プロローグ
10章開始
大陸を駆けまわる使者の旅は終わった。
連合国の反乱を収め、帝国を横断し、神聖国を経由したのだ。
途中でシャンリーズにも襲われ、命の危機を何度も経験した。
その反動か、俺はディン家の屋敷に着くと倒れこむように眠ってしまった。
まともにシャディベルガやセフィーナと喋れたのは、翌日になってのことだった。
無事に戻ってきた俺とウォーキンスを見て、二人はいたく喜んでいた。
帰ってくるだけで、顔を見せるだけで嬉しがられるのは、未だによく分からない感覚だ。
前世では、誰にも顔を見せないことが一番の孝行だったというのに。
まあ、再会してホッとできたのは俺も同じだ。
落ち着けるこの場所で、訪れた平穏を噛み締めていた。
そして、現在。
帰還から2週間が経過した日のこと。
王都から一報が届いた。
急ぎの使者のようで、未明にシャディベルガが応対していたようだ。
目を覚ました俺は、自室でウォーキンスから報告を受けていた。
「攻め続けていた帝国軍が、ついに連合国から撤退しました」
「……よかった、守りきれたのか」
「連合国は徹底的な焦土作戦で粘っていたようで、商王に犠牲は出なかったようです」
それは朗報だ。
命あっての物種だからね。
死んじまったら何にもならない。
ただ、連合国内の商業施設がズタボロになったらしい。
復興には恐ろしい時間がかかりそうだ。
「王国が国境から圧力をかけたことで、帝国側も警戒。
あと少しで首都に届いていたようですが、投入した戦力を引き上げたようです」
迅速な救援が功を奏したみたいだな。
さすがリムリスさんやでぇ。
連合国から帝都までは距離があるし、今頃は必死で帰還しているのだろう。
「また、帝国が『仇討の帝勅』を発令したそうです」
「ん……なんだっけそれ?」
帝国の歴史を綴った書物に何回か出てきた気がする。
確か、特別な意味を持つ勅令だったような。
「総力を上げて仇を討つ、という決意を兼ねた宣戦布告ですね」
ああ、思い出した。
帝国の歴史の中で、苦難を迎える度に発令してきた伝統の命令だ。
古くは建国直後の大反乱。そして邪神の襲来。
直近だと数十年前の王帝血戦か。
意味合い的には、非常事態宣言に近いのだろう。
「帝国の言によると、
『我らが君主を手に掛けた大罪、王国の滅亡を以って贖わせよう。この布告、遺志を継ぎしジャンポル王の義憤と知れ』だそうです」
「……は?」
一瞬、思考が止まった。
二箇所ほど理解の範疇を超えてたのがあったぞ。
「ちょっと待て。その言い方だと、今の帝王が死んだように聞こえるぞ」
「はい、王国の暗殺者によって葬られたそうです」
愕然とした。
どうやら、冗談ではないらしい。
まあ、わざわざ帝王の死を発表して焚き付けているんだ。
ここに来て嘘でしたはないだろう。
てことは、なんだ……?
王国と帝国のトップが、それぞれ二人とも逝ったってことか?
