謎だらけ
「全く分からん」
あの村を後にして、ひたすら〈トウゴク〉に向かう一行。
歩きながら、ジン、ラング、ムウは村での出来事を振り返っていたが、ジンの言う通り、全く分からない。
不可解な所だらけで、どこから考えれば良いのかも分からない。
「今までの事を思い出しても、アヤメとツバサは何か違うけど、俺達は脇役っぽいのは分かるんだ」
「……うん。2人が居たから、なんとかなったよね」
「師匠が特別なのは当たり前だ」
「おいこら……」
話を反らすな……。
「と言うより、2人が居なければ俺達生きてなさそう」
「……あー」
「そういえば」
「やっぱり、そう思うか?」
「……自信無いまま、野垂れ死ぬ自信なら有るよ」
「己の闇に飲み込まれる自信は有る」
「お前ら……」
そんな自信要らない。
「……ジンは、勘違いで返り討ち?」
「そうだろうな」
「否定が出来ねー」
ラング、鋭い!
「あー結論、2人が認められるなら、俺達どうでも良くね?」
「……うん」
「認められる要素が見付からんからな」
「だよねー」
「……うん」
案外、簡単に結論が出たらしい。
前向き(?)なのは良い事だ。
◇◇◇◇◇
「着いた? っぽいな!」
「真っ暗で良く分からん」
「……星綺麗」
「「ラング、戻って来い!」」
「……んあ?」
〈トウゴク〉に数日掛けて、魔法の無駄使いをしながらようやくたどり着いたのだが、真っ暗で何も見えない。
月が出てないのも有るが、大きな門が眼前に有れば何も見えない。
〈レジェンド〉一同は、普通に門から入った事が無いので、外から門も見るのは初めてだ。
あんまりにも大きいので、一瞬何なのか分からなかった。
ジンとムウは、歩きながら夢を見てるのか、魂が抜けかかっているのか、とりあえず危ない状態のラングを呼び戻し、数回手を降って返事が返って来た事を確認する。
疲れのあまり、放心状態だったらしい。
危ない危ない。
「門が閉まってるな」
残念そうなグンヌの声で、周りもぐったりうなだれる。
「まあ、夜中だし~」
「呼べば良いじゃない」
アヤメがおもむろに取り出した笛を吹くと、なにやら慌ただしい音がして、それからゆっくり門が開き始めた。
姿勢正しく整列する騎士達に迎えられ、流石にたじろぐグンヌ達。
気にしてないのは、アヤメとツバサだけである。
「ようこそ〈トウゴク〉へ!」
「お待たせ致しました」
「はいはい~案内してね~」
「それと、荷馬車もよろしく」
「承知しました!」
何事なの?
「何者なんだ……彼女達は……」
「「「師匠!」」」
「……」
一糸乱れずズレた回答をするジン、ラング、ムウを、無言で見詰めるグンヌ。
グンヌの顔には、「頭大丈夫か?」と書いてある。
多分、大丈夫じゃない。
案内されるまま、とりあえずついて行くグンヌ達は、突然ある事に気付いた。
現在、真夜中である。
城下町も静まり返っている。
動物すら寝ている。
「真夜中に城に行くのは、どうなんでしょうか?」
「何故敬語なのよ? グンヌさん?」
「何故でしょうね?」
「ハヤトなら起きてると思うよ~たたき起こされてね~」
「呼び捨て!? たたき起こされ!?」
「「何を今更驚くの?」」
「今更なのか!?」
グンヌの眠気はすっかり覚めた。
眠気覚ましより効くかもしれん。
「王様になら、先ほど急ぎで伝令を走らせましたから、ご安心を」
「!?」
安心出来ません!
時既に遅し。
城の入り口が見える距離まで来ていた。
「諦めようぜ」
「……その方が楽」
「行こう」
何かもう開き直っているジン、ラング、ムウに促され、渋々城に向かうグンヌ。
これまでの人生で培われた常識が、ガタガタと崩れていく。
逃げれるならば、今すぐ逃げたい!
