第三話 魔剣刃
うららかな日差しが差し込む昼下がり。
俺は執務室でシャディベルガと話していた。
昨夜、セフィーナと一緒に色々なことをしていたからだろう。
シャディベルガはずいぶんと憔悴してるように見えた。
早朝に見かけた時、完全に腰が砕けてたからな。
そして、彼をそこまで衰弱させたセフィーナはというと――
万全の調子ではなかったからか、朝を迎えると共に体力切れで寝込んだそうだ。
病み上がりに無茶をするものではない。
しかしウォーキンスの話だと、
セフィーナはとても満足そうだったらしい。
久しぶりに夫と触れ合えたのが嬉しかったのだろう。
もし彼女の体力が戻れば、夜は更に激しさを増すはず。
シャディベルガも戦々恐々だろう。
とりあえず、腎虚で倒れないことを祈っておく。
そして、シャディベルガの本だが――
昨夜ついに処遇が決まったらしい。
これ以上コレクションを増やさなければ、
所持しているものは見逃してもらえることになったそうだ。
急に寛容になった辺り、セフィーナの機嫌の良さが分かる。
己の身を犠牲にして本を守る辺り、司書の鑑だな。
春本ソムリエとして名を馳せた者として、如実に評価したい。
しかし同時に、俺は見抜いていた。
本の収集を、シャディベルガが諦めていないことを。
一度その世界を知ってしまえば、常に新しいものを求めてしまう。
天地にあまねく万物を手に入れたいと思うのは、人の業というものだ。
まあ要するに。
シャディベルガのコレクションは秘密裏に続けられるだろう。
ただし、見つかった時は知らん。
俺を巻き込まず、大人しくセフィーナの仕置きを受けてもらおう。
なぁに、大丈夫大丈夫。
きっと今までのような痛いだけの折檻はされないだろう。
しばらくの間、ベッドから立ち上がれなくなるだけだ。
新規で仕入れようというのなら、それくらいのリスクは覚悟しておくんだな。
と、二人の熱い愛の話はこのくらいにしといて。
シャディベルガの話に意識を戻す。
ここ最近、ディン領の海域で異変が起きているらしいのだ。
「漁獲量が減少してる?」
「うん、それも異常にね」
昨日の視察は、この案件を解決するためだったのか。
しかし、話を聞く限りでは、単なる不漁の気がする。
どこかで気候変動があったのかもしれない。
ただ、シャディベルガはこれを単なる偶然とは思っていないようだ。
「ところが今朝、また報告があってね。
今日の漁でも、魚がほとんど網に掛からなかったらしいんだ。
一日ならまだしも、連日獲れないことなんてないよ」
「……ふむ」
いったん話を整理する。
昨日、シャディベルガは港町に赴いていた。
元ホルゴス領だった中堅規模の町。
王国から神聖国へとつながる中継港として、重要な役割を果たしている。
話によれば、異変が起きたのはつい数日前。
漁期であるにも関わらず、パタリと魚が獲れなくなったそうだ。
はっきりとした原因は不明。
ただ、毎年どんな気候になろうとも、
ここまで漁獲量が少ないことはなかったらしい。
そしてついに、港町の船乗りたちは領主への相談を決めた。
今回の件がシャディベルガの耳に入るに至った。
そこで現在、原因と解決策を考えているわけだ。
ただ、思った通りに事が運んでいないようで、
彼は困ったように頬を掻いている。
「こういうの分野にめっぽう強い奴がいるんだけどね。
すぐに連絡を取ろうとしたんだけど、
『領内を見て回る』と言ったきり所在がつかめないんだ」
あちこちを巡回するために失踪するとは、変な奴もいたものだ。
どこに行ったかくらい書き置きしてもいいだろうに。
放浪癖でもあるのか。
「というか、知り合いに海の専門家がいるのか?」
「ああ、ちょっと変わってるけどね。頼りになる奴だよ」
ほお、相変わらず顔が広いな。
シャディベルガは内政に関しては非常に卓越している。
しかし、政務は多岐にわたるため、彼一人では手が回らないことも多い。
そこで彼は、俺や旧知の知人を動員したりして、仕事を分担している。
今言ってる奴も、恐らくはその一人なのだろう。
だが、大事な時にいないのでは意味がない。
「数日の内に連絡を取るよ。
その間に、色々調査に必要なものを揃えておかないと……」
「何か手伝うことがあるか?」
「いや、大丈夫。それに今日はウォーキンスと約束があるんだろう?
