。


 しかし、シャディベルガはそこで不敵に笑った。

 紅茶が入ったカップを置き、射抜くようにして言う。


「だけど僕の知り合いに、その全てを満たしている奴がいる」

「夢の見過ぎだろ。仕事のしすぎで妄想が現実に流入したか」

「なんでそこで信じないんだよ!

 本当だよ。たまたま知人に大陸有数の研究者がいるんだ」

「……嘘臭え。けど、親父が言うんならそうなんだろうな」


 だけど、そんな人物がどこにいるんだ。

 王国における重要人物とシャディベルガに出会う機会なんて、完膚なきまでに無いと思うんだけど。

 こんなド田舎に、国家に多大な貢献をした偉人が来てくれるとは思えん。


「ほら。僕がよく本の仕入れを頼んでるだろ。

 怪鳥を使って届けてくれる奴。あいつの事だよ」

「大陸を練り歩いて本を仕入れてくる奴が、

 国に太鼓判を押されるような人間なのか?」

「人間というか何というか……まあ変人なのは確実だよ」


 シャディベルガは言葉尻を濁すようにして言った。

 いつも彼にメイドイン帝国な物品を持ち込んでくる行商人。

 金に抜け目がなくて、二倍の代金を払えば他人に渡す人だったか。

 どんな奴なのか想像に難いな。


「あいつは本職が魔法研究なんだ。

 王国が建てられる前にできた『古代魔法』……とかを研究してるらしい。

 神出鬼没で、どこにいるのかも分からないんだけどね」

「なるほどな。

 研究施設を異常なまでに整えて環境を良くしたのは、

 その人を呼び寄せるためだったのか」

「あいつは即物的な考えの持ち主だからね。

 甘い匂いがしたら、すぐに飛んでくると思うから……」


 一度言葉を切って、シャディベルガは紅茶を口に運ぶ。

 背後にある窓から優しい陽光が降り注いでいる。

 まさしく平穏といった日常風景だ。


 だけどおかしいな。

 俺の目が狂ってなければ、

 とんでもない非日常が窓の外に見えるんだけど。


 初めはただの鳥かと思った。

 だけど、徐々に近づいてくるに連れ、それが人間であると分かる。

 俺はシャディベルガの傍からこっそり離れ、部屋の反対側へと移動した。

 突然の行動に、彼は首を傾げる。


「ん? どうしたレジス」

「志村ー、うしろー」


 その瞬間、屋敷に盛大な爆音が響いた。

 窓を完全に粉砕し、壁をぶち破りながらその存在は中へ入ってくる。


 凄いなシャディベルガ。

 あんたの予感は鋭い。

 言った通り、飛んできてくれたみたいだ。


 誰も飛来してきてくれなんて頼んでないけどな。

 シャディベルガは間一髪で椅子から転がり、部屋の端で這いつくばっていた。

 無傷か、運のいい奴め。


 ドタドタと、小間使いたちが二階へ上がってくる音がする。

 俺は扉から顔だけ出して、大丈夫だと言って下がらせた。


 土煙が上がる中――

 そしてシャディベルガが「はわわわ」と服を脱ぎ始める中――

 その人物は立っていた。


 ちなみにシャディベルガは紅茶を盛大にぶちまけたようで、

 熱さで泣きそうになっている。

 そんな彼を見て、乱入者は大笑いした。


「ははっ、はははははは!

