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久しぶりの学園

 相変わらず猛スピードで走り抜ける一行は、そろそろベッドで寝たいと思いながら駆けていた。

 魔物がたまに出て来るが、気が立っている冒険者に襲い掛かるなど、無謀以外の何物でもない。

 怒り任せに吹き飛ばされ、苛立ちに任せて踏みつけられる。

 ちょっと哀れである。


「魔物も大変だな」

「あやつらは、本来の住処を追われた弱き者か、魔王に楯突いた者か、ただのアホじゃから、気にするな」

「ただのアホ……」

「そう。ただのアホだニャ」


 魔物も大変ですね。


「……グンヌさんが、ただのチンピラになってる」


 凄い形相で、馬車馬を操るグンヌ。

 以外と器用に障害物を避けながら、ひたすら暴走している。

 ついていく方も大変である。

 面倒になったアヤメとツバサは、馬車の中に潜り込んでしまっている。

 ジン、ラング、ムウはひた走る。

 メモリーは、馬車の屋根にのんびりと寝転がっている。

 器用だ……。


 冒険者の肉体は、一般人の肉体と構造こそは同じだが、スピードもパワーも、持久力も違うので、とんでもないスピードで走り続ける事が可能だ。

 研究機関の発表だと、魔力の使い方が違うから、らしい。

 詳しい事は分からないが、ある程度の差は有れど、長期間の訓練を行えば誰でも冒険者にはなれるのだが、よくよく調査をしてみると、生まれつき肉体的に冒険者として適している者が、高ランカーとなっているようだ。

 生まれつきの魔力の使い方次第、と言う事なのだろう。

 魔法師だからと言って、冒険者に向いている訳ではない。


 しかし、その壁を突破する方法も有るらしいが、未だに成功した者は少なく、なにやらその方法に問題が有るようで、大々的には発表されていない。

 世知辛い世の中だ。


 そんな理由から、新入生の一般人は荷馬車内で大人しくしている。

 単に、この光景が怖いのもあるが。


「にしてもさ、ゴーレムのスペック高すぎるだろ」

「……うん」

「そうだな」


 一般人を荷馬車に乗せる事にしたは良いのだが、荷馬車にも限界が有る訳で、当然全員を乗せるのは無理であった。

 悩んでいた一行に、思わぬ救いが現れたのだ。

 なんと、ゴーレムに収納スペースが!

