第八話 放たれた詭謀
ソニアの宣告によって、幕を開けた商王議。
まずは筆頭商王であるソニアが口を開いた。
「では。本日審議する内容をお伝え致します。
私の方からは、大きく分けて二つの懸案を提示させて頂きます」
そう言って、今回の招集理由を並び立ててていく。
まず一つには、頻発する竜騎士襲来への対策を立てるためだ。
ここ一年、連合国ではドラグーンの猛攻が異常なまでに続いていたという。
集合の号令をかけてからも、被害は拡大する一方だった。
その極めつけが、今回俺たちも経験した首都襲撃と、海上での商王殺害未遂である。
ドラグーンが暴れていては、本業である商売にも支障が出てくる。
その対策を考えるというのがまず一つだ。
そしてもう一つは、これから話されるであろう石版について。
ソニアは各々の表情を見回しながら、粛々と告げた。
「皆様。竜騎士に奪われた魔吸血石――覚えておいででしょうか」
魔吸血石。
その言葉が出た瞬間、多くの商王が顔をこわばらせた。
彼らにとっては命に等しい物品だ。
過敏になるのも無理はない。
死への恐怖を引き出した上で、ソニアは胸を押さえる。
「いつ破壊されるのか、代償に何を支払わされるのか。
石版に心臓を縛られた方は、夜も眠れず過ごしていたことでしょう。
他ならぬ私も、そうでした」
親帝国派の一部を除き、ほぼすべての商王は石版と心臓が連動している。
脅威である魔吸血石を逆手に取り、ソニアは連帯感を高めようとしているのだ。
我々は皆、運命を共にしている仲間であると。
「しかしご安心ください。
魔吸血石を持った竜は力尽き、王国領へと流れ着いていました。
そして石版を拾い、王家の勅命の元に届けてくださった方たちがいます」
ここで、ソニアがこちらに視線を注いでくる。
俺たちの出番だな。
ウォーキンスやバドと共に席から立ち上がり、彼女による紹介を受ける。
「王国貴族――レジス・ディンさん。及び、王国の臣民の方々です」
「このような栄えある会議に参席させて頂き、光栄に思います」
苦手な敬語。
砂利を噛むような感覚が脳裏に広がる。
しかし、だいぶ慣れてきた……はずだ。
棒読み感を最小限に抑え、二人と共に一礼した。
そして俺は一歩踏み出し、ソニアのすぐ真横に移動する。
「レジスさん、魔吸血石ですが――」
「はい。こちらに」
懐から脈動する魔吸血石を取り出す。
すると、商王達は目に見えて安堵の表情を浮かべた。
中には大きく息を吐いて脱力する者もいるほどだ。
俺は再び頭を下げ、石版をソニアに差し出した。
「これからも両国が友好でありますよう、王国を代表してお願いする所存です」
「こちらこそ、筆頭商王としてお願い申し上げます」
渡される魔吸血石。
このやりとりが大事なのだ。
事前に打ち合わせをしていたのか、親王国派の商王が高らかに拍手をした。
それに釣られ、中立派の商王らも空気に呑まれる。
その上で、親王国派の商王たちが喝采を叫んだ。
「素晴らしい、実に素晴らしい!」
「ドラグーンの蛮族に狙われる危険を顧みず、
こうして連合国まで返還しに参られるとは!」
「これぞ我が国と王国の間にある固き絆!