「諦めるが良い」
メモリーにトドメを刺されたグンヌは、黙って流れに身を任せた。
通された一室で、当然のように王様、側近、近衛兵が待ち構えていた。
扉が開いた時点で、引き返しそうになったグンヌをひっつかみ、強引に前に押し出すアヤメとツバサ。
哀れグンヌ……。
「ご苦労であった」
「堅い」
ツバサさん、空気が固まりましたよ。
「実はな、ブラストのおかげで王族アレルギーになった奴が多数居るんだ」
言っちゃうんだ……。
「ふん……やらかしたか」
「やらかした」
「やらかしましたね」
アヤメも加わるのかよ!
「どうせ、知ってただろ?」
「うむ。やらかすとは思っておったが、相手が悪かったようだな」
「そうね」
「堅苦しいのは無しだな。ザガンは、あのやんちゃ坊主は堅苦しいのは嫌いだし、意外と話しやすかっただろう?」
ハヤトにやんちゃ坊主扱いされてるザガンは、昔からああなのだろう。
問われて困るグンヌ。
「え、ええ、まあ」
「だろうなぁ……城から飛び出して来たんじゃないか?」
「来ましたね」
「変わっとらんなぁ」
あれも昔からなのか……。
「ふむ。疲れとるだろうし、手続きは明日で良いか。目通りは済んだし」
済んだんだ。
テキパキと側近が書類を片手に執事達に指示を出し、執事達が部屋まで案内する為に皆に一礼する。
ぎこちない礼を返し、執事達について行くグンヌ達。
ちらっと一瞥し、さっさと部屋を出て行くアヤメとツバサに、苦笑を返すハヤト。
ハヤトの背中に冷や汗が流れ、深い溜め息を吐き出した。
居ない事を確認して、一気に気が緩む。
「あの2人が相手だと、物凄く怖い」
様々な腹の探り合いや、戦場を経験したハヤトだが、アヤメとツバサの底知れぬ力と、どこまで見抜いているか分からない瞳が、どんな死地よりも怖いハヤト。
だが、ハヤトが一番恐れるのは……
「剣と杖を授かった2人があの一行に加わる事で出来上がる“この時代の英雄達”を知ったら、どう反応するのか……逆鱗に触れねば良いが……な」
ハヤトは、独自に調べた事で、あの大戦争が終わっていない事に気付いていた。
そして、再戦する際に、この時代の英雄達が選ばれる事も、知る事になった。
そこに、アヤメとツバサが入っていない事も、ジン、ラング、ムウが選ばれない事も意外だった。
だからこそ、あれだけの力と、知恵、実績を持つ彼らが、爪弾きにされたと怒り出さないかと心配する。
「旅の途中で、もう気付いているやも……いや、気付いているだろうしなぁ」
深い深い溜め息を吐くハヤト。
それに答えられる者は、ここには居なかった……。
◇◇◇◇◇
「で? このゴーレムは?」
朝、城の前に有った、大きなゴーレムに唖然とするハヤト。
「ザガンに貸して貰った~」
「貸して?」
「詳しく説明すると、試運転の為に押し付けられたのよ」
「あのやんちゃ坊主……」
あんまりにも目立つので、城の庭に移動させておく。
本当に機能が良いようで、庭の木や置物を律儀に避けて動く。
あの巨体で、こんな小さな物をいちいち避けるのは面倒だろうに。
「無駄に機能が良いな」
「だよね~」
関心するべきか、呆れるべきか悩む所である。
ハヤトがゴーレムを眺める側では、庭に備え付けられたテーブルで書類を確かめているグンヌが居る。
テキパキと書類を差し出し、片付けていく執事に、とりあえず頷いておくグンヌ。
そんなグンヌだと心配なので、メモリーがちゃんと内容を確認している。
なんか、良いコンビだ。
「間違いないぞ」
「あ、ああ。確認しました」
「では、もう暫くお待ち下さい」
執事がメイドに指示を出すと、メイド達が新入生を迎えに行った。
メモリーに促され、グンヌも卒業生を呼ぶように近くの冒険者に指示を出す。
