新しいクラス
教員が学園内を世話しなく走り回る事3日間、ようやく整った環境のもと、皆の新しい生活が始まろうとしている。
「〈ミラージュ〉も一緒かよ」
「何か、文句がおありかしら?」
「変わった感じがしない」
「仕方ないじゃないかしら? 各クラスから、実力の有るチームが集まったのですから!」
ジンとエレミアの言う通り、〈レジェンド〉と〈ミラージュ〉は同じクラスで、あんまり変わった気がしない。
他の生徒の顔ぶれはがらりと変わった筈だが、今まで忙し過ぎてあまり覚えていなかったりする。
「あれ? 髪型変えたか?」
「え、ええ」
前の髪型は、前髪も長めで、横に流してピンで留めていたが、今の髪型は前髪を短く一直線に切られている。
眉の辺りで切りそろえられ、以前より顔が明るく見える。
リボンも、細めの物から、レースをあしらった可愛らしい物になっている。
全体的に少し短くなっており、全体の印象も明るく活発的になった。
鈍感なラングとムウは接点が限られている事も有るので分かるが、今まで全く気付かなかった同じチームのラザックとガナンに呆れてしまう。
ジンに言われて、小さく声を上げたラザックとガナンを、エレミアが睨む。
「横から見たら、編んであるじゃん」
「ちょっと、ワンポイントにね。良く気付いたわね」
こめかみ辺りにあるリボンの上は、短い三つ編みになっていた。
「何で、全体にしないんだ?」
「そこまで変える勇気が無くて……失敗したら恥かいちゃいますわ」
「努力したなら恥じゃねえから、気にしなくても良いのに。結構大変なんだろ?」
「意外と、バランスが難しいですわ」
「リーゼに教えて貰えば? かなり複雑な編み方みたい……あれ? リーゼも髪が短い?」
「少し、切ったの」
編んであるので分かりにくいが、後ろに垂らされた髪の長さが少し短い。
「まあ、殿方は無頓着で、全く気付かないものだと思ってましたわ」
「クリスティアは……変えてないみたいだな?」
「はい」
意外と良く見ているジンに、クリスティアが感心する。
「髪型なんて分かんねー」
「そうだな」
ラザックとガナンは苦笑する。
ガラララ、ピシャン!
「座れ」
そこに男性が入って来た。
威圧感を放ちながら、こちらを睨んでいるので、とりあえず適当に座る。
「担任のロウ。家名は破棄した」
冒険者の中には、何らかの事情で家名を棄てる者もいる。
そこまで多くはないが、一応、一般常識である。
しかし、こんな時こそ、やらかす奴が居る訳で……
「何で破棄?」
バキャ! ガンッ!
普通に地雷を踏んだジンを、アヤメとツバサが黙らせる。力強くで。
「後で説教しときます」
「ごめんね~」
「……」
……沈黙が痛い!
「ふん! このクラスには、既に授業など必要無さそうな奴が居るが、特別扱いはしない。良いな」
無言で頷いた一同。
「話はここまで。着替えて門まで来い」
それだけ言って、さっさと門に向かってしまうロウ。
戸惑いながらも、皆無言で従う。
◇◇◇◇◇
「ついて来い」
皆がジャージに着替えて門に来ると、さっさと走って行ってしまうロウ。
山を駆け上るらしい。
「走れば良いのか」
「みたいね」
説明が無いので、何が目的か分からないが、とりあえず走れば良いらしい。
後を追うクラス一同。
徐々にスピードを上げるロウに、皆も合わせてスピードを上げるが、容赦なくどんどんスピードが上がるので、脱落者が出始める。
〈レジェンド〉一同はまだ余裕だが、〈ミラージュ〉のエレミアとクリスティアは辛そうだ。
山を駆け上るだけでなく、急な斜面を駆け下りたり、岩の上を飛び交ったりするため、かなり危ない。
脱落者には、遠慮なしで魔法が飛んで来るので、皆必死である。
「ちょっと……早すぎる、わ」
「……運動は、苦手、です」
エレミアとクリスティアの限界が近いようで、徐々にスピードが落ちる。
慌ててリーゼが手を差し伸べようとするが……
「自分の事だけ考えろ!」
ロウによって遮られる。
今までリーゼの手が有った場所に、無属性の魔力が飛んで来た。
無属性とは言え、こんな斜面で当たれば転がり落ちる危険も有るので、慌てて手を引っ込めるリーゼ。
無言でロウは睨むリーゼを、鼻で笑うロウ。
「助け合いとは、随分甘い奴らだ」
「あんた、それでも教師?」
「今の職業はな。だが、根っからの冒険者なのは変わらん。また脱落者か」
後ろの方で、名前も知らない生徒が崩れ落ちる姿が見える。
そこへ、ロウが無属性の魔法を放つ。
正確に飛ばされた魔法は、生徒に当たって生徒を弾き飛ばす。
短い悲鳴を上げて、転がり落ちる生徒。
気にせず走りつづけるロウ。
「……」
後ろから、まだ走っている生徒達が睨んでいるが、全く気にせずスピードを上げるロウ。
