王都にて
あれからは、魔物に出会っても苦労せず対処出来、旅に慣れない者も少しずつ慣れてきたので、順調に進む事が出来た。
途中、無人の村を見付け、廃墟となった建物からは遺体が見つかったので、近くのギルドに連絡をしておいた。
良く見れば、あちらこちらに戦いの傷跡が見られ、あの日の悪夢を思い出させた。
そして、今前方には王都の大きな門が見える。
ようやく、〈フラウニア〉の王都に到着したのだ。
冒険者だけなら休み無しで4日と少しの距離を、もちろん依頼人は休ませたが、冒険者達は不眠不休で急いだにも関わらず、10日間も掛かってしまった。
もちろん交代しながら、馬を休ませながらだが、限界ギリギリまで追い込んだにも関わらずだ。
門まで迎えに来ていた騎士達に手伝って貰いながら、王都に入る。
真っ先にへとへとになった馬達を預け、王城に向かう。
荷物は騎士達が運んでくれるらしい。
「すまないな」
すっかりギルド職員状態に戻ったグンヌが、わざわざ出迎えに来ていた騎士達に頭を下げる。
国も忙しい時なのだ、本当は荷物運びなどやらせる訳にはいかない。
だが、体の悲鳴は無視出来ない。
既に限界を超えている。
「いえ。城に新入生を集めてあります。一旦城に向かいましょう。冒険者の皆さん、卒業生の皆さんには、王城に泊まって貰うように言われています」
「え? いや、しかし」
「この人数が収まる宿は有りませんから」
「あ、ああ。なる程」
いきなりの申し出に、流石にグンヌも慌てふためいている。
騎士の説明に、一応納得して頷いたグンヌだが、どこかそわそわしている。
いきなり王城に泊まるとなれば、当たり前であろう。
当然のような顔をしている、アヤメとツバサがおかしいのだ。
慣れてしまったので、苦笑するだけで終わるジン、ラング、ムウもおかしい。
「さあ、行きましょう」
他の冒険者もそわそわしながら、黙って後ろに続いた。
王城まで歩きながら、騎士達は積極的に冒険者に話し掛けるので、冒険者達も緊張感が少しずつ薄まっていった。
「ご苦労様」
そう、王城までの道では、だ。
王子が王城の前に居たのに気付いた冒険者達は、皆マナーを学んでいなかった己の事を責めた。
グンヌでさえ、カチコチに固まった動きになったのだから、他の冒険者や卒業生のパニクり様は凄まじかった。
「お、お出迎え感謝致しまする!」
語尾がおかしくなったが、グンヌが精一杯の礼を述べ、お堅いお辞儀をする。
後ろでは、同じく堅いお辞儀をする者、何故か平伏する者、小さくなって震える者など、面白い事になっている。
いくら荒くれ者揃いの冒険者とは言え、立場が分からない程馬鹿ではない。
わきまえない者は居るが、動揺位はしている。つまり、虚勢を張っている。
世間知らずの小者など、簡単に自信をへし折られて自滅するか、改心するものだ。
つまり、冒険者のほとんどは最低限の常識は持っている。
それだけ、世界は甘くない。
あの校長ですら、王族には気を使うのだから。
「良いよ。そんなに畏まらなくて」
ブラストは、苦笑しながら固まった皆に声を掛ける。
とりあえず頭を上げるグンヌ達。
「お疲れでしょう? 中に入りましょう」
「は、はい」
ブラストの後を追うグンヌ達は、王城の中を見て、思わず感嘆の息を漏らす。
キラキラしている。
眩しい位に。
別に、豪華過ぎる程の内装ではないが、品の良い家具、磨き抜かれた大理石、嫌みではない程に飾られた花々など、冒険者には縁が無いものばかりだ。
思わずキョロキョロしてしまう。
大きな部屋に通され、中央にあった大きな机を囲み座る。
足りない椅子は、騎士達が隣室から急遽運び込まれた。
「で、何で此処なんだ?」
まあ、そこで問題になるのは、王子の近くに誰が座るか、だ。
無言で押しつけ合う皆を見かねて、真っ先にアヤメとツバサが両隣を陣取った。
アヤメの横にジン、ツバサの横にムウとその隣にラングだ。
会議室らしいこの部屋の、いわゆるお誕生日席にはブラスト。端から見たら、美少女に囲まれている状況である。
ジンの隣にはメモリーが座った。
一番座りたくない場所を、まだ学生の少女が担ったおかげで、皆もなんとか持ち直し適当に近くの椅子に座る。
「本当にお疲れ様。今日はゆっくりしていってくれ」
ブラストが微笑みかけるが、皆の胸中は早く帰りたいの一言だ。
こんな所でゆっくり出来るか!