ドタバタと呼びに行く冒険者達。
なんか、みすぼらしい光景だ……。
「なんなら、大砲でも付ければ良いのに~腕とか、肩に~」
「それは……ちょっと」
ツバサのとんでもない発言に、ハヤトだけでなく、近くの騎士や冒険者、側近までもが慌てる。
「背中に付けたら、飛べそうね」
何故が賛同するアヤメ。
「規模デカ過ぎるだろ!」
「……街が吹き飛ぶ」
「発想が吹き飛んでいます」
もっともな突っ込みを入れるジン、ラング、ムウ。
一応、まだまともな頭を持っているようで、なによりだ。
「お連れしました」
「連れて来たぞ」
うん……もう少し丁寧な言葉を覚えようか。
「うむ。いつ頃出発を」
「今すぐにでもしたいです」
まだ、城に慣れないらしい。
一生無理だろうけど。
「ふむ。では、騎士に見送らせよう」
「え? いや、しかし」
「最近、物騒だからな」
「はあ……ありがとうございます」
さぞ心配していますという顔で言われては、拒否出来ないグンヌ。
顔だけだが。
「王族って怖いな」
「……そうだね」
「理解出来ただけ、感覚が麻痺してきた気がするが……」
「「あ……」」
おめでとうジン、ラング、ムウ。
まあ、いろいろ有ったが、細かい事は気にしない事にして、門まで騎士に囲まれながらやって来た一行。
物凄く気になるけどね!
「それではお気を付けて」
「ご苦労です。では」
何が物騒なのか分からなかったが、無事に門をくぐり抜け、見送り兼護衛(?)の騎士達と分かれた一行。
一行の周りの空気が随分軽くなった気がする。
これで、後は学園に戻るだけである。
「道中、何も無いと良いがのう」
「さあ、どうかしら?」
「どうかな~?」
多分、だけである。
「縁起でも無い……」
「……いろんな意味で怖い」
「だな……」
もう止めてあげて。
グンヌが倒れそうだから。
「し、心配無いさ」
「油断禁物だよ~」
そうだけど、ね?
そんな事を言い合いながら、一行は学園への道を辿る。
◇◇◇◇◇
「また、ゴツいロングソードだなぁ」
「……杖もね」
野営地で焚き火を囲む一行。
ジンがちらっと焚き火の向こうを見て、少し眉をひそめる。
例の槍、チャクラム、弓使いの元に、今回加わった男女2人が仲良そうに、集まっていた。
ここからだと距離があるので、武器の細かい所は分からないが、他の3人同様に、かなり豪華な作りである。
やはり、武器には見えない。
ロングソードも、杖も、それだけで目を引く美しさで、そんな武器を持つ方も何故か目を引かれるオーラを放っている。
外見の問題ではない。
言葉では言い表せないが、何故か無視出来ない。
「何だ? モテない者の悩みかニャ?」
「メモリー……何でそうなる!?」
「モテないだろう? ほれほれ、言い返せるのかニャア?」
「そ、そんな事……有るわ! ボケ!」
「……認めるんだ」
「認めたな」
「そう来るとはニャ! 一本取られたんだニャア!」
「嬉しくない……」
沈没したジン。
毛布を頭から被って動かなくなった。
「寝るならテントに行ってね」
「……」
「燃えちゃうよ~」
ガバッと起き上がって、テントに向かったジン。
何故かラングとムウを引っ張っていく。
「……何?」
「おい?」
「愚痴に付き合え……」
なんだか断ってはいけない様な雰囲気を纏うジンに、仕方なくと付き合うラングとムウ。
「これで良いかニャ?」
「ありがとうメモリー」
「どう致しましてだニャ」
話をそらしたメモリーに、礼を言うアヤメ。
ツバサは無言で微笑んでいる。
「旅の最中で、癇癪起こされたら困るからね……」
「そうだニャア」
メモリーはそれ以上は言わず、ただ星空を眺めていた……