そっちを優先してくれ」
そうか、まあ困った時は何でも言ってくれ。
今日の所はお言葉に甘えるとしよう。
普通に鍛錬デイだからな。
日課をおろそかにするわけにはいかない。
ウォーキンスの手ほどきを受けるのは久しぶりだ。
どのくらい成長したかを見せる良い機会である。
俺はいつも以上に張り切りながら、執務室を出た。
「じゃあ、さっそく行ってくるよ」
「ああ、気をつけてね」
階段を登り、二階の書庫へ。
しかしそこにウォーキンスの姿はなかった。
おかしいな、トレーニングはいつもこの場所だったはずなのに。
と、よく見れば一枚の張り紙がしてあった。
『申し訳ありません、所用で外出しております。
修行の場所は”誓いの神殿”近くの丘にしましょう。
屋敷を出て西です。お待ちしております』
ここではなく、丘で落ち合うのか。
まあ、強力な火魔法を書庫で使うわけにはいかないしな。
発動するにしてもクロスブラストが限界だ。
イグナイトヘルを使った日には、書庫が吹き飛んでしまう。
場所を移すのはもっともだ。
しかし、彼女を待たせるのも忍びない。
俺は駆け足で丘へと向かったのだった。
◆◆◆
誓いの神殿。
かの有名な『四賢の血判』が執り行われた場所。
邪神大戦の折、大陸の四賢が結束を誓った地だ。
この神殿付近は、いっさいの貴族の干渉を受けていない。
確か、王家の直轄地として保護されていたはずだ。
四賢信仰の強い王国らしい措置である。
神殿を超えた先にあるなだらかな丘。
てっぺんには、巨大な木が生えている。
そして――その樹の下に、ウォーキンスはいた。
幹に寄りかかって眼を閉じている。
昼寝中なのだろうか。
ゆっくり近づくと、彼女は目を開けた。
「おや、いらっしゃいましたか」
「寝てたのか?」
「いえいえ。レジス様が来るまで、少しまどろんでいただけです」
ウォーキンスは大きく伸びをする。
そして、ハツラツとした顔で修行の開始を告げた。
「では、早速始めましょう。
まずは覚えている魔法を全て使ってみてください」
「了解」
覚えている魔法か。
思えばウォーキンスと離れてから、多くの魔法を会得したものだ。
その全てを、ここで見せろというわけか。
手始めに火魔法を詠唱する。
学院に入る前の破壊力とは比較にならない。
炎の温度も、炎の発生場所も、思うがままに操ることができた。
そして次に雷魔法。
こちらも学院にいた頃に修練を積んだので、
発動までの時間が大幅に短縮されている。
ただ、範囲系の魔法を連発すると消耗が激しい。
俺は荒い息を吐きながら、次の魔法に取り掛かった。
水魔法。
イザベルに手ほどきを受け、苦手を克服した属性だ。
熟練はもちろんとして、適性も並の魔法師レベルには上がったはずだ。
これを見せると、ウォーキンスは若干驚いたような顔になった。
そして最後。
エンチャント魔法や探知魔法といった、
いわゆる補助系統の魔法も詠唱してみせた。
メテオブレイカーだけは、
全魔力を持っていかれるので省略。
少しレベルを落とした低位魔法を見せるだけで十分だろう。
俺が魔法を発動する横で、
ウォーキンスは集中して観察してくる。
最後の最後まで、俺の一挙手一投足を見極めていた。
ただ、少し難しそうな顔をしていた気がするな。
何かまずいことをしてしまっただろうか。
ひと通り魔法を使い、俺は大きく息を吐いた。
すると、ウォーキンスが褒めてくる。
「お見事です!