 詰め込めるだけ詰め込んで、ゴーレムは何食わぬ顔で走り続ける。

 顔が変わる筈も無いが。


「魔法って凄いな」

「……うん」

「もう、何も言わん」


 ガシャガシャと走りながら、時々現れる魔物を蹴散らすゴーレム。

 大迫力である。









「人面のライオン? サソリの尻尾?」


 一行の行く手を塞ぐ一体の魔物。


「マンティコアよ」

「Sランクの魔物だ」


 アヤメとツバサが前に出る。


「任せても?」

「もちろんよ。むしろ、邪魔だから」

「……」


 無言で後ろに下がるグンヌ。

 Aランカーのグンヌでは、少々分が悪いのだ。


「お前らも下がれ」


 豪華な武器を構える5人に、下がるように告げるツバサ。

 単なる正義感で、勝てるような相手ではない。

 ひと噛みでやられるだろう。


「あんたに命令されたくない」

「兄さん! 申し訳ありません。しかし、私達も戦えます」

「まだ引きずっているのか」

「村人達の事を忘れたと?」


 やれやれ……面倒な正義感である。


「死にたいなら、好きにしろ」

「自己責任ですから」


 ツバサが吐き捨て、アヤメが最後の忠告を告げる。


「ジン、ラング、ムウ、毒への対策だ」


 ツバサが投げ渡した解毒薬を、受け取って直ぐに飲み干した3人。


「足止めご苦労」


 今までマンティコアの足止めをしていたゴーレムを下がらせる。


「やってみますか?」

「おう!」

「援護するから、無理はしないように」


 アヤメの確認に、威勢良く答えるジン、無言で頷いたラングとムウ。

 ジンを筆頭に、マンティコアに挑む。

 後ろの者達を守るように、強固な結界を張るアヤメ。


「あんた達が行くんじゃねえのか」

「見捨てるのか!?」

「先輩?」

「見くびるな。あやつらも十分に強い」

「マンティコア位、相手に出来るだけの力は有ります」

「何かあったら!」

「仲間を信じるのも、やると言った言葉を尊重するのも、チームとして重要な事だ」

「まだ、死地を知らないあなた達が、口を挟む資格は有りません」

「死地なんていくらでも」

「甘い。その辺の魔物と戦っただけで、勘違いするな」


 マンティコアのうなり声で、視線をそちらに向ける。


 自らの攻撃が掠りもしない事に、苛立っているようだ。

 人の二倍の背丈で、その身に備わった凶器を振り回すマンティコア。

 マンティコアの素早い動きに、ジンとムウはラングの強化魔法で対抗する。


 ジンが大剣で全ての攻撃を防ぎ、ジンの後ろからムウが刀を振るい、ラングがマンティコアの背後に魔法を放つ事でマンティコアの集中力を削ぐ。


 苛立ちに任せて、ジンに食らいつこうとしたマンティコアの口に、ジンが大剣を突っ込んだ。

 アヤメの錬金術で強化された大剣は、マンティコアの力では噛み砕けない。


 もがくマンティコアは、尾の毒で仕留めようとするが、尾はラングの風の刃で弾かれる。


 一瞬の隙にマンティコアの下に潜り込んだムウは、マンティコアの腹を十字に切り裂いて、そのまま背後に抜け出した。


 苦痛に呻くマンティコア。


 動きが一瞬止まったので、マンティコアの口から大剣を引き抜き、頭に叩き付けるジン。


 衝撃に反射的に暴れたマンティコアの爪が、ジンの左横腹を引き裂く。


 痛みに耐えながら、大剣を片手に後ろに飛び退いたジン。開いた片手で傷口を押さえる。


 ジンが下がったのを確認し、魔力を貯めていたラングの魔法が放たれる。


「吹き上がる風の柱」


 マンティコアの下から風が渦巻いて吹き上がり、ムウが付けた傷を広げ、背中に突き抜ける。


 尚も体を振り回し抵抗するマンティコアの長い尾が、ラングに向かって突き出されるが、ムウが尾の付け根から切り落とす。

 勢いを失い、方向性も失った尾は、見当違いの方向に飛んでいく。


 しばらくもがいた後、力尽きたマンティコア。


「ご苦労様」


 結界を解いたアヤメが、ジンに駆け寄って傷を治す。

 結界の有った境界線には、ラングの魔法の風圧で吹き飛ばされた石つぶてが、綺麗に一列に並んでいる。

 剥ぎ取りを忘れないツバサ。

 ラングとムウも剥ぎ取りを手伝う。


「ふらふらする」

「急激に血を失ったからね」

「荷馬車で寝て良い?」

「どうぞ」


 ふらふらと荷馬車に向かうジン。


「深かった~?」

「まあ、そこそこに」


 ジンの傷は、見た目以上に深かった。

 普通なら、痛みで動けなかった筈だが、今までの経験が止まる事を許さなかったようだ。


「剥ぎ取りは終わったから~行こうか」

「ええ」


 緊張感皆無の2人。

 そんな2人に駆け寄る5人組。


「誤解してました」

「申し訳ありません」

「勉強不足でした」

「話とは違ったけど、凄かったです」

「勉強になったわ……」


 きょとんとするアヤメとツバサ。


「戦ったの、私達ではないわ」

「分かっています」

「前回の詫びなら、要らない~」

「えっと……はい」

「「……」」


 誰? こいつら。