これからも贔屓にすることに依存はありますまい!」
親王国派による援護射撃。
王国が一番の上客である彼らにとっては、まさに栄達の好機。
場を呑み込まんばかりの熱狂を生み出す。
対照的に、親帝国派の多くは苦い顔をしていた。
一連の拍手を受けて、ソニアが安堵したように告げてくる。
「レジスさん、ありがとうございました。
この通り、王国に恩義を感じる商王多数であるとの旨、国王殿にお伝え頂ければと思います」
「ありがたき幸せ。謹んでお受け致します」
よし、第一関門は突破。
魔吸血石を返還し、王国に与する雰囲気を拡散する。
これを成し遂げた今、次のステップに移行だ。
俺は深々と頭を下げながら切り出す。
「ただ、商王の皆様に一つだけお願い申し上げたく存じます」
「なんでしょう?」
ソニアの合いの手。
俺は息を整えて、暗記した口上を述べていく。
「そちらの魔吸血石なのですが、
王国海域に流れ着いた黄金竜の内部から見つかったものでした」
そう、魔吸血石の次は、黄金竜の処理だ。
石版を届けると共に、ドラグーンキャンプの憎悪を王国から連合国へ逸らさねばならない。
俺は黄金竜の解説を加えながら、苦渋の表情を演じる。
「つまり、単に王国が石版を届けたとなれば、ドラグーン達は誤解してしまいます。
黄金竜を死に至らしめたのは、王国の手によるものであると」
なるべく外堀から埋めていったつもりだ。
しかし、一部の商王は何が言いたいのか理解したのだろう。
勘弁してくれ、というような顔をする。
だが、俺は断固として言い切った。
「そこで、非常に申し訳なく思いますが――”黄金竜を討ち取ったのは連合国”。
この声明を外へ向けて、正式に発表して頂きたく存じます」
これで、俺の発言する内容は終わった。
後はソニアが上手く総意をまとめてくれるはず。
ここを乗り越えれば、俺が商王議で果たすべきことは終了するが――
「馬鹿な!」
「血迷ったか王国の使者よッ!」
ここで、この大広間に怒号が響いた。
親帝国派の商王たちが一斉に騒ぎ立てたのだ。
まずい、ここで場の空気をいじられては不利だというのに。
ソニアが慌てて仲間の商王にアイコンタクトで指示をする。
だが、それよりも早く親帝国派が強烈な反論を叫んできた。
「その竜がどこで死んだか、何が原因で死んだか分からぬというのに!」
「王国の海兵がトドメを刺したかもしれぬであろう!?」
「原因を究明するまで声明など発表できるか!」
あてずっぽうに近い発言。
黄金竜がなぜ絶命したかを知っている身としては、呆れざるを得ない。
しかし、連中の話は他の商王からすれば確かめようのないこと。
そこにつけこむ隙はある。
いわば、言ってしまった勝ちなのだ。
「……王国側が事実を知った上で、
責任をなすりつけている可能性もあるわけか?」
中立派の一人の商王がボソリとつぶやいた。
それを発端に、中立派の間に少しずつ動揺が広がっていく。
ここで親帝国派の商王が追撃を加えた。
「黄金竜を殺したなどと発表すれば挑発と取られかねん!
ドラグーンキャンプに接する商王が害を被るのは明らか。
王国の肩を持ち、我が国に災いをもたらす提案など、認めるわけにはいかん!」
「まあ……少し落ち着くのじゃ。
原因がわからぬなら、それこそ王国を疑うのは詮なきことであろう」
過熱する円卓の間を、冷静な声が通り抜けた。
ヘラベリオが王国への不信を煽る親帝国派と、
それにどよめく中立派の商王たちを睨みつけたのだ。
「それに、じゃ。
そもそも石版が奪われた際、貴様らは兵を出したのか?」
その視線を受けて、全ての商王が押し黙る。
そう。魔吸血石を竜騎士に強奪された時、多くの商王は兵を派遣しなかったのだ。
全商王が協力して守る認識がある中、この失態は大きい。
それを確認した上で、ヘラベリオは続ける。
「黄金竜がどこで死のうと、撃墜したのが竜殺しであることは確実。
責任の所在が我が国にあることは変わらんじゃろう?」
商王の最長老にして中立派最大の財閥。
そんなヘラベリオの説得を受けて、少しずつ王国やソニアを責める声が少なくなる。
だが、これを親帝国派の商王が黙って見ているはずもない。
「ヘラベリオ公。
あなたは石版に心臓を繋がれた恐怖のあまり、届けた王国に媚びているだけだ。
大勢を見誤ってはならない」
