王様も色々
突然の事にあたふたするグンヌ。
そんなグンヌの背中を押し、スタスタと城に入って行くザガン。
まあ、ザガンらしいかと開き直り、黙ってついて行く〈レジェンド〉一同と、好奇心いっぱいについて来るメモリー。
他の冒険者と依頼人達は、少し遅れながら、慌ててついて来る。
「ザガン様! 毎回毎回いきなり飛び出して行くのは止めて下さい!」
城に入ると、騎士の格好で慌てて走り寄るラジンと近衛達に迎えられた。
「ラジン!?」
「兄さん!?」
ジンとラジンが驚き、互いに顔を見合わせたまま固まった。
「毎回なのね」
「じっとしてるのは、性に合わん」
「こんなのに使える人達……可哀想に」
「アヤメ、これでも次期国王なんだけど」
「関係ないわよ。そんな事」
こんなの扱いのザガン。
「師匠、何を?」
「いや~武器が増えたな~と」
「……凄い数」
勝手に城内を見て回るツバサ。
城内に飾ってある武器の数が、前回来た時より増えているらしい。
「あのー……」
申し訳なさそうにグンヌが話し掛ける。
直ぐにハッと我に帰る近衛達。
「長旅ご苦労様です。此処ではなんですから、移動しましょう」
「はあ……殿下は?」
「放っておけばちゃんと来ますから」
扱いが酷い。
「はあ……」
ついて行けないグンヌ。
もう、どうにでもなれ状態だ。
「いやー悪い悪い」
案内された部屋で、グンヌや冒険者、依頼人達が適当に座って待っていると、全く悪いと思ってなさそうなザガンと、呆れ顔でザガンの後ろからついて来た〈レジェンド〉一同が部屋に入って来た。
ジンとラジンは楽しそうだが。
「堅苦しいのは嫌いだし、礼儀とか適当で良いからね。こっちの書類に新入生のリストが載ってるから確認して」
「あ、はい」
「卒業生達は、騎士達が迎えに……もう来てたね」
「……」
適当過ぎないか?
「面白い奴」
ボソッとメモリーが呟いた。
いつの間にか、隣に居たメモリーにびっくりするジン。
「前からか?」
「あ、ああ」
「うむ……我らが王も変わり者だが、それ以上に変わっておるな」
「普通って何だろうな」
「さあ」
もう、基準が分からない。
「確かに確認致しました。出来れば直ぐに出発したいのですが」
「もう? そんなに急いでるの?」
「道中何が有るか分かりませんから」
「なるほど……でも、こちらにも準備がいるからね。明日出発では駄目かな?」
「分かりました。今日は宿に戻ります」
「分かった」
何がなんでも城には泊まりたくないらしいグンヌ。
仕方ないか……。
話が終わったら、そそくさと城から退散する一行。
そんなに嫌なのか……。
◇◇◇◇◇
朝、グンヌは絶句したまま固まってしまった。
準備とは聞いていたけれど……。
「おい……ゴーレムを貸し出すとか……」
聞いてないけど!?
「なあ、あの剣って、学園祭の時……」
「ザガンが買っていったやつね」
「だよな。ゴーレム用だったのか!?」
「さあ……」
「頼もしい護衛だね~多分」
「……いろんな意味で」
「デカい……」
ザガンが連れて(?)来たのは、新入生と金属製のゴーレム。
護衛だそうだ。
「ははは! 良い出来だろう! 学園に着いたら、自分で勝手に戻るように設定してあるから、安心してくれ!」
超ハイテクなゴーレムらしい。
別に、そんな事を気にして固まっている訳ではないのたが。
「いやー、つい最近思い付いて作ったのは良いけど、使い道が見つからなくてね」
「……」
ちょうど良いから、試運転をしてみようと言う事になった、と?
そんな意味で見詰める皆に、嬉しそうに頷いたザガン。
ザガンの後ろでは、誇らしげに胸を張る国に仕える魔法師達が居る。
「やり過ぎ注意だニャ……」
「メモリー、語尾付いてるぞ」
「あ! ついうっかり」
流石のメモリーも驚いたらしい。
「えっと……ありがたいです?」
再起動したグンヌ。
「どう致しまして。また機会が有れば、気軽に寄ってくれ」
「はあ……それでは」
もう突っ込むのは諦めたグンヌは、せめて早く立ち去ろうと考え、皆に合図を送ると、皆も同じ考えだったようで、素早く黙って従う。
徐々に離れていく城とザガンを見て、皆がホッとする。
なんだか、自分達の中で何かが崩れてしまった気がする。
「三メートル位かな?」
「それ以上じゃない?」
「……何でも良いや」
「そうだね~気にしたら負け~」
「師匠、何にですか?」
「さあ~」
そう、気にしたら負けだ。多分。
「機能が良いニャ。あまり起動時に音が響かないニャ」
「無駄に高機能だね~」
こんなに簡単に貸し出しても良いのだろうか?