魔力の総量が飛躍的に増えています。
そして属性魔法――特に火と雷が更に上達していますね」
得意属性だからな。
当然といえば当然。
特に、火魔法は切り札の一つ。
学院にいた時も一心不乱に鍛え上げていた。
「それに、水魔法を修得していて驚きました」
「ドワーフとの戦いを想定してたからな。
まあ、全く通用しなかったけど」
エルフの峡谷で、敵に渾身の水魔法をぶつけた。
しかし、シャンリーズはそれを避けることもしなかった。
無傷のまま、悠然と大地を踏みしめていたのだ。
思い出すだけで、矜持が砕け散りそうである。
そういえば、全力の火魔法を撃っても怯まなかったんだっけ。
得意な属性すら通用しないとは、ますます自信がなくなってくる。
まあ、大陸の四賢と戦って命があっただけ、マシなのかもしれない。
ウォーキンスは各魔法のアドバイスや改善点を指摘してくれる。
その上で、俺の進歩を優しく褒めてくれた。
しかし――
「あと、一つお聞きしたいのですが」
ウォーキンスは最後に、
詰問するような口調で訊いてきた
「恐らくレジス様は、反動ありきで魔法を使っていますよね?」
図星である。
反動を感じない程度の魔法だと、威力が小さすぎるのだ。
危険を感じた時などは、常に全力投球である。
ただ、そこまで心配されるほどではない。
「ああ。でも、多少の不快感や痛みは我慢できるから問題な――」
「いいえ、大問題です」
ウォーキンスは食い気味に答えてきた。
いつもの物腰穏やかな語調ではない。
少し立腹している様子だった。
「今日から修行の際には、反動を受けない程度に魔力を抑えてください」
「でも、魔法の威力が落ちるんじゃないか?」
「落ちてもいいんです」
ずずず、と顔を近づけてきた。
本気でやめろと言っているらしい。
何だろう……前にも同じことを指摘されたような。
記憶を手繰っていく。
――『レジスに気をつけて欲しいのは、反動による魔力の暴走なんだ』
ああ、そうだ。
思い出した。
あれは確か、学院で呼び出しを食らった時だったか――
「確かエドガーにも同じようなことを言われたな」
「彼女も気づいていたのですね。
必死で止めようとしてきませんでしたか?」
「そうだな……わざわざ呼びつけて説教をしてきたっけ」
あの時、俺はそこまで深刻に考えていなかった。
元からエドガーは心配症な一面もあるし。
単に魔法のリスクを説明しているだけだと思っていた。
しかし、エドガーやウォーキンスの認識は違うようだ。
「安全面もそうですが――他の面でも良くありません。
魔力量で威力を上げることに慣れていては、魔法の上達が見込めないのです」
「魔力を絞って、魔法そのものの質を上げろってことか?」
「そういうことです」
扱える魔力の量が多いからと言って調子に乗るな、ということだろう。
何にしても、慢心はいけない。
熟練や適性をコツコツ上げるとしよう。
魔法の技量を上げれば、消費魔力も格段に減るのだから。
だが、一つ懸念事項があった。
「でも、アレクは基本、
魔法を撃つ時は常に全力を出せって言ってたぞ」
「……アレクサンディアが、ですか?」
ウォーキンスがピクリと反応した。
訝しんでいるようなので、アレクの持論を説明する。
『魔法を使えば使うほど、魔素は身体に馴染んでいく。
適性や熟練はもちろん、魔法総量も上がるのじゃ。
そして反動というのは、
肉体へ掛かる負荷と同じようなもの。
鍛錬の過程で克服することが可能なのじゃ。
なに、怖がることはない。
全力で魔法を使えば、魔法総量の限界値は飛躍的に上がる。
戦闘中に息切れのしない、
理想的な魔法師へと近づくのじゃ――』
以上、アレク談。
完全に彼女からの受け売りだが、俺は理に適っていると感じた。