テキパキと書類を整理するブラスト。
これから預かる卒業生の確認と、逆に預ける新入生の報告を済ませる。
その間にお茶が出されたが、グンヌ達は手が出せない。
(カップひとつ、いくらなんだ?)
真剣に悩むグンヌ。
一般市民が、一年は遊んで暮らせる額になります。
そんなグンヌ達とは正反対に、出されたお茶を楽しんでいる者も居る。
アヤメとツバサは、洗練された動きで優雅にお茶を楽しんでいる。
意外な事に、ジンは動作は洗いが、カップを持ち上げる時、置く時に一切音が立たない。一応は王家の血を引くと言う事で、礼儀作法は学んでいたようだ。
ラングとムウは、いつも通り普通に飲んでいる。礼儀作法は知らないが、今更気にはしないようだ。
メモリーは優雅で、どこか妖艶な動きでしなやかに手を砂糖に伸ばし、さらさらとカップに注ぐ。砂糖が高級品だと言う事を忘れているのだろうか?
全く正反対の光景に、ブラストは楽しそうに微笑みながら、部下に指示を出している。
「確認が終わりました。ではこの後、部下が部屋に案内しますので」
「あ、はい」
「お口に合いませんでしたか?」
手が付けられていないカップを見て、ブラストが訪ねる。
絶対にわざとだろう。
「え!? いえ! 庶民には、その、何と言うか、いえ、言いますか、敷居がちょっと、かなり高いものですから!」
大慌てで返答するグンヌ。
良く分からない言葉になってしまっているが、なんとか意味は分かった。
その様子を見て苦笑しているブラストの目は、僅かに笑っている。
意外と腹黒い。
「っ! いえ、お気になさらず。長旅でお疲れのようですから、直ぐに部屋に案内しましょう。では、ごゆっくり」
机の下でアヤメとツバサに足を蹴られたブラストは、表面上は何事も無かったようにグンヌに話し掛けるが、若干涙目になっている。
ブラストが部下に案内するように指示して、執事やメイド達が皆を各自の部屋に案内するべく、部屋を後にする。
促され、そそくさ退室するグンヌ達。
「やり過ぎよ」
「性格変わった~?」
部屋に残った〈レジェンド〉一同とメモリー。
アヤメとツバサに睨まれ、肩を竦めるブラスト。
「いや、最近疲れててね……冒険者の印象が想像と違ったし」
「面白そうだったから、と?」
「思わず昔の自分が……ね」
「子供の頃、性格悪かったんだ~」
「容赦ないね……否定しないけど」
相手が誰であろうと、一切容赦しないアヤメとツバサに、やっぱり楽しそうにおどけるブラスト。
完璧にオフの状態である。
ブラストも、アヤメとツバサに仮面を被る必要は無いと思っているようだ。
意味が無いからだけど。
「で、そちらは? 人間ではなさそうだけど?」
「ほう? 気付いたか」
「伊達に王族を名乗ってないよ。実力が無いと名乗れないからね……見る目とか」
「なる程。理解したニャ。魔王軍所属、種族はケット・シー、役職と名前がメモリーだニャア」
「役職と名前?」
「メモリーだと長くなるから、ちょっと黙っててね」
必ず必要以上に長くなるメモリーの自己紹介を遮り、アヤメが簡単に説明する。
「魔王軍の記録係りが代々受け継ぐ名前がメモリーで、記録係りはケット・シーの種族が長年勤めているらしいわ。普段から役職名のメモリーで名乗っているみたいね」
「ああ、なる程」
「良く覚えていたニャア!」
「何度も何度も、あの長い自己紹介をされたくないからね」
どうしたらこんなに簡単な自己紹介が、あれだけ長い自己紹介になるのか、全く理解出来ない。
「魔王軍か……此度の戦い、本当に助かったと、伝えてくれるかな?」
「しかと承ったニャ!」
「さて、ブラスト殿下、本題に入りたいのだけど?」
「……何の事かな?」
話に区切りがついた途端、アヤメが有無を言わさぬ雰囲気で訪ねる。
流石は王族と言うべきか、その雰囲気にも涼しい顔で対応するブラスト。
突然の事に、ジン、ラング、ムウは驚いた顔をしたまま固まる。
ツバサとメモリーは当然のように、無言で先を促す。