良くない気がする……。
「ん?」
アヤメがツバサの肩をつついて、皆に気付かれないように小声で話す。
「あの2人」
「揃い始めたな」
「順調ね」
あの豪華な槍を持った新入生の側に、今回新たに旅に加わった新入生が2人居る。
初対面の筈なのに、何故だか旧知の仲のように仲良く。
そして、そんな3人を囲む冒険者も、とても親しげに、そして、何かを歓迎するかのように世話をやいている。
その光景は、〈レジェンド〉一同を見た冒険者の対応とは、真逆の対応だと言えるだろう。
新たに加わった2人は双子。
濃い茶色の髪を適当に跳ねさせた男子生徒と、同じ色の髪を緩く一つに束ねた女子生徒。
男子生徒は金色のチャクラムを、女子生徒は美しい装飾の弓を持っている。
双方、芸術品のような武器だ。
「役に立つかしら?」
「温室育ちには無理だろう」
冷たい目で品定めをするアヤメに、一瞥しただけで吐き捨てるツバサ。
「でしょうね」
アヤメも合意し、直ぐに視線を外した。
ほんの一瞬の出来事に、周りは誰も気付く事はなかった。
◇◇◇◇◇
「何だよこれ……」
歩き続け、近くの“村であった場所”にたどり着いた一行は、あまりの惨状に声を失った。
「人……?」
誰の声か分からないが、誰もが同じ事を頭の中で呟いた。
“村は”あった。
しかし、人の村ではなかった。
気持ち悪い程の血の匂いと、かつては広場であった所、もはや畑とは言えない荒れ地――そして、そこに居た“生き物”。
人の形の異形。
それが村で生きていた。
ひしめき合うように……。
「大進行の際、魔物と共に現れた異形……報告以上に酷いな」
グンヌがギルドに寄せられた報告を思い出し、ようやく正体に気付いた。
狂いし生き物。
そうとしか言えない。
「このままだと通れないわね。排除しましょう」
「だが……」
「前、遭遇しましたが、救いようがありませんよ。もう、人ではありません」
容赦ないアヤメに、数多くの戦場にて戦い抜いたグンヌは、少し躊躇する。
仕方ないだろう。
こんな事、そうそう有る事ではない。
顔、声、僅かに残った面影は、人のそれなのだから。
正義感でなんとかなるなら、既になんとかしているのだ。
治療で治るなら、既に治している。
アヤメもツバサも冷たい訳ではない。
現実を受け止めているだけだ。
「やるしか無いのだよ」
「行きましょうツバサ」
「ああ」
とは言え、他人にわざわざ説いてやる程優しくはない。
気持ちの整理がつくまで待ってやるだけの時間も無い。
故に、即座に行動に移す。
「何だ?」
「離しなさい」
移せなかった。
豪華な槍、金色のチャクラム、綺麗な装飾の弓を持った3人が、近寄りがたい雰囲気のアヤメとツバサを止めた。
邪魔だと、殺気を当てられても離れず、腕を掴んでいる。
「先輩、あなた達も人間でしょう?」
「血も涙も無いのかよ!」
「兄の暴言申し訳ありません。しかし、彼らを見放せません」
引かない3人。
「お前達、馬鹿か? 御伽噺のように、正義感で救えるとでも? 目の前の人間を救えば、終わるとでも?」
「あなた達が見ていない所で、既に犠牲者は出ています。身勝手な自己満足で、ここに居る者達、まだまともな人間を、危険にさらすつもりかしら? 私達がどう言われようと構いません。私達は、今生きる者達を守るだけです」
「その勇気は誉めてやる。だが、自分に出来ぬ事で他人を悩ますな」
だが、所詮は子供の戯れ言。
現実の厳しさを知る2人に、通じる事ではない。
2人の冷たい視線と、殺気を通り越した何かが、止めに入った3人の脳裏に明確な死を伝える。
本能の警鐘、体の震えに身動きが取れなくなった3人を引き剥がし、異形の待ち受ける村に飛び込むアヤメとツバサ。
「悪魔かよ……あいつら」
「あんな奴、人間じゃねぇ」
「あの人達が先輩なの?」
勝手な絶望に染まる3人。
その3人を励ます冒険者達。
「変だぜ……こんなの」
「……まるで、悪役みたい」
「師匠、これは一体?」
唯一、3人の人を惹き付けるカリスマ的オーラに影響されないジン、ラング、ムウは困惑する。
目の前の光景は異常だと。
何故、ただの子供相手に、実力も名誉も無いのに、この間会ったばかりなのに、何故、皆が褒め称え、何の戸惑いも無く受け入れるのか、と。
「護衛だぜ? この場合の判断はむしろ懸命だと、冒険者なら分かるだろ?」
「……グンヌさんまで」
「世界が味方している?」
皆を守る為、必死に戦うアヤメとツバサには目もくれず、あの3人を気遣うグンヌや冒険者、更に依頼人達まで。
ジン、ラング、ムウの中で、何かが壊れる音がした。
「大丈夫かしら?」
アヤメの声で、やっと我に帰ったジン、ラング、ムウ。
「幻滅するなよ? あれが、カリスマと言うやつだ」
ツバサの言葉に、不満げにするジン、ラング、ムウ。
「今は分からないかもしれない。けど、そのうち分かるわ」
「今までも、私達がいくら実績を積んでも認められなかった、違うか?」
「認めるのは僅かな人だけ。何故なら、私達は世界の主役ではないのだから」
2人の言う事は分からない。
だけど……
これだけは分かる。
2人は悲しんでいる。
自分の事ではなく、目の前に居る仲間であるジン、ラング、ムウの境遇を……。
曲がりきった世界の現状を……。