ここで口を開いたのは、ゼピルの右隣に座る男。
確か、アヴァロ・シルヴァー・イスリアという名前だったはず。
ゼピルの左隣に鎮座するザナコフと並んで、親帝国派のNo.2だ。
ドワーフに対する一方的な鉱石の買い付けで、莫大な財を成した新興の商王と聞く。
アヴァロに糾弾されたヘラベリオだが、彼は飄々と言い返す。
「それは儂の台詞じゃ若造。
我がギルディア家は初代の頃より何者にも屈さず、中立を貫いてきた。
帝国に尻尾を振る貴様には分からんじゃろうがな」
親帝国派の商王が帝国と通じているのは明白だが、暗黙の了解で見逃されている。
そこをダイレクトに突っ込んだので、アヴァロも激高を見せた。
「確証もなしに世迷い言をッ! 気を違えられたか!」
「貴様こそ口の聞き方に気をつけよ。
同じ商王でも儂はゴルダー。
脆弱な貴様と違い、媚びる必要などないのだ」
ゴルダー、それにシルヴァー。
これは商王が名乗る役職名であり、そのまま商王としての格を意味しているらしい。
連合国の商王はそれぞれ、
ゴルダー・シルヴァー・ブロンザーと分けられる。
ゴルダーは全部で3家。
シルヴァーは5家。
ブロンザーは10家である。
その格は連合国に収める上納金の多さなど、貢献度の高さで決められているとか。
ちなみにゴルダーに数えられる3つの商家は、奇しくも各派閥にバラけている。
一つはソニア率いるアストライト家――親王国派。
一つはヘラベリオ率いるギルディア家――中立派。
一つはゼピル率いるデュラニール家――親帝国派。
それ以下のシルヴァーは親王国派に1家、中立派に2家、親帝国派に2家。
ブロンザーは親王国派に2家、中立派に5家、親帝国派に3家である。
商王議での票数は等しく一人一票。
しかし対立や力関係ゆえに、会議中で派閥を超えた結束が起きることもあるとか。
ゼピル達が狙っているのは恐らくそれだろう。
こちらとしては口車に乗らないよう、票を固めながら親帝国派を指弾するだけだ。
だが、こちらの思いとは裏腹に、関係ないところで口論が白熱していた。
アヴァロが声を荒らげてヘラベリオに食い下がる。
「腑抜けたなヘラベリオ公。
シルヴァーであれど、私もこの席に名を連ねる商王!
命惜しさにアストライト家へ擦り寄る貴方と違い、この座に誇りを持っているのだッ!」
ここで引いてしまえば、派閥への印象に影響する。
どれだけ中立派を抱き込めるかが勝負なので、アヴァロは一歩も引かない。
そんな彼に対し、ヘラベリオは辟易した様子だ。
「そんなこと言われても、貴様らグリドラ家には手を焼かされたからのぉ」
ヘラベリオは溜息を吐いて受け流す。
しかし、ここでアヴァロが「信じられない」と驚愕の顔になった。
彼は青筋を立ててヘラベリオを怒鳴りつける。
「グリドラは50年前の商王だ! いつの時代の話をしている!」
「おや、すまぬすまぬ……貴様の都市は頻繁に商王が変わってめんどくさくてのぉ」
この爺さん、ソニアに対しても似たようなことをやっていたな。
相手を煽るためのものなのか、それとも本当に忘れているのか。
飄々としているので判断がつかない。
「そうじゃ、今思い出したぞ。
貴様はあれじゃろ、薬売りのバロイング家じゃったな」
「それは80年前の商王だ……!
ヘラベリオ公、我が家に対する侮辱も大概になされよ」
アヴァロの目は完全に据わっていた。
ここが会議の場でなければ剣を抜いて斬りかかっていただろう。
まあ、執拗に家の名前を間違えるのは無礼極まりない。
王国でやったら一生恨まれるレベルだ。
しかし、ヘラベリオはどこ吹く風でアヴァロを見据える。
「有象無象には興味がなくてな。
まあ、そんなことはどうでもよい。
聞き分けを知らぬ小さき商王よ――耳をかっぽじってよく聞くのじゃ」
アヴァロを制し、自分の発言を待つよう要求する。
そしてヘラベリオは小さく息を吸い、真面目なトーンで宣告したのだった。
「儂はいついかなる時でも中立。
しかし今は恩義に従い、この場のみナッシュの肩を持つ。以上じゃ」
簡潔な一言。
親王国派への肩入れを宣言したヘラベリオに、周囲の商王もざわめく。
しかしその瞬間、アヴァロが瞳の奥に強い光を灯した。
反撃の糸口を見つけた――そう言いたげな目である。
彼はヘラベリオを貶めようと声を大にして主張した。
「見たかッ、聞いたか皆の衆ッ!