「わざわざ城の入り口で待ち構え、わざわざ全員をこの部屋に連れて来て、わざわざ高いお茶でもてなす……何を隠したいのかしら?」
「当然のもてなしだよ。わざわざ民を連れて来て、送ってくれるのだからね」
「あれだけ威圧的に接しておいて? それがこの国のおもてなしかしら? あと、冒険者にもてなしは不要なのは分かっているでしょう? 報酬さえ貰えれば良いのだからね。ギルド及び、ギルド登録者に国は干渉しないのも、暗黙の了解よ」
「威圧的だったかな? これから気を付けるよ。今回ばかりは、国も頭が下がる想いでね。我々には、このような事しか出来ないから、この形を取らせて頂いたまでさ」
「依頼人は国ではないのに?」
「関係ないよ。此方としては助かったのだから」
「なら、冒険者ではなく、学園に礼をするのが筋でしょう? 事を進めたのは、学園なのだから。あと、ギルドや冒険者にとって一番嬉しい礼は、報酬と国からの不干渉なのだけど? 名誉はおまけでしかないしね」
「……それは」
「知らなかった……なんて、国を担う者が言う筈ないわよね? 一歩間違えば、国に危険が迫るのだから」
「…………」
ジン、ラング、ムウは、胃の痛みを感じて顔をしかめる。
張り詰めた空気が場を支配する。
いつの間にか、武器に手を掛けた近衛兵が壁際に並んでいた。
出入り口には騎士が立ちふさがって、此方を警戒している。
「黙って引き下がる気は無いぞ。知った時には遅かった、なんて事になりたくはないのでな」
ツバサが静かに、しかしはっきりと意思を伝える。
「国が隠したい事だ、大事にならない筈もない。もてなし云々、気持ちがどうとか言いながら、国王が一瞬たりとも顔を見せないのは、何故だろうな? ゆっくりして行けと言う割に、早く出て行けと言わんばかりの威圧感は何故だ? 王城の前で、さも待たされたかのように、わざわざ立ちふさがったのは、我々に無意識に罪悪感を感じさせる為だろうな。罪悪感から、無意識の内に下手に出るように」
ゆっくりと、しかし口を挟ませないように重々しく、気になる所を指摘していくツバサ。
「そして、城の中の異常から目をそらせる為に……自らを囮にして。殿下には、悪役は似合わないぞ」
「参ったね……負けだよ」
ブラストの言葉で、近衛兵達も武器から手を離す。
近衛兵達は危害を加える気はなく、敵意を向けて脅していただけだ。
ブラストが負けを認め、話す事を決めたので、その必要が無くなった。その為、今は護衛に徹する体制に入った。
良く統率が取れている。
「まだ、公にはされていない事だけど、予想外の問題が起きてね。……〈ニーファ〉との間にね」
「あの国と、か……まだ、混乱状態で他国と関わる余裕は無いと聞いたが?」
「ああ、国中で戦いが起こっている。あれから、もう数ヶ月経ったのにね。でも、起きた事は起きたんだ」
そうとう気疲れしているのだろう。
力無く微笑む姿からは、先ほどまでの威圧感は全く感じられない。
むしろ、今強風に煽られたら、そのまま飛ばされてしまいそうだ。
「とある旅商人の一団が、遺体となって見つかってね。〈ニーファ〉の王家、貴族が贔屓にしていた一団が、ね」
「……」
「〈フラウニア〉の国境内で、ね」
「それだけなら、国王が行く必要はないだろう? もったいぶる必要はないぞ」
「言いにくいだけなんだけど……。それでね、何者かに襲われ、積み荷を奪われたんだ。そして、何故か積み荷が〈フラウニア〉内の、今は使われてない元貴族の館から見つかったんだ」
「疑われたか」
「ああ……」
重々しく頷いたブラスト。
「それだけではない。その一団はそうとう信頼が厚かったみたいでね、学園に居る貴族の子供達をその一団が国まで送る予定だったんだよ」
「何?」
「幸いにも、当日予定が狂って貴族の子供達は一団とは別行動になったらしくて、無事だったけれど。だけど、その貴族が法家の者なんだ」
重い沈黙が場を支配した……