「でも、王国にそんな余裕はなかっただろ」
簡単に暗殺者を送り込めるなら、最初から俺を使者になどしていない。
さっさとゼピルなり帝王なりを葬れば良かったのだから。
疑問に対して、ウォーキンスも頷きを返してくる
「そうですね。王宮は老父卿ジャンポルの陰謀であると考えているようです」
「確かに、その線が一番ありそうだな」
しかし、いつのタイミングで殺されたんだ。
確か帝王は連合国に遠征していたはず。
当然、帝王の身辺は厳重警備だったに違いない。
そこを突破できるとなれば、警戒されない身内しか考えられない。
ふと、ここで脳裏を一人の少女の姿がかすめた。
帝王の妹である、エルンベリア姫だ。
もちろん、彼女が帝王を手に掛けるとは思えない。
気丈な性格に見えたから、絶望してはいないだろうが……。
残酷だな。
「しかし――」
と、俺が物思いをしている間にウォーキンスが呟いていた。
濁すような口調に思わず反応する。
「ん、どうした?」
「いえ、なんでもありません。稚拙な推測ですので」
「いいよ、言ってくれ」
稚拙かどうかは聞いてみなければ分からない。
それに、ウォーキンスの推測なら大歓迎である。
俺が促すと、ウォーキンスは顎に手を当てて口を開いた。
「……帝王の暗殺は、ジャンポル卿が絡んだものではない気がするのです」
「他人の思惑で殺されたってことか?」
「はい。もしジャンポル卿の手による謀殺であるとしたら、
各地の諸侯が大人しく従うはずがありませんから」
一理ある。
数多の貴族は帝王の統治に満足していたと聞く。
それを脅かす者は、たとえ帝室の者であっても共通の敵になるだろう。
しかし、帝王の後釜になったのは他ならぬジャンポル卿。
それが許容されているとなれば――
「つまり、帝王が疑いなく『王国の人間』によって殺されたってわけだな」
帝国貴族が納得する程だから、よほど露骨だったのだろう。
しかし、王国から暗殺者は派遣されていなかった。
謎は深まるな。
「陰謀などを一切感じない殺され方をしたのは確かでしょうね。
ただ、その後にジャンポル卿が指揮を取っているのが気がかりですが――」
そうだ、その点も引っかかる。
帝位の継承順位で一位にいたのはジャンポルではない。
帝王の妹であるエルンベリアだったはず。
王家において、継承順位というのは厳格に定められている。
それを覆したとなれば、尋常ならざることが起きたんだろう。
「でも、その辺は実際に見てみないと分かりそうにないな」
「ええ、ですから不確かな推測です。お役に立てず申し訳ありません」
「いいよ、俺が頼んだんだからさ」
お陰でキナ臭さがはっきり分かった。
どうやら王国だけでなく、帝国内でも何かが起きてるみたいだな。
まあ、こんなど田舎に住む貴族が懸念しても仕方ないんだけども。
ため息を吐く俺に、ウォーキンスは続けて報告してくる。
「これは書状とは別件ですが、ロギーさんも先日に帰還したようですね」
「おぉ、無事でよかった」
つい数日前にドラグーンの海上封鎖が解けたと聞いていたが。
はるばる大陸を迂回して帰ってきたのか。
海をいくらでも泳げるってのはいいね。
ただ、えらく時間がかかったんだな。
連合国の情勢でも見届けてたんだろうか。
「また、峡谷から手紙が届いています。エルフの里を経由したのでしょうか」
ウォーキンスが書簡の下から手紙を差し出してきた。
見てみると、イザベルからの手紙のようだ。
すごく丁寧な筆跡で一筆が添えられていた。
『レジス、無事に帰れた?
この手紙を無事に読んでくれていることを願ってるよ。
峡谷はいつもどおり変わらない感じかな。
アレクサンディアは今日の時点でまだ峡谷にいるね。
帝国軍が一時ケプト霊峰付近に布陣してたから、万が一に備えて残ってくれてたみたいだ。
私はまだ後処理で動けないけど、近々アレクサンディアがそっちに行くかもしれない。
なんか色々と企んでるかもしれないから気をつけて。
何かあったら私に相談してね!