詭弁を並べ立て、結局は保身に逃げるこの醜態を!
常に中道を往くギルディア家が、聞いて呆れる!」
そう言って、アヴァロは中立派に視線をやる。
完全にやり遂げたつもりだったのだろう。
だが、そこに広がる光景は彼の思い通りのものではなかった。
「――――」
中立派の商王は、困惑と猜疑の目でアヴァロを見ていたのだ。
まあ、相手が悪かったな。
中立を謳うヘラベリオに対し、帝国に与する商王が文句をつけたのだ。
外から見れば、帝国への利益誘導をしているようにしか見えない。
その上、ヘラベリオ率いるギルディア家は、初代商王より系譜の続く最古参の家だ。
新興の成り上がりであるアヴァロとは、実績と信頼性がてんで違う。
己に向けられる視線を受けて、アヴァロは絶句した。
「…………ッ」
だが、ここまで来て引くことはできないのだろう。
彼はなおも何か反撃の言葉を紡ごうとする。
しかし、ここでアヴァロを止める者が現れた。
ソニアではない。
普通であれば彼に味方すべき人物が、冷静に制したのだった。
「もう良いでしょうアヴァロ。君が引きたまえ」
「……し、しかしゼピル殿」
ゼピルが止めに入ったのだ。
親帝国派のトップ直々の命令。
いきなりのフレンドリーファイアーに対し、アヴァロは困惑した表情を見せる。
しかし、ゼピルは彼に対し優しく声を掛けた。
「家の長き伝統に抗うという、ヘラベリオ殿のご英断だ。
中立を盾に国内の事変から逃げ続けてきた過去を思えば、素晴らしいことじゃないか」
褒めるようでけなすとは。ずいぶんと高等なテクニックだ。
論者として活躍した過去を持つ俺としては、その煽りスキルを認めざるをえない。
しかし、ヘラベリオはその挑発を軽くいなす。
「国内の事変とな……? ああ、貴様が悪しき国より持ち込んだ火種の数々か」
「裏付けの取れぬ讒言はおすすめしませんな。
ゴルダーとしての品位を疑われますゆえ」
両ゴルダーが静かに火花を散らす。
だが、中立派の最大勢力と親帝国派のまとめ役の対立という構図が完成した。
こちらにとっては好都合。
もはや効果十分と踏んだのか、ソニアが恐る恐る仲裁に入る。
「ぎ……議題から逸脱した私語は謹んでください」
「おや、これは申し訳ない」
先に頭を下げたのはゼピルだった。
彼はソニアに止められるやいなや、何の未練もなく引き下がってみせた。
その対応に、ヘラベリオも違和感を覚えたのだろう。
複雑な顔をしつつも、ソニアに司会進行を促した。
「何にせよ、どちらが正しいかは投票で決する。
黄金竜の殺害声明の是非を疾く採決するのじゃ」
それに応じて、ソニアは大きく息を吸う。
そして今回の商王議最大の山場になるであろう発議を行った。
「では、”黄金竜を討ち取ったのは連合国”との旨を正式発表する懸案について、採択を行います」
そう言って彼女が取り出したのは、うっすらと魔力が宿った紙。
魔法具ではなさそうだが、魔法がかかってるのか。
偽造や工作防止のためっぽいな。
彼女はそれを全員に配った上で、投票するよう呼びかけた。
「手元の紙に、賛成反対のどちらかをご記入願います」
その声がきっかけとなり、次々に商王が筆を執る。
全員の記入が終わったのを確認し、慎重に紙を集めていく。
「では、開票致します――」
確認をとった上で、ソニアは集計を開始した。
そして票の全容を確認した瞬間、彼女は驚きで目を見開いた。
何だ、どんな結果が出たんだ。
まさか、反対多数になってしまったのか。
先ほどの舌戦がそこまで影響を及ぼしたとでも?
