人間は都合が良い
ジン、ラング、ムウが皆の元に戻って来ると、アヤメとツバサに迎えられた。
グンヌとメモリーは、剥ぎ取った素材について話し合いをしている。
「お疲れ様」
「お疲れ~」
「おう! 今回は手こずった」
「……魔法が……役に立てなかった」
「そんな事はない」
魔法が効かなかった事は、やはりラングにとってショックだったようだ。
「サポートも、魔法師の役目よ」
「そうそう。落ち込まな~い」
「……あう」
2人に言われても、説得力がない。
「おし! 皆、今日は終わりだ! って、直ぐに出発だがな!」
グンヌが話し合いを終えて、皆に向かって発した言葉を聞いて、一斉ににうなだれる冒険者達。
空を見上げれば、少し明るくなり始めている。
休む時間は全く無いらしい。
「眠気覚まし有るぞ!」
そう言う問題ではないです。
「勘弁してくれ……」
ジンの言葉に、周りの冒険者は静かに頷いた……。
朝、いつもよりのんびりとしながら、野営地を出発した。
心なしか、馬達も眠そうだ。
〈レジェンド〉一同の待遇が一夜にして格段と良くなり、ジンとラングは戸惑っていた。
結局、アヤメとツバサに促され、皆の好意に甘えさせて貰い、荷馬車の中に乗り込んで、体を休めている。
旅に慣れた卒業生達、元々慣れている新入生の数人が歩く事にしたので、少し余裕が出来たのだ。
アヤメとツバサ曰わく、
「「いざという時に私達に戦って欲しいからだと思う」」
だそうだ。
本当に都合の良い奴らだ。
「なあ、あいつさ、えらくゴツい武器持ってるよな」
ジンが、荷馬車の窓から見える新入生の1人を指差す。
とても明るく楽しそうに笑う茶髪の男子生徒は、大きな槍を持っていた。
長さはニメートル程で、ラングの物より少し長い程度だが、先端部分の刃は幅が広く、細かな装飾が施され、刃の付け根部分の柄もかなり太く、同じように細かな装飾が施されている為、端から見たらただのゴツい槍の置物のように見える。
しかし、使い込まれているようで、磨いても落とせなかった血の跡、細かい傷が無数に有る事から、ただのゴツい飾りではなさそうだ。
これほどまでに煌びやかな武器は、この場では浮いて見える。
「そうね。目に眩しいわ」
「……なんか、不思議な雰囲気」
「何故だかそちらに目がいく」
ムウが言うように、男子生徒自体に何故だか目が引き付けられる、そんな不思議な雰囲気を纏っている。
今まで彼は荷馬車に乗っていたので、ずっと外を歩いていた〈レジェンド〉一同は今初めて見る。
だが、他の冒険者達は違和感を感じないようで、普通に接しているが、端から見るとかなり馴染んで見える事が、〈レジェンド〉一同にとっては、不思議に思える。
そう感じるのも、他には居ないようなので、なんだか自分達の方がおかしいみたいに感じてしまう。
「なるほど……彼がね……」
「アヤメ?」
「何でもないわ」
小さく呟いたアヤメに、ジンが不思議そうに尋ねると、はぐらかされた。
聞くなと、眩しい笑顔に反する冷たい目が言っている。
こんな笑顔を向けられ、尚食い下がる勇気は無いので、黙って引き下がるジン。
ラングとムウには聞こえなかったみたいで、今も窓の外を眺めている。
因みに、ツバサはずっと寝ている。
まあ、いつもの事か……。
いきなりだが、何故盗賊は分かりやすい格好をするのだろうか?
「分かりやすいだろ! お前ら!」
荷馬車の行く手を遮る盗賊に、たまらずジンが突っ込んだ。
言いたくなる気持ちは分かる。
誰でも見れば分かる格好なのだから。
いかにも盗んだやつを腰にぶら下げ、理由は分からないが防御を無視した腹が寒そうな服装に、感性が全く理解出来ないがやたらと装飾品を散りばめ、何を勘違いしたのか個性的な髪型で、何が楽しいのかニヤニヤと笑い、勝ち誇ったように腕を組んでいるのだから。
うん! 分かりやすい!
「荷物置いてけ! あと、女もな!」
「ひゃひゃひゃ!」
「馬も置いてけよ! 見た感じ良い馬だしな!」
本当に分かりやすい!
「断る!」
「ツバサ!?」
いきなり叫んだツバサに、ジンがびっくりして振り返る。
ゴミを見るような目で、賊の出方を窺うツバサの後ろに、同じく賊の位置や人数を確認するアヤメとメモリーが居た。
心強いが、ある意味怖い。
ポンとジンの肩に手が置かれ、ジンがそちらを見てみると、薄い笑みを浮かべたグンヌが居た。
何でだろう?