しかし、これを聞いたウォーキンスは一言で切り捨てる。
「アレクサンディアのやり方は間違っています」
「……そうなのか?」
「はい。自分ができたから他の人もできる、
と根拠のない確信を持っているのでしょうね」
魔法理論に関しては、アレクと正反対みたいだ。
しかし、どうも今の言葉には刺があったな。
穏健なウォーキンスにしては珍しい。
自認していたのか、ウォーキンスは恥ずかしげに咳払いをした。
「とにかく。レジス様には、私の鍛錬法の方が適しています」
アレクとウォーキンス。
魔法の使い手としては、二人とも最上級であるはずなのに。
なぜここまで意見が割れてしまうのだろう。
不思議に思っていると、ウォーキンスが諭すように告げてきた。
「それに、アレクサンディア様のやり方では、
永遠にシャンリーズには勝てませんよ」
「……ん?」
今、気になることを言ったな。
俺は反射的に聞き返していた。
「まるでその言い方だと、
どうにかすれば、俺がシャンリーズに勝てるように聞こえるんだが」
「勝てますよ?」
ウォーキンスはさらりと言った。
洒落やハッタリというわけではないようだ。
「ほ、本当か!?」
「ただし、可能性が生まれるだけです。
新しい技術を覚える必要がありますので、負担は増えますが」
衝撃的な話だった。
俺が……勝てるかもしれないのか?
どんな手を使っても勝ち目の見えなかった――あのシャンリーズに。
俺ははやる気持ちを抑えながら、ウォーキンスに尋ねた。
「で、その新しいことって言うのは?」
俺の期待に応えてか、
ウォーキンスは自信あり気に答えた。
「魔法師殺しの剣術――魔剣刃です」
◆◆◆
【剣霊王と魔剣刃】 著者:バトラン・ベットゥータ
『それは、神代へと遡る太古の昔。
当代随一の名をほしいままにした剣士がいた。
剣を振るえば大地が裂け、天を衝けば暗雲を晴らしたという。
ある者は彼を”剣霊王”と呼んだ。
剣霊王は孤独にあらず。
”黎明の五神”の一柱が率いる勢力に属していた。
当時、世は神々の争う時代。
剣霊王は幾度となく死地へ出陣した。
しかし、剣霊王は不敗。
一度として負けることはなかった。
目の前に現れた全ての神を斬り倒したのだ。
そんな剣霊王が、唯一苦戦した相手。
それこそが、五行の魔法を司る精霊たちだった。
この世の摂理そのものと言える”五大精霊”である。
己の敬愛する神を守るため――剣霊王は戦った。
逃げなかった。
退かなかった。
負けられなかった。
結果、剣霊王と五大精霊の決戦は引き分けに終わった。
激しい戦いで、神々の治める島がいくつも吹き飛んだという。
この後、剣霊王は凄まじい修行を積んだ。
剣霊王は不敗の剣士。
敗北してはならない。
その執念が、剣霊王に天啓を与えた。
五大精霊が操る五行の力。
属性の力を――刃に宿したのだ。
一度会得すると、その勢いは止まることはなかった。
剣霊王は瞬く間に、五つの奥義を編み出したのだ。
灼炎刃・流水刃・雷鳴刃・旋風刃・土硬刃。
属性を纏う一閃は、いかなる防護をも斬り捨てる。
これこそが剣魔一体の妙技”魔剣刃”の開闢であった――』
ウォーキンスに貸してもらった本で、あらましを知った。
なるほど、ずいぶんと歴史のある戦術みたいだ。
神代から続いてるのか。
なお、この剣霊王という剣士。
不敗と言っておきながら、後に戦死している。
何じゃそりゃと言いたくなる伝記だった。
しかし、ずいぶんともったいぶった書き方だったな。
要するにこれ、五行魔法を武器に宿らせているだけだろ。
ただ、この剣技。
どこかで見たことあるような――
「もしかして、エドガーが使ってるアレか?」
「はい。彼女は火の魔剣――『灼炎刃』に飛び抜けた素養を持っています。
まだまだ発展途上のようですけどね」
やっぱりか。