 なんじゃ、シャディ。いきなり脱ぐとは。

 我輩のいぬ間に露出狂に成り果てたか」

「お、お前! なんで正門から入って来ないんだ!」

「魔力の調節が面倒くさいからの。

 シャディがいい感じに平和ぼけしておったから、いいかなって」

「全くよくない! 誰がなんと言おうとよくない!」


 叫びながら、シャディベルガは壊れた家財道具などを拾い集めていく。

 やっぱり、この人物が探し求めていたキーマンなんだな。

 まあ、キーマンというかキーレディーだけど。


 空から登場してきてくれた人物――見た目は十二、三歳。

 俺の胸の下あたりまでしか身長がない。

 俺だってそれほど高くはないけどさ。


 少女の無造作に伸びた金髪は、床スレスレにまで達している。

 しかし手入れがされていないかといえば全くの逆で、

 純度百パーセントの黄金のように輝いていた。


 清潔な白衣を翻し、全てを見下すような目線で周りを見ている。

 どうやら服装を見るに、特殊な研究職に携わっているようだ。

 古代魔法の研究って何をするんだろう。

 謎だな。


 顔は子供っぽさの塊だが、少女は偏屈さに満ちたクセのある笑みを浮べている。

 思わず抱きしめたくなるほど可愛い。

 何ですかこの生命体は。

 これは反則なインターネッツですね。


 全国に事務所を置く少女愛好会でメシアと崇められるほどの愛くるしさ。

 アメちゃんあげたら付いてきてくれないだろうか。

 でも、アパカッされた後に通報されそうだな。

 やめておくか。今は我慢しよう。


 それ以前に。

 この少女、明らかに見た目と年齢が釣り合っていないよな。

 シャディベルガが手玉に取られてるもの。


「それにお前! 数年前に僕が頼んだ本を、使用人に渡したな!

