表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
94/166

人間は都合が良い

 ジン、ラング、ムウが皆の元に戻って来ると、アヤメとツバサに迎えられた。

 グンヌとメモリーは、剥ぎ取った素材について話し合いをしている。


「お疲れ様」

「お疲れ~」

「おう! 今回は手こずった」

「……魔法が……役に立てなかった」

「そんな事はない」


 魔法が効かなかった事は、やはりラングにとってショックだったようだ。


「サポートも、魔法師の役目よ」

「そうそう。落ち込まな~い」

「……あう」


 2人に言われても、説得力がない。


「おし! 皆、今日は終わりだ! って、直ぐに出発だがな!」


 グンヌが話し合いを終えて、皆に向かって発した言葉を聞いて、一斉ににうなだれる冒険者達。

 空を見上げれば、少し明るくなり始めている。

 休む時間は全く無いらしい。


「眠気覚まし有るぞ!」


 そう言う問題ではないです。


「勘弁してくれ……」


 ジンの言葉に、周りの冒険者は静かに頷いた……。










 朝、いつもよりのんびりとしながら、野営地を出発した。

 心なしか、馬達も眠そうだ。

 〈レジェンド〉一同の待遇が一夜にして格段と良くなり、ジンとラングは戸惑っていた。

 結局、アヤメとツバサに促され、皆の好意に甘えさせて貰い、荷馬車の中に乗り込んで、体を休めている。

 旅に慣れた卒業生達、元々慣れている新入生の数人が歩く事にしたので、少し余裕が出来たのだ。

 アヤメとツバサ曰わく、


「「いざという時に私達に戦って欲しいからだと思う」」


 だそうだ。

 本当に都合の良い奴らだ。


「なあ、あいつさ、えらくゴツい武器持ってるよな」


 ジンが、荷馬車の窓から見える新入生の1人を指差す。

 とても明るく楽しそうに笑う茶髪の男子生徒は、大きな槍を持っていた。

 長さはニメートル程で、ラングの物より少し長い程度だが、先端部分の刃は幅が広く、細かな装飾が施され、刃の付け根部分の柄もかなり太く、同じように細かな装飾が施されている為、端から見たらただのゴツい槍の置物のように見える。

 しかし、使い込まれているようで、磨いても落とせなかった血の跡、細かい傷が無数に有る事から、ただのゴツい飾りではなさそうだ。

 これほどまでに煌びやかな武器は、この場では浮いて見える。


「そうね。目に眩しいわ」

「……なんか、不思議な雰囲気」

「何故だかそちらに目がいく」


 ムウが言うように、男子生徒自体に何故だか目が引き付けられる、そんな不思議な雰囲気を纏っている。

 今まで彼は荷馬車に乗っていたので、ずっと外を歩いていた〈レジェンド〉一同は今初めて見る。

 だが、他の冒険者達は違和感を感じないようで、普通に接しているが、端から見るとかなり馴染んで見える事が、〈レジェンド〉一同にとっては、不思議に思える。

 そう感じるのも、他には居ないようなので、なんだか自分達の方がおかしいみたいに感じてしまう。


「なるほど……彼がね……」

「アヤメ?」

「何でもないわ」


 小さく呟いたアヤメに、ジンが不思議そうに尋ねると、はぐらかされた。

 聞くなと、眩しい笑顔に反する冷たい目が言っている。

 こんな笑顔を向けられ、尚食い下がる勇気は無いので、黙って引き下がるジン。

 ラングとムウには聞こえなかったみたいで、今も窓の外を眺めている。

 因みに、ツバサはずっと寝ている。

 まあ、いつもの事か……。










 いきなりだが、何故盗賊は分かりやすい格好をするのだろうか?


「分かりやすいだろ! お前ら!」


 荷馬車の行く手を遮る盗賊に、たまらずジンが突っ込んだ。

 言いたくなる気持ちは分かる。

 誰でも見れば分かる格好なのだから。

 いかにも盗んだやつを腰にぶら下げ、理由は分からないが防御を無視した腹が寒そうな服装に、感性が全く理解出来ないがやたらと装飾品を散りばめ、何を勘違いしたのか個性的な髪型で、何が楽しいのかニヤニヤと笑い、勝ち誇ったように腕を組んでいるのだから。

 うん! 分かりやすい!


「荷物置いてけ! あと、女もな!」

「ひゃひゃひゃ!」

「馬も置いてけよ! 見た感じ良い馬だしな!」



 本当に分かりやすい!


「断る!」

「ツバサ!?」


 いきなり叫んだツバサに、ジンがびっくりして振り返る。

 ゴミを見るような目で、ゴミの出方を窺うツバサの後ろに、同じくゴミの位置や人数を確認するアヤメとメモリーが居た。

 心強いが、ある意味怖い。

 ポンとジンの肩に手が置かれ、ジンがそちらを見てみると、薄い笑みを浮かべたグンヌが居た。

 何でだろう?