エンチャント魔法自体は俺にも使える。
メテオブレイカーなどは身体強化の魔法なのだから。
しかし、魔力によって武器の強化まではできない。
ここが俺とエドガーの違いなのだろう。
「魔剣刃は剣魔一体の攻撃。
上手く噛み合えば、魔法抵抗や鎧でさえも打ち破ります。
無論、シャンリーズとてこの技を防ぐのは不可能でしょう」
脳裏にシュターリンを撃破したエドガーの姿が思い浮かぶ。
確かシュターリンは完全防御をしていた。
耐属性の鎧を身につけ、大ぶりのナイフでガードを決め込んでいたはず。
しかしエドガーは防御ごと吹き飛ばし、
一撃で戦闘不能に追い込んでいた。
あの異常な破壊力は、
魔剣刃とやらによって生み出されていたのか。
俺が感慨深く頷くと、
ウォーキンスは効果的な技を勧めてくれた。
「と、いうわけで。
シャンリーズに食い下がりたいのであれば――流水刃を覚えましょう」
流水刃。
水魔法の波動を刀身に纏わせるんだったな。
それだけ聞くと、あまり強そうには思えないんだけど。
「流水刃から放たれる一撃は、
見上げるような大岩すら切り裂きます」
訂正だ。
めちゃくちゃ強いじゃないか。
よくぞ古代の剣士はそんなのを編み出したな。
新しい境地に思いを馳せていると、
ウォーキンスは「ただし」と続けてきた。
「あくまでも魔剣刃は剣術です。
剣の素養がなければ実戦では使えません」
「……あ」
そうか……分類では剣術に当たるのか。
なぜ俺がナイフを武器に選んでいるのか思い出す。
もちろん、一族の結束を表わす武器がナイフだからというのもある。
しかしそれ以上に――
「剣術は間合いが非常に大切です。
しかし手合わせをした限りでは、
レジス様の間合い取りの才能は……その、何と言いますか」
「ないんだろ」
わかってるさ。
前世では剣士に憧れ、土産物の木刀を一心不乱に振ったことがあった。
しかし、シャレにならないくらい上達しなかった。
木刀を振り回す男がいると通報される始末だったし。
たとえ生まれ変わろうとも、俺には根本的にセンスがないのだ。
手に馴染むナイフを振るだけで精一杯である。
「魔法で隙を作ってから、流水刃を突き刺す。
そういった戦略を取る他ないわけですね」
最初から魔剣刃をぶっ放しても、接近できずに終わりだ。
うまく魔法で間合いを作っていくことが求められる。
ウォーキンスは指を立て、冷静に告げてきた。
「つまり――魔剣刃だけを覚えていても、何の役にも立ちません」
なるほどな。
腑に落ちた気分だ。
何か一つ覚えたくらいでは、一発逆転はできないってことか。
魔剣刃は確かに強力。
しかし、それを使うには他の能力や魔法も必要になる。
全体的に実力を底上げしろってことだろう。
「ありがとう。光明が見えた気がする」
「よろしければ、魔剣刃の修行も見ましょうか?」
「ああ、頼む」
魔剣刃の修得は果てしなく険しいと聞く。
だが、見てろよシャンリーズ。
次に会った時、本当に絶望するのはどっちか思い知らせてやる。
「では、早速――まずはナイフの素振りからですね。
魔力を込めるのは、基礎が完全になってからです」
む、いきなり魔剣刃を習得するのは無理なのか。
まあ、剣魔一体の技だし、ナイフの方も今以上に扱えなきゃダメなんだろう。
肩をすくめながら、ウォーキンスの指示を待つ。
「今日は最初なので、軽めに行きますね」
「ほぉ、回数は?」
「6000回です」
目の前が真っ暗になった。
どこが軽いんですかね……。
とはいえ、やらない内に文句を言うのは失礼だ。
きっちり6000回。
日が暮れるまで素振りをやった結果。
次こそは文句を付けてやろうと固く誓ったのだった。
次話→7/9
次こそは21時更新を目指します。
ご意見ご感想、お待ちしております。