 後で散々いじめ倒されたんだぞ。しかもそこから音信不通になるし」

「我輩のせいじゃなかろう。

 怪鳥が金に意地汚いだけで、ちゃんと物は届けたはずじゃぞ」

「燃やされたけどな」

「苛烈な嫁じゃからの。

 そうじゃ、セフィはどうした。

 我輩が汝と絡んでおると、剣呑な目つきでナイフを投げてきた我が教え子の妹は」

「……『不起の病み床』で苦しんでいる」

「なんと」


 少女は意外そうな顔をする。

 先ほどまで愉快そうに呵々大笑していた少女は、セフィーナの病状を聞いて意外そうな顔をした。

 シャディベルガはそれに続けて、緊急性を告げる。


「しかも発症から十五年近く経っている。猶予はもう数年もない」

「なるほどなるほど、つながってきた。

 なぜシャディが研究者を厚遇する施設を作ったのかと思えば。

 滅多に連絡の取れぬ我輩を、呼び寄せるためだったのじゃな」

「結果、呼び寄せるどころか窓を突き破ってきたけどね」

「細かいことを気にするでない。

 じゃけえ汝は髪を他人に心配されるのじゃ」

「……お前にそれを言われるとは思わなかったぞ」


 シャディベルガは本気で落ち込み始めた。

 そう言えば、ここ数年でさらに髪質が細くなった気がするな。

 これ以上ストレスが貯まれば根本からハゲ上がるかもしれない。

 やばい、胸がときめいてきた。

 あの遺伝が俺に引き継がれてると思うと、ぞっとするな。

 冗談だけど。


「つまり汝は、我輩の知名度を利用したいわけじゃな。

 ということは何じゃ、学院にでも行くつもりか?」

「僕じゃないよ。行くのは息子のレジスだ」


 シャディベルガが親指で俺を指し示す。

 すると、少女はゆっくりと俺の方を向いてきた。

 舐めるような視線を感じる。

 頭頂部からつま先まで、じっくりと視姦してきた。

 往復して俺の顔に目線を戻すと、一言だけ呟いた。


「母親似じゃな」

「は?」

「シャディの遺伝子が弱腰だったからか。

 まったく、種の生存本能でもシャディは奥手なのじゃな」

「あんた、母さんを知ってるのか」

「もちろん。我輩はセフィの姉を学院に推薦したのじゃぞ」

「……お前、一体何歳なんだよ」


 そう思った瞬間、少女の耳元に目が行った。

 下へ行くことを抗うかのように、上方向へ伸びた耳。

 形はとても美しく、理知的な雰囲気を醸し出している。

 あの形状の耳は、見たことがある。


 八年前。

 山賊を打ち倒した時に見たような特徴……。

 ああ、分かった。


「あんた、エルフか」

「ご明察、じゃな。

 しかし、汝からは不思議な匂いがするの」


 そう言って、少女は俺の元へ歩いてくる。

 そして背伸びをして、俺の首元を嗅いできた。


「……な、なんだよ」

「つまらんの。

 我輩の印をつけてやろうと思ったのじゃが。先客がおったか」

「どういう意味だ?」

「分からんのならばそれでいい。

 しかし、ずいぶん本気な匂いを擦りつけられておるのじゃな。

 そこまで行くと、他のエルフが別の意味で警戒してしまうじゃろうに」


 少女は喉の奥でくっくと笑う。

 靄がかったような説明をするので、真意が読み取れない。

 恐らく昔に、俺がイザベルにマーキングされたことを言ってるんだろうけど。


 あれに大層な意味があったのか。

 俺の疑問を無視する少女。

 彼女は興味が失せたとでも言うように、俺の元から離れた。


「まあ、いいじゃろう。

 我輩とシャディの仲じゃからの。

 推薦くらいはしてやるのじゃ」

「ありがとう、助かるよ。

 僕がこういう時に頼れるのはお前だけだ」

「しかし、入学志願まで期日が近い。

 調査票なども添付せんとダメじゃから、しばし研究所を借りるぞ」

「自由に使ってくれ。そのために建てたんだからな」


 シャディベルガと少女は頷き合った。

 話している感じからして、旧知の仲なのだろう。

 シャディベルガがどこの幼女と関係を持っていたのかと危惧したが。

 逮捕権を持たない俺が、妬みで取り押さえてやろうとも思ったが。


 入学資格を得る関門を突破できるみたいだから、許すとしよう。

 だけど、他の疑問が頭をもたげてくる。

 俺は少女に向かって率直に尋ねた。


「あんた、何者なんだ?」

「我輩か? 我輩の名はアレクサンディア。

 気軽にアレク様とでも呼ぶがよい。

 確かこの家は吾輩の著書を貯蔵しておったな。

 汝も修行する身なら読んでおるじゃろう。

 どうじゃった? 我輩の前衛的観点は」


 胸を張って尋ねてくる。

 まるで砂の城を作って親に、『見て見て!』って言いながら袖を引いてくる子供のようだ。

 無邪気な笑顔と輝かしい瞳をしながら、


「どうじゃ、どうじゃった?」


 と楽しそうに聞いてくる。

 目をらんらんと輝かせる少女。


 ……言えない。

 筆者の自画自賛が出た時点で不法投棄したなんて言えない。

 悪徳商人と一緒に焼却したなんて、口が裂けても言えない。


「……いや、良かったよ?」

「そうじゃろう。

 なんといっても我輩は――

 至高の魔法師・アレクサンディアなのじゃから!」


 決めポーズを作って自己主張する少女。

 もはや事故主張に成り果てている。


 アレクサンディアという魔法師。

 その語彙を頭に思い浮かべた瞬間、俺はとんでもないことに気づいた。


「ちょっと待て! アレクサンディアってことは、お前……」

「お、やっと吾輩の偉大さに気づいたか」


 俺を見て、フッと嘲笑してくる。

 少女は白衣の中から魔法書を取り出す。

 そして何かをボソリと呟くと、服が一瞬にしてローブへと変わった。


 危ない研究者の姿から、凛々しい魔法師の姿へ。

 まるで太古の昔から魔法師はこうであったと言わんばかりに、

 完成された立ち姿。


 その状態で、少女はもう一度自己紹介をする。

 元気な声が、ディン家の屋敷一帯に響き渡ったのだった。



「我輩の名はアレクサンディア!

 かつて邪神を打ち破った大陸の四賢が一人じゃ!」 




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