 こちらの方が怖いのは……。


(ああ……あいつら終わったな)


 今のは、この光景を見た冒険者達が一瞬で導き出した結論である。


「勇ましい嬢ちゃんだ! 良いねー!」

「後ろの子、優等生っぽい所が好みだ!」

「俺は大人っぽい黒髪の女が良いなー」


 命知らずめ……。


「貴様等……身の程を知れ!」

「ムウ!?」

「師匠達にそのような目を向けるとは……この無礼者が! 楽に逝けると思うなよ」

「ええ!? 一体、お前の師匠何者なんだよ!?」

「貴様は黙れ!」

「はい……」


 ムウの中の何かにスイッチが入ったようです。


「……気持ち悪い……吹き飛ばす」

「!?」


 ラングまでスイッチが入ったようだ。


「触れたくないし、魔法を放てば良いわよね?」

「もちろんだニャ! 下品な輩に近付いたら駄目だニャ! 手加減無用ニャ!」


 意気投合したアヤメとメモリーがにこやかに頷き合う。

 普通に見たら目の保養なのだが……。


「行くぜ!」

「俺が一番先だ!」

「させん!」


 こちらに向かってくるゴミ


「お前ら、馬鹿だなぁ」


 カラカラと笑うグンヌ。


「浄化しろ煌々なる聖なる雨」

「……吹き荒れよ巨大竜巻」


 ゴミに向かって光の弾丸が雨のように降り注ぎ、全ての敵を巨大竜巻が飲み込もうと前進する。

 アヤメが氷の矢を放ちまくり、メモリーがゴミの足元から土の棘を無数に生やし、ツバサが雷を撃ち落とした。

 正に地獄絵図。

 一応言っておくが、皆これでも手加減している。

 多分、死人は出ないだろう。多分!

 保証はしないけどね!


「あはははは!」

「グンヌさん、笑い事じゃなくね?」

「大丈夫大丈夫! 一応、向こうにも魔法師居るから! ははは! 壮観だな!」

「あんた、ギルド職員だろ?」

「知るか!」

「おい!」


 終わった時には、ゴミは皆のびていたが、死んでは居なかった。

 ある意味、可哀想だ。

 少数の魔法師が全力で頑張ったらしい。

 一分も持たなかったが。

 直撃は流石にまずいので、実はこっそり全ての魔法の軌道をずらしたアヤメ、ツバサのおかげである。

 無詠唱、無動作で強引に気流を操作した結果だ。

 2人にとっては簡単な事。

 ちょっとヤバそうな魔法は、こっそり時空魔法でどこかに飛ばしておいた。

 氷の矢と雷撃は目くらましである。

 まあ、少しは当てたが。


「何故庇ったニャ?」

「やり過ぎだもの。巻き込まれるわ」

「地形が変わるだろうが」

「忘れてたニャ」


 メモリーは気付いたらしい。


「ははは! 流石だ! 仕事が減った!」

「グンヌ、こいつら任せるぞ」

「え!?」

「野放しは駄目だろう。ギルドの対応を求める」

「今は護衛中だし」

「人を呼べば良かろう?」

「へいへい」


 魔法具で連絡し、簡単に説明していくグンヌは、どうやってこの惨状を説明するか悩む。

 結局素直に説明したら、何故止めなかったか責められるグンヌであった。

 だって、依頼人も危ないからね。

 アヤメとツバサが居なければ、大惨事になっていただろう。

 何故なら、他の冒険者も暴れようとしていたからだ。

 一番怖い存在達が暴れたので遠巻きに傍観していたが、他の冒険者も決して温厚とは言えないので、この長旅でのストレス発散に、ここぞとばかりに鬱憤を晴らすであろう。盛大に。