 そう思いながら、空気になる事に専念するラングとムウ。

 こうした事は、2人に任せたい。

 話を聞く限り、己自身の未熟さを知り、認識の甘さを知った5人は、面倒だと良いながらも教えてくれた2人に、感謝の念を覚えたらしい。

 確固たる信念を持つその背中に憧れを覚えたとも、言っている。

 まあ、良いか。面倒だし。

 適当にあしらって、荷馬車に潜り込んだアヤメとツバサ。

 走り出した一行。

 ラングとムウに付き添う5人組。


 なんだか、奇妙な光景だ……。









◇◇◇◇◇


「着いた!」


 あれからは、大した魔物に出くわす事もなく、平和に(?)暴走しながら走り続けた一行。

 ひたすら飲み食いして、完全に復活したジンの言う通り、ようやく学園に着く事が出来た。

 なんだか、とっても爽やかな笑顔のグンヌが居る。


「着いたぜ!」

「暴走した事で気が晴れたみたいでなによりだけど、馬が死にそうだから、早く預けましょう」

「そうだな!」


 晴れ晴れとした顔のグンヌの後ろに、息絶え絶えの馬達……と、冒険者達。

 グンヌの暴走に付き合わされたのだから仕方ない。

 仕方ないんだ……。


「……仕方ない?」

「のか……?」


 釈然としないラングとムウ。

 ジンは学園に着いた事で、嬉しさのあまり、疲れを忘れているらしい。

 例の5人組は、夢の学園に着いた事より疲れが勝って無言でうなだれている。


「おーい! 荷物下ろすぞ!」


 グンヌに言われて、ゾンビのように動き出す冒険者達。

 ゴーレムは空気を読むスキルでも有ったのか、自分で荷物を丁寧に下ろしている。

 無駄に性能が良い……。


「お疲れさん。戻って良いぞ」


 荷物を全て下ろしたゴーレムに、グンヌが声を掛けると、一礼した後、静かに去っていくゴーレム。

 多分、国に帰って行くのだろう。

 冒険者達も、荷物を学園の玄関に送り届け、その場で脱力している。

 そこに走り寄る者達が……


「お疲れ様です。私は、生徒会長のヴァルカン・トルメンです」

「おう。出迎えご苦労さん」


 生徒会メンバーである。


「兄貴!?」

「よう! ラザック!」


 驚きの顔で固まるラザック。


「兄貴? 兄弟なのか?」

「おうよ! 弟が世話になったな」

「てめー! いきなり家出てギルドで見つけたと思ったら、いきなり消えやがって! 何考えてんだ!」

「あん? ……そう言やあ、そんな事もあったな。お袋元気か?」

「心配はしてねーが、気にはしてたぜ」

「元気そうでなによりだ!」

「聞いてねーな!?」


 苦労してるんだねラザック。

 しかし、よく似た兄弟だ。

 性格が!

 顔や髪の色は違うが、性格はそっくりである。細かいパーツは似ているが。


「この……バカ兄!」

「あんだとアホ!」


 斧を振り回す2人。


「迷惑だ!」


 2人の間に入り、右手でラザック、左手でグンヌの斧を素手で掴むツバサ。

 斧を引いてもびくともしない。

 そのまま斧を押し付けるように、思いっきり突っぱねるツバサ。

 仲良く吹き飛ぶ兄弟。


「会長、面倒なのは片付けた。後は頼んでも?」

「え? あ、その……」

「頼んでも?」

「もちろんです」

「じゃあね~」


 先ほどまでと一転してのんびりした雰囲気で、先に寮に帰って行くツバサ。

 アヤメも黙って寮に向かう。

 会釈だけして、その場を去るジン、ラング、ムウ。

 ムウは、ちゃんと報酬を人数分受け取っていた。いつの間に……。


「いてー」

「あだー」


 起き上がった兄弟は、何故だか楽しそうである。

 はらりと、グンヌの肩から紙が落ちたので、グンヌが拾って確認する。


「つ、追加報酬についての書類だと……」

「突っぱねた時、ついでに押し付けたのか……」

「内容に、全く不備が無い……反論する余地も無い……」

「頑張れ兄貴……」

「見捨てるのか?」

「楯突いたら殺される……冗談抜きで」


 契約外の仕事、護衛の内容変更、国とのやり取りなどなど、文句が言えない。

 元々雑用係りとして、受けた依頼での数々の戦闘及び指揮、依頼人の護衛だった筈が、冒険者の護衛を兼任、国との対話時の全面補助、などが書き連ねてある。

 一応、ギルドでの手続きと、上の判断が必要になるが、まず間違いなく受理されるだろう。

 しかも、報酬を受け取らず、ギルドカードの提出が無いならば、途中放棄として無理やりはねのけられるが、既にムウが全員のカードの提示、報酬の受け取りを、密かに同行させていたグンヌの部下が対応済みである。

 抜け目無い。


「何でバレた?」

「どうやら、最初からみたいです」

「そうか」


 グンヌを囲んでいた女性冒険者の中に、1人だけ女性のギルド職員を潜り込ませていたのだが、バレていたらしい。


「相手が悪いぜ兄貴……」

「ああ……」


 初めて本気で困るグンヌであった……

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