「声明の発表について、賛成票が――」
束ねた紙を震えた手で持つソニア。
すると彼女は、衝撃の一言を告げてきた。
「……18票。当議案は、全会一致で採択されました」
発表された刹那、
円卓の間でなんとも言えぬ雰囲気が広がった。
18票。
それはつまり、反対者が0人ということだ。
親帝国派は反対に回ると踏んでいた。
その布石として、連中は周囲の商王に反発していたのだと思っていた。
しかし、結果は全会一致の反対者なし。
「…………」
本来ならば、ここは喜ぶべきところだ。
王国の使者としての仕事が、完全に果たされたことになるのだから。
しかし、あまりにも不気味だ。
ここで、ゼピルら親帝国派が盛大な拍手を打ち鳴らした。
「派閥を越えて国難に臨む。
素晴らしいことですなぁ。もちろん私としても依存はありませぬ」
ゼピルは不気味に微笑んで見せる。
他の親帝国派の表情を窺うが、いずれも無表情を貫いていた。
どうやら伊達や酔狂で賛成してきたわけじゃなさそうだな。
何か狙いがあってのことだろう。
「意外じゃのう。貴様ら6人は反対に票を投じると思ったが」
ヘラベリオは横目でゼピルたちを見据える。
懐疑の視線を向けられるが、ゼピルは平然としていた。
彼は肩をすくめてヘラベリオに声をかける。
「害敵ドラグーンに対して打撃を与えた功績を、なぜ隠し通す必要がありましょう?
我々はあなた方と同等、もしくはそれ以上にこの国を大切に思っております。
無用な疑いはご遠慮いただきたい」
この言い分。
今は亡きラジアス家の当主、クロードを思い出すな。
あいつは帝国への接近をひた隠しにしていたが、こちらは比較的オープンだ。
連合国が制定する大元の規則を守ってさえいれば、どの国と商売をしようが商王の自由。
その違いだろう。
攻撃材料のカードを使い切ったのか、ヘラベリオは発言をやめる。
「…………ナッシュよ。他に議題は?」
「いえ、ありません。石版の返還と声明発表の採択だけです」
「ならばこれで終いじゃな。
まったく、無為に満ちた会議じゃったのぉ」
ヘラベリオが腰をトントンと叩く。
それを境にして、商王議閉幕の雰囲気が漂い始める。
まあ、親王国派としては十分に成果のある会議だった。
俺たちの仕事もようやく終わりだ。
安堵の息を吐くと、ソニアが締めの口上を述べ始めた。
「では、皆様。これからも我が国の独立を第一に、友好国である王国と――」
「少し、お待ちくだされ」
どす黒く、策謀と欲望の入り混じった一言。
ゾワリと、背中に液体窒素を流し込まれたかのような寒気が走った。
商王議を終わろうとしていたソニアに、ゼピルが待ったをかけたのだ。
商王たちが首を捻る中、ゼピルは新たなる発案を提示する。
「商王が勢ぞろいなさったこの日――良い機会です。
以前より議題に上げようと思っていた案件を、ここでお話したく存じます」
にわかに円卓がざわつき始める。
事前にまったく聞かされていない事態だ。
ソニアに視線で尋ねるが、彼女も不安げに首を横に振った。
どうやら、ゼピルの議案持ち込みは彼女も想定していなかったらしい。
牽制のため、親王国派の一人がゼピルに尋ねる。
「それは、投票合議の必要なものか?」
「もちろん。そうでなければ実現できぬ事柄でありますゆえ」
ゼピルは余裕に満ちた声を出す。
親帝国派の商王もまた、口の端を吊り上げていた。
ようやくこの時が来たか、と言わんばかりである。
……なんだ、ひどく嫌な予感がする。
疑念に満ちた視線を受け止めながら、ゼピルは懸案を述べた。
「連合法規における第三条『商王陰謀罪』。
及び第四条『商王売国罪』に基づき――」
その瞬間、円卓が凍り付く。
絶句する商王たち。
そんな中で、ゼピルは毅然として宣告したのだった。
「国賊ソニア・ゴルダー・アストライトの”商王職を剥奪”。
並びに”斬首処刑”の申し立てを行います」
次話→3/5
ご意見ご感想、お待ちしております。