こちらの方が怖いのは……。
(ああ……あいつら終わったな)
今のは、この光景を見た冒険者達が一瞬で導き出した結論である。
「勇ましい嬢ちゃんだ! 良いねー!」
「後ろの子、優等生っぽい所が好みだ!」
「俺は大人っぽい黒髪の女が良いなー」
命知らずめ……。
「貴様等……身の程を知れ!」
「ムウ!?」
「師匠達にそのような目を向けるとは……この無礼者が! 楽に逝けると思うなよ」
「ええ!? 一体、お前の師匠何者なんだよ!?」
「貴様は黙れ!」
「はい……」
ムウの中の何かにスイッチが入ったようです。
「……気持ち悪い……吹き飛ばす」
「!?」
ラングまでスイッチが入ったようだ。
「触れたくないし、魔法を放てば良いわよね?」
「もちろんだニャ! 下品な輩に近付いたら駄目だニャ! 手加減無用ニャ!」
意気投合したアヤメとメモリーがにこやかに頷き合う。
普通に見たら目の保養なのだが……。
「行くぜ!」
「俺が一番先だ!」
「させん!」
こちらに向かってくる賊。
「お前ら、馬鹿だなぁ」
カラカラと笑うグンヌ。
「浄化しろ煌々なる聖なる雨」
「……吹き荒れよ巨大竜巻」
賊に向かって光の弾丸が雨のように降り注ぎ、全ての敵を巨大竜巻が飲み込もうと前進する。
アヤメが氷の矢を放ちまくり、メモリーが賊の足元から土の棘を無数に生やし、ツバサが雷を撃ち落とした。
正に地獄絵図。
一応言っておくが、皆これでも手加減している。
多分、死人は出ないだろう。多分!
保証はしないけどね!
「あはははは!」
「グンヌさん、笑い事じゃなくね?」
「大丈夫大丈夫! 一応、向こうにも魔法師居るから! ははは! 壮観だな!」
「あんた、ギルド職員だろ?」
「知るか!」
「おい!」
終わった時には、賊は皆のびていたが、死んでは居なかった。
ある意味、可哀想だ。
少数の魔法師が全力で頑張ったらしい。
一分も持たなかったが。
直撃は流石にまずいので、実はこっそり全ての魔法の軌道をずらしたアヤメ、ツバサのおかげである。
無詠唱、無動作で強引に気流を操作した結果だ。
2人にとっては簡単な事。
ちょっとヤバそうな魔法は、こっそり時空魔法でどこかに飛ばしておいた。
氷の矢と雷撃は目くらましである。
まあ、少しは当てたが。
「何故庇ったニャ?」
「やり過ぎだもの。巻き込まれるわ」
「地形が変わるだろうが」
「忘れてたニャ」
メモリーは気付いたらしい。
「ははは! 流石だ! 仕事が減った!」
「グンヌ、こいつら任せるぞ」
「え!?」
「野放しは駄目だろう。ギルドの対応を求める」
「今は護衛中だし」
「人を呼べば良かろう?」
「へいへい」
魔法具で連絡し、簡単に説明していくグンヌは、どうやってこの惨状を説明するか悩む。
結局素直に説明したら、何故止めなかったか責められるグンヌであった。
だって、依頼人も危ないからね。
アヤメとツバサが居なければ、大惨事になっていただろう。
何故なら、他の冒険者も暴れようとしていたからだ。
一番怖い存在達が暴れたので遠巻きに傍観していたが、他の冒険者も決して温厚とは言えないので、この長旅でのストレス発散に、ここぞとばかりに鬱憤を晴らすであろう。盛大に。
馬車ごと突っ込む奴も、もしかしたら居るかもしれない。
「血気盛んなのが冒険者だしな……」
「弱いならいざ知らず、強い冒険者が多いから厄介よね」
「あと、後少しで小さな街の宿にたどり着くという状況だとな」
「女性冒険者も多いしね」
「キレる寸前だったな」
アヤメとツバサに苦労は絶えないようだった……。
あれからは、それほど大変な事は無く、すんなり〈ガイス〉の王都までたどり着いた。
とりあえず宿まで着いた一行は、夜遅い事もあり、休む事になった。
グンヌだけは、ギルドに呼び出されたので、慌てて出掛けて行った。
どうやら上がかなり怒っているようで、王都に着いたら近くのギルドに早急に来るよう言われたらしい。
まあ、仕方ないよね。
「結構、順調に進んでるな」
「……そりゃあ、皆が急いでるし」
「魔物が少ないのも有り難い」
「それは嬉しいけど、変だよな」
「……うん」
本当はアヤメとツバサにも意見を聞きたいのだが、宿の中は男女別に仕切られている為、ここには居ない。
長旅の後なので、夜に呼び出すのも気が引ける。
もやもやとした何かを抱えながら、3人は徐々に意識を手放していった。
「寝れなかったの?」
朝、食堂に集まったジン、ラング、ムウの目元に隈を見付け、アヤメが心配そうに問い掛ける。
