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数日経って

 第三グランドの大樹は、管理、責任を生徒会が受け持つ事によって、そのまま残される事になり、第三グランド自体も、魔法研究所として使われる事になった。


 魔法研究所と言っても、魔法の実験場、薬草と毒草の栽培、小さな魔物相手の実戦訓練所としての役割を持っており、屋根などは無く、実験の為の設備は無い。

 新しい魔法や、新しい戦法を試す場所となっている。

 薬草と毒草は、栽培して売るのはもちろん、改良も行われている。

 生徒が買う事も出来るので、とても有り難がられている。


 訓練場はいくつかに区切られており、結界も張られているので、手続きをすれば、思う存分に訓練が出来るので、早くも予約制となっている。


 誰でも使えるとは言え、実力を重視する者も居るので、広さによってレベル別にされている。


 一番小さい所は、教室と同程度の広さしか無いが、魔法の訓練だけならば問題は無いので、文句は出ていない。


 一番大きな所は、体育館が余裕で入る広さがある。2つしか無いが。


 グランド自体が物凄く広いので、その位は余裕だ。因みに、グランドは第五まである。


 大きい練習場からS~Eまであり、Sは2、Aは4、Bは8、Cは10、Dは12、Cは14の、計50に区切られている。

 使用目的によって、結界は解く事も出来るので、用途は幅広い。

 場所毎に決められた許可証が無ければ結界を通れず、無断使用は不可能。当然返却は義務。


 もちろん、ルール違反をした者は、厳しい罰則が与えられる。

 内容は秘密にされているが、以前違反した者が人前に現れた際、物凄く素行が良くなり、進んで人助けをするようになる程の“何か”があったようだ。


 そして、今Sランクの練習場では、学園の誰もが認める実力者である〈レジェンド〉の一同が、地獄の特訓をしていた。

 ジンとムウが、魔力の圧縮と言う高次元の魔法の取得を目指し、ひたすら努力を積み重ねている。

 つい最近、本人も知らぬ間にAランカーとなっていたラングは、いざという時に対処出来るように、槍術の訓練をしていた。

 魔法だけでは、限界を感じたらしい。

 良い機会なので、戦いながら魔法を放つ訓練もしている。

 アヤメとツバサでは、レベルが違い過ぎてついて行けなかったので、同じ槍使いだったルクス先輩に頼み込んで、訓練に付き合ってもらっている。

 そして……


キンッ! カカカッ! ザシュッ!