「こっからは、脱落者が増えれば、またスピードを上げるぜ」
鬼のような事を言うロウ。
また、3人の脱落者が出た。
ロウは魔法を放ち、更にスピードを上げる。
ロウは、息も上がっていない。
ギリギリで食い付いていた生徒達が、次々に脱落していく。
無数の魔法を放ち、更にスピードを上げて走りつづける。
「ごめん。無理」
「ごめんなさい」
エレミアとクリスティアが脱落する。
2人に魔法が飛ぶが、とっさにリーゼがかばって、リーゼも脱落した。
もう一度エレミアとクリスティアに魔法を飛ばし、更にリーゼに追い討ちを掛けるように魔法を放つロウ。
「おい!」
「うるさい。忠告を無視した罰だ」
ジンが叫ぶが、無情にもリーゼに魔法が当たった。
残ったのは、〈レジェンド〉一同と、ラザックとガナンのみ。
まだまだスピードが上がる。
既に、戦闘時と変わらないスピードで、山を駆け回っている。
目に映るのは、過ぎ去る木々の影のみである。
「いつまで走るんだ!?」
「体力が尽きるまでだ」
「はあ!?」
ジンの問いには、予想外の答えが返って来た。
つまり、ロウと言うベテラン冒険者の体力が尽きるまで、未熟な生徒達は付き合わされる事になる。
「脱落しても、休めねーぞ」
「どういう意味?」
「1人、手が合いてる教師に手伝ってもらってるからな、後ろから追い掛けられてる筈だぜ? 魔法でな」
「鬼!」
「喋ると体力失うぜ」
薄く笑って走りつづけるロウ。
「体力勝負って事で良いかしら?」
「こっちは~負ける気無いよ~」
こちらも疲れを全く見せない、アヤメとツバサ。
どこか、楽しそうである。
「そういうこった」
「ふふ。面白いわ」
「先生、勝てるかな~?」
アヤメとツバサに勝てる奴居るの?
「なんつう無茶を」
「……先生、後悔しても知らない」
「自業自得だな」
ジン、ラング、ムウも楽しそうだ。
「ば、化け物共め……」
「……ぬうん! 耐えるのだ!」
死にかけてるラザックとガナン。
「まだまだ!」
終わりが見えない授業(?)である。
◇◇◇◇◇
食堂では、昼飯を食い損ねた挙げ句、一日中山の中で鬼に追い掛けまわされた生徒達が、ぐったりとしながら夕食にありついていた。
ロウのクラスの者達である。
鬼に挟まれた鬼ごっこは、日が暮れるまで続いた。
結果はアヤメとツバサが底なしの体力を発揮し、いつの間にかロウを追い掛ける鬼と化し、ロウが夕暮れ時にぶっ倒れて終了した。
ラザックとガナンは、あの後直ぐに限界を迎えリタイアし、吹き飛ばされた。
ジン、ラング、ムウは、鬼となってロウを追い掛けるアヤメとツバサに追い付けなくなり、そこでリタイア。
その際、ロウは魔法を放つ余裕は無かったので、追い討ちは免れた。
「後ろから来た魔法は誰が?」
「分からん。黒いローブを着てた」
ジンが、長テーブルの向かい側に座るラザックに聞くと、死にかけのラザックから小さな声で短く返って来た。
ジン、ラング、ムウ、アヤメ、ツバサの順で横一列に座り、反対側にラザック、ガナン、リーゼ、クリスティア、エレミアが座っている。
エレミアとクリスティアは、喋る気力も無いらしい。うなだれている。
「真っ黒のローブが、無言で追い掛けながら魔法を放って来たよ」
リーゼが、いつも元気を無くしながらも一応補足説明を加える。
「いろんな意味で怖いな」
ジン、ラング、ムウは、後ろに居た教師が追い掛けてくる範囲を超えていたので、見ていないのだ。
最後尾からアヤメとツバサが開けた距離は、それだけ遠かったと言う事だ。
だが、それだけ山奥に行ったと言う事でもあり、ジン、ラング、ムウは学園に戻るのにかなり苦労した。
皆が学園に戻った後、しばらくしてアヤメとツバサは、ぶっ倒れたロウと共に移転魔法で帰って来たが、何故だか、ロウがズタボロになっていたので、そのまま保健室に運ばれた。
「聞きにくいけどさ、何でズタボロになったロウ先生が居たんだ?」
恐る恐る聞くジン。
「途中から、魔法の放ち合いをしながらの走り込みになったのよ」
「ちゃんと、手加減したよ~」
居なくて良かったと思ったジン。
他のメンバーも同じ思いでいるらしい。
「そこそこに強かったわ」
「まあ、それなりに~」
アヤメとツバサは、最後まで息を切らす事は無かったので、本当に余裕だったのだろう。
「ちょっと、遊び過ぎたみたいだけど」
「私は、追い掛けただけなんだけどね~挑発はしたけど~」
無邪気な笑顔が逆に怖い!
もう触れない事にした周りの一同。
「明日は、普通の授業だと良いな」
「……そうだね」
「有ると良いがな」
「「あ……」」
「生きてるのか?」
先生、無事なんだろうか?
授業出来るのだろうか?
「多分、大丈夫よ」
「多分ね~」
乾いた笑いが場に響いた……