 馬車ごと突っ込む奴も、もしかしたら居るかもしれない。


「血気盛んなのが冒険者だしな……」

「弱いならいざ知らず、強い冒険者が多いから厄介よね」

「あと、後少しで小さな街の宿にたどり着くという状況だとな」

「女性冒険者も多いしね」

「キレる寸前だったな」


 アヤメとツバサに苦労は絶えないようだった……。










 あれからは、それほど大変な事は無く、すんなり〈ガイス〉の王都までたどり着いた。

 とりあえず宿まで着いた一行は、夜遅い事もあり、休む事になった。

 グンヌだけは、ギルドに呼び出されたので、慌てて出掛けて行った。

 どうやら上がかなり怒っているようで、王都に着いたら近くのギルドに早急に来るよう言われたらしい。

 まあ、仕方ないよね。


「結構、順調に進んでるな」

「……そりゃあ、皆が急いでるし」

「魔物が少ないのも有り難い」

「それは嬉しいけど、変だよな」

「……うん」


 本当はアヤメとツバサにも意見を聞きたいのだが、宿の中は男女別に仕切られている為、ここには居ない。

 長旅の後なので、夜に呼び出すのも気が引ける。

 もやもやとした何かを抱えながら、3人は徐々に意識を手放していった。









「寝れなかったの?」


 朝、食堂に集まったジン、ラング、ムウの目元に隈を見付け、アヤメが心配そうに問い掛ける。


「いや……うん……」

「……今さら眠くなってきた」

「……」


 駄目だこりゃ。


「ムウ、立ったまま寝ないでよ」

「申し訳ありません……」

「眠気覚まし(市販の物なので激マズ)飲む~?」

「……貰います」

「凄い勇気だなムウ……」

「役立たずは御免だ」

「う……俺も飲む」

「……え? 僕も?」


 無言でジンとムウに肩を掴まれ、逃げる事が出来なくなったラング。

 結局飲まされたラングは、別の意味で意識を失いそうになった。

 ジンとムウも無言で立ちすくんでいる。

 アヤメとツバサが調合した眠気覚ましの有り難さを、改めて実感する3人。

 2人が作った物は、かなり飲みやすく作られており、効き目も申し分ないが、材料の問題で量が作れない。

 今回の旅では既に使い果たしてしまったので、支給された物で我慢するしかなくなった。

 効き目より、味で目が覚めそうだ。

 色が濃い緑で、中身がドロドロしているのは何故だ……。


「早く飯食いたい」

「……口直ししようよ」

「うむ……」


 アヤメとツバサは食べないらしいので、席を取っておいて貰い、バイキング形式の朝食を持ってくる。

 人数が多いので、厨房からは大慌てで料理を用意する音が聞こえる。

 質より量で勝負しているようで簡単な料理が多いが、何分人数が多過ぎて、それでもてんてこ舞い状態である。

 使い終わった皿が、大量に返却口に溜まっている。


「素朴で懐かしい感じだな」

「……家のご飯よりは豪華」

「あの薬の後だから、余計に美味い」


 ムウの言葉に、ジンとラングも頷いた。

 そうとう不味かったらしい。


「朝から多いわね」

「……zzZ」


 朝は食べない派のアヤメは、目の前に有る料理の量に呆れる。

 実際はそこまで多い訳ではないが、アヤメにとっては多いらしい。

 ツバサは完全に寝ている。

 いつの間にか同じテーブルにやって来ていたメモリーに、ちょっとびっくりする一同。

 しかも、大きな焼き魚を、満面の笑顔で頬張っている。


「いつから其処に?」

「ついさっきだニャ! この魚美味いのニャ~」

「水も飲まずに、よく食べれるわね」

「魚にも水分有るニャ」


 え? そう言う問題?


「あ、そう……」

「……zzZ」

「ツバサ、頭落ちそうだニャ」

「器用な体勢ね」


 テーブルから落ちるギリギリで、器用にバランスを取りながら寝ているツバサ。

 ちょっと首が痛そう。


「今日は城に行くんだっけ?」

「ええ。グンヌが嫌そうにしてたわ」

「何でかニャア?」


 普通、遠慮したい事です。

 一般人が王城に行くなんて、多大なるプレッシャーを感じ、意味の分からない疲れに苛まれるだけだ。

 何故そんなに堂々としていられるのか、こっちが聞きたい。


「まあ、相手はザガンだしね」

「大丈夫じゃね?」

「……むしろ楽しそう」

「ふむ」

「ちゃんとツバサの頭を支えるムウは、良い子だニャア」


 食べながらも、開いてる左手でさり気なくツバサの頭を支えるムウに、メモリーは感心している。

 さり気なさすぎて、気付かなかった。

 この微笑ましい光景に、思わず足を止めて見とれる冒険者も居る。


「良いお父さんになりそうね」

「お、おう」

「……うん」


 なんだか良く分からない感動を覚えながら、朝食を終えた一同。

 こんなのんびりした朝食も、本当に久しぶりだった。









「グンヌさん、緊張し過ぎだろ」

「そんな事はない」


 ガチガチになってますよグンヌさん。

 物凄く、歩き方がぎこちない。


「そんなんで大丈夫なのか? 体持つのかよ?」

「うるさい。ほら、もう少しだ」


 そんな事言われなくとも、かなり前から城の入り口は見えています。

 朝、皆が集まってから宿を出て、皆何故だか黙って城に向かっていたが、城が見えた途端に緊張が走り、いきなりスピードが落ちた。

 そして、入り口が見えてからは、グンヌだけでなく、周りの冒険者や依頼人も動きがおかしくなった。

 ブラストのせいで、トラウマになってしまったらしい。


「そんなに堅くならなくても。強い者は皆喜んで歓迎するよ」


 突然、グンヌの隣に現れたザガン。

 神出鬼没だ。

 完璧に固まったグンヌ。


「ザガン様!?」

「あら、久しぶりね」

「……え? え?」

「おひさ~」

「師匠、適当過ぎます」

「皆、久しぶりだね」



 動じない奴も居る。


「え、えーー!? あなた様がザガン様で御座いまするか!?」

「グンヌさん、何語? それ」

「!? あ、@☆△※」

「落ち着け!」


 完璧にパニック状態に陥ったグンヌ。

 もう、可哀想になってきた。


 こんな状態で、これから大丈夫なんだろうか……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