 アヤメとツバサは、目隠しをした状態で訓練していた。

 互いに手加減無しでぶつかり合う。

 目に見えない程の斬撃と、高レベルの魔法の応酬。

 あえて派手な魔法を使わず、相手に悟られぬように魔法を放つ。

 もちろん、威力は当たれば即死級の魔法だけだ。

 お互いに、陽動の為の魔法は効かない事も分かっているので、気を引く為の魔法は使わない。

 聴覚、嗅覚はもちろん、僅かな空気の振動や魔力の揺らぎ、地面から伝わる振動を感じ取り、周囲の状況を把握している。

 元々持ち合わせている本能や、磨き抜かれた戦いの勘も大いに役立てている。


「現実離れしているよ」


 見に来ていた会長が、思わず呟く。

 暗闇を想定した訓練は確かに存在するのだが、ここまで大胆な訓練は行えない。

 どうしても、控え目な攻撃になるのは仕方ないだろう。

 見えないと言う事は、それだけの脅威なのだから。


「何故、学生なのでしょう……」


 会長について来ていた副会長が、今更な疑問を口にする。


「今更だよ。不思議だけど」

「そうよね……」


 学生だと言われて、納得する方がおかしいだろう。

 高い実力もだが、取引の手腕も、知識量も桁外れで、それでも尚、努力を止める事はない。

 一体、何をしようとしているのか、分からない程に、様々な力を求めている。


「まあ、今の状況を考えると、皆にもこれ位頑張って欲しいね」

「あなたが言わないでよ」

「何故?」

「生徒会の仕事、溜まっているわよ」

「何の事かな?」


 会長が此処に居るのは、生徒会に回ってきた大量の仕事から逃げ出したからだ。

 訓練に励む者達は、徹夜で仕事を終わらしてあるので、問題ない。

 現在、ゼファとシディア、そして、〈レジェンド〉の推薦を受け、生徒会に入る事になった〈ミラージュ〉の一同が、生徒会室で仕事に追われている。

 個人の仕事は終わらしてあるのだが、会長の仕事が終わっていないので、少しでも負担を減らそうと、仕事別に仕分け中である。

 会長の首根っこを掴んで、ずるずる引きずっていく副会長。

 お疲れ様です。


「休憩しましょうか?」

「そうだね~お互いに手の内知りすぎて、決着つかないし~」

「良く言うわ……何度身の危険を感じた事か。こちらの攻撃は効かないのに」


 目隠しを外して、苦笑し合うアヤメとツバサ。

 昔から、2人の決着がつく事は無く、決着の前に周りが耐えきれず、中断を余儀なくされるのだ。

 今回も、決め手になるような大技は使っていない。

 一応、控え目だ。


「で、あそこで伸びてる2人をなんとかしないとね」


 アヤメの視線の先には、疲労困憊で地面に伸びているジンとムウが居た。

 爆発こそ減ったのだが、なんとか抑えているだけの状態で、圧縮までは出来ていないようだ。

 とりあえず、水を差し出すアヤメ。

 ジンとムウは、礼を言って受け取ったのだが、あれほどの訓練をしていた筈のアヤメとツバサが、全く疲れた様子がない事に内心首を傾げる。

 まあ、本気でやり合ってもらっては困るのだが……。


「暴走はしなくなったわね」

「一応な……」

「行き詰まりましたが……」

「そう簡単ではないでしょ~少しずつ頑張れば良いさ~」

「怪我が減って何よりね」

「母さんか!」


 思わず突っ込んだジン。

 そりゃあ、頭をよしよしと撫でられてはそんな感想にもなるだろう。

 アヤメに撫でられたジンは慌てて立ち上がり、ツバサに撫でられたムウは真っ赤になり俯いている。

 ちょっと和む光景だ。


「そして、視線が痛い!」


 当然、周りの男子共から敵意を向けられる訳で、至る所から殺気を含んだ視線が突き刺さる。

 ジンだけに。


「何故俺だけ!?」


 ムウに恋心は無縁だからだ。

 ただの親子の図となっている。


「お疲れ様! ねね、成果出た?」

「そう簡単には出ませんよ先輩」


 ルクスとラングも集まってきた。

 相変わらず、子犬のように人懐っこいルクス。

 見た目も相まって、年下に見える。

 無邪気でキラキラした瞳で、こちらの様子を窺ってくる。

 とりあえず、耳を付けてみたい。


「そっかぁ! また頑張ろう!」

「は、はい……」


 勢いに押されるジン。

 純粋に訓練を楽しんでいるようだ。


「ん? えへへ」


 誘惑に負けて、思わず頭を撫でるアヤメに、嬉しそうに目を細めるルクス。

 微笑ましい。


「妙に似合うのが不思議だ」

「……くすぐったい」

「お前もか!」


 ラングもツバサに撫でられてました。

 こちらは、姉に誉められる弟の図だ。


「なんで俺だけ違うの?」