「いや……うん……」
「……今さら眠くなってきた」
「……」
駄目だこりゃ。
「ムウ、立ったまま寝ないでよ」
「申し訳ありません……」
「眠気覚まし(市販の物なので激マズ)飲む~?」
「……貰います」
「凄い勇気だなムウ……」
「役立たずは御免だ」
「う……俺も飲む」
「……え? 僕も?」
無言でジンとムウに肩を掴まれ、逃げる事が出来なくなったラング。
結局飲まされたラングは、別の意味で意識を失いそうになった。
ジンとムウも無言で立ちすくんでいる。
アヤメとツバサが調合した眠気覚ましの有り難さを、改めて実感する3人。
2人が作った物は、かなり飲みやすく作られており、効き目も申し分ないが、材料の問題で量が作れない。
今回の旅では既に使い果たしてしまったので、支給された物で我慢するしかなくなった。
効き目より、味で目が覚めそうだ。
色が濃い緑で、中身がドロドロしているのは何故だ……。
「早く飯食いたい」
「……口直ししようよ」
「うむ……」
アヤメとツバサは食べないらしいので、席を取っておいて貰い、バイキング形式の朝食を持ってくる。
人数が多いので、厨房からは大慌てで料理を用意する音が聞こえる。
質より量で勝負しているようで簡単な料理が多いが、何分人数が多過ぎて、それでもてんてこ舞い状態である。
使い終わった皿が、大量に返却口に溜まっている。
「素朴で懐かしい感じだな」
「……家のご飯よりは豪華」
「あの薬の後だから、余計に美味い」
ムウの言葉に、ジンとラングも頷いた。
そうとう不味かったらしい。
「朝から多いわね」
「……zzZ」
朝は食べない派のアヤメは、目の前に有る料理の量に呆れる。
実際はそこまで多い訳ではないが、アヤメにとっては多いらしい。
ツバサは完全に寝ている。
いつの間にか同じテーブルにやって来ていたメモリーに、ちょっとびっくりする一同。
しかも、大きな焼き魚を、満面の笑顔で頬張っている。
「いつから其処に?」
「ついさっきだニャ! この魚美味いのニャ~」
「水も飲まずに、よく食べれるわね」
「魚にも水分有るニャ」
え? そう言う問題?
「あ、そう……」
「……zzZ」
「ツバサ、頭落ちそうだニャ」
「器用な体勢ね」
テーブルから落ちるギリギリで、器用にバランスを取りながら寝ているツバサ。
ちょっと首が痛そう。
「今日は城に行くんだっけ?」
「ええ。グンヌが嫌そうにしてたわ」
「何でかニャア?」
普通、遠慮したい事です。
一般人が王城に行くなんて、多大なるプレッシャーを感じ、意味の分からない疲れに苛まれるだけだ。
何故そんなに堂々としていられるのか、こっちが聞きたい。
「まあ、相手はザガンだしね」
「大丈夫じゃね?」
「……むしろ楽しそう」
「ふむ」
「ちゃんとツバサの頭を支えるムウは、良い子だニャア」
食べながらも、開いてる左手でさり気なくツバサの頭を支えるムウに、メモリーは感心している。
さり気なさすぎて、気付かなかった。
この微笑ましい光景に、思わず足を止めて見とれる冒険者も居る。
「良いお父さんになりそうね」
「お、おう」
「……うん」
なんだか良く分からない感動を覚えながら、朝食を終えた一同。
こんなのんびりした朝食も、本当に久しぶりだった。
「グンヌさん、緊張し過ぎだろ」
「そんな事はない」
ガチガチになってますよグンヌさん。
物凄く、歩き方がぎこちない。
「そんなんで大丈夫なのか? 体持つのかよ?」
「うるさい。ほら、もう少しだ」
そんな事言われなくとも、かなり前から城の入り口は見えています。
朝、皆が集まってから宿を出て、皆何故だか黙って城に向かっていたが、城が見えた途端に緊張が走り、いきなりスピードが落ちた。
そして、入り口が見えてからは、グンヌだけでなく、周りの冒険者や依頼人も動きがおかしくなった。
ブラストのせいで、トラウマになってしまったらしい。
「そんなに堅くならなくても。強い者は皆喜んで歓迎するよ」
突然、グンヌの隣に現れたザガン。
神出鬼没だ。
完璧に固まったグンヌ。
「ザガン様!?」
「あら、久しぶりね」
「……え? え?」
「おひさ~」
「師匠、適当過ぎます」
「皆、久しぶりだね」
動じない奴も居る。
「え、えーー!? あなた様がザガン様で御座いまするか!?」
「グンヌさん、何語? それ」
「!? あ、@☆△※」
「落ち着け!」
完璧にパニック状態に陥ったグンヌ。
もう、可哀想になってきた。
こんな状態で、これから大丈夫なんだろうか……