それじゃあ、また会う日まで。
親愛なるレジスへ、イザベルより』
うーむ、このアレクの信用のなさよ。
でも、峡谷は特に被害もなかったみたいだな。
彼女たちに何事もなくてホッとした。
「ひとまず、皆の安否が確認できてよかったよ」
連合国への旅で始まった動乱は、一応の決着を見せた。
しかし、帰ってきたところで耳に入る事件たち。
完全な平穏はまだまだ遠そうである。
「最後の報告ですが――王都への招集命令が出ていますね。
正式に国王の逝去を発表したそうです」
「お……ついにか」
国王の葬式と戴冠式だったな。
激務の中、リムリスが2週間で仕上げてくれました。
本当に仕事人だな。
なお、この書状の対象は諸侯一同となっているらしい。
王国の全貴族に、例外なく出ているようだ。
当主が来るかはともかく、全ての貴族が一同に集うのか。
えらい規模の式典になりそうだ。
「なお、この書簡によるとレジス様は名指しで呼ばれていますね」
「なに?」
ウォーキンスに文面を見せてもらう。
宛先はディン家の当主シャディベルガだ。
しかし、書簡には子息のレジスも同行するようにと添え書きされている。
「呼び出しか……嫌な記憶しかないな」
ヨビダシ。
いつ聞いてもトラウマを想起するフレーズだ。
前世の学生時代を思い出すな。
あまり無茶なことを言われないと良いが。
「それで、式典はいつあるんだ?」
「一週間後ですね。王都から離れた地方貴族は既に出発しているそうです」
ふむ、余裕を持って動いたほうが良さそうだな。
遅刻でもしようものなら家の取り潰しまである。
まあいい、十分休暇は取れた。
まだ少し旅路で負った傷が痛むが、休養するわけにはいかない。
「ちなみに、親父はなんて言ってる?」
「数日後に出発するそうです。
レジス様には屋敷で休んでいてほしいと仰っていましたね」
あかん、めっちゃ気を使われとる。
まあ普通に考えて、俺がいなくても問題ないはずなんだよな。
ディン家の当主は紛れもなくシャディベルガなんだし。
しかし、どうやら王宮の人たちは考えが違うらしい。
「ひとまず報告ありがと。助かったよ」
「いえいえ、お役に立てて光栄です」
ウォーキンスは明るい笑顔を浮かべる。
いつ見ても癒やされるな。
今日も一日頑張れそうだ。
大きく伸びをしながら窓の外を見る。
澄み切った青空。
ディン領は今日も平和に満ちていた。
と、ここで視界の端に何かが映る。
「ん、なんだあれ」
よく見れば、屋敷の正門前に誰かが佇んでいる。
所在なさげにキョロキョロしており、都会に出てきた田舎者を思わせる。
もっとも、このディン領こそが王国の辺境なのだが。
「訪問でしょうか? 予定などは入ってないはずですが」
だよな。それに使者ならもっと堂々としているはず。
俺は正体を見定めるために目を凝らした。
すると、懐かしい顔であることに気づいた。
「ちょっと待てよ、あれって――」
長身で赤髪の女性。
元傭兵にして元商人。
エドガー・クリスタンヴァルが、屋敷の前に立っていた。
◆◆◆
シャディベルガは屋敷の中庭で茶を嗜んでいた。
テーブルには茶器と菓子が置かれ、心地よい風でパラソルが揺れている。
そして彼の対面には愛妻であるセフィーナが座っていた。
彼女は無心にクッキーをつまんでいる。
「いい天気だね」
「……晴れは好き」
セフィーナのリハビリに付き合った後、
シャディベルガがお茶をしようと呼びかけたのだ。
傍目から見れば、40代の男性と10代半ばの少女。
親子であるかと錯覚するが、二人の間に漂う空気は長年付き合ってきた夫婦のそれだった。
「身体はどう?」
「……ばっちり」
セフィーナは傍に置いていた修練用の木剣を掲げてみせた。
彼女のジルギヌス家は勇猛な貴族として名を馳せていた。
武闘派としての血が騒ぐのだろう。
「すごいなあ。僕は剣術も武術もからっきしだからね」
「……平気、守ってあげるから」
「いや、それはさすがに僕に任せてよ」
シャディベルガとしても大黒柱の矜持があるのだろう。
セフィーナの木剣に手を添えて苦笑した。
すると、セフィーナは彼を見上げながら告げる。
「……シャディはずっと私を守ってくれた。見捨てずにそばに居てくれた」