 この中で、一番普通の人間だからです。


「え? 何? 俺がおかしいの?」


 訳も分からず混乱するジンは、周りをキョロキョロ見渡し、ただの不審者のようになっていた……。









◇◇◇◇◇


 いたって普通の学園生活を送る生徒達を守るべく、教師達は文字通り駆けずり回っていた。

 担当するクラスが無い者は、各地の魔物を狩りに出掛け、眠っていた力を思う存分に発揮している。

 担当するクラスを持つ者は、日中は生徒達を鍛え上げ、夜中は情報収集の為に走り回っている。

 暗部や騎士は、各国の騎士達と共に、合同訓練を行っている。


「相変わらずかのぅ?」

「はい。〈ニーファ〉は内部が分裂しているので、どうにも手が出せません」

「民は?」

「抵抗する力も残っていません」

「ふむう……」


 校長室で、暗部の1人から報告を受け、頭を抱える校長。

 下手に手を出せば、噛みつかれるか、すがりついてくるかの、究極の2択となるので、慎重になるを得ない。

 一度手を出せば、最後まで手を引く事が出来なくなる。

 学園は中立。

 手は貸すが、導きはしない。

 だが、人間はすがれる物には、壊れるまですがるものだ。

 例え、それが偽りの光だとしても。


「はねのけるのは簡単じゃが、それはそれでのぅ……」

「後で我々のせいにされても、困りますからね……」

「今でもされてる気がするのぅ……」

「されてますね……」

「じゃがのぅ……儂も甘いのでな、見捨てる事が出来ん」

「甘過ぎますね……私もですが」


 甘く無ければ、学園を、生徒を守ろうなんて思えない。

 思えなければ、ここまで学園が大きくなる事も、学園として成り立つ事もなかったであろう。

 他者を見る事が出来る程、お人好しな者達が集まっている。

 お人好しで、お節介だからこそ、誰かの面倒を見れるのだ。

 天の邪鬼ばかりだが。


「失礼します。お話の途中、申し訳ありません。気になる情報を掴みましたので、ご報告を」

「ふむ。何じゃ?」


 騎士の1人が駆け込んできた。

 校長と暗部の者が押し黙る。


「〈ニーファ〉の騎士だった者が、騎士を止めて冒険者として、訓練に現れまして、その冒険者が気になる事を」


 騎士としてでは、合同訓練に参加出来ないので、冒険者になる事で監視の目をかいくぐり、国を守る為に合同訓練に現れたようだ。

 そんな彼と、共に訓練に参加した元騎士達が、不安げに話した内容に、何か重大な事がある気がして、報告をしに来たのだ。


「『国の宝が枯れた』『守護の大樹』などと言っておりまして……よくよく聞いてみますと、国が出来る前からある大樹だとも言っておりました。不思議と魔力を蓄えているとも」

「……まさか!? ちょっと待て」


 何かに気付いたらしい校長が、近くの本棚から、最近調べ物の為に引っ張り出しておいた本を手に取る。


「何の?」

「探していた者達に関する事じゃ」


 何度も確認して、ひとしきり唸った後、ようやく顔を上げた校長。


「多分じゃが、世界樹じゃと思う! カラスよ! 確認しに行け!」


 さっそく飛び出して行った暗部の者。

 騎士は、もう少し情報を集める為に、合同訓練に戻って行った。


「魔力の多すぎる土地……なるほどのぅ……しかし、何故?」


 もし、世界樹ならば、枯れる事などそうそうある事ではない。

 何か、原因が有るのだろうが、世界樹が枯れる前に、国中の草木が枯れるような現象があっても良いのだが、その報告は入っていない。

 世界樹に異変が起こるような事態となっているならば、それだけの異変が国中で起きるのが自然だ。


「情報が足りないのぅ……」


 校長は、最近は使う事が無かった預言者の力を解放する。

 預言者の力は、未来を見るのではなく、あくまで予測する力である。

 必ず当たる直感とでも言おう。

 その副産物で、千里眼のように遠くを見る事が出来る。

 しかし、あくまでも副産物なので、かなりの集中力と、魔力を必要とし、それでもぼんやりとしか見えない。

 それでも、見えれば直感が働くので、かなり便利な力と言えよう。

 長時間の使用は、脳に過度な負担がかかるので、無理は出来ない。


「ふむ……」


 力を収め、深く息を吐き出す。

 しばし虚空を眺め、感じた事、見た物、調べた事を纏める。


「久しぶりに、彼女に動いてもらうかのぅ……」


 一枚の紙に、久しく会っていない友への手紙を書き、魔法で作り上げた鳥に持たせて飛ばす。


 校長は、鳥が見えなくなるまで、見守っていた……

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