「え、いきなりどうしたんだ? 当たり前のことじゃないか」
「…………」
妻の神妙な語り。
その直後に訪れた沈黙に、シャディベルガは困惑する。
しかし、気まずい空気は一瞬。
セフィーナは彼の手を取り、愛おしげに頬ずりした。
「……ううん、嬉しかっただけ」
セフィーナは控えめにはにかむ。
妻のあどけない笑顔に、シャディベルガも釣られてしまう。
「……だから、今度は私の番。シャディは私が守ってあげる」
「そっか、ありがとう。頼もしいよ」
今度はシャディベルガも否定しなかった。
セフィーナの申し出を正面から受け止める。
そして二人は、安穏な雰囲気でこの時間を楽しんでいた。
「……む」
しかし、ここでセフィーナがピクンと反応した。
「ん、どうかした?」
首を傾げるシャディベルガ。
しかし彼女は構わず、正門の横にある垣根をじっと見つめる。
すると、慌てたように外からガサガサと音がした。
「わ、わわ!」
慌てた女性の声が聞こえてくる。
どうやらセフィーナと垣根越しに目があったようだ。
ここでシャディベルガも気づき、ゆったりと正門から声を掛けた。
「何か用かな?」
「ひっ、はう!」
シャディベルガの声掛けで倍驚いたようだ。
門の外に立つ女性は一心不乱に頭を低くした。
真紅の長髪に独特の軽装。
見たところ、武器は携帯していないようだ。
「えっと――」
うっすらとだが見覚えがある。
記憶を頼りにシャディベルガは女性のことを思い出そうとする。
その瞬間、赤髪の女性は必死で弁解のようなことをしてきた。
「こ、これは失礼しました! 決して怪しい者では……!」
しかしどうも噛み噛みで、要領を得ない。
恐らく緊張しているのだろう。
シャディベルガはそう判断し、柔らかい口調で尋ねた。
「僕はシャディベルガ・ディン。君は確か、七年前に闘技場にいた――」
「は、はい……エドガー・クリスタンヴァルと申します。まさか覚えて頂けているとは」
エドガーは驚嘆の声を上げる。
シャディベルガは基本的に、あまり物事を忘れたりはしない。
ドゥルフとの決闘に臨んだ時、客席で暗殺者と戦っていた女性だ。
そんな彼女は今、一人で指を絡ませながらボソボソと呟いている。
「えっと、その……平民の身分で恐縮ですが……お願いがありまして」
「もしかして領民相談かな? 申し訳ないけど、今日は予定日じゃなくて――」
「そ、そうではなく!」
エドガーは裏返った声で否定した。
その反応にシャディベルガも首をひねる。
すると、いつの間にか傍に来ていたセフィーナが告げた。
「……シャディ。多分、客人」
「あ、そうか」
シャディベルガは内省する。
領民から膨大な数の相談を聞いているので、つい癖で直訴希望かと勘違いしてしまった。
考えてみれば、王都にいた彼女がここの領民であるはずがない。
セフィーナの助け舟を受けて、エドガーは引きつりながらも声を絞り出した。
「そうです! レジス君に少し用がありまして」
「レジスに?」
「お話をさせて頂いても大丈夫でしょうか!」
よく分からないが、レジスの客人を断る道理はない。
シャディベルガは快く門を開いた。
「もちろんいいよ。上がっていって」
「あ、ありがとうございます!」
エドガーは深々とお辞儀をした。
そしてシャディベルガの導きのまま中庭に足を踏み入れる。
そんな中、セフィーナがシャディベルガにボソリと呟いた。
「……相変わらず人がいい」
「いや、普通の対応じゃないかな。なにかおかしい?」
「……別に」
その会話を聞いて、エドガーはしまったというような顔をした。
確かに、書状などで事前に訪問の約束を取り付けておくべきだった。
もっとも王国貴族であれば、平民の面会希望など無視するのが常識であるのだが。
「……も、申し訳ございません」
レジス帰還の報を聞いて飛び出してきたため、完全に後手になってしまった。
恐らく自分の訪問で、二人の時間を邪魔してしまったのだろう。
再びエドガーの顔色が悪くなる。
「……責めてない。気にしないで」
しかし、ここでセフィーナが直々にフォローを入れた。
表情が読み取りづらいが、不機嫌なわけではないようだ。
緊張を残したまま、三人は屋敷の中に入る。
ここでエドガーは、この少女の存在が気になった。
まだ幼ささえ残る容貌だが、当主であるシャディベルガと対等に接している。
該当する間柄を絞り込んだ結果、エドガーは慎重に尋ねた。
「もしかして、レジス君の妹様でしょうか」
「……違う。レジスは私の子」
「え?」
エドガーの目が点になる。
言葉に詰まったようで、口を無意識に開閉してしまっていた。
それを見て、セフィーナは小鳥のように首を傾げる。
「……なにか?」
「セフィーナ、威圧しない。普通は驚くだろ」
「……威圧なんてしてない」
シャディベルガの指摘に、セフィーナはムッとする。
そんな二人の後ろで、エドガーは驚きの事実を必死で飲み下そうとしていた。
先ほどの『レジスは私の子』発言に、シャディベルガは訂正を入れなかった。
まさか二人して自分をからかっているということはないだろう。
「ということは、本当に……」
エドガーの思考が完全にショートする。
妹ではないのに。間違えてしまった。
失礼だ。失敗した。謝らなければ。
早く、誠実に、迅速に、今すぐに――
「し、失礼しました! お母様!」
飛び出してきた言葉は、シャディベルガを吹き出させるものだった。
恐らく、エドガーも自分で何を言ったか分かっていないのだろう。
「……お母様?」
セフィーナは困った顔をする。
その横では、驚きつつも笑いをこらえているシャディベルガ。
そんな二人に対して、エドガーは平身低頭で弁解していた。
「ふ、不束者ではありますが、決して不埒者ではありません。
失礼を致してしまいましたが、何卒レジス君との面会だけは……!」
「なんの挨拶だよ一体」
ここで、エドガーにとって聞き馴染みのある声が聞こえてきた。
彼女は慌てて上階を見上げる。
するとそこには、レジスが呆れたような顔で立っていた。
横にはウォーキンスもいる。
「レジス!」
歓喜の声を上げるエドガー。
しかしすぐに両親の存在を思い出し、弱々しく言葉を紡ぐ。
「……くん。お久しぶりです」
「いや、普通に喋ってくれ。その口調で接されたら逆に怖いよ」
確かに、一度としてレジスに君付けなどしたことがない。
慌てふためくエドガーが面白かったのか、レジスも苦笑を隠せないでいた。
レジスとウォーキンスの姿を確認したことで、シャディベルガは案内を終えた。
「それじゃウォーキンス、案内してあげてくれるかな」
「かしこまりました。エドガーさん、こちらへ」
ウォーキンスは一階の応接室へ案内しようとする。
エドガーは中庭へと去っていく二人に礼を言い、舞い上がるようにその後を追った。
そして自分の恩人である使用人に挨拶をする。
「ウォーキンスさん、お久しぶりです!」
「ええ。お元気そうで何よりです。立派な女性になられましたね」
「いえいえ、ウォーキンスさんには一生敵いませんよ」
当初、姿の変わらないウォーキンスにエドガーは驚いていた。
しかしすぐに気分を切り替え、最大級の敬意を払う。
それに対し、ウォーキンスは気品に満ち溢れた所作で返事をしていた。
一通り挨拶を済ませると、エドガーは改めてレジスの方を向く。
「レジス、会いたかったぞ!」
「俺もだ。会えて嬉しいよ」
思えば、こうして話すのは王都魔法学院が潰れて以来である。
連合国に出発する時も、戻ってくる時も、タイミングが悪く再会できなかった。
エドガーもそのことを残念に思っているようだ。
「まったく、王都に帰ってきた日に声を掛けてくれればよかったのに」
「すまん、急な用事で立て込んでたんだ」
「まあ、国王が死んじゃったら仕方ないな」
エドガーは重々しくうなずいた。
今、王国は激動のさなかにある。
その中で会うには、こうして直接出向く以外にはないだろう。
ここでレジスは、エドガーに気になっていたことを尋ねた。
「それで、何か話でもあったのか?」
「ああ、ちょっと耳に入れておきたい情報があるんだ」
「ほう」
レジスは興味ありげに反応した。
ひとまず応接室に入り、落ち着けるソファに座る。
そしてウォーキンスがお茶を用意してくれたところで、エドガーは切り出す。
この王国を揺るがすに至った、怪しい少女のことを。
これから気をつけねばならない、恐ろしき暗殺者のことを。
「――国王暗殺の犯人について、知りたくないか?」
ご意見ご感想、お待